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ファースト・シーズン

脱出作戦

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 映像通話回線が閉じられてから直ぐ、副長に言って探査機に関する総てのテータを補給艦に送信して貰った。

 その後程無くして開始された補給作業は順調に推移した。補給艦からのリモート操艦で『ディファイアント』が超微速で接近し、補給艦の左舷と『ディファイアント』の右舷がゆっくりと接舷してドッキングする。

 直ぐに搬出・搬入ハッチが解放されて物資の補給が始まる。対艦ミサイルの弾体は専用の給弾口から、専用のマニュピレーターで1本ずつ挿入されていく。

 その情景が今艦長控室のビューワに映し出されていて、それを副長と補給支援部長とで一緒に眺めている。

「ミサイルは120本迄積めるな?  」

「はい、積載上限はそう変更されています」

「他に何か珍しい物を積み込むかい?  」

「ええ、ドクターの依頼でアラビカ・カトゥーラと、ムンドノーボの豆を購入しました。あとはチーフの依頼で『オーヘントッシャンスリーウッド』の18年ものと『レンキンチー』18年ものと、『インチマリン』の18年ものをそれぞれ10本ずつ購入しました」

「へえ、それは楽しみだな…補給作業が終わるのは?  」

「あと40分程です」

「そうか。副長、カリーナに言って探査機のログデータをダウンロードするように。出来たらメイン・スタッフはここに集合だ。脱出作戦を協議する」

「分かりました」

その10分後には、全員がここに集っていた。

「例に依って飲み物は好きに出させて座ってくれ。好いかな?  ありがとう。では先ず、探査機が送ってくれたデータを観よう。カリーナ、頼む…」

「はい、コンピューター、カリーナ001をビューワに表示」

 ビューワに表示されたチャートデータを数秒観たがちょっと観にくい上に分かりにくい。

「…ちょっと分かりにくいな。コンピューター、カリーナ001を3D投影!  」

 同じチャートデータが3Dで部屋の中央部に投影される。

「アンブッシュは4隻ですか…多いのか、少ないのか…」

と、シエナが言う。

「コンピューター、敵艦が隠れている岩塊の色を変えてくれ」

4個の大型岩塊の色が赤く変わる。

「もっといたのかも知れないが分け前が減るからって、威嚇して追っ払ったのかも知れないな」

 待ち伏せ艦が隠れている岩塊は4個とも第3戦闘ラインの外側にあるものだが、こちらとの距離はそれぞれで違う。

「こちらから近い順番でA、B、C、Dと呼称しよう。この配置で観ると、こちらを完全に包囲してる訳じゃない。補給作業が終わってドッキングが解除されたら、方位129マーク738にコースセットしてファーストスピードで発進する。絶対戦闘禁止領域の中では、これが限界速度だ。ファーストスピードに到達したらエンジン停止して、光学迷彩展開。アポジモーター起動して、取舵25°、アップピッチ12°の方位まで徐々に変針する。4艦もこちらが動き出せば動き出して回り込み、こちらの頭を押さえようとするだろう。だがこのコースならそのタイミングを外せる。このコース上の少し右側のここにある岩塊に艦首右舷のロケット・アンカー2本を撃ち込んで巻き上げ、加速をかける。岩塊まで200mのポイントで抜錨して回収。その後10秒程で第3戦闘ラインの向こう側に抜けるから、直ちにエンジン始動して面舵65°、アップピッチ12°に舵を切り全速発進。そのまま追跡する4艦を距離的に振り切るまで全速加速を続行。振り切ったらエンジン停止してアポジモーターで面舵7°に変針。それから次の作戦に入る。質問は? 」

「反転して迎撃するんですね? 」

 と、エドナ・ラティスが訊く。挑戦的な微笑みだ。期待しているようだな。

「そうだ」

「距離的に振り切るなら、そのまま離脱した方が良いのでは? 4対1ではかなり不利です」

 と、ハル・ハートリーが言う。参謀として、これは尤もな発言だ。

「いや、楽をして稼ごうと言う輩には教訓を垂れて置く必要がある。充分に距離を取った上で反転して仕掛けるから大丈夫だよ。心配無い。やりようは幾らでもある。この迎撃作戦で経験値の上がった『ディファイアント』の最大能力を検証する。他に何か質問は? 」

声は挙がらなかった。

「よし、探査機のログデータは発進直前にもう1度ダウンロードしてくれ。以上だ。解散」

 それから20分弱で補給作業は滞りなく終了した。双方ともハッチは既に閉鎖されていて、後はドッキングロックを解除するだけになっている。私はブリッジに立って、ビューワ越しに同じように立っている補給艦37N89D16のアンナ・ストリンスキー艦長と対面していた。

「補給作業は無事に滞りなく終了しました。改めて感謝します。ストリンスキー艦長…」

「職務ですから謝辞は必要ありません。アドル艦長。ですが…最後に一つだけ…」

 私は右手を挙げて彼女の言葉を遮り、その先を引き取ってこう言った。

「その先は言わないで下さい、ストリンスキー艦長。言えば貴女が職務規定違反に問われます。大丈夫ですよ。既に対処はしてあります。見事に脱出して見せますから観ていて下さい。ありがとうございました。いつか何処かでお逢いしたら、一杯奢らせて下さい。それでは…」

「ご無事での航行をお祈りします。ドッキングロックはこちらで解除します」

「宜しくお願いします。ご機嫌よう…」

 それで映像回線は切られ、5秒後にドッキングロックも解除された。

「艦長、航行ナビゲーション・アレイのダイレクト・インターリンクも解消されました」

と、エマ・ラトナー。

「メインコンピューターのデータリンクも解消されました」

と、リーア・ミスタンテ。

「右舷スラスター噴射、30m離れたらエンジン始動。方位129マーク738にコースセットして発進。第3戦闘距離の領域内はファーストスピードを維持…」

「了解。離れます…」

「どうやら補給艦のセンサーはこちらのものよりも優秀なようだね」

「艦長!  待ち伏せ艦が4隻ともエンジン始動。動きます」

「パワーサインを採ってくれ。領域内はプラン通りに航行する」

「了解…エンジン始動。指定コースにセットして発進します。ファーストスピードまで30秒…」

「艦長、探査機からのログデータを再度ダウンロードしました。これにより3Dチャートマップを更新します」

「頼む」

「探査機とのリンクは切りますか? 」

「切らなくて良い。探査機は後で回収しよう。捨ててしまうには惜しいからね」

「了解」

「ファーストスピードに到達! 」

「エンジン停止! 光学迷彩レベル3! 続いてアポジモーター起動して変針開始! 」

「了解! 」
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