十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

文字の大きさ
157 / 296

あい すてる らぶ うー6

しおりを挟む

「簡単に認めてくれているようで、求めてくれるだれかって、結局欲しいものなんかじゃないのよ。
代用品にしても、それは酷いものなの。ほとんどの場合がね」

 口から出た言葉は果たして、どういう意図のものだったろうか。
 諭すもののようで、自嘲でしかないようにも思える。
 海は、聞いているのかいないのか、下を向いたままだ。
 千都子自身、よく理解できていない。
 そのまま話し続ける。

「『自分は大丈夫』巨大化したプライドと、積み重ねてきたくだらない維持が、ありがちなこれをなおさら強固にそう思わせる。
大丈夫なんかじゃない。
大丈夫なんかじゃないんだ。
人は間違う生き物だ」

 とつとつと話される言葉は、一方的だ。
 立場が逆転しただけのようだった。
 その、繋がっていないとしか思えない話も。

「間違ってもやり直せる生き物だって、みんなみんないうけど。
そんなことはないんだ。
なくしたものは戻ってこない。
間違え方を間違えると、戻ってなんてこれやしない」

 海が顔を上げている。
 表情は、やっぱりわからない。
 それでも、千都子は笑って見せた。

「やり直せているように思うのは、それこそひどいごまかしだよ。
『人間はいつからだってやり直せる』『自分の人生はいつからでも始められる』
綺麗な綺麗な言葉だよね。
自分さえ、本当はごまかせていないくせに、他人を巻き添えにするような酷い言葉だって私は思う」

 ずっとずっと、千都子がいわれてきた言葉でもある。
 他人も、本も。
 綺麗な言葉を並べ立てて、そういうことばかりをいう。
 それらに対して、なんのためにもならなかった、と千都子は感じている。
 何の助けにも、なっていなかったと。
 少なくとも、千都子という人間にとっては。

「現に――私にはもう、我が子を産む力はないし、その資格も無くなった」

 繰り返した結果だろうか。
 それは、自分自身にもわかっていない。
 違うと、そういわれても、心の底でそうだと思ってしまうことが原因だったかもしれない。
 とにかく、何が原因であろうが、そうなったという結果だけが千都子に残っている。
 だから、今回の事で、なおさらその資格がないと思ってしまった。
 可能性は、いくばくか残っているかもしれないなどといわれても。
 
「『反省したんだから大丈夫だよ』?
反省? 誰が!
後悔だ! 後悔でしかない!
鹿
だけで終わるもんか!」

 叫んだ。
 幸せになりたいと思った。
 不様に縋って、ゴミみたいなものに。
 そのゴミのようなものにさえ捨てられて。
 それでも、だからこそ、今度こそはと。
 子供と、自分と、ただ認めてくれる人がいて。
 そんな中で、もし家族というものをつくることができたならと。

 許される気がしたのだ。
 これまでの全てに。
 いいよと、言ってくれる気がしたのだ。自分自身に。
 結果、全てなくなってしまった。

(過去は後ろから追いかけてきたんじゃない。ずっとずっと、すぐ後ろから見ていた)
「どうやったって、消えやしない! 消してはいけない!
後悔が消えた時は、きっと新しい私の始まりなんかじゃない。
それはもう、私とは別の何かだ。
それって、死ぬのと一緒でしょ」

 笑顔をつくる。
 捨てられて、考えて、立ち直ろうと思って。
 いつからかやめていた笑顔をまた作った。
 似たようでいて、前とは違う。
 強制されたものでも促されたものでも、期待にこたえたいからでもない。
 ただ、自分のために笑ってみようと思った。

「私は、私は。
こんなざまになっても、それでも死にたくはない」

 死にたい、と思ったことは千都子にもあった。
 が特にそうで、捨てられてからもそうだった。
 それでも――恐怖が勝ってきた。
 生きたいという意思が。

「ねぇ?
傷のなめ合いにしたってさ、深さが違うなら飲み込んじゃうんだよ。
なめ合う相手は選ぼう?
君はまだ、ここまで終わってないし、終わらなくたっていいんだから」

 まだ、間違ってないのだ。
 きっと、言いたいことはこれだけだった。千都子という、先に踏み外したものから海という家族にとらわれて破裂した少年に言いたいことは、きっとそれだけ。
 別に、千都子は海という少年が嫌いだから拒絶していたわけではない。

 きっと、これがありふれた少年なら、若い日の苦い思い出ですんだだろう。
 もっと、海という少年が深く踏み外しそうに見えて、それが千都子が寄り添う事で慰められるならー―きっと千都子はそうしたかもしれない。
 ただ、海という少年は傷ついただけの子供に見えた。
 濃さは整えられてしまうように。
 自分といると、なおさら汚してしまうと、そう思ってしまったから。
 共感した。同情した。同じな部分もある。
 子供だということもある。
 千都子は、子供に手を上げることも、否定することもできない。
 いつの日にかそうなっていたし、なるべくためになると決めていた。

 だからだ。
 千都子自身に不都合があるから拒否していたという事ではないのだ。
 少なくとも、千都子にとって続けた拒否は、相手を思ってのものだった。
 海は無言のまま、また下を向く。
 千都子には、その表情を見ることができなかった。
 すっと、立ち上がって、そっと部屋をでる。
 顔は上がらず。
 声もまた、かけられることはなかった。



 数日後、千都子の元に連絡が届いた。
 訃報だった。
 自室。力が抜けて、座り込む。

(どうして)

 千都子に去来する思いはそれだけで埋め尽くされる。
 後ろで子供が泣く声が聞こえる。
 1つでないそれは、不協和音を思わせる。
 ぺたぺたと触られる感触がする。いつも通りに。
 すぃ、と視線を這わせれば。
 1番後ろに――顔の見えない新しい子供が1人、そこにいた。
 そう分かった瞬間に、千都子の意識はブラックアウトして――目が覚めれば、知らない場所にいた。
 ここが地獄か、と千都子は思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。 与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。 そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。 「──誰か、養ってくれない?」 この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...