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しおりを挟む「それにしても、あなたも難儀なことね、ギルベルト」
「は? 何がだ?」
冷たくなった紅茶で幾分か頭も冷めた。
色々と情けなくぶちまけたおかげで、もやもやとしていたものがスッキリとなくなっているのを感じる。
こんなことに付き合わせた申し訳無さと付き合ってくれたことに対する感謝を抱きながら、私の言葉に首を傾げているギルベルトに苦笑してみせた。
「だって、私なんかと婚約することになるなんて」
自由人なあなたが。
その言葉は再び口をつけた紅茶とともに飲み込んだ。
ギルベルトはモテる。たいそうモテる。
家督を継ぐのが難しい伯爵家の四男という立場であっても、目鼻の整った顔立ちと気さくな性格は世の婦女子たちを虜にするには十分らしいもののようで。
下町の娘たちから、貴族のご令嬢、果ては未亡人のマダムにまで幅広く彼に焦がれるものは少なくない。
やれどこそこのお嬢さんと付き合っているだの某貴婦人の若いツバメになっただのとあちらこちらから入ってくる噂話が尽きないぐらいだ。
噂話の真偽を聞くたびに本人は笑って否定してたいたけれど、一つや二つは本当なのではと睨んでいる。
邪推でしかないけれど。
ギルベルトが今の今まで婚約者を作らなかったのも、気ままに浮名を流したかったからに違いないと思っている。
これも下衆の勘繰りでしかないけれど。
そんな自由人ギルベルトにとうとう私という婚約者ができてしまったのだ。
まだまだ遊び足りないだろうに、とため息を禁じ得ない。
それに、我が家と同様伯爵家と繋がりを持ちたい者やギルベルト自身に魅力を感じていた者から引く手数多であろうによりにもよって婚約者になったのはこの私だ。
特別美人でもなく分かりやすい魅力があるわけでもなく秀でた才能があるわけでもない言ってしまえばただ裕福な家の娘であるだけのつまらない女でしかない私が相手だなんて本当に勿体無いと思う。
そんな女が婚約者になったのは、家同士の利害の一致からだろう。
貴族と縁を結びたかった我がヴァンツ家は言わずもがな、リーベルス家も諸事情で手広く商売をしている家と繋がりが欲しかったらしく。
我が家に白羽の矢が立ったのだと鼻高々と話す父に気の無い相槌を打ったものだった。
つまるところ、下町の娘から貴族の令嬢、マダムまでよりどりみどりだったギルベルトは、伯爵家の者として義務的に私と婚約しなくちゃならなくなったわけで。
お互い家の事情で振り回されて大変よね。
なんて、憐憫の情を覚えてしまうものである。
そんな哀れな伯爵家四男様は、私の言葉にたいして何か思うことがあるのかしかめっ面を作っていた。
「……お前さぁ」
「な、なに?」
じとりとした視線は何やら恨みがましいように感じる。
そんな目で見られる意味が分からず困惑しながら首を傾げると、ギルベルトは盛大にため息を吐いた。
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