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職人の願い(1)

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 クリスティーナは、どんどんと仕事に打ち込んでいった。
 その一方で、叔母の手がかりは掴めないまま、時間だけが過ぎていった。



 今日はユリウスに呼び出されていた。作業用の椅子が完成したから、確認しに来いということだった。

(なんでまた王宮で? 職人さんの仕事場を教えてくれれば自分で見に行くのに……)

 豪華な部屋でユリウスを前に、思わずため息が出てしまう。

「あの人はかなりの人見知りでして。申し訳ありません」

 ユリウスが苦笑いしながらそう言った。「あの人」とは、椅子を作った職人のことだろう。
 クリスティーナの心の中を覗いたかのような謝罪に、またため息が出そうになる。

「だからってユリウス殿下に説明させるのは……」
「まあまあ、とにかく椅子を見てください。僕から見ても、かなり良い出来だと思いますよ」

 自ら説明役を買って出たらしいユリウスは、誇らしげに椅子を示した。
 クリスティーナは椅子をじっくり眺めたり、座ってみたりした。ユリウスの言う通り、確かに良い出来だ。高さ調節機能と回転機能がバッチリ備わっているし、座り心地も良い。

「素晴らしいです! 文句なしです。これをそのまま買い取ってもいいですか?」
「もちろん構いません」
「それで……量産の方はどうですか?」
 
 一番重要なのはここだ。作れることが分かったら、それを量産出来る体制がほしい。そうでなければ領民に行き渡らない。
 クリスティーナが恐る恐る伺うと、ユリウスが少しだけ苦い顔をした。

「申し訳ありませんが、彼が作るのは難しそうです」
「そうですか……」

 ある程度覚悟していたとはいえ、追加で作ってもらえないのは残念だった。

「それともう一つ、残念なお知らせです。彼は、今請け負っている仕事が終わったら引退するそうです」
「そんなっ……! こんなに素晴らしい技術を持ってる人なのに」

 ユリウスから告げられたのは、本当に残念なお知らせだった。引退してしまうということは、量産してもらえないだけでなく、作れる人がいなくなるということだ。

「だから彼から伝言を預かっています。『この椅子の作製手順をまとめました。ご自由にお使いください。最後に楽しい仕事が出来ました』とのことです」

 ユリウスは、そう言いながらクリスティーナに分厚い書類を渡した。
 クリスティーナが内容を確認すると、そこには細かな手順と技術的なアドバイスが書かれていた。

「これっ……すごく貴重な技術書ですよね? 無償ではいただけません。対価をお支払いすべき情報です。それに私が貰っても、活用出来ません」

 クリスティーナが書類を突き返すと、ユリウスは微笑んだ。

「伯爵はそう言うと思っていました。それならば、協力してくれませんか?」
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