光が眩しすぎて!!

きゅうとす

文字の大きさ
2 / 18
足掻く世界

それでも生きて

しおりを挟む
痛い、痛い、痛い、痛い!
僕は身体を蹴られてもんどり打って転がった。

お腹を蹴られたからお腹も痛かったが転がった拍子に更に後頭部を地面に打ったのだ。我慢が出来ない程の痛みと息も出来ないような腹痛を感じた。
じんじんと痛む後頭部よりも喉の奥から迫り上がって来た熱い塊を横に吐く。血の塊だった。
どうやら何処か体の中を怪我したようだ。のたうち回っている僕に僕を蹴った男が吐き捨てる。

「へっ!何してやがるんだ、小僧!」

痛みだけでなく呼吸もし辛い体で僕は思った。
何してるって?そりゃあ殺された魔物を解体していただけだ。反論したくても苦しすぎて声も出せずにいる僕にその男は更に言った。

「あ?ああん?ちっ!イザリ小僧かよ」

苦しんでいる僕の足を見て男が気付いて言った。

僕は冒険者ギルドでは『イザリ』と呼ばれて蔑まれていた。『イザリ』とは歩く事が出来なくて座ったままズリズリ移動する者の事を言う別称らしい。
失礼な!僕は膝より下の足が変形しているから立てないだけで、膝立で歩けるし、走れるぞ!

そんな僕の心の内も関係なく男が言った。

「良いか!他人ひとの獲物を横取りするなんて最低のやる事だぞ!」

横取りなんてしていない。解体もせずに捨てて行ったらから解体して有効利用していただけだ。
後始末だってやってやるつもりだったんだ。

自分勝手なことを怒鳴り散らす男から解体途中のフォレストウルフを掴んで苦しいながらズリ退がる。頭が木の影に入った所で闇魔法を使うと男が僕の姿を見失う。

「・・・だから!このクソ野郎!」

僕の闇魔法は頭が影に入ってから使うと『影に隠れた』ようになるのだ。

それでこの怒鳴り散らす男はバッチィと言うC級冒険者だ。魔法属性は知らないが軍神の息吹ドゥラメンテのパーティリーダの前衛で双剣オーガストに憧れて後を付いて回っている。

大剣を背中に背負い、軍神の息吹ドゥラメンテの見習いを自称している。C級なだけあって魔物が跋扈するダンジョンに向かうこの森の中でも一人で歩ける。

どうやら僕が見つけたフォレストウルフはが軍神の息吹ドゥラメンテが通りすがりながら退治して放置していったらしい。

影の中に隠れていると大分苦しみが遠ざかり楽になって来た。良く分からないけど多少の治癒効果があるらしい。まぁ時間が経って痛みが引いたのかも知れないけど。

僕の姿を見失ったバッチィは僕の方に唾を吐いてグダグダ言いながら姿を森の中に消して行った。見つからなくてホッとしたけどバッチィの唾は僕の頭に付いていたよ。

本当にばっちい。

バッチィの姿は見えないけど用心の為に僕はもう暫く隠れていた。バッチィの足音が完全に消えでも動くのは危険だろう。

バッチィとバッティングしたのは初めてだが用心に越したことは無い。だから僕は影の中で解体を続ける事にした。
腰の後ろに挿してある短剣の柄を握ると頭の中に声が聞こえた。

>ヒヤヒヤしたぞ。大丈夫か?



まだ体のあちこちは痛いが我慢できない事は無い。

僕の心の声を拾ったのはクルワナと言う名前の短刀だ。この短刀は所謂、魔剣と言われるものらしく人の言うところの自我があるのだ。自意識とも言われる事がある。

孤児院を脱出する時に持出した時から話し掛けて来るようになった。魔剣ほんにんが言うところでは僕に魔法属性が与えられてからクルワナの声が届くようになったらしい。
それまでも僕に話し掛けていたみたいだけど伝わらなかったと愚痴を言っていた。

魔剣クルワナの捨てられた経緯を聞こうとしたけど言葉を濁して話そうとしない。まぁ話したくないならそんなに追及しないけど、いつか話してくれると嬉しい。

クルワナは博識で色々な事を教えてくれる。今はフォレストウルフの解体の仕方を教えてくれるのでそれに沿って僕はクルワナを動かしている訳だ。
フォレストウルフの毛皮が綺麗に剥がされて、魔石や一部の可食部を取り外すと残りは木の間に掘った穴に埋める。
可食部の肉は森によく生えている大きな葉っぱに包んで背中のリュックにしまった。
魔石と皮は売れば1日分の家賃になるし、可食部の肉は乾燥させて干し肉にするのだ。まぁあんまし保たないのでできるだけ早く食べる。
本当なら塩を擦り付けたり、燻して置くと良いとクルワナは教えてくれる。

冒険者ならアイテムバッグがあればフォレストウルフ程度まるまる入れて帰れるのだけど金貨が必要なレベルだから今のところは憧れでしかない。

フォレストウルフの解体が終わる頃には体の痛みも大分引いてきたので何とか歩いて帰れそうだ。フォレストウルフを手に入れる前にフォレストラビットとフォレストラットを2匹づつ手に入れているから1日の稼ぎとしてはまあまあである。
だから、それらは僕のリュックに入っている。
ただ、さっき、蹴られてリュックごと打ち付けられたから心配だ。まあ、頭は打ち付けたけど背中はリュックのお陰で守られたんだ。

僕は心配でリュックを開けてみた。思った通り、フォレストラットとフォレストラビットの皮は大丈夫のようだったけど葉っぱに包まれていた肉は潰れてしまっていた。
これだと干し肉には出来ないかも知れない。思わず悪態が出てしまう。まだ明るく、狩りを続けられるかも知れなかったけど、ついていない時は諦めが肝心だ。
僕は森を出て住んでいるウィードラドの街に戻る事にした。

フォレストラビットの事を昔は瘤兎ウィと言っていたらしく沢山狩る事が出来たらしいんだ。その為の街がウィードラドだったらしい。
これは街の衛兵の門番さんから聞いた事だ。名前も知らないかなり年寄りの門番さんは身体が不自由な僕にも優しかった。こういう人は滅多に居ないんだけど。

門で冒険者証を見せて中に入れて貰う。知らない顔の門番さんだけど少し顔を歪ませただけで特に嫌味も言われなかったから良かった。
そのまま裏道を通って商業ギルドに向かう。

表通りを使わないのは自衛の為である。昼間の明るい時は周りがよく見えず、荷馬車や走り回る子供たちに打つかる事がよくあるのだ。危険極まりない。
仕方なく表通りを抜ける時は出来るだけ建物の近くを杖を突いて歩く。普段は杖を使わないのは両手が塞がらないようにしているのだ。

手が使えないといざと言う時に戦えないからだ。危険が無いと判断する時は杖を両手で歩くのだ。時々ドアが急に開くこともあるし、無気力な浮浪者が縋りつこうと動く事があるのでそれらも注意だ。
今回は子供たちは通りの反対方向を逆に走って行ったし、ドアの前にいた浮浪者は眠っていた。



無事に到着した商業ギルドのドアを開ける。

ムワッと獣気が満ちる。持ち込まれる素材の臭いが換気されても漂って居るのだ。それだけでは無く薬草などの臭いも籠もる。
荷馬車などで運ばれる魔物は裏口や別棟の解体場に持ち込まれるが大抵はそのままギルド内に持ち込まれてしまう。消臭や換気は魔導具でされてはいてもとても追いつかない。

中には入った途端に気絶してしまう若い娘も多いらしい。僕も最初に入った時は鼻をつまんでしまった。ちなみに冒険者ギルドは併設された酒場のせいで酒気が凄い。

中に入ると僕はいつも通り左奥のカウンターに向かった。そこは階段状の踏み台があり、背の低い者が使えるのだ。踏み台を登りカウンターに向かって声を掛ける。

「あら、ブルグさん。今日は何を持ち込みなの」

受付嬢・・・のカラムさんが甲高い声で返答して来た。受付嬢の制服を着た偉丈夫だが性別は男だ。服装と声は女性だが身体は男性の商業ギルドの職員だ。職歴は受付嬢の中では長く、ギルドマスターの信任も厚いらしい。

「ウルフと、ラビットと、ラットの素材…」

慣れて来たとはいえ、他の人とは話しづらい。でもカラムさんはちゃんと聞き取ってくれて笑顔を見せてくれた。

「それならここで受け取れるわね。出して頂戴」

カラムさんに頷いて僕はリュックをカウンターに置いて、中身を出した。カラムさんは素材をひとつひとつ丁寧に吟味して査定をする。潰れた肉が入った葉っぱを見て眉を顰めた。

「あっ、そ、それは・・・」

僕が言い訳をしようとするとカラムさんは言った。

「ごめんねー、これは買い取れないわ。だから残念だけど自分で処分してね」

潰れたウルフの肉だけを僕に押し戻して、ラビットとラットの肉は引き取ってくれた。

「そうね、全部で銀貨3枚と銅貨2枚ね。どうかしら」

僕はラビットとラットの肉を引き取ってくれた事にびっくりして頷いた。
カラムさんが素材を奥に持って行ってからお金を持って戻って来た。カウンターにそのまま置かれたお金を僕は自分の腰にぶら下げた袋を外して入れる。硬貨どうしが当たってチャリンと音がする。

「ウルフの皮は綺麗に解体出来ていたわ。またお願いね」

カラムさんはどうやってフォレストウルフを倒したかとか聞かずに結果だけを評価してくれる。きっと冒険者ギルドだとこうは行かないだろう。

「そうそう、ブルグくんの級が上がって居るから冒険者ギルドに行ってみてね」

カラムさんの親切な言葉が僕の心を抉る。うわぁ~聴きたくなかった。でも、せっかく言ってくれたのだから行かないと言う訳にはいかないよね。
僕はカラムさんに頷いて商業ギルドを後にした。

冒険者ギルドは時間的に戻って来る冒険者が増え始める時間で受付嬢の前には列ができ始めていた。

僕は素早く壁際の男性職員が手伝っている列に並ぶ。女性の受付嬢は人気があるから列が長いけど男性の場合は短い。
前に2グループが並んで依頼の報告をしていた。チラリと男性職員を見て僕は固まった。今からでも並び直そうかとさえ思った。

なぜなら受付の仕事をしていたのは冒険者ギルドのサブマスターであるマルチアスさんだったからだ。
マルチアスさんはグレイの髪の青い目をしている。普段からボサボサの髪で痩せ過ぎなのはストレスのせいらしい。冒険者ギルド事務員の叩き上げで受付嬢や新人冒険者に優しい。しかも、妻子がいるらしい。でも性格は僕の様な身体をしている者にも偏見は無くてとても気遣ってくれる素晴らしい人だ。
でも、僕には度が過ぎてると思える。

僕の後ろには誰もいなくてホッとする。絶対僕に時間を掛けてくるに違いないから、後ろに並んだ冒険者に僕が恨みを買うのだ。そんな事を考えていたら実際に後ろに並んで来た若い冒険者達はイライラと足を揺すり、舌打ちをしていた。

4人の男は明らかに不機嫌だった。前の冒険者の対応が終わり僕の番になった。マルチアスさんは僕に笑顔で聞いてきた。

「おお、ブルグじゃないか!一体どうしたのかな」

僕は商業ギルドで聞いた事を話す。

「なんでも昇級出来てると言うのでお願いに来ました」

僕が冒険者証を出してマルチアスさんに渡す。マルチアスさんは冒険者証を魔導具に掛けてじっくりと表示を確認していた。時間掛けすぎじゃないかなと僕は思う。確認が終わったのか、処理が終わったのかマルチアスさんが僕に冒険者証を返してくれた。

「はい、ブルグくん。終わったよ。今日から君は4級だね」

その時すぐ後ろから下品な笑い声が聞こえてきた。ゲラゲラ笑っているのは後ろに並んだ冒険者達だった。目を細めてマルチアスさんが言った。

「それで嵐洞ストームドームさん達は何か用かな?」

とっても冷たい声音だった。嵐洞と呼ばれたパーティの冒険者達は笑いを止めた。

「トムジェよ、お前がG+4級だった頃を思い出させてやろうか?」

カウンターの向こうから身を乗り出して僕の横から背の高い剣士に向かってマルチアスさんが言った。トムジェと呼ばれた剣士はサブギルマスのマルチアスさんの迫力には負けたようで小声で謝ってきた。

「でもよう、マルチアスさん!このZ級野郎はまともに戦ってねえんだぜ」

そう、僕はZ級などと揶揄される程に攻撃力が無い。だからどうしてもフォレストラットやラビットでさえ、罠を掛けて仕留めるしかないのだ。まして、今回のようにフォレストウルフなんて無理なのは明白なんだ。

「ああん?それがどうした?冒険者のランクも級もどんな手段であれ狩った者の手柄なんだよ!」

「でもよう!」

「うるせぇー!これ以上こいつに文句を言いやがるなら俺が喧嘩買ってやるぜ!!」

聞く耳を持たないとばかりのマルチアスさんの迫力に負けた嵐洞ストームドームの剣士トムジェは仲間の後ろに引き下がりながら僕を睨んだ。

あー俺は注意しないと陰で殴られるよ。マルチアスさんが僕に目を掛けて庇ってくれれば、庇う程陰での虐めが酷くなるんだよな。でもマルチアスさんは好意でやってくれてるから困る。そのマルチアスさんは良いことをしたとばかりにご満悦だ。

「ありがとうございます、マルチアスさん」

僕は礼を言う。言わないと臍を曲げるのだ。

「良いってことよ。他の奴らに負けねえように頑張れよ、ブルグ!」

もう愛想笑いしか出ない。



僕が椅子から降りて壁際を移動すると嵐洞ストームドームの剣士トムジェが僕の足を掛けようとして止めた。ここで揉めるとまたマルチアスさんにどやされると思ったのだろう。

何とかそれ以降は問題なく冒険者ギルドを出た僕は宿屋に向かった。身体の疲れもあるけどまだまだあちこち痛いし、お腹も空いて来た。
安宿なので出てくる夕食はスープとパンだが、孤児院の食事に比べたら天国だった。だって野菜も形をなしているし、大きくは無いけど肉も入っているのだ。
パンもカビの生えた黒パンじゃない、柔らかい塩パンだ。これだけでも嬉しい。

妹がいない安宿ばしょはさみしいけど食事だけが僕の唯一の楽しみになりつつある。
食事を済まして部屋に戻ると服を脱いで昼間蹴られた所を見た。青あざになっていた。

空桶に汲んである水にタオルを漬けて身体の汚れを拭くと青あざの部分が痛い。埃を取らないと仕方ないので我慢しながら全身を苦労しながら拭く。泥まみれの服やブーツも出来るだけ綺麗にすると桶の水が泥だらけになった。

本来なら泥水は僕が外に投げ捨てないといけないのだが、宿屋の主人に出来ない事を伝えてある。だからその手間賃を明日の朝に銅貨で払わなくちゃいけない。何をするにもお金が掛かるのだ。

憂鬱な気分で固くて粗末なベッドに潜り込むと睡魔に襲われたけど夜中に痛みで時々目を覚ました。
お陰で余り睡眠が取れなかったのか気がついたら昼近かった。

冒険者としては失格だけど僕としてはこのくらいが丁度良い。僕はG+4級だから依頼書なんて確認しない。
決まりとしては依頼書があっても良いのだけど実際には無い。Gランクなんて冒険者の初心者だから依頼する者なんて居ないのだ。

依頼書をちらほら見かけることができるのはCランクからで、その仕事も町中での仕事が多いので余り身入りは良くない。やっぱり街の外に出て魔物を狩るのがお金になるのだ。

だから僕は身支度を整えて宿を出て、東門に向かった。もう既に狩りを終えて戻って来る冒険者がいる中に門の前で暇を持て余している冒険者の集団がいた。

僕の身知った冒険者達、つまり昨日の揉め事の原因の嵐洞ストームドームのパーティだった。ご丁寧に門の中央に陣取って居るから戻る冒険者の邪魔になっている。
このまま行くと必ず剣士トムジェに絡まれる。影が繋がっていれは闇魔法で影に隠れて目立たない様に門を抜けられるけど太陽がまだ高いせいで影が小さくて繋がっていない。

剣士トムジェ達の後ろまで行けば門の影があるのだけれど、そこまでは見晴らしが良すぎる。何か無いかな、このままだと遠回りになるけど西門から出るしか無い。
西門には僕を嫌っている門番ばかりだから行きにくいんだ。どうするか悩んでいると町中から見知った顔の冒険者達が歩いて来た。

彼らに紛れれば剣士トムジェも手出し出来ないだろう。

「オーガストさぁ~ん!」

双剣オーガスト、軍神の息吹ドゥラメンテの前衛だ。1m70cm程の長身で背中に届く程の黒髪長髪を1つに縛っている。目の色は灰色で二の腕に不思議な入墨をしている。武器は
自分の身長ほど長い両刃剣で二振りを腰にぶら下げている。戦っている所は見たことが無いがその長身と肉体で両刃剣を2本も振り回す様はさぞ格好いいに違いない。

そんな強いオーガストさんだけどサブギルマスのマルチアスさんと一緒で僕にも優しい。と言うか、弱者を甚振る者を嫌っている。彼が一緒なら嵐洞ストームドームの剣士トムジェもちょっかい掛けてこないだろう。

ただ、軍神の息吹ドゥラメンテのパーティメンバーには要注意な人がいる。デセムさんとベノムさんだ。
デセムさんは魔導士でどんな魔法も使えるみたいだ。凄い能力を持っているけどお金を持っていない僕を嫌っている。と言うかお金が大好きな人だ。もしかしたらお金を渡せば僕の味方になってくれるかも知れない。
ベノムさんは錬金術師から冒険者になった人だ。素材集めを他人に頼むよりも自分で集めて錬金術をしたくて冒険者になったらしい。基本的に人間不信らしく僕を卑下してくる。でも、魔法付与も出来るしポーションも作れる凄い人なのだ。
他にも2mを越える巨漢のセプトさんやいつもお互いに喧嘩ばかりしている刺突剣レイピストのジュリィさんと斥候のジャンヌさんもいる。この3人は特に僕に何もしない。
僕は空気扱いかな。



僕が大声を上げたから剣士トムジェが気付いた。こちらを見て駆けて来た。それに対してオーガストさんがゆっくりと近付いて来る。
なのにオーガストさんのほうが先に僕に近付いた為に剣士トムジェが少し離れた所で立ち止まった。

「やぁ、ブルグくん。どうしたんだい?」

「あ、あの。これから・・・」

僕がオーガストさんと話をしていると剣士トムジェが割って話し掛けて来た。

「双剣士オーガスト!貴方に憧れているんです!わたしは剣士トムジェと言います!」

まるきり、僕のことを無視して剣士トムジェがオーガストさんに話し掛けたんだ。にこやかだったオーガストさんの顔から表情が消えた。

「失礼な奴だな。僕はブルグくんと話しているんだ。話し掛けないでくれるかな」

剣士トムジェはオーガストさんに向ける笑顔を蔑んだ顔に変えて僕に言った。

「おいこら、『イザリ』!どっか行け!!」

僕は剣士トムジェの顔が怖くて後ずさった。細かな震えが僕の身体を揺する。膝立ちなのに膝が崩れそうだ。
剣士トムジェの理不尽な言動に僕は立ち向かえなかった。ザッという音がして僕の上に影が落ちた。剣士トムジェの前にオーガストさんが割り込んだのだ。

「君、あまり酷いことを言わないでくれるかな。ブルグくんに敵対するなら僕が相手になるよ」

感情の乗らない平板な声音にはオーガストさんの怒気が隠れていた。剣士トムジェはオーガストさんが僕を庇うとは思わなかったのか動揺して言った。

「あ、いえ、そのー」

「まだなにか?」

オーガストさんの態度に剣士トムジェは言葉も返せず逃げるように町中に消えていった。その後を様子を伺っていたパーティメンバーが追いかけて行った。

「ブルグくん、大丈夫かい?」

オーガストさんが優しく声を掛けてくれたお陰で怖さが少し無くなった。でもオーガストさん達の後ろから僕を睨む人がいた。

ひぃ!
声にならない声を僕が出すとオーガストさんが振り向いて僕が誰を見たのか分かって溜息をついた。そしてパーティメンバーを掻き分けて元雷光ライトニングのバッチィさんの前に立った。

バッチィさんはオーガストさんを目の前にして笑顔になったけど直ぐに悲しい顔になり、顔を伏せながら僕を睨んで来た。
オーガストさんがバッチィさんに何を言ったのかは聞こえなかったけど剣士トムジェに言ったようなことを言ったのだろうと思う。バッチィさんも踵を返してオーガストさんから離れて行った。オーガストさんのお陰で僕に因縁を掛けてくる人はいなくなったのでホッとする。
戻って来たオーガストさんが言った。

「僕達はこれから崩落の闇ダンジョンに行くけどブルグくんはどうするんだい?」

崩落の闇ダンジョンとは森の中にある巨大な亀裂の事だ。僕は見たことが無いけど。亀裂からは魔物が湧いて来るらしい。場所に依っては対岸に渡れる橋が掛かっているらしく、更に森の奥にも行けるらしい。
この亀裂の中がダンジョンと呼ばれ、魔物を倒すと瘴気になって魔石だけを落とすらしい。森の様子とは隔絶した世界らしい。
僕はとてもじゃないけど付いて行けないから言った。

「森の入り口で小型の魔物でも狩ろうと思ってます。」

「それじゃあ森まで一緒に行こうか」

僕はオーガストさんに抱えらながら西門を出て森に向かった。僕の様子が羨ましいとかジュリィさんとジャンヌさんが矢鱈と言ってきてオーガストさんも苦笑していたけど、お姫様抱っこでもされてたらきっとふたりに殺されていたんじゃないかな。そう思わせるほどふたりは加熱して言い合っていた。

怖いよ、女の人は。

賑やかに(オーガストさんが)歩けは直ぐに森の入り口に着いた。僕を降ろしてオーガストさんからまたねと言われて僕が返事をする前にパーティメンバー全員が森の中に駆けて行って、あっという間に姿が見えなくなった。



さすがに高位の冒険者達だった。

少し胸が痛い。僕の足さえこんなじゃ無けりゃと苦しい。
暫く痛みに耐えながら僕は上手く動かない両足で立ち上がる。ふらふらとして、立っているのがせいぜいだ。少しでも力を抜くと倒れるのは分かりきっていた。
跳ねるように前に進む、右足、左足交互に意識して走る・・・。でも数歩で僕は前のめりに草の中に倒れて泥を被る。軍神の息吹ドゥラメンテのみんなが走り去る時に見せていた身体に纏わりつく光、あれが強さの一端なのは分かっていた。嵐洞ストームドームのトムジェも元雷光ライトニングのバッチィもそれほど強くは無いけど使っていたんだ。つまり高位冒険者なら誰でも使う当たり前の力なんだと思う。それが何かは分からないけど努力しか無い僕は身体の不自由を言い訳にして諦めて良い訳が無いんだ。

貴族の娘になった妹に会うためには冒険者としては成り上がる。その為には使える力は全て振り絞って戦う。その為に先ずは走る事を覚えるんだ。
力の籠もらない膝下に力を込めて、一歩づつ走る。森の入り口なら危険な魔物も少ないし、他の冒険者も少ない。倒れても下草があって怪我をする恐れもあまり無いんだ。

草原で始めた走る事は直ぐに止めた。初心者の冒険者が沢山いて見られて居たからだ。笑い声などは聞こえなかったけど心の中で馬鹿にされるのは耐えられなかった。
他の冒険者の姿が消えてからも太陽が真上から少し傾くまでずっと走る練習を続ける。もう何度転んだかは分からないけど手応えを感じるまで僕は止めなかった。

疲れ果ててそれこそ立てなくなって、休憩を取った。潰れて売り物にならなかった肉を叩いて乾かし、半分干し肉にした物を口にする。肉の味しかしないけど水袋の水で流し込む。これが僕の食事だ。

夜は街に戻ったら屋台の焼串を食べるつもりだ。肉の旨味を感じる事が出来る贅沢な食事だけど昨日の売上が少し良かったからまだましだろう。孤児院にいる時は食事そのものを奪われて腹を空かして、空腹のまま水だけで誤魔化した事も多かった事から比べたらずっとましだった。

身を売って奴隷のように働かされても食事はこれよりましかも知れないと何度思ったか。でも僕には冒険者で強くなる事以外に道は無いんだ。
腹に食べ物が入ったせいか眠くなったので仮眠のつもりで目を閉じて、はっと起きたらもう大分太陽が傾いていた。

よほど疲れていたのかも知れない。自分で思って居たより長く寝てしまっていた。目を擦っていると風に乗って魔物の臭いと人の気配がした。僕は慌てて木の陰に身を隠した。
少し離れた獣道のほうで人の気配が近付いているのが分かった。人の走る音と叢を掻き分け、魔物が追いかける音のようだった。

草葉の陰から様子を伺うとざさっと音立てて数人の立ち止まる音がした。舌打ちの音も聞こえ、キキッと言う猿系の魔物の鳴き声も聞こえる。
どうやら猿系の魔物に追い掛けられた冒険者が逃げ切れず、戦う事にしたようだった。

もう少しで森の外なのに森を出なかったのは木々を遮蔽物にするつもりなのかも知れない。僕には木々を飛び回れる猿系の魔物に有効なのか分からない。

巻き込まれたら大変だと思い僕はそろりそろりとその場を離れる事にした。






















    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...