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流れる曇り空
しおりを挟む不安定だなぁ、とため息をつきたい気分だった。
高校生にはならなかった異様な力を持った少年は、空を見ながら憂鬱になる。
瞬間、ざぁざぁと雨が降り出していた。
天気予報ではほぼ0パーセントであった。
そうする気もなかったのに、気分で天候を操作してしまったらしいと自覚して気分がさらに沈んでしまう。ここのところ、そういう事ばかりだった。
ぶれている、と感じる。
趣味であり、生きがいである活動も――今は、ちゃんと行えていない。
ぶれている。
力が。
何気なく制御なく使ってしまえば、そんな気はないのにこの辺一帯を更地にしてしまうような不安定さを自覚していた。
取られた財布を取り返しに行ったら、いつもよりずっと感知に時間がかかり、そしてする気もないのにその相手はばらばらにしてしまった。そういうやり方を好んでいるわけでもないし、スプラッタが好きという訳でもない少年は盛大に顔をしかめる羽目になったのだ。
ここにいない同類がいうには、そういう不安定になる時期というのは珍しくもないらしい。気にしすぎなくても、時間が解決してくれるパターンがほとんどであるという事も教えてくれていた。
足手まといになって、やりたいことがやれなくなるのは嫌だった。だから、そう言われても少し焦りというものもある。
そんな中でも、嬉しいこともあった。
友達ができたのだ。
年下の友達。
自らの事を気味悪がっていない友達。話しかけて嫌な顔をしなければ、興味がないような眼差しでもない。下に見るでもないし、おびえてみるでもない。
男の子と、その妹の女の子。
会えば自分と楽しく話してくれる子供たちだ。
生きるのが楽しいといった、明るい子供たちだ。
もしかすると――自分があの日手を伸ばしたらそれをとってくれていたのではないか? と思わしてくれるような、太陽のように思えた子供たちだった。財布を取られた次の日に会えば、少ない小遣いから『しょーがないなあんちゃんは、ジュースをおごってやろう』と飲み物を買ってくれるような、ちょっと警戒心持った方がいいんじゃないかと少年が少し心配してしまう子供だった。妹の子も、慣れてくるほど『大丈夫? 友達紹介する?』と本気で落ち込みたくなる心配をしてくれるような子供だった。
少年への今までの周りの対応というのは、割と極端だった。
利用して来ようとするもの、何かを察知してでもいるのか気味悪がるもの。
何か図太いのかなんなのか、ただ近寄ってきて楽しく話してくれる年下などはあったこともなかった。考えたこともなかった。
(友達。友達かぁ……ふふ、手を取ってあげる以外に、僕に誰かを笑顔にする力があるなんてなぁ)
いつもの事だって、もちろんやめるつもりはない。
誰かのためになるように、伸ばされた手を取ることはやめられない事だ。
誰だってその手を掴まれないのは悲しい事だし、寂しい事だと思っているから。
でも、伸ばした手ではなくてただ近くにいて話して幸福であるという事を知ることができたのが、とても嬉しかったのだ。
小さな友人たちは、残念ながら同類ではない。
同じような力なんてない。
しかし、それがなおさら、嬉しい事でもあったのだ。
(そんな理由なんて必要なかったってことだから)
からかうようなことは言ってくるけど、それは決して本心から馬鹿にしようとしているわけではない。
冗談を兄妹でいいあっているところにはあまり割って入れないけれど、それを聞くのは楽しい時間だ。
(もっと理由ができた。だからこそ、不安定さをはやくどうにかしなきゃ……)
焦っていた。
やりたいことが自分のせいで遅れ気味になっている。
それは、同類たちにとっては些細なことらしくてあまり気にされてもいないけれど、焦らなければいけない事だった。
時間が遅れる、というのは、少年にとっては重要事だ。
あまり気にされていない、というのは、決してプラスではないことを頭が悪いと思っている少年でさえわかることなのだ。
(僕自身は、同類とは思われていても決して大事だとは思われていないんだ。だから、あまり気にされてない。気を使われているわけじゃない。期待されていないんだ――)
小さな友人たちと話す温かさとは、それは別物なのだ。
今まではそれが友情だとすら思っていた。
少なくとも、他の人間よりも同類たちは興味は持っていたのだから、それはそれで仕方がない。
同類は同類で、それ以上でも以下でもない。
他の人間よりは近いが、それ以上ではないだけ。
おのおのの目的のために、繋がっているだけなのだ。
(あの子たちは、楽しく生きたいという気持ちにあふれている。いや、そうしたいという意識すらないほど自然に、毎日が楽しいんだ――それは、とっても素敵なことなんじゃあないのか? 力は、必要なんだろうか? いや、そんなはずはない。力は必要なんだ。じゃないと、手はいくつもつかみ損ねるんだから――)
力の不安定。
それに伴うように、精神も不安定。
どこか、奥底を揺るがされるような気分になっていたから。
楽しいし、温かい。
けれど、どこか、そんなはずないと否定したくなるような感情がそこにあることを、少年は認められない。
苛立ち。
むかむかする様な気持ち。
どうして?、という。
それは、直視すると目が潰れてしまいそうな感覚だったから。
(うん。何も、何もないさ。僕たちは友達なんだから)
嫉妬や、八つ当たりしたくなるような感情なんて、あるはずがないのだと。
自分の環境なんてよくあることで、そんなに不幸なことでもないしありふれている。
だれだってそうなのだから、暗くなる必要もない。
自分は恵まれている。
だって、こんなにも誰かの手を取ってきたし、これからもとるのだ。
何を羨む気持ちなどあるのか、と。
(あぁ――あの兄妹だって、いつかは手を伸ばしてくるかもしれない。だから、その手をとれるようになっておかないと)
気持ちはスライドする。
ただの子供同士であったなら、それは時間が解決したかもしれない。喧嘩などしても、意見はすり合わせることができたかもしれない。
本当に、仲が良いただの友達という存在になれる可能性というのは確かにあったのだ。
ただ、間が悪かった。
少年は不安定で、でも力があった。
目をそらしていても――友達だという存在に、注視していたし、正の感情よりもよほど小さくとも、負の感情が確かにあった。
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