光が眩しすぎて!!

きゅうとす

文字の大きさ
3 / 18
足掻く世界

行かなくちゃ

しおりを挟む
場所を移動しようとしていたのは僕だけじゃなかった。森に住む他の魔物も同じだったようだ。

数10mも進まない内に僕は魔物と出くわした。お互いに逃げる事に夢中で気づかなかった。
ドシンと言う衝撃に互いが身体をぶつけ合い、転がった。

何が起きたのかは最初は分からなかった。膝立ちで走り出したせいで丁度高さが合ってしまったらしい魔物はボアだった。
もろに突き飛ばされた僕は転がって木の幹に当たって逆さになって止まった。

少し目を回してしまったけど目の焦点が合うとそれが見えた。茶色の産毛が灰色の剛毛に変わりかかったボアはブヒブヒ言いながら僕に文句を付けてきたみたいだった。グレイボアの若い成体のようであまり人間に慣れていなくて、僕が人間にしては小さかったせいだろう、近寄って来た。

ぐるりと反転して身体を起こすと僕は腰から魔剣クルワナを抜き構えた。
>んん、ん?何が起きた?

直ぐにクルワナが自然と僕の思考を読んで伝えてきた。
>若いグレイボアか。目が悪いから動かぬ方が良い。臭いを嗅いで来るだろうがそのままだ。

魔剣クルワナが言った通り若いグレイボアは僕の近くまで来てブフブフと僕の頭から鼻の先まで臭いを嗅いでブフゥーと息を掛けて来た。とても獣臭かったが僕の持っている魔剣クルワナを気にも止めずに首を振って耳を澄ました。

僕の耳にも先ほどの人達が他の魔物と争っているような叫び声や鳴き声が聞こえて来ていた。再度ブフゥーと息を吐いて耳をプルプルさせて僕から離れて行こうと僕に背を向けた。
>まだだ。今動くと突進して来るぞ。見えなくなったら後ずさって木の根元に隠れろ。

魔剣クルワナは僕が満足に逃げ切れないから身を守る方法を指示してくれる。魔剣クルワナは僕の思考を読んで僕が必死に怖さを我慢していることに気付いていると同時に若いグレイボアの様子も分かっていた。
若いグレイボアがガサガサと叢に消えた後に僕は魔剣クルワナのアドバイスに従って後退り、木の根元に隠れ闇魔法を使う。「陰に隠れた」のだ。

その時、冒険者に手傷を負わされたと思われる猿系の魔物が僕の上を逃げてきた。僕に背を向けて、先ほど若いグレイボアが居た場所で立ち止まり、地面を嗅いだ。
明るい茶色の背中には大きな切り傷があり、青い血がかなり流れていたからか致命傷と思われた。その証拠に猿系の魔物が動こうとしてぐらりと傾いた。

どうやら若いグレイボアの臭いで後を追って襲うつもりだったようだ。


>ブルグ、俺をあれに突き立てろ!

突然の魔剣クルワナの命令に僕は立ち上がる力のままに飛び上がって猿系の魔物の背中に襲いかかっり、魔剣クルワナを首筋に突き立てた。

突然の僕の急襲に猿系の魔物は対応出来ずに転がって僕を引き剥がそうとした。僕は必死に魔剣クルワナを掴んだ右手のまま、左手で猿系の魔物の左肩を掴んだ。
ぬるりとした感触に滑り掛かったけどここで背中から落ちたら逆に襲われると必死に力を込めた。

横向きに倒れた猿系の魔物が暴れたせいで僕の右肩が地面に擦れたけど、離れてなるものかと右手の魔剣クルワナを押し込む力を込めた。猿系の魔物が暴れるせいで首筋の傷が更に広がった。

ギャギャと言う悲鳴が上がったと思ったら暴れる力が抜けて行き、大人しくなった。魔剣クルワナと僕の右手と猿系の魔物を掴んでいた左手も青い血で塗れていた。
ぬるぬるとして気持ち悪い。

そう思ったらもう我慢できずに僕は猿系の魔物から転げ離れて叢の陰に吐いた。ゲェーゲェと胃液を吐くけど中身が少しも無い。お腹も痛いし気持ちも悪くて暫く動けないでいた。
魔剣クルワナが命令されたので思わず言う事を聞いて反射的に動いたけど夢中だった。

少し落ち着いてから僕が振り向くと夕方の赤い空の下猿系の魔物が死んでいるのが見えた。あれを本当に僕が殺ったのかとぼんやり思う。
手に持つ魔剣クルワナを見ると声が聞こえて来た。
>実感が無いのは分かるが早く解体しないと手間取る事になるぞ。

僕は魔剣クルワナに言われて膝で立ち上がる。そしてゆっくりと倒れている猿系の魔物を見た。
>ピードエイプだな。あまり群れない猿系の魔物で足腰の強いのが特徴だ。明るい茶色の背中は若い雌の証拠だな。冒険者に手傷を負わされて逃げる途中だったのだろう。

魔剣クルワナの解説を聞きながら僕は魔物を解体し始めた。首筋に突き立てた傷跡から魔剣クルワナを差し込んで背骨に沿って毛皮を剥いでいく。
青い血がドバドバ流れるが気にしていられない。猿尾まで切り裂いて剥くように広げて行くと切れた血管と共に背中の肉が見えてくる。
それに構わず尾骨の隙間に魔剣クルワナを押し込んで尻尾を毛皮ごと外し、そのまま股間を割っていく。
毛皮を臀部で剥き、太腿まで切り広げる。更には足首まで切って足首周りから毛皮を切り離す。
足首の関節を捻って健を切り、充分に切り離したらひと先ず魔剣クルワナを置き、両手で思いっきり足の甲を踏んづけて毛皮を引き剥がした。
背中から足まで剥がせは後は腕だ。毛皮を捲りながら肩を出し、腕周りを丁寧に削ぎながら手首まで剥がし、手首の健を切り、捻って手首ごと毛皮を腕からもいでしまう。これで手首足首のない裸の魔物の出来上がりだ。

頭があれば毛皮でも言う事無しだけど頭は中身を抜けないので、諦める。首周りの毛皮を切り離してピードエイプの毛皮の出来上がりだ。

頭付きの裸のピードエイプの背中の肉と腿肉を削いでそのへんの大きな葉っぱに包む。ピードエイプの毛皮も手首足首を丁寧に折り畳んで最後は荒紐で縛った。それからリュックにしまう。
完了した頃にはもう日もたっぷりと暮れていた。

解体に夢中になって忘れていたが獣道の向こうの争いの音も聞こえない。とうに戦いも終わっていたのだろう。僕は念の為、暗がりの中を確かめに森の中を進んだ。

程なくして木々の切れた獣道に出た。かなりの戦いだったみたいであちこちに魔物の青い血が飛んていた。僕の顔にも解体とかで飛んだ血がこびり着いてカピカピになっていた。擦ると剥がれて落ちた。
乱れた足跡は沢山合ったけど人が倒れていることは無かった。魔物の姿も無かった。多分冒険者にピードエイプの群れが追い払われたのだろう。僕が倒した雌のピードエイプも逃げ出した一匹だったと思われた。

何か拾い物は無いかと叢の陰とかを探すと冒険者が使ったと思われたヒールポーションの空き瓶が何本か見つかった。めっけ物と僕はリュックにしまう。
少し念入りに探したけどそれ以上の落とし物は無かった。僕は諦めて獣道を街に向かって歩き始めた。それほど歩かない内に森が切れ、草原に出た。



良く見ると森の中では気づかなかった赤い血が点々と落ちていた。星明かりのせいで僕には見えた。

街に向かいながら赤い血を辿ると少し小高い岩山があった。高さにして3mも無いが叢よりも高くて目立った。
近づくにつれて血の匂いが強くなった。目の前には何も無かったけど回り込むと人が岩山にもたれ掛かっているのが見えた。

頭と肩から足から血を流してぐったりとしていた女性の冒険者だった。生きているのかさえ分からず僕はそっと近付きまじまじと見た。僅かに胸が上下しているから生きてはいるようだ。

赤くて細い髪の毛が胸のあたりまで降りている。赤い髪の毛と思ったのは血だった。元の髪の毛は金髪だった。
頭の傷跡からまだ血が流れていてそれが髪の毛に見えたようだ。多分他の仲間に足手まといになるので放置されたのだろう。岩山から街の方向にも血の跡が続いているようだった。

自分も怪我をしているから負担になる者を置いて行った。それとも助けを呼ぶ為に自分だけ進む事にしたのか分からない。冒険者ギルドの酒場でも瀕死の仲間を助けられずに逃げ帰った話も聞いていたが実際の現場を見ると心が痛む。
だからといって僕にはどうしようも無いのだ。

治癒の魔法も使えないし、治療用のポーションも持っていないのだ。目を伏せて力なく倒れている女性はこのまま死んでしまい、草原を縄張りとする他の魔物に襲われ喰われるのだろう。可愛い顔をしているのに勿体ないなんて思いながら岩山を後に街に向かった。

暫くさっきの女の子の様子が頭から離れなかった。自分の身体だって不自由なのに他の人の事なんてどうしようも無いと考える。未練タラタラで歩いていてふと、気付いてしまった。森の中で拾った空のポーションの瓶、そう言えば少しづつだけど残っていたな。多分、乱暴に戦いながら使ったから残りを気にしないで捨てたんだろうと思う。全部を合わせても1本分にもならないけどこれはあの女の子達のものだったんだよな。

なー・・・やっぱり何もしないのは寝覚めが悪い。僕は振り返って来た道を戻った。そんなに遠くまで来ていなかったから僕の足でも直ぐだった。横たわっている女の子の前で気休め気休めと呟きながらリュックから空瓶のポーションを取り出して並べた。

一番残っている瓶に集める。すると意外とあったのか半分ほどになった。どれももう、逆さにしても一滴も出ない。
ふと思いついて魔剣クルワナを握って心の中で質問してみた。
>水で薄めても効果はある程度あるぞ。傷口を防ぐなら飲むより直接振りかけた方が良いんだ。

僕は魔剣クルワナのアドバイス通りに血の止まっていない頭に集めたポーションを丁寧に掛けて、水袋の水で少し増やしてから再度ポーションの中身を集めて肩口から身体に掛けた。
頭に掛けたポーションは効いたのか頭からの流血が止まり、苦しそうだった呼吸が静まった。身体にポーションを掛けたので肌が冷たく感じたのか女の子は薄目を開けて何か言った。

声が小さくて良く聞こえない。耳を口に近づけると礼を言っているようだった。まぁ気休めだから礼には及ばないよ。
>気は済んだのか?

魔剣クルワナが聞いてきた。助かるかどうかは分からないけどこのまま放置していれば魔物が寄ってくるのは間違い無い。僕は溜息を付いて岩山に登って座る。ここで夜明けまで仲間の冒険者がやって来るのを待とう。助けになったのかどうかは分からないけど自分のやったことの結末は気になった。

寝ずの番をする事になるけどピードエイプの解体しかやってないからそんなに疲れてはいない。何とかなるかなと気軽に考えていた。考える事は岩山に凭れ掛かっている女の子の事だ。
年は僕より上なのは確かだけどまだ女の子と言う感じだ。身につけている装備もそんなに高くは見えない。魔法使いだろうとは思うけど定番の帽子も被っていないし、杖も持っていなそうだ。金髪なのは確かだけど目の色は分からない。ぐったりと目を伏せているからだ。

怪我は頭と肩のようだったけど首とか胸をやられてはいないみたいだったから朝まで持ては助かるかも知れない。僕より経験はあるだろうから冒険者ならE級くらいなんだろうかと思う。冒険者証を持っているだろうけど確かめる気は無かった。今にも死にそうな女の子の胸を開いて確かめるなんて恥ずかしいよ。死んた人間でもしたくないな。

僕が岩山の上にいるせいで近くまでやって来る魔物も様子を見てから暫くすると離れていく。やっぱり血の匂いが魔物を集めているようだった。魔剣クルワナを握り攻めて雑談をしながら警戒しているせいなんだろうか。魔物が近寄って来る事は無かった。来られても困るんだけどね。やって来るのはスライムやゴブリンだったけどみんな単独だった。魔物の習性は分からないけど群れていなくて助かったよ。
魔剣クルワナは自分のお陰なんだとか言ってたけど眉唾だ。真夜中でも星明かりで僕には魔物の姿がずっと見えていたからそれを警戒して近づかなかったと思うのが自然だよね。僕の身体が不自由なんて魔物は知らないからね。

闇魔法を持つ僕にとって闇が満ちる夜は快い世界だった。むしろ昼間に寝て夜に活動する方が自然な気がする。冒険者ギルドは夜中でも受付けてくれるからね。それに僕を虐めてくる他の冒険者とも会わずに済む。
そう考えると夜中に活動するのは良い考えに思えて来た。

魔剣クルワナは心の中で僕に逆にデメリットを教えて来た。身体的能力に乏しい僕は何時までも一人で居ることになる。魔物を解体するのは良いけど倒して能力を上げるのが難しくなる。仲間がいることで自分にできないことを補足してくれるし、ピンチを救ってくれるかも知れない。

僕がソロで冒険者を続ける危うさを教えてくれた。冒険者にソロが少ないのはデメリットよりもメリットが大きいからだ。魔剣クルワナは思わせぶりに僕に言う。
ソロ冒険者としてまっとう出来る者は才に溢れた者だけだと。まるでそんな冒険者と過ごした事がある様な思わせ振りな口調だった。こうやって魔剣クルワナと長く話すのは初めてかも知れないと僕は思う。的確なアドバイスをくれる魔剣クルワナは素晴らしい相棒だけど自分の事は話したことが無い。今は僕が磨きすぎて短いレイピアの様な姿だけど本当の姿はもっと長かったのた。いつか僕が魔剣クルワナを元の姿に戻してやりたいと思っている。魔剣クルワナの意識は柄の部分に仕込まれた魔石と魔法陣にあって、刃先の方は身体と同じなのだと少し自嘲気味に言った事があるのだ。

魔物を見張り、魔剣クルワナとおしゃべりをしたり、考え込んでいると白々と東の方から朝日が登って来た。雲も少なく今日もいい天気なようだ。僕が岩山から降りて冒険者の女の子の様子を見てみると静かに息をしているようで何とか生き延びた事が分かった。僕のした事が無駄にはならなかった事にホッとする。冒険者の女の子の前にストンと腰を降ろして魔剣クルワナを鞘に戻す。



安心したせいか少し眠ってしまったようだ。怒鳴り声と衝撃に僕は目を覚ました。座り込んだ所を横から脇腹を蹴られたのだ。またもや、脇腹かよと怒りに満ちて苦しんでいると怒鳴り声の意味が聞こえて来た。
「・・・この、クソ野郎!『イザリ』の癖に何してやがる!とっとと退きやがれ!」

グボッっ息を吐き、よろよろと立ち上がり僕を蹴った男を見た。若い、僕と同じくらいかちょっと上の冒険者だった。
でも知らない顔だった。胸と肩に銅の鎧を着て腰にバスターソードを挿して、片手には小さなシールドをしていた。頭と腕に包帯を巻き、ズボンには破れがあちこちに合った。遠くから声が聞こえた。

声の方を見ると冒険者ギルドの職員がふたり駆けて来ていた。多分この少年は岩山に凭れている少女の仲間なんだろう。それにしても酷いことをしてくる。
「ま、待て!俺はご、護衛してただけだぞ!」

何とか声を出して弁解した。でも、少年は聞いて無かった。
「エレ!エレ!大丈夫か?しっかりしろ!」

少年は少女の前に膝を着いて頬を叩いていた。そんな乱暴をしたら頭からまた血が出るだろうに。僕の心配を他所に少女が気付いた。
「アラン?・・・あたし、助かったの?」

少女は目を覚ましてアランと呼ばれた少年を見つめる。でもまだぼんやりしているようたった。
「良かった!良かった、生きてて良かったっあ!」

感激したのかアランがエレを抱きしめた。抱きしめ方がきつかったのか、エレが呻く。
「ああ、ごめんエレ。大丈夫か?」

少し咳をして苦しんだけど直ぐに収まる。
「アランが手当てしてくれたの?一晩中付き添って?」

エレの言う事の意味が分からなくてアランがぼんやりする。
「いや、俺はエレを此処に置いて街まで帰った。傷だらけの俺では連れ帰れなかったからな。それで応急処置をして貰って戻って来たんだぜ!」

アランが見捨てずに戻って来た事を自慢そうに言う。
「えっ?そうなの。誰かがあたしにポーションを掛けてくれて、ずっと側で見ていてくれてたのよ。てっきりアランだと思ってた。」

そこへ冒険者ギルドの職員ふたりがやっと到着した。
「ハアハア、待ってくださいよ。駆け出すから追い付くのがやっとじゃ無いですか!・・・それでぇ?この方ですか?要救助者は?」

背の高い方の冒険者ギルドの職員がアランに言った。僕は少し離れた所でその様子を見ていたら誰かを探していたエレが僕に気付いた。目をパチクリした。多分僕の姿に驚いたんだろう。アランは僕の事を知ってたみたいだけどエレは知らなかったみたいだ。

エレが立ち上がって冒険者ギルドの職員に説明をしているアランの横を抜けて僕に近付いてきた。
「あなたが助けてくれたの?」

僕は照れてしまって少し俯いて頷いた。怪我をして倒れていた時から美人だとは分かっていたけどこうして改めて見ると本当に美人だった。まともに目を合わせるのは凄く恥ずかしく感じたのだ。
「ありがとう。お陰で助かったわ。改めてお礼がしたいわ。あなたのお名前は?」

「・・・ブルグ」

「冒険者なの?」

「一応・・・ランクG4級・・」

「本当に冒険者なのね。あっと、あたしはエレ。ランクD5級の冒険者よ。年は15才なの。ブルグ、あなたは?」

「・・10」

僕の年齢を聞いて更にエレは驚いた。
「確かに10歳になれば冒険者登録は出来るわ。でも余程の事情が・・・ごめんなさい。詮索するような事じゃなかったわね」

そこへアランと冒険者ギルドの職員達が近寄って来た。僕は思わず後ずさる。
「おい、お前!お前がエレを助けたのか?」

どうやらパーティ仲間のアランは信じて無いようだ。僕がみんなを見て頷くと冒険者ギルドの職員が更に近づいて来て矢継ぎ早に質問を始めた。

詰問じみて怖かったけど話をちゃんと聞いてくれてる。僕の話を一通り聞き終わると今度はエレにも聞いた。冒険者ギルドの職員の興味がエレに移るとアランがおずおずと近づいてきた。さっき蹴られたから僕は怖くて後ずさる。5mくらい離れていても油断はできないことを僕は知ってる。冒険者の身体能力は侮れないのだ。

僕が近づけさせない事に気付いたアランは離れたところから謝って来た。
「ええっと、その、さっきは済まなかった。・・・エレに何かしてるのかと早とちりした。蹴って悪かった。」

僕は驚いた。大抵の冒険者は自分が悪くても謝らない事が多い。自分の分が悪いと相手に図に乗らせる事になるからだ。そう考えたら僕も素直に受け入れられなかった。
「あ、謝られても困ります。蹴られて苦しかったんだから・・・」

アランが目を剥いて睨んで来た。
「・・・『イザリ』の癖に・・・」

素直に謝る所は偉いけどやっぱり僕の事を蔑視してる。小さく呟いても聞こえてるよ。
「・・・どうすれば許してもらえるぅ?」

とても嫌なのに取り敢えず言ったみたいだ。僕は本当に駆け出しの冒険者でアランは冒険者でもランクDと言うことはそれなりに戦えると言う事なんだろう。そう言えばたったふたりでピードエイプと殺り合ったと言う事はそれなりの動きが出来るんだろうな。少し動き方を教えて貰えたら僕も立って走れるかも知れない。
「・・・僕に、戦い方を、教えて欲しい」

「戦い方?」

僕の要望の意味が良く分からなかったみたいだ。
「ベテランの冒険者は素早く動いているだろう?あの戦い方を教えて欲しい」

「どう言う事だ?」

アランには分かって居なかったみたいだけどそこでエレが口を挟んてきた。どうやら冒険者ギルドの職員の聴き取りが終わったらしい。
「多分、ブルグの言う事は強化魔法バフの事じゃ無いかしら」

「ああ、あのエレが掛けてくれる身体を軽くする魔法の事か」

エレが言う事でアランにも僕の望みが伝わったみたいだ。
「あたし達くらいだと魔法でしか強化出来ないけどベテランになると自己強化の魔法が使えるらしいわよ。確か『身体強化』と言うのよね。魔力視の力があるとぼんやりと身体を魔力が包んでいるのが分かるらしいわ」



エレの言葉は衝撃だった。なぜなら軍神の息吹ドゥラメンテのメンバーの身体が淡い光に包まれてあっという間に走り去ったのを見ていたからだ。あれが『身体強化』なのか?
「エレさん!その『身体強化』のやり方教えてくれ!」

急に僕がエレに食いつく様に聞いたものだからアレンに肩を掴まれた。
「おいおい、待てよ『イザリ』!何でそんな事を聞きたがる?」

アレンに止められて僕は慌て過ぎた事に気付いた。エレは自分達は魔法強化を使っていると言ってたんだ。だから『身体強化』はまだ使えないんだろう。
「あ、いや。知らないなら良い。」

僕の返事にアレンは満足しなかった。逆に何故か質問されてしまう。
「だから、何で『身体強化』したいんだよ。教えろよ」

「そうね、あたしも知りたいわ。と言うよりもあたし達も使えるようになりたいのよ」

僕は答えることを迷った。だってそれは僕が膝立てしか出来ない理由でもあるからだ。アランに『イザリ』と呼ばれる理由でもある。
「・・・僕のこの姿を見れば分かるだろ!満足に立てないんだ!」

僕は膝立ちから苦労しながら両足で立ってみせるが直ぐにぐらついて倒れてしまった。こんな姿を他人に見られたく無かったけど今を逃せば『身体強化』の事を知ることは出来ないだろう。僕の要望がいかに強いのか分かったみたいでふたりとも驚いていた。

膝立ちで見上げる様にふたりを見る。アランは見てはいけない者を見たような顔をし、エレは右手で悲鳴を抑えるように考えていた。そこへ状況を考えて無かった様に冒険者ギルドの職員がアランに言った。
「お仲間に救援の必要が無さそうなので我々は引き上げます。ここまで来たことでギルドの義務は果たしてますので後はお互いに協議してください。では」

言いたいことだけを言ってふたりの職員は帰って行った。エレも自分で立って歩けそうなので、職員の後を追って帰る事になった。エレの魔力もひと晩休んで回復しているようだ。
ふたりに対して僕が遅い事を考えてエレが提案して来た。
「ねぇ、ブルグ。いちどあたしの強化魔法を受けてみる?」

ふたりが『身体強化』を使えないのは残念だけどエレの強化魔法にも興味がある。試してみる価値はある筈だ。
「うん、頼みたい」

エレが魔力を練りながら詠唱を始める。
「天高く広がる空よ、大きく広がる雲よ、自由なる風よ、我が願う声に魔力を以て応えよ、強化!」

エレの魔力が僕に向かって飛んできた。それは柔らかな暖かい風のようで僕を包んだ。すると体中に力が漲った。頭の先から足の指先まで自分の意思で思う様に動かせると言う熱量が包んだのだ。勿論普段自分の思う様に動いてくれない膝から下の足もだった。立とうと思い少し膝に力を入れただけでしっかりと二本の足で立てた。

それは不思議な感動だった。いつもは力をいれるとふらふらとあらぬ方向へ僕の思いとは違う方向に向いてしまう足がしっかりと僕の身体を支えてくれていた。
「ははは、やりゃあ立てるじゃねえか」

ぞんざいな口ぶりでアランが褒めてくれた。自然と僕も笑みを浮かべる。
「立ってる!立ててる!」

僕の喜びにエレも喜んでくれた。
「凄いわ、ブルグ!初めて魔法強化を受けたのにしっかり強化出来てる!」

エレの説明では魔力には相性みたいなものがあって、向かない人は魔法強化を受けても半分も効果が無いことがあるらしい。
僕は嬉しくて歩き出した。右足の一歩を前に、左足の一歩を前に、次第に速くして走る事まで出来た。数10m離れた所まで走り、戻って来る。
「あはははははははははははははははははははははははは」

笑い声が止まらない。こんな嬉しいことは無い。もう僕は誰にも馬鹿にされない。誰にも『イザリ』なんて呼ばせない。虐めてくる奴なんか返り討ちだ。この足さえあれば無敵だ。体が軽い。自在に思う様に動いてくれる。凄い!エレの魔法強化は凄い!

いきなり僕は走っている途中で転んだ。手を付いて顔を守る時間も無かった。いきなり膝から下に力が入らなくなって、あらぬ方向に曲がったせいだ。何が起きたのか理解ができなかった。
「「あ!」」

僕を見ていたふたりが叫んだ。そしてエレが駆け込んで来て、助けながら言った。
「魔法強化が切れたのね」

僕にはその言葉の意味が分からなかった。
「え?どう言う意味なんだ?」

「エレの魔法強化には制限時間があるんだよ」

アランが倒れている僕を見下ろしながら言った。
「制限時間?」

「そ!だいたい5分くらいね」

エレが言った。そんなぁ。僕は効果はずっと続くんだとばかり思った。
「それじゃあ使えないじゃないか!」

僕の抗議にアランが言った。
「ベテランの『身体強化』だって魔力が切れたら使えなくなるんだぞ!当たり前じゃないか。」

「あたしの魔法強化もあたしが強くなればもっと長く続く様になるわ!」

なんて事だ。これじゃあ元の『イザリ』だ。打ちひしがれている僕にエレが言った。
「たからブルグもあたし達も『身体強化』を覚えなくちゃいけないのよ。ブルグは魔法の適正は高そうだから早く覚えられるんじゃないかな」

エレの慰みだけが唯一の希望だった。
「さあ、立って、ブルグ。もう一度掛けてあげるから皆で走って帰りましょう?」

額から血が滲んでいるのも構わず僕はエレに頷いた。アランが僕に手を差し伸ばしてくれた。良いところもあるじゃないか、アラン。

僕はエレの魔法強化を受けて3人で街を目指して今度は慎重に走り出した。

















    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...