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鬼の首5
しおりを挟む「なにしてんの?」
礼が目的ならもういいだろう、と立ち上がろうとしたところでまた声がかかった。
啓一郎に、というよりは神田町のほうではあるようだったが、タイミングを崩された形だ。
振り向けば、啓一郎も知ってる顔がそこにはあった。
「祥子じゃないですか。竹中と一緒にいたのでは?」
「飯食い終わってトイレ行ったから置いてきたんだわ」
(めんどくさい)
「うっわすっげめんどくせぇ! って顔してる。ウケるわ」
「めんどくさい」
「あ、口に出しやがった。そういうとこあるよねぇ。工大が嘆いてたぞー」
「知らん。お前が慰めてやればいいだろう。なんだか知らんが仲がいい幼馴染とかそういうやつなんだろうが」
神田町が機能的でどちらかと言えば動きやすい恰好をしているのに対して、竹中の幼馴染であり神田町の友人でもあるような、何度か啓一郎とも話したことくらいはある浅井祥子という女はパンクというかロックというか。
じゃらりとシルバーアクセサリー等を付け、ピアスも両耳に数個、口の中央から突起のように飛び出したもの1つに右端に輪っか型のもの1つとインパクトがないとは言えないような見た目をしていた。髪も黒をに赤のメッシュが入ったような色合いをしている。
正直、啓一郎は初めて見た時には竹中が絡まれているのかと思ったものだ。
「あん? アタシが慰める義理もねぇよ。勝手に立ち直るしな。代子ならともかくなー」
浅井はそう言いながら神田町に嬉しそうに絡む。慣れているのか、神田町は特に目立った拒否もない。
「別に私も落ち込みませんけどね」
「で? 何してたん? 珍しっつか初めて見た組み合わせだけど。知り合ったのは知ってんけど」
「お礼言ってたんですよ。そしたら、そんなもんはいらんという男気を見せてもらいました」
「お? 代子狙いなんか? てめぇぶっ殺してやる」
「情緒不安定か」
騒がしい。
最近はそんなことばかり。
いまだになれない気持ち。溜息をつきたくなるような。しかし、完全に拒否したいかといえばそうでもないような。
(いや、鬱陶しいが確かに割合として多いのは事実だ)
「曲解を間に受けるな。お前とは何度か話したことあるだろうが。俺がコレに興味を持つようにでも見えたか?」
「男で代子に興味持たないとかキメェ」
「どうして欲しいんだぶっ殺すぞてめぇ」
啓一郎の特に表情を変えない言葉に、浅井はけらけらと笑う。
「ハハハ、あんたそゆとこ愉快だよなぁ。だから工大も絡んでんのかもしれんけど」
「工大って誰だよ」
「マジかお前」
などと浅井が真顔になった後も啓一郎が立ち上がるタイミングを計れないまま話していると、置いていかれたらしいもう1人も合流してしまった。探し回ったのだろうか、少し息切れしている。
また騒がしいのがきたと、さすがにうんざりし始める。
「おい工大。お前、苗字もだけど名前は聞いても思い出せないレベルになってんぞ?」
「置いてかないでよって言おうとしたけど何そのついた途端の衝撃発言」
「ああ、こいつが工大なのか。知らなかった」
「自己紹介しましたけど!? なんなら連絡先に書いてませんかね!?」
「食堂で騒ぎ過ぎるなよ常識を持て」
「すみません……なんか釈然としないけど」
「わぁ、デジャブですねぇ」
仲間仲間と楽し気に手を取る神田町になすがままにされる竹中はどこか哀れだ。
がやがやと、用がどうとか礼がどうこうという流れは完全に消え失せてしまったなと啓一郎は思うものの、またその話題が出たら出たで鬱陶しい。
などと考えていたせいなのか。結局、立ち去るタイミングはなくなってしまったようで、そのまま長々と話に巻き込まれるのだった。
4人で話した食堂の日から、4人でグループを組んでいるような流れが増えた。
とはいえ、啓一郎にそういう意識があるかというとそうでもない。ただ、見つけると巻き込まれるようなことが増えたという事だけ。
竹中にしてもなんにしても、短期的なのものであると考えていた啓一郎としては予想外だ。
最悪でも、女2人はすぐにでも絡んでこないようになると思っていたのが誰も離れていかない大外れという状況。
啓一郎自身は一匹オオカミを気取っているつもりでもなく、本来そう付き合いが悪すぎる男という訳でもないのも手伝って、積極的に関係を断とうということは考えていない。今までだって、数か月程度仲がいいような範囲に収まったり恋人といった関係になったりはあったのだから、人間的に付き合えない人間ではないのだ。
ただ、今までは啓一郎に何を感じたか、1年は持たず、離れていっていたというだけで。
(今回も、確かに珍しい奴ばかりだがそうだというだけの話か)
怖がり、恐怖をしっかりと持っていながら離れない奇妙な男。
怖がらず、何か奇妙な目を向けてくる変な女。
怖がりと変な奴の友人だからにしても気にして無さすぎるようなやかましい女。
今までにはあまりいないタイプの人間が集合している状態ではあるが、まぁ、ちょっと長続きしているだけだろうと。
(普通の奴よりも愉快であることは確かだ。だったら、精々短い間は付き合うとするさ)
言い聞かせるように思いながら、やってきた場所は廃墟の入り口である。
所謂テンプレ的なホラースポットになってしまっている廃病院というやつである。
夜、外れにぽつんと立つように置かれた廃病院は、手入れされていない草に囲まれ蔦や何か汚れにまみれている。
そんな情景に不気味さを覚えてしまうものが多いだろうという雰囲気。もう少し、交通の便が良ければ逆にバイクで法律を無視して走り回るようなタイプの人間の根城にでもされていたかもしれないが、ちょっと遠いからなのかほかに原因があるのか、それともそうなっているが今はいないだけなのか。人気はない。
それでも、噂になる程度には何人かの人間がはた迷惑にも肝試しなどといって勝手に侵入してはイベント気分で探索しているらしい。現に、通り道にも真新しいようなお菓子だなんだのゴミが落ちているのが見受けられた。
「お、来たみたいだね」
「廃墟で許可なし肝試ししましょうとは、まんま馬鹿な大学生だな?」
「初っ端からテンション下がるような事いうなよな。お堅いやつでもねぇだろ」
「結局来てるんですからツンデレですよツンデレ。べ、別にお前たちと肝試しなんてしたくなんかなかったんだからね! ですよ。気持ち悪いですね!」
「ツンデレってなんだよ。楽器か? そんな意味がある楽器だったかあれは」
「そこですかツッコミ。やめてくださいよそんなボケの潰し方。あと、カンテレはちょっと遠すぎると思いますし」
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