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5.親切すぎるお爺さん
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連れていかれたのは二階建ての建物で、何かのお店のようだった。暗くて見えにくかったが、『ブラウン宝飾店』と書かれた看板がかかっていた。
「中に入りなさい」
「あ、はい」
分厚い扉が開けられ中に入ると、商談用のテーブルとソファが目に入った。一目で質の良いものだと分かる。
(もう貴族ではないのに、こんなところに来るなんて……)
どこまで入っていいのか考えあぐねていると、先に奥へと進んでいたお爺さんが手招きしてくれた。
商談スペースを抜けて階段を上ると、部屋がいくつかあった。どうやら二階が住居になっているようだ。
お爺さんは一番手前の部屋の前で止まると、ドアを開けた。
「一応、人が泊まれるようになっている。しばらく好きに使いなさい。夕飯はないからこれでも食べてくれ」
お爺さんから差し出された保存食を受けとり部屋に入ると、なんだかほっとした気分になった。部屋は小さかったが、ベッドとテーブルがあり綺麗な状態だった。
「あのっ……お部屋代はお支払いします。一応少しはお金を持っていますし、ここまでしていただくのは申し訳ないというか……」
あんなに図々しく雇ってくれとお願いしたのは自分なのに、想像以上の親切をされると戸惑ってしまう。
私がお金を出そうと慌てて鞄を探っていると、お爺さんは面白そうに笑った。
「はははっ、タダで住まわせる訳ないだろう。きちんと給料から天引きしておくよ。今日はもう遅いから休みなさい。仕事の話は明日だ」
「あ、ありがとうございます。えーっと……」
お礼を言おうとして、名前すら聞いていなかったことに気がついた。
(私ってなんて失礼なの!? 名前も知らない人にこんな……)
「あぁ……私はジョナス・ブラウン、ここの店主だよ。明日から頼むよ、ソフィア」
私はペコペコとお礼をするしかなかった。
ジョナスさんが出て行った後、私はベッドに座り込んだ。
(なんて奇妙な一日だったのだろう……。今こうしてベッドの上でのんびり出来ているのは奇跡ね。ジョナスさんがいなければどうなっていたか分からないわ)
今日の昼前にはハプレーナで断罪されていたのに、気がついたらモユファル王国の商店にいて一夜を明かそうとしているのだから本当に分からない。
(昼間の出来事がずっと昔のことのようね。マリアも王子も両親も、私は死んだとでも思っているだろうな)
それが悲しいことだとは思わなかった。故郷を失ったことに対するぼんやりとした寂しさみたいな気持ちはあるのに、そばにいた人達の顔を思い浮かべても会いたいとも思わなかった。
(まあ捨てられた訳だし、こんなものかもね)
両手を上にあげ、ぐーっと伸びをするとそのままベッドに倒れこんだ。
心の中でもう一度ジョナスさんにお礼を言ってから、部屋を見渡してみた。小さな棚には本が何冊か入っていたが、ほかには何もなかった。
本当に人を泊めるための部屋なのだろう。シーツも清潔で部屋もこまめに手入れされているように感じた。
ジョナスさんがこんなにも親切にしてくれる理由は全く分からなかったが、今は好意を受け取ることしかできない。私に出来ることは、明日からの仕事を頑張るだけだ。
ジョナスさんはここの店主だと言っていたし、ここは宝飾店なのだからジュエリーを扱うことになるのだろう。私に出来ることがあるかは不明だけれど、生きていくためには仕事をしなくては。
(私はもう箱の中のお嬢様じゃないのだから、独りで生きていく力をつけないとね)
全てを失って身軽になったのが、なんだか心地よかった。身一つで頑張ろうという気持ちを抱いて、私はそのまま眠りに落ちた。
「中に入りなさい」
「あ、はい」
分厚い扉が開けられ中に入ると、商談用のテーブルとソファが目に入った。一目で質の良いものだと分かる。
(もう貴族ではないのに、こんなところに来るなんて……)
どこまで入っていいのか考えあぐねていると、先に奥へと進んでいたお爺さんが手招きしてくれた。
商談スペースを抜けて階段を上ると、部屋がいくつかあった。どうやら二階が住居になっているようだ。
お爺さんは一番手前の部屋の前で止まると、ドアを開けた。
「一応、人が泊まれるようになっている。しばらく好きに使いなさい。夕飯はないからこれでも食べてくれ」
お爺さんから差し出された保存食を受けとり部屋に入ると、なんだかほっとした気分になった。部屋は小さかったが、ベッドとテーブルがあり綺麗な状態だった。
「あのっ……お部屋代はお支払いします。一応少しはお金を持っていますし、ここまでしていただくのは申し訳ないというか……」
あんなに図々しく雇ってくれとお願いしたのは自分なのに、想像以上の親切をされると戸惑ってしまう。
私がお金を出そうと慌てて鞄を探っていると、お爺さんは面白そうに笑った。
「はははっ、タダで住まわせる訳ないだろう。きちんと給料から天引きしておくよ。今日はもう遅いから休みなさい。仕事の話は明日だ」
「あ、ありがとうございます。えーっと……」
お礼を言おうとして、名前すら聞いていなかったことに気がついた。
(私ってなんて失礼なの!? 名前も知らない人にこんな……)
「あぁ……私はジョナス・ブラウン、ここの店主だよ。明日から頼むよ、ソフィア」
私はペコペコとお礼をするしかなかった。
ジョナスさんが出て行った後、私はベッドに座り込んだ。
(なんて奇妙な一日だったのだろう……。今こうしてベッドの上でのんびり出来ているのは奇跡ね。ジョナスさんがいなければどうなっていたか分からないわ)
今日の昼前にはハプレーナで断罪されていたのに、気がついたらモユファル王国の商店にいて一夜を明かそうとしているのだから本当に分からない。
(昼間の出来事がずっと昔のことのようね。マリアも王子も両親も、私は死んだとでも思っているだろうな)
それが悲しいことだとは思わなかった。故郷を失ったことに対するぼんやりとした寂しさみたいな気持ちはあるのに、そばにいた人達の顔を思い浮かべても会いたいとも思わなかった。
(まあ捨てられた訳だし、こんなものかもね)
両手を上にあげ、ぐーっと伸びをするとそのままベッドに倒れこんだ。
心の中でもう一度ジョナスさんにお礼を言ってから、部屋を見渡してみた。小さな棚には本が何冊か入っていたが、ほかには何もなかった。
本当に人を泊めるための部屋なのだろう。シーツも清潔で部屋もこまめに手入れされているように感じた。
ジョナスさんがこんなにも親切にしてくれる理由は全く分からなかったが、今は好意を受け取ることしかできない。私に出来ることは、明日からの仕事を頑張るだけだ。
ジョナスさんはここの店主だと言っていたし、ここは宝飾店なのだからジュエリーを扱うことになるのだろう。私に出来ることがあるかは不明だけれど、生きていくためには仕事をしなくては。
(私はもう箱の中のお嬢様じゃないのだから、独りで生きていく力をつけないとね)
全てを失って身軽になったのが、なんだか心地よかった。身一つで頑張ろうという気持ちを抱いて、私はそのまま眠りに落ちた。
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