新米道騎士の視廻り旅

トーマス・ライカー

文字の大きさ
3 / 13
視廻り旅・4ヶ月目・

シエン…魔物退治…

しおりを挟む
 村の入り口に差し掛かった頃合いで日が沈んだ…隠形の印を組んで切り、真言を唱えて気配を隠す。

 その時の癖で魔除けの首飾りに触るんだが、首飾りをミリエラに貸したままだったと思い出す…まあ良いか…なまじ魔除けの物なんぞ持ってたら、却って気配を覚られちまうかも知れねえ…。

 道剣を抜いて右手に引っ提げ、縮地歩術で村の周りを歩き始める…ピーラ(魔鳥)が6羽ばかり飛び回ってる…俺は剣を鞘に収めて座り、瞑想に入って更に気配を消して周囲を探る…。

 ほんの少しの探索でも30匹余りを感知した…道剣を抜いて左手に持ち替え、右手の指2本を剣の柄近くの腹に
当てる。

「…天の光焔神・エリンツイの焔光を我が剣に!…シリエンツイ・ティエン・セン!! 」

 そう唱えながら剣の腹に当てたまま手指を祓い、エリンツイの焔光を剣に纏わせる。

 縮地走術で走り出し、3000歩を行くまでに21匹を斬る。

 斬ったのはガゴルにゲドルにバラミンに、クラゲルにマグータにマダゲルとジャガラが、それぞれ3匹ずつだった。

 道剣の刃にあまり負担を掛けないように、太い動脈を2ヶ所ずつ斬った…しかし、種類も多いが頭数も多い…この地方にこれ程の数で魔物共が出歩いているなんて話は、噂にも聞いた事がねえ…ある程度片が付いたら、お師さんに手紙で報せよう。

 21体の死骸があれば残りの奴らの腹も、今夜はくちくなるだろう…俺は縮地走術で隣村も視廻ることにした。

 確か一万七千歩の辺りで、目立たないが間道に入れる辻があった…間道に入って二万歩ちょっと行けば沢がある…そこで沐浴をして剣を洗おう。

 沐浴と剣の手入れを終えて、服に匂い消しの粉を振り掛けて着直す。夜明けまで四時ほどだ…急ごう。

 隣村の入り口で隠形印を組み、真言を唱えて気配を消す…座って内観に入り気配を探ると、村の廻りで9匹…村の中で5匹を感知する。

 まずいな…先に廻りの奴らを斬って、死骸の臭いで中の奴らを誘き出すか。

「ノウボウ・タリツ・タボリツ・ハラボリツ・シャキンメイ・シャキンメイ・タラサンダン・オエンビ・セン! 」

 左手で道剣を持ち、右手の指二本を刀身の腹に当てて天神大元帥の真言を唱え、その剛剣力を借り受けて退魔の刀身に乗せる…縮地走術で走りながら9匹を斬った。

 そのまま茂みに隠れて座り様子を観ていると、二時ほどで村の中の5匹が臭いに釣られて出て来た。

 そいつらが完全に村から出て来て、死骸に覆い被さろうとする刹那でくびわきの動脈を斬る…今夜はこんなものか。

 さっき沐浴した沢にまた寄って、冷たいが我慢して体を洗う…服を着直して剣の手入れも終え、寝床を作った泉まで戻った。

 夜明けまでは二時ほどか…雲行きと風の香りで観る限り、明日か明日の夜は雨だな…夜が明け切ったらミリエラの家に寄ろう…そう思いながら寝床に身を横たえて眠った。

 目覚めると、昼まで三時ほどだった。体をよく動かして温める…寝床を整えて簡単に作った屋根に葉を乗せ、露が浸みないようにする。

 ミリエラの家に行く前、辻に生えている木の幹に打ち付けた板を観に寄ったが…まだ何も無かった。

 ミリエラの家に行ってドアを軽く叩く…ドアを開けてキトルが顔を出した。

「…よう、姉ちゃんはいるかい? 」

「…いるよ。仕事してるけど…」

「…ちょっと、呼んでくれるかい? 」

 そう言うと、引っ込んで呼びに行った…ミリエラはすぐに出て来た…仕事着かな?…を着て俺が右手に握らせた魔除けの首飾りを着けている。

「…やあ、ミリエラ。調子はどうだい? 」

「…うん…好いよ。おとついは助けてくれてありがとう…」

「…好いってことよ…言ったかも知れないし聞いたかも知れないけど、ここと隣の村で夜中にうろつき回っている魔物共を粗方あらかた片付けるまで、俺はこの辺りにいるからな…分かってるとは思うが、日が沈んだら外には出るなよ…魔物退治は夜にやるから、薪集めとか薪割とかやる事はあるかい? 」

「…ちょっと待って…母さんに訊いてくる…」

 一度戻ったミリエラが、母親と話して戻って来る。

「…薪はあるから薪割を頼みたいって…裏で出来るよ…」

「…分かった。すぐに終わるからな…キトル、釣り竿はあるかい? 」

「…あるけど? 」

「…薪割が終わったら、釣りに行こう。釣り方を教えてやるよ…」

 それから一時で薪割は終えた。動剣の素振り千回に比べれば何でもない。

 キトルが持って来た釣り竿を調整して仕掛けを作る…釣り餌を作ってキトルに連れられ、近くの沢に入る。

 キトルの父ちゃんは魚釣りを教える前に、魔物に殺されたそうだ。

 沢の中でのポイントの見つけ方、気配を殺した歩き方、撒き餌のやり方、当たりに対する合わせ方…それらを教えながら三時ほど釣りを続けて、36尾の釣果で戻ったんだが…おっかさんには大層喜ばれた。

 おっかさんの名前はマルセラと言った。おっかさんの勧めで遅めの昼飯をご馳走になり、それからの二時で畑仕事を手伝う…鍬振りも結構好い鍛錬になる。

 井戸の水を浴びさせて貰って休んでいる間に、ミリエラが俺の服を洗濯してくれた。

 刃物砥ぎの砥石を借りて銀砂をまぶし、服が乾くまで道剣を砥いだ…乾いた服を着直すと気分が上がる。

 最後に火種を3つ拵えてキトルに持たせた。

「…ミリエラ…この辺りをうろつく魔物を粗方片付けるにゃ、ひと月ぐらいはかかるだろう…終えたらこの家と村の周りに隠形結界を張るから、きれいな塩を用意しといてくれ…それが終わったら他の村に行くから、悪いけどその首飾りは返してくれな…それは俺のお師さんが出立の門出にくれたものだからさ…心配すんなよ…魔物退治と掃除を終えたら、その先10年は安心して暮らせる…でも夜は外に出るなよ…それじゃあな…俺に何か用があったら辻の木に板を打ち付けてあるから、そこに手紙でも挟んでくれ…みんなでマルセラ母ちゃんを助けてやれよ…」

 そう言い置いて鞘に収めた道剣を腰の左に差し、物入袋を右腰に吊るし、ケープを羽織って外に出た…日没まで、あと二時ほどだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...