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『夢の始まり』

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地球がマグマオーシャン・ボールとなってから、340年目の6月。

火星を周回する軌道上のMACステーション015と、その後方20秒遅れで同じ軌道に乗る3基の建造ドライドック。

1週間前に完成したばかりのHSC(ハイパー・スペースシップ)が3隻、ゆっくりとドックから前に進み出て200mで停止する。

ステーション015の特設展望大ホールから、その全容が見渡せる。

ホールの一角には大型マルチビューワが設置されていて今その表示が切り替わり、ある物体を拡大表示した。

それは空間を回転しながら移動していくシャンパンのフルボトルだ。

やがてボトルが先頭のHSC船首にぶつかって砕け散ると、ホールに集った千人以上が拍手で讃える。

長身で初老の男性が1人、演台に立って軽く両手を拡げる。

当時の太陽系連邦大統領だ。

「お集まりの皆さんと共に、全太陽系連邦市民の皆さん。遂に始まりました、この大進出時代幕開けの日を、私達が待ち望んだ『夢の始まり』への感謝と共にお祝い申し上げます。出発時刻が迫っておりますので、概略は彼女から説明します」

そう言って左後ろに控えていた女性と入れ替わる。

当時の地球型惑星探査推進本部長だ。

「手前の先頭に位置するHSCから001、002、003です。001の最初の目的地は蛇遣い座のバーナード星。002はプロキシマ・ケンタウリ、003は鯨座のルイテン726-8となっております。間も無く出発します」

3隻はほぼ同時にゆっくりと進み出す。

マルチビューワはそれぞれを映し出して追い続ける。

やがて3隻とも、MBHM(マイクロ・ブラックホール・モーター)回転数を4に上げて、超空間(ハイパー・スペース)に転位突入した。

「コンピューター、プログラム停止」

突然、総てが凍り付いたように止まる。

「さあ、ここまでがご先祖様達が、大進出時代に入る前までの歴史だ。各自、ここまででの感想と、何に興味を惹かれたか、ここまでを観て、自分はこれから何に取り組んで、何を目指したいと思っているかについて書きなさい。あと39分だ」

と、ラフな恰好の青年が現れて告げる。

子供達は、それぞれ自分のPADを起動させた。

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