十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首16

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 後何日かかかるかなぁという竹中がいないため、話せる人間は増えているものの誰かと食事をとる気にはなれなかった啓一郎が1人で食堂に赴けば、同じく1人で座っていた浅井が目についた。
 1人でいるため竹中をいじっているにやにやしている風でもなく、神田町と居る時のようなにこにこと笑っているでもなく……かといって、つまらなそうにしているという事でもない。
 どこか、遠くを見ているというか、ぼんやりとしているような、夢と現をさ迷っているような。

「現実迷子か?」
「……おぉ、啓一郎かよ」
「ツッコミちからが鈍くなっているな」
「いつからそんな力がアタシに備わったんだよ……」

 なんとなく、気が抜けているような調子で返される言葉。
 なんというか、いつもはもっとガサツな風で来るのだ。元気のないような姿を見るのは、短い付き合いの啓一郎にとっては初めてのことで少し戸惑う。
 もとより、付き合いの中では1番遠いのだ。
 竹中、神田町、浅井。
 この3人と仲良くはなった、なっている。そう実感しているし、これからもそうできるかもしれないと努力はし始めている。

 それでも、がつがつと己から来る竹中や、変わらず自分からやたら絡んでくる神田町。
 浅井も見かければ自ら来る点は変わらない。変わらないが、1人で、という事は何気に経験のないことだった。
 いつも誰かが一緒にいるか、一緒にいた時ばかり。

(……そうか。2人で話すという事も、したことがないのか……友達の友達感覚とはこういうものか?)

 いや、と否定する。

(それよりは近いはずだ。いつもの調子なら、もっと軽快に話せていたはずだし……竹中がいないから調子がでないか、心配しているからとか、そういうことだろうか)

 少し気まずい気分にはなる。
 それはそれで珍しい感情ではあったが、嬉しくはない。

「工大、また鍛えるなりしようと、強くなろうとしたんだろ?」
「……そら、幼馴染なら知ってるか」
「むしろ、こんな短期間でそれを話せるくらいの仲になってることが驚きだけどな、アタシは」

 何が。
 といわなくてもわかる。

「普通に体調を崩した、とは思わないんだな」
「……見た目からはわかんないだろうけど、流行りの風邪とかはほぼ引かねぇんだよ。馬鹿だから気付いてねぇだけかもしれないど」
「なるほど。必然、崩したらそうである可能性が高いとわかるわけか」

 浅井は頷くことで肯定を示した。
 浅井が竹中を語る口調は、親愛めいていて、呆れが混ざっていて、しかしどこか安心しながらも羨んでもいるような。
 そんな単純でない、読み切れない複雑さを感じられるようなものだ。
 プラスの感情ばかりなのは竹中にとっては喜ばしい事だろうと啓一郎は思う。
 思いながら、しかしそこにどうやら男女の情的なものは含まれていないことも改めて察してしまって、これは喜ばしい事じゃないだろうなとも思う。

 竹中はわかりやすい。
 おそらく、神田町も気付いている。
 しかし、浅井はいまいちわからない。
 気付かないほど鈍いようには見えないが、気付いているような感じではない。
 それに気づいて気持ち悪いと離れるわけでも、受け入れられないからと態度で示すでも、かといって受け入れるわけでもない。

 嫌いか? というと、今放った言葉でも違うという事はわかる。
 だが、それ以上はよくわからない。
 啓一郎にとって、浅井は1番付き合いが少なく、そしてわかりにくい人物であった。

「なんで、諦めないんだろうな」
「諦めたくないからだろ」
「別に、そこまで強くならなくったっていいじゃねぇか」
「究極的には、そこが目的じゃないんだろ」
「……そうなのか?」

 ピアスをいじりながらぼんやり目に話していた中、少し意外なものを聞いたという様子で啓一郎の方を向いた。
 とはいえ、その顔はまだどこか寝ぼけているようではあった。
 改めて1対1の状態で顔を見れば、割とこいつも服装等のインパクトでごまかされがちとは言え綺麗目な顔をしているよな、と啓一郎は改めて思う。実は趣味はもとより神田町の不運への防衛のためだったりするんだろうか、とふと思った。

「詳しくは知らない。どうしてってのもいまいちわからん。予想だから本当のとこどうなのかってのも。だが、俺にはただ強くなりたいってよりかは、自信を持つために必要だからって風に見えたんだよ」
「……自信だ?」

 おかしなことを聞いた、と言いたげな表情をしながら、鼻で笑う声が聞こえる。そこまで意外な発言をしたとは思わなかった啓一郎は少しその反応は不思議だった。
 そんなに自信にあふれて見えたのだろうか? それとも、今更自信を持とうとしているのがおかしいということだろうか。

「あんなにくじかれりゃ、そっちの方が自信ってやつはなくなるもんじゃねぇのかよ?」

 行動自体だったらしい。それなら、少し啓一郎にもわかる。確かに、『後悔したくない』という発言を聞くまではあそこまで体調を崩してもチャレンジする必要はないのではと思った部分があるからだ。

「それは知らんよ……あいつは、後悔したくないからっていっていた。だから、そっちのほうがよっぽど重いってだけの話なんじゃないか。それに、いつもは考えただけでもダメっていう意味わからない状態だったんだろ? 今回は数日とはいえ鍛えられていたからな。リセットされるっぽいとはいえ、希望は少し湧いた風だったぞ」
「後悔……いや、待て。持った? 数日? マジかよ」
「マジだよ」

 完全にぼんやりした空気がなくなるほど驚いたか、はっきり目が覚めたような顔と口調になる。
 近くで見ていたからか、実情を知っているからなのか、割と強い衝撃だったらしい。
 たった数日。
 けれど、知っている側からすると啓一郎が思っているよりも大ごとらしいようだった。
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