十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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4つの点がそこにある。出来上がるのは三角形13

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『――――』
「おっ……と。いけないいけない」

 ただ我慢できない分が漏れているだけか、それとも力の使いかというのを覚えようとしているのか。
 着々と増えているらしい、鱗でできた手を思わせる物体の1つが如月を貫くように射出された。それを、ステップで簡単に避けながら反省の声を上げる。

「でぇ、色々ダンジョン巡りをしていたりしていたわけなんですけども。比較的最近の話なんですけど、ナイトメアのダンジョンでですね? お友達を作ってみたわけです。ちょっとだけ、感情が発露しやすい場所を作るだけにするんじゃなくて、深入りしようと思う人をみつけちゃったってわけですね! ただ、最初はその人を中心に、荒れる場を作ろうって思っただけだったんですよ。私は、強い感情が好きですけど、ハッピーもバッドも大好きなので。ただ不幸になってほしいとか、幸福になってほしいとかじゃなくて、その過程を見るのが特に好きというか?」

 次々に飛んでくる鱗でできた手は、直撃すれば恐らくただで済まない。
 アベルくらいの実力であればそのうち当たってしまう程度の速さと密度で射出されている。
 そんな中、踊るように避けながら、焦る様子もなく、ただただ余裕で喋り続ける。

 これは、如月が強いというだけの問題ではなく――その攻撃が、不安定だからだ。八つ当たりのように、射出されているだけ。正確な狙いもくそもない。だから、一定以上の実力さえあれば避けてしまえるという、力量の差からすればありえぬ現状を作り出しているのだ。

「で、ちょっと出来心というか、混ざってみたんですよ。というか、その子にとって私がそうしたとわかるような形にして関わってみたんですよ。
そうしたら、とても綺羅綺羅した激情を私に向けてくれたんですよ!
ふふ、間抜けでしょう? 私は、私を対象にその綺羅綺羅した綺麗な感情を向けることができるなんて、気付かなかったんですよ。その時まで、結局それは私ではない場所で行われてしまうものだと思い込んでいた。絵画のようなものだと、私はその中の住人にはなれないのだと思い込んでいたんです。
最初に世界が色づいたのは感動でしたが、強いそれをぶつけられる、味わうというのは私の知らない快感でした……
私、不感症だと思ってたんですけどね、ふふ、初めてでしたよ、達したの。すごく、すごくよかったです。
だから、これ2回目なんですよ。初めてじゃなくてごめんなさいね? がっかりしました? というか、アベルさんは添え物なんですよ。ごめんなさいね? でも、それはそれで需要ある感じだってわかったのでありがとうございますね?」

 こてんと首をかしげる様は、小娘らしく見えたものだが、その表情が、雰囲気が、全てを出しなしにしている。
 そんな余分な行動をとったからか、鱗の手が1撃かすって如月の鎖骨あたりの肉が舞い、えぐれて溝を作った。
 とくとくと水たまりのようにそこに血が溜まり、回避行動を再開した動きで綺麗な円を描くようにその血が飛んだ。

 痛みはあるはずなのに、その表情は崩れない。奇妙で不快な笑顔を湛えたままだ。傷も、力の操作かスキルのたまものか、その程度は支障にならないとばかりにすでに血は止まり、肉が盛り上がり始めている。回避行動をとり、動き続けて居る上に喋っているせいもあり、それ以上の回復速度はでないらしい。

「……言葉も、ないとは、こういうのを言えばいいのか? 僕は、変態等といわれてきたが――お前みたいのよりは、マシだって、自信を持って言えるよ。
なんていうか、お前は、まるで、俺の生みの親みたいなやつだな。
自分の快楽を優先させるために、誰かを絶えず傷つける。結果切り捨てるものに、自分の行動の結果生まれてモノに、関わってきたものに、悪いという気持ちの1つも抱かない。
快感さえあればどうでもいいというみたいにっ! 簡単に切り捨ててしまえる! 無かったことにして次にいけてしまうっ!
そんな奴が、由紀子ちゃんの今でも友達ですみたいな面ぁしてんなよぶっ殺すぞ!」

 そんな、もはや楽しくて踊るような如月に、アベルは億劫な体に鞭をうち、顔を上げる。
 アベルの、地に這いつくばり、息も絶え絶えだとは思えぬ覇気。殺気。敵意。憤怒。叫び。

 それを受けて、如月が感じるは――やはり、喜びである。強い強い、喜びでしかないのだ。
 慣れたか、軌道は今だてきとうだが、弾幕を濃くするようにその飛び交う数だけは増えている鱗の手を避けるために集中せねばならない状態なのに、喜びを止められない様子で、体をぶるりと震わした。

 いひ、だとか、ひは、だとか、ただ笑うだけでは物足りぬとばかりに奇妙な声がその喉から漏れ出している。
 そのさまはおどろおどろしく、とても先までの異常な穏やか等といったものはもはや一寸たりとも存在しない。

「いいですね! いいですねぇ……
あぁ、そうだ……そういえば、貴方、捨てられてしまった人でしたっけ? 由紀子ちゃんから聞きましたよぉ。心配してたよ由紀子ちゃん」
『――』
「あぁほらほら、興奮すると、アベルさん潰れますよぉー」

 ひとえに今如月が生きているのは、由紀子が中途半端に興奮していいることと、アベルに気遣っているからだ。
 一言で牽制するように、時間をつなぐのを忘れない。楽しくとも、如月はそれをするのを忘れていない。
 その一言で、弾幕すら弱まる。
 不安定だ。
 存在も、状況も、感情も。奇しくも、アベルと会話したせいで。

「あはは、大体、快楽したいことを優先するってそれ、貴方と同じじゃないですかぁ?
貴方も1番を決めたんでしょう?
それ以外は、それのためなら、どうなったってかまわない。そうでしょう?
邪魔だから殺しましたよねぇ? キールさんとか。助けたかったのも嘘じゃない! でも、助けが要らなくとも邪魔なら殺した。
ねぇアベルさん! 由紀子ちゃんも! それって、別に私と何が違うんですかねぇ!
ごらんなさいよ、アベルさんはお話しできなければプレイヤーをいくらでも殺したし、由紀子ちゃんは可哀そうな子たちを家族にしてあげようとおせっかいをした」
「黙れ……!」
「自分たちはよくて、他人がしてたら『お前はクズな奴だ!』?
やっだー! アベルさんったらさいこぱーす。
仲良くしようよ、似た者同士さ。そうだろう?
ほうら、私たち、親子みたいですね? ママって呼んでもいいですよ!
どうか、私を強く強く思ってくださいね? ママを求める子供のように!」

 薄くなった弾幕を縫うように移動して、アベルのもう片方の腕に向かってメイスを振り下ろす。
 それはもはや肉を叩く音もない、地面をたたく音だけが響くものだ。
 当たり前のように粉砕され、切り離された腕が衝撃でジャンプするだけだ。
 両手はほぼない状態で、足は1本。変化に耐えるだけで体力も精神力も削られて、満身創痍。
 その目だけが、死にそうにない力強さで持って、殺気を放ち如月をとらえている。

『あああああ!!!』

 そんなアベルの状態に、由紀子は言葉にならない言葉を叫ぶ。
 攻撃がまた、雑になる。
 手加減しなければならない。全力を出してはならない。
 それだけはもはや本能の領域で守っているのか、アベルを巻き込むような攻撃だけはしてこない。

 怒りは、攻撃を単純化させる。
 圧倒的な差があるのにもかかわらず、如月は由紀子という格上の存在を、子供を転がすように手玉に取っていた。
 憎しみに向いている。
 回復させるという発想を、今の由紀子は思い浮かばせることができないでいた。

「あぁ、楽しい時間は終わりですねぇ、アベルさん。もう、そのままだと押されて鳥になっちゃいますね。
それはいけない!」
「覚えて居ろ――必ず、必ず」

 弱りすぎたアベルは、由紀子が力を抑えているとはいえもはやその浸食をどうこうするのは限界だった。
 じわじわとスピードを増して、別物になっていっている。

 アベルはきっと、それでもよかった。由紀子といられることになるのだから。由紀子がそれを望まぬとも、傍に入れるなら離れるよりはベターだったのだ。
 だが、そうならないだろうことも、わかりきっていたのだ。

「あぁ――そうだ。
最後に一つだけ。
貴方がもし、その怖がりを押し込めてかけらの1つでも勇気を出すことができたら――こうなってませんでしたね?
由紀子ちゃんは、怖がりだけど、まだ信じられていなかったけれど、それでも、貴方に好意はありましたから。言わないだけで、待つ子でしたからねぇ」
「――」

 わかっていたが、突き付けられて一瞬空白ができる。
 もっと時間があったなら、と後悔してしまう。
 もっと早くにと。
 こうなる前に踏み込み、告白できていたのならという、きっと今のようにはならなかったと確信できてしまう、平和的な終わりなくなったもしも

「ねぇ? どんな気持ちです?
自分の1番が、自分の臆病のせいでこうなった気持ち! 今度教えてくださいな。
まぁ、その時間を短くして背中を押したのは私なんですけどね! いやぁ! いいチキンレースでしたね! 由紀子ちゃん的な意味と、チキン臆病者だけに? あはは!」
「絶対に――絶対に! お前は殺してやるからな!」
「素敵です。
ぜひ、私の事も思い続けてくださいね? より強く、もっと激しく!
あはは! 恋しちゃいそうだなぁ!
――じゃあ、ぜひどうにかしてママに会いに来てくださいね、ぼ・う・や!」

 メイスが頭に振り下ろされた。変化が終わってしまう前に。
 大きな血だまりに重量感があるメイスが浸かった。
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