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しおりを挟む「翔くん、ご飯できたよ」
義弟の部屋をノックして呼びかけるも、返事がない。
初めて出会ったときから続いている無言には、もう笑って流せる程度には慣れてきたものだった。そのはずなのに。
今は、ぎゅっと潰されたかのように胸が痛くなり、なんだか息をするのでさえ苦しく感じる。
ごまかすようにひと呼吸して、私は閉ざされたドアを――その先にいるであろう義弟を見据えて努めて明るく笑顔を作った。
「おかず、冷蔵庫に入れておくから、お腹が減ったら食べてね」
そうとだけ言い残して大人しく引き下がり、私は深く息を落とす。
義弟が自ら挨拶してくれるようになったり、少しだけ話かけてくるようになったり、私の作ったご飯に「おいしい」と言うようになったり。
そんな風に少しづつ、義弟との間にある壁が薄くなってきていた。
なのに。
三日。
三日前からだ。
義弟が、部屋から出てこなくなってしまった。
その日は特に用事も無く買い物にも行かなかったせいか、義弟より私の方が帰宅するのが早かった。
制服から着替え、晩御飯の支度をする。
おかずを作っている途中確認した時計は、五時少し前を指していた。
義弟にしては遅い時間だ。
だがもうそろそろ帰ってくる頃だろう。
そんな風に考えていたら、ガチャリと玄関が開けられる音が響いた。
ああ、義弟が帰ってきた。
のんきにそう思った直後だ。
バタン! と、力強く玄関が閉められた。
普段の義弟ならばおよそたてないであろう盛大な音に驚いて玄関に向かえば、そこには息を切らした義弟が俯いて立っていた。
何かあったのだ。
瞬時にそう判断できるくらい、義弟の雰囲気がいつもと違っていた。
そして、声をかける間もなく義弟は足早に自室に向かって行ってしまい、そのまま部屋に閉じこもるようになってしまったのだった。
三日前にあったその出来事以降、義弟は部屋から出ず、姿を見せてくれなくなった。
距離が縮まる以前でさえご飯だけは一緒に食べてくれていたというのに。
今は、それすらもない。
冷蔵庫に入れたおかずが消え使った食器は綺麗に洗われ、ゴミ箱などにも入っていないところをみるとちゃんと食事はしているようで、そこだけは安心できているけれど不安は拭えない。
義父も母も義弟をとても心配している。
けれど、いくらドアを叩いても呼びかけても反応のない義弟にどう対応すればよいのか迷いがあるようで、とりあえず今は様子を見ることに決めたようだった。
親が静観するのにならって、私も必要最低限の挨拶と声掛けだけにとどめることにした。
本当は、今すぐにでも部屋に突入して義弟と話をしたいところだけど。
私一人の暴走で、義弟のまわりにある壁が出会ったとき以上に分厚くなってしまう可能性だってある。
心配だけど。心配だから。
どうにも身動きのとれない状況に、ただただ歯痒い思いが募るばかりだった。
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