無力化して放置され、打ち捨てられる事になった城市を再生して盛り返し、この地域一帯で最強にします。

トーマス・ライカー

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急報

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 一際大きく逞しい漆黒の巨馬に跨り、軍団長として『アランカ』派遣騎馬軍一万二千騎余りを率いる大将軍は、身動みじろぎもせずに戦場を見晴かして、眺めている。


 ここは戦場を見晴かす小高い丘の上……大将軍が跨る巨馬の左右両脇から後ろにかけて……十騎が付き従っていた。


 そこへ目掛けて西方の遥かに遠方から早馬が1騎駆けて来る……駆っているのは我が軍の伝令兵だ。


 あと百歩程の所まで走って来たが早馬の力が尽きたようで、諸共にもんどりうって倒れ込む……その拍子に兜が外れ飛んだ……伝令兵は十歩程度先まで放り出されたが…3拍で跳ね起きると、自分で走って来て丘を駆け登った。


「…伝令!! 伝令!! 『アランカ』国稽都ケイト! 嶄臥ゼンガ! 公子府こうしふより急報! 」


「…遠路ご苦労! 誰ぞ水を飲ませよ! 」


 近くに控えていた兵曹長へいそうちょうが自分の竹水ちくすいの栓を外して渡した。


「…かたじけない! 」


 それだけ応えて受け取ると…四口飲んでから、また栓を詰めて返した。


「……それで? 公子府で何があった? 」


「…大将軍! 謀叛むほんです! ザバド…グロガ…グルダの三将軍が一両日の間に挙兵! その数はそれぞれ八千から九千! みっつの軍勢は、嶄臥ゼンガ公子府こうしふまで三日の所にまで迫りました! 」


「…あい分かった! ここまで何日で着いた? 」


「…二日半です! 」


「…公子府の守備勢は? 」


「…あの当時では、掻き集めても五千ほどかと…」


「…それではもう…陥ちたかな……お前に命を与えたのは? 」


「…ガザル騎都尉きとい長です…」


「…よく分かった…役目ご苦労だった…名は? 」


「…カメルです…」


「…カメル……よく届けてくれたな……ゆっくり休め……」


「…ありがとうございます…」


「…大将軍…如何致しましょう……」


 大将軍より五歳年嵩としかさのガザガ 首頭将補しゅとうしょうほが、馬を寄せて訊いた。


「…うん……可及的速やかに公子府に戻らねばならないが……先ずはこの戦場を制せねばならん……土煙が酷くてよく観えないが、戦況に変わりはあるか? 」


「…三巴みつどもえの乱戦に入ってから既に五時いとき…いまだ揉みあぐねているようですが……」


「…伝令騎兵と偵察騎兵を廻して戻せ……それと同時に敵の歩兵を捕縛ほばくして、内情を訊き出せ…」


「…御意…」


「…雨になりそうかな? 」


「…この風の向きと匂いから察するに…あと四半時くらいかと……」


「…よし…それまでにひと駆けしてこよう……三千騎余りを率いて揉み合いを突き抜け、ぐるりをひと回りしてくる……しながら敵の歩兵を何人か捕縛してくるし……敵の陣形や動きも観てくる……三等騎将三名…後に続け! ハァ‼︎     」


 勢いよく手綱を振って鋭い音を響かせてから、大将軍は漆黒の巨馬を駆って丘から駆け降りて行く…その直後を三名の三等騎将がぴたりと随走する。


 大将軍が戻ったのは、それから四時半……銀と蒼の甲冑におびただしい返り血を浴び……大刀と蛇矛じゃぼうを赤黒く染めて丘を駈け登り……巨馬から降り立つ。


 降り出した雨が激しさを増し、返り血や血糊を洗い流し始めて…血の臭いを更に掻き立たせた。


 同じく駆け戻った三等騎将のひとりが大将軍から得物えものを受け取り、数名の歩兵上長が巨馬の世話に取り付く。


「…如何でしたか? 」


 ガザガ 首頭将補しゅとうしょうほも、馬から降りて訊いた。


「…うん……他の二軍の許へも…国許から急報が届けられたのは、間違いないようだ……揉み合いを続けながらも騎馬隊を糾合して、本国への帰還行程に入ろうとしている……捕縛して連れ戻った敵兵からも、話を聞き出せ…」


「…御意ですが、大将軍……これは如何にも都合が良過ぎます……例の『裏影の者共』に依る企図ではないかと……」


「… 首頭将補しゅとうしょうほも、そう思うか? 」


「…はい……それ以外には、考えられないかと……この六年…ここに騎馬軍団を派遣している三国による戦いは、激しさを増しております……激闘がこれ以上に長く続いて……三国が共に深傷を負い、激しく消耗するのを危惧した企図なのでありましょう……」


「…うん……私もそう思うが…このまま奴らの思惑におめおめと乗せられるのも忌々いまいましい……どうしたものかな……」


「…目の前の城市は…既に力を失っておりますのに……」


「…ああ…それが如何にも惜しいな…… 首頭将補しゅとうしょうほ……首頭副将軍に伝令を出して、ここに戻させてくれ……それと…若手の一等騎都尉でひとり……粘り強い性質たち強者つわものを挙げてくれ……副将軍がここに着いたら、君と一等将補を三名……軍師長と軍師を二名……私と兵站長も交えて、君が選んだその者を呼んでくれ……話がしたい……その者に私の裁量で、ある密命を託そうと思う……それについて、皆で話し合おう……伝令を頼む! 」


「…御意! 」


 捕縛して連行した敵兵には、原隊げんたいよりも厚遇で雇うと言って話を聞いた……するとやはり、それぞれの国許くにもとから早馬を飛ばして駆けて来た伝令が到着してから、陣営の動きが目に見えて慌ただしくなったと言う。


 首頭副将軍に伝令が届き、大将軍の本陣に彼が近侍の騎都尉きとい数名を引き連れて姿を顕した時、既に大将軍が参集を指示した幕僚陣が顔を揃えていた。


「…大将軍閣下…遅くなりました…」


 脱いだ兜を左手で持ち…右手で陣幕を上げて、首頭副将軍が大将軍の陣屋に姿を見せる……居並ぶ幕僚達を見て、軽く頭を下げた。


「…いや…戦地往来ご苦労……ここに座ってくれ……この情勢でこれ程に早く本陣に参集できるのは、君ぐらいのものだろう…」


「…それで? 国許から来た急報の件ですか? 」


 首頭副将軍は、座りながら大将軍に訊いた。


「……君の陣にも来たか? 」


「…ええ……ですが、私の陣に辿り着いた伝令兵は既に深傷を負っていて……いつ…どこで…誰と誰が謀叛を起こしたと……それだけ告げて逝きました……」


「……そうか……どうやら『ガリア』でも『ザバルド』でも…それぞれの都の中で、謀叛かどうかまでは判らないが…それに類する大事が…一両日とは違えずに起こったらしい……だから、それぞれの国許から派遣された騎馬軍団も…急いで帰ろうとしている……」


「……『裏影の者共』ですね……奴らが企図した仕業でしょう……」


「…君も、そう思うか? 」


「…それしか考えられません…あまりに都合が良過ぎます…この六、七年…『アランカ』…『ガリア』…『ザバルド』…三国間での戦は激しさを増していましたから……奴らなりのやり方でくさびを打ち込む事で、進み方を緩めようとしたのでしょう……」


「…流石は首頭副将軍……奴らの誘いを二回も蹴っただけの事はある(笑)…」


「…三回も蹴った、大将軍閣下には及びませんよ(笑)…それで…如何しますか? 」


「…三騎馬軍団とも、もはやお互いに遣り合う気は無い……戦線の収拾…集結…出発まで…早いだろう……だが『裏影の者共』やつらの思惑に乗せられるのは忌々いまいましい……それにあの『城市』だ……これ程の要衝にある『城市』を……このままみすみす捨てて帰るのは如何にも惜しい……我々は稽都ケイトへと帰還し…嶄臥ゼンガ公子府こうしふに依る、謀叛を起こした逆賊共と相対して戦う事になるだろう……だが…『裏影の者共』やつらが後背で糸を曵く、この一大事……一筋縄では収拾できまい……逆賊の軍勢と正面切って戦えば、こちらもかなりの深傷を負うかも知れない……その際に…あの『城市』が少しでも使えるものになっているなら、ここで少しでも態勢を立て直せるかも知れない……その為の布石を一手…打って置きたい……どう思う? 」


「……御意ですが……閣下…具体的には、どのような布石を打つのですか? 」


「…では、紹介しよう… 首頭将補しゅとうしょうほ…彼をここに呼び入れてくれ…」


「…御意……アサラ一等騎都尉きとい…こっちだ…入ってくれ…」


「…お邪魔します…お初にお目に掛かります……一等騎都尉のアサラです……」


 若く長身で逞しい騎都尉が、脱いだ兜を右脇に抱えて陣屋に入った。


「…アサラ一等騎都尉、よく来てくれた…ここに座ってくれ……そんなに厳しい話をするつもりはないから、肩の力を抜いてくれ……ときに君は幾つになる? 」


「…来月で、二十六になります…閣下…」


 そう応えながら彼は、指定された座具の上に腰を降ろした。


「…そうか、若いな……君は国許からもたらされた、謀叛を伝える急報については聞いたか? 」


「…はい、承知しております…」


「…そうか。それでな…こちらでも敵軍の兵を複数捕縛して連れ帰り、話を聞いたのだが…それに依れば、二国の国許に於いても、派遣した騎馬軍を急いで引き揚げさせねばならぬ程の一大事が…ほぼ同時に起きたようだとの見立てを得た…」


「…左様ですか……そんな事が……」


「…話は変わるがな、アサラ…君は『裏影の者共』については知っているか? 」


「…それについての話は聞いた事がありますが…噂と言うか、与太話のひとつであろうと思っておりました…」


「…うん…無理もないが……この『裏影の者共』らは、古くから実際に存在している……奴らは世界の裏影に巣食い…表舞台に出る事なく、悪しき蜘蛛の糸を張り巡らして…この世界を裏側から操ってきているのだ…」


「…左様ですか…」


「…今回、三国の中枢でほぼ同時に起きた…この一大変事な? この裏でも 『裏影の者共』やつらは糸を曳いて、激化の一途を辿っていた戦いにくさびを打ち込んだのだ…」


「…なるほど…」


「…それだけではない……我が騎馬軍団が都を遠く離れたこの機会を狙っての所業でもあるのだ……何故なら、我が騎馬軍団に奴らに鼻薬を嗅がされている者はいないからな……それだけに、我らがこのまま都に戻れば……奴らの事だ…罠も張っているだろうし、待ち受けの構えもできているだろう……だからと言って、戻らない訳にもいかぬ…」


「…厳しい…情勢ですね……」


「…そうだな…だが、そこでだ…君にある密命を託したい…」


「…密命…ですか? 」


「…如何にも…」

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