光が眩しすぎて!!

きゅうとす

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変わる世界

光が眩し過ぎても

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深くどろりとした水の中で僕は漂っていた。目を瞑り、聞き耳を立てているかのように水の中で音を拾っていた。

聞こえるのは自分の心臓のトクントクンという音ばかりだったけど、何かの音は遠く厚い膜の向こうから聞こえて来ているようではっきりとは聞こえない。誰かの会話のようであり、僕への語りかけのようにも思えた。

はっきりと聞こえない苛立ちを覚えた頃に次第に水の中を浮上し始めた。

そして、目が覚めた。
知らない天井だ。少なくても僕が泊まっていた安宿では無かった。清潔そうなベッドの上で僕は横を見た。そこには居眠りをしているノベムがいた。

なぜ彼女が此処に?どうして僕は此処に寝ているのか?動かせる頭を巡らせて見たのは包帯だらけの自分の身体だった。動かない右手、少しでも動かそうとすると身体中に走る痛み、そして膝から下の無感覚。
僅かに動かせる左手で掛けてある毛布を捲ると膝から下が無かった。

「うわぁ~!」

思わず叫び声が漏れた。僕の叫び声に気付いたノベムが目を覚まして言った。

「ブルグ、目を覚ました。」

いつものように冷静なノベムの声に僕は少し落ち着いたけど身体の震えは収まらなかった。

「いったい僕は・・・」

ノベムは僕の左手を握り、言った。

「ブルグは豚鬼王オークキングにやられて死にかけた。」

豚鬼オークキングだって?確かに背の高い豚鬼オークだったけど。

「ど、う、言う、事です、か?」

話をしている内に僕は落ち着いてきた。それでも震えは止まる事は無い。言葉は何とか息苦しいが出せた。
それからノベムが話してくれた事は信じられない話だった。

軍神の息吹(ドゥラメンテ)はA級に上がる為にダンジョン、ウシトラ(東北)の崩落の闇から豚鬼オークが大量発生の討伐依頼を受けて森の中で退治をしていたけど最後に現れた豚鬼王オークキングに苦戦していた。

それなりにダメージを積み重ね追い詰めた所で、逃げ出され見失ってしまったと言うのだ。

豚鬼王オークキングを護る為か満身創痍の豚鬼将軍オークジェネラルが身を挺して邪魔をして来たと言う。双剣オーガストの特攻攻撃ダブルスマッシュが決まって豚鬼将軍オークジェネラルを撃破した時には姿を見失ってしまったらしい。
ノベムも双剣オーガストの補助をしていた為に何処へ逃げたのか分からなかった。

そこで斥候暗器のジャンヌが改めて探し逃げた方向がセブンスティアの街方向と分かり、パーティ全員で斥候暗器のジャンヌの先導で疾走った。

そして豚鬼王オークキングに全身を喰われる寸前の僕を斥候暗器のジャンヌが斬りつける事で防いだらしい。自分を護ってくれる豚鬼オークの配下も無く、脚に傷を負い、片目を潰された豚鬼王オークキングはパーティ全員の攻撃を喰らって倒されたと言うのだ。

「片目が、潰されていた?」

僕の足を喰らった豚鬼王オークキングは片目じゃなかった筈だ。その事を伝えるとノベムは言った。

「たぶん無意識にブルグは持っていた剣を振るった」

豚鬼王オークキングの左目には確かに剣が突き刺さり、行動不能に追い込んで居たらしい。

「ブルグが豚鬼王オークキングを足止めしてくれなかったらウィードラドの街を襲っていた。」

「いや、偶然だ、よ」

豚鬼王オークキングの近くには雌の魔猪ボアも転がっていた。ブルグの獲物?」

罠に掛けて仕留めた魔猪ボアの事だろう。たぶん影に収納していたけど気絶したせいで魔法が解けたんだ。

「ああ、魔猪ボアを仕留め、た帰りに豚鬼王オークキングに出食わし、たんだ」

ノベムは僕の言葉に少し考えて言った。

「たぶん豚鬼王オークキングはその獲物の血を嗅ぎ付けてブルグを襲った」

ノベムの推測通りなのだろうと思う。でも、なぜ僕を助けたのだろう。

「ブルグが襲われたのはあたし達のせい」

「でも、冒険者は自己、責任じゃないか」

僕の言葉にノベムは首を横に振る。

「ブルグに大怪我を負わせたのは自分のせいとオーガストは言った。パーティリーダーがそれを認めたらパーティ全員の責任。それにブルグはあたしの大切なじっけ、知り合い」

あ、ノベムったら僕の事を実験材料と言いそうになったな。
まぁ良いんだけど。今までも何度も言い直してたし。経緯は分かったけど今の僕の状況も気になるからノベムに聞いた。

「この治療院に運び込んだ時はブルグは虫の息。治療師が匙を投げるのをオーガストが無理やり治療させた。」

「そこまでして・・・」

「命が繋げたのはブルグの力。膝から下の呪いに冒されていた両足、右肩、左目、肋骨の殆どを壊されていた。左目の視力、膝から下の両足は再生出来なかった。右肩、肋骨は3ヶ月ほどで回復可能」

どうりで焦点が合わない訳だ。いつの間に目をやられてしまったのだろう。それに喰われた両足、ボキボキと噛り取られたあの痛みと感触を思い出すと呻きが漏れそうだ。僕の気持ちを知らずにノベムは話を続けた。

「せっかく健全な両足を手に入れられる所まで来ていたのに非常に残念。でも失ったお陰で呪いは消えた。」

ちっとも嬉しくなかった。両手は使えるが右肩が癒えても右手で剣を振るうのは無理だろう。それに左目を失っては距離感が掴めない。利き腕を変えて左手で剣を振るっても冒険者は難しそうだ。

「くそっ!前より酷い。これじゃあ死んだほうがまし、だ!!」

僕は何とか動く左手でヘッドを叩く。

「確かに欠損を再生する方法は無い。たが、魔導具で代替する事は出来る」

ノベムの言葉に宙を睨んでいた僕はノベムの方を向いた。
それが可能なら・・・でも、ノベムの魔導具は優秀だ。その分高い。魔力粘土の補強だって月に金貨1枚は掛かってる。ノベムによればそれでも割安なのだ。

それを魔導具で代替したらどれだけ掛かるだろう。肩だってどんなものになるかは分からないし、左目を魔導具で何とかできるのか疑問だ。
ノベムは僕の考えを読んたのか言った。

「魔導具の費用はオーガストが何とかする。足は簡単だ。肩は・・・少し考える。問題はその左目だ。」

やっぱり、魔導具の天才であるノベムと言えど義眼などは無理じゃないか。

「詳しく調べる必要はあるが、まぁ何とかなる」

ノベムの言い方はとても心配だった。ノベムのまぁ何とかなるは凝った魔導具を造る時の口癖なのだ。

「ブルグにも努力が必要。魔導具には魔力が必要だから身体を直しながら魔力訓練をして貰う」

ノベムは僕に何をさせる積りなのか、戦々恐々としてしまう。だって両足に魔力粘土を付けて補強されていた時も上手く動く為の訓練をノベムから受けた事があるからだ。
魔法についても色々と教えて貰った。特に闇魔法なんてマイナーだから殆ど知られて無かったのを研究馬鹿のノベムの資料から調べて貰ってる。

それにノベムは付与魔法の大家だし元魔道具師だ。そう言えば半年以上の付き合いなのに歳も聞いて無いな。

「ノベムって幾つなの?」

唐突な僕の質問に始めはきょとんとしたノベムだけど直ぐに唇を突き出して言った。

「女性に歳を聞くのは失礼!ブルグなんかより倍は生きてる」

ははあ、僕がもうすぐ11歳になるからノベムは20歳を越えてると。

「そんな事を聞くブルグには訓練はよりハードにする」

凄くノベムを怒らせたらしい。プンスカしながらもノベムは僕に魔力保持の練習を休み無くするように指示して来た。

魔力保持の練習は特定の場所に魔力を留めて置く練習だ、身体強化の魔法とはまた違うらしい。
内臓に魔力保持をすれば内臓の回復が早まると言う説明だ。

普通は魔力は無意識の内に体内を巡っている。それほど多くなくて殆ど何もしていない。でも意識する事に依って魔力を一か所に集めたり、外に放出することが出来る。これが魔法だ。

詠唱をすることで意識的になり魔法が目的に沿って発動しやすくなるのだ。慣れて来ることに依って短詠唱や無詠唱と言う方法で魔法を発動する事も出来るようになる。
更に魔法陣と言う魔法構築の形を記憶する事で人や物に魔法付与が可能になる。ノベムはこの魔法付与が得意だ。精緻な魔法陣を道具に刻んで魔法陣に魔力が流れやすくした物が魔導具だ。魔法陣は複雑にすれば発動は遅くなるが効果が高くなる。

様々な機能を与えるために複数の魔法陣を連結して魔導具を造る場合もある。ダンジョンなどで発見される魔導具などは今は使われてない昔の廃れた魔法陣が刻まれていて再現が容易ではない。
ノベムはそう言った魔法陣を解析して独自の魔法陣を開発したり、便利な道具を造って売っている。主にお金持ちの貴族相手と言っていた。

そう言った知識を持つノベムの指導の元に僕は一人前の冒険者になれた矢先の出来事だった。慢心もあったのかも知れないと反省はしている。興味本位で森に留まった結果がこの有様だ。オーガストさんの言う通り僕の犠牲でウィードラドの街に被害が及ばなかったと言うのは結果論だろう。

僕に感謝しているのはオーガストさん達軍神の息吹ドゥラメンテだけでなく、冒険者ギルド、さらにはウィードラドの街を治めるオーステナイト侯爵もそうだとノベムは言っていた。賞金も出るらしい。
ほんとかなぁ。信じられない話だ。オーガストさんの性格からして感謝してくれるのは分かるけど冒険者ギルドも感謝してるなんて信じられない。

冒険者ギルドのマスターはデッセンバーグと言って元ランクSパーティ『金の大翼(ゴールドウィング)』の斥候冒険者だったらしい。噂では金に煩くとても疑り深く悪口を言いながら部下を呼び捨てにするらしい。
そのくせ貴族には弱くて身に着ける装飾品は高価だが下品だと言う噂らしい。僕には雲の上の人過ぎて会った事も無いけどね。姿は金髪なのに豆の様な碧眼で額が禿げ上がって居る太っちょだってさ。何処まで本当か知らないけどそんな人が僕に感謝なんてするのかな。
とっても疑わしいよ。でもノベムの言う事は聞く事にしたんだ。今までも僕に協力的(研究目的だとしても)だったんだから、どうせ動けない身体だ。


毎日毎日魔力滞留を身体の各所にする練習をして行き、ノベムが確認して僕の様子を見る日々が過ぎて行ったんだ。
一月もするとあちこち痛かった身体もだいぶ癒えてきたけど身体を動かそうとすると骨が軋んだ。
死にそうな目にあった証拠と言える痛みが消えるまでノベムは身体を動かす許可をくれなかった。医者でも無いが身体の作りに精通しているノベムはその間に僕の為の魔導具を造っていたんだ。

僕の左目は見えなくないけどかなり視力は落ちていて左目だけだと数M先の人の姿もぼやけて居る。普通に見てもかなり近づかないと顔が判別つかない。
それに右肩を破壊されたお陰で指先は動くにしても腕が上がらないから右手が使い物にならない。ノベムが言うには肩甲骨と神経を破壊されているせいらしい。
それから膝から下の両足。血が膝までしか流れず止血しても血流が戻らないらしい。身体の詳しい構造を知らない僕にはどう言う事なのか分からないんだけど。とにかく膝から下は足がない。このまま膝立ちで歩くのは却って足を痛めてしまうらしい。僕にはどうにもならないから医者に協力をさせているノベムの言う通りにしているより僕の生きる道は無い。

寝返りを打っても何とか身体の軋みが消えた頃、半年は経ったと思うけどノベムが右肩を治すと言って来た。魔法による治癒を行えば生活するには問題無いけど僕が冒険者に戻るのを希望しているなら骨ごと魔導具にしようと言って来た。
人工骨を魔導具で造るらしい。まだ成長途中な僕の身体に合わせて成長する魔導具の人工骨は芯を魔鋼と骨と同じ成分を魔銀ミスリルで編み込まれているらしい。

僕が身体の各所に魔力を滞留させる様に肩周りに魔力を滞留させる事で魔銀ミスリルが骨を成長させてくれるらしい。同時に骨と骨を繋ぐスジも錬金術で編み上げた特殊繊維らしい。魔力に馴染みやすくで普通の生体のスジとは比べ物にならないくらい丈夫だと太鼓判を押してくれた。

いったいどれだけのお金をつぎ込んでいるのだろう。恐ろしくもあるけどこれも僕が冒険者として復活するためらしい。肩周りの手術を終えても肘から先は前と変わらずに動かせたから上手くいったらしい。10日もしない内に肩周りを動かす許可を得て右手を動かした。魔力を肩周りに滞留させながらだったので少し意識が必要だったけど怪我をする前と遜色無く動かせたのはノベムの技術のお陰だろう。

ノベムを信頼していたが本当に良かったと思う。僕の身体をペタペタ触りまくって確認したノベムも満足そうだった。肩周りが終わったから直ぐに両足に移るのかと思ったら一月は間を開けないといけないとの事でベッドサイドに起き上がる事は許されたけど移動はままならなかった。

専用の看護師が付く訳では無くて車椅子での移動は禁止されていたのだ。その代わり腹筋背筋などをベッド上で鍛える事は許可されていた。季節は巡り僕も年齢をひとつ重ねて身体も大きくなった。魔導具の右手もすっかり違和感無く動かせる様になっていた。

そしていよいよ両足の手術を受けた。ノベムの説明では代替する骨の構成は魔鋼製で神経は魔銀ミスリルと人工神経らしい。スジは錬金術で編み上げた特殊繊維だ。筋肉は僕の細胞を特殊な培養液で育てて魔力に馴染みやすくノベムの魔改造筋肉なので魔導具と言っても良いくらいだ。

骨にしても筋肉にしても僕が成長するのに合わせて強く大きくなるのは助かる。肉体改造の様なノベムの魔導具による両足はとても重かった。使われている金属が特殊なのもあるだろうが普通に装着していても膝の力だけでは動かす事が出来なかった。

うぎぎぎと力を込めて動かす義肢に何の意味があるのかとノベムを問い詰めたい。魔力を膝から下に滞留させて動かす事を意識して初めて移動が可能になる。
魔導具の義肢が僕の魔力を使って筋肉を動かす事でやっと動くのだ。ベッドの上から床に降ろすだけでも一苦労したけど義肢の重さで床が軋むのはとても不安な気持ちになる。

「ノベム、これ重すぎないか」

僕の言葉にノベムはことも無さげに言った。

「片方で5kgしか無いぞ。そのうち重さにも慣れる。それに魔力を込めれば筋力もちゃんと働くようになって膝への負担も減る筈。」

苦労して膝を立てて手で触れてみれば見た目は硬そうに見えてもちゃんとした弾力を返してくるところはなぜか普通に感じられた。意識して魔力を滞留させて動かそうと意識すればぎこち無いが動く素振りも見せる。僕が両足を確かめる様子を見てノベムは満足そうに言った。

「身体のあちこちで同時に魔力滞留をするのは大変、でも加減もタイミングもそのうち慣れる」

肩もあまり意識しなくても魔力滞留出来ているのでノベムの言う事も理解出来た。それこそ肩慣らしに3ヶ月以上の時間が掛かってるのだ。両足が慣れるまでどれくらい掛かるやらだ。

ノベムは魔力滞留だけでなくリハビリを兼ねる様にベッドから降りて歩いたり日常生活を出来る様に訓練を続けさせた。食事や排泄は次第に介護の必要が無くなる様になり、歩行が何とか出来る様になった頃に僕は13歳になった。

そしてやっと2年以上の病院生活から退院の許可が下りたのだった。長かった。本当に長かった。
だからと言って身体が鈍っている訳では無い。動かせる部位は動かし鍛えて来たのだ。

左目だけはまだ霞んでちゃんと見えないがノベムに言わせればもう少しで義眼が完成するのだと言う。確かに義眼でちゃんと見えるようになれば良いけれど今ある目をくり抜いて義眼を嵌めるなんて怖い。視力は弱くて見え難いだけなのだからこのままでも良いのだ。でもノベムはやる気満々で義眼を完成させて僕の治療は完了するなんて言っている。

僕の身体の改造であって治療では無いのではと思ってる。確かにノベムの魔導具のお陰で僕の欠損した肩や両足が治った。人並み以上に冒険者としてやっていけるだけの物になったと言えるだろう。これからしっかり働いて恩を返したいとは思ってる。ノベムは時々メンテナンスをさせて確認させれば良いとは言ってくれてる。

でも、まずは治療費他を負担してくれた軍神の息吹ドゥラメンテの皆に、特にオーガストさんに礼が言いたかった。僕の言う事を聞いてくれてノベムに案内されたのは軍神の息吹ドゥラメンテのホームだった。
ウシトラ(東北)の崩落の闇から豚鬼オークが大量発生の討伐依頼を僕と言う被害に遭いながら達成した軍神の息吹(ドゥラメンテ)はA級に上がり、ホームを一新したらしい。以前は街の外れの規模の小さい元宿屋を使っていたが今は冒険者ギルドに近い新し目の屋敷を買ったのだと言う。

ここ2年のうちにどんだけ稼いでいるんだろ。ここで改めて軍神の息吹ドゥラメンテの人達を考え直した。
軍神の息吹ドゥラメンテは6人構成のランクAパーティとなってる。パーティリーダの前衛で双剣オーガスト(A1)、殴り僧侶回復役のセプト(A4)、前衛レイピア騎士のジュリィ(A3)、斥候暗器のジャンヌ(A4)、後衛の攻撃魔法使いデセム(A2)、後衛のバフ・デバフ魔女ノベム(A5)だ。
それぞれが数段階級も上がった。

やっぱり豚鬼王オークキング討伐がかなりの成果だったみたいだ。むろんそれだけじゃ無いと思うけど。ギルドみたいなホームのフロアにはオーガストさん、セプト、デセムがいた。テーブルを囲んて何かを話し込んでいた。3人は僕たちを振り向いて立ち上がった。

「ブルグじゃないか!」

入院中もしょっちゅう来ていたオーガストさんが僕に向かって笑顔で迎えてくれた。僧侶のセプトは真面目な顔をしたままだけど攻撃魔法使いのデセムはなぜか苦虫を潰していた。何か僕は邪魔だったのだろうか。

「やぁみんな。挨拶したいと言うからブルグを連れてきたよ」

ノベムがみんなの空気も読まずに話し掛ける。

「オーガストさん、皆さん。お陰様でこうして退院出来ましたのでお礼に来ました。」

僕の言葉にオーガストさんは笑顔で言った。

「わざわざ訪ねてくれるなんて嬉しいね。もう身体は大丈夫なのかい」

オーガストさんの言葉にデセムが皮肉を言う。

「見ての通り歩いてるんだから大丈夫だろ?まぁ退院した足で直ぐに礼に来たのは認めてやらんでは無いが」

「ノベムだけじゃなくて皆さんのお陰で何とか人並みに歩ける様になりました。冒険者に戻れるかどうかはこれからですけど」

僕の言葉に少し鼻を鳴らして言ったのは僧侶のセプトだった。

「ノベムの義足と魔導具のお陰で以前より人になってるからと言って増長しちゃいかんよ」

僧侶だけあってセプトは窘めてくるが言葉は悪くても優しい人だと知ってる。攻撃魔法使いだけあってデセムはいつも誰にも攻撃的な言葉を吐く。

「3人で何か相談か」

ノベムが先ほどの様子から話を変えた。

「ああ、次の依頼の話をね。もう少しダンジョンの深層へチャレンジするかどうか、意見を聞いていたんだ」

「と言うよりオーガストが行きたがるのを私達が止めていたのだ」

殴り僧侶のセプトがぶっちゃけた。笑顔だったオーガストさんの顔が歪む。

「オーガストを放って置くとひとりで危機に落ちるからな」

攻撃魔法のデセムが事実らしき事を言う。ノベムからもオーガストさんの無茶な攻撃の話はしょっちゅう聞かされているから本当の事だろう。僕はどう答えたら良いか分からずに微妙な笑顔を浮かべるしか無かった。とにかくオーガストさんの話を逸らす為に口にする。

「他の皆さんは何処に?」

前衛レイピア騎士のジュリィと斥候暗器のジャンヌの女性二人の姿が無かったのだ。

「ああ、ふたりは最近話題のスイーツを食べに出掛けてるよ」

助かったと言う顔でオーガストさんが僕に教えてくれた。それに食い付いたのはノベムだ。

「ああー、あいつら!あたしを誘えと言って置いたのに」

「ジュリィはノベムがいつ戻って来るか分からないからと言ってたな」

事もなさげに殴り僧侶のセプトが言った。こうしてられんとノベムは捨て台詞を残して町中に走って行ってしまった。ちょっと居づらくなった僕は言った。

「冒険者ギルドにも挨拶に行ってきますので失礼します。また皆さんが揃った時に来ますね」

僕も頭を下げてその場を去ることにした。少し離れた所から振り返るとオーガストさんが心配そうに僕を見送ってくれていた。わざわざ外に出て来たのは殴り僧侶セプトと攻撃魔法使いデセムと居づらかったのでは無いと思いたい。

街なかは2年前の以前より賑わって居るように見えた。人が増えて屋台のような店が増えた気がする。道を普通の人のように歩ける喜びに浸る。行き交う馬車や荷車も何だか違う様な気がするのは視界の高さが違うからだろうか。
壁にもたれ掛かる浮浪者や無気力な人が少なく感じるのは僕が変わったからかも知れない。昼の光は相変わらず眩しすぎるけど耐えられないと言う気持ちにはならなかった。普通に歩き声を上げて楽しそうに笑う人達を僻んで俯き歩くしか無かった日々がとても遠かった。

覚えていた冒険者ギルドまでの道程もやけに近かった。入りづらかった正面のドアも気兼ね無く開けられたのは自分でも驚いた。
冒険者ギルドは昼近くの午前中だと言うのに賑わっていた。僕と入れ違いに数人構成のパーティが話しながら出て行く。汚れの無い綺麗な防具をしている所からして新人のパーティなのかも知れなかった。

僕が入っても一時視線が集まるけど直ぐに興味無さそうに逸れる。足が悪かった時は無遠慮な軽蔑の視線が離れなかったと言うのに。その中で一組のパーティの視線がそのまま僕を追って来た。二人組の冒険者ロージィ&ベッツだった。
僕が視線を返すと普通に歩く僕に驚いたと言うより幽霊でも見たかのようだった。ふたりは確かC級だった筈だけどロージィは右片目が眼帯でベッツの左頬には大きな傷跡があった。僕が居ない間に何があったのだろうか。

ロージィとベッツがふらりと僕に近付いて来た。僕はそれを避けるべく壁際の待合の列に並んだ。ふたりは僕が避けているのに後ろに付いてきた。そしてロージィが僕に声を掛けて来た。

「よぉ・・・お前、ブルグだろ?」

じろりと睨めつけて言い放った。足が悪かった時は随分と高い所から視線を落していて威圧感が半端無かったけど今はそんなに背丈に差が無くてちょっとだけ見下ろすだけだった。

「ちょっと見ねえ内に背が高くなりやがって、分かんねえだろがァ!」

ベッツもロージィの横から口を挟んで来た。僕の前に並んだ女性の魔法使いがちらりと後ろを見たけど直ぐに前を向いてこちらを無視した。関わりになりたく無かったみたいで隣の男性の剣士に小声で何か言っていた。
僕たちから離れたかったみたいで少し前に進む。

「や、やぁ、久しぶり。あはは」

僕もロージィとベッツには関わり合いに成りたくなくて曖昧な愛想笑いを浮かべた。それが気に食わなかったようで同時に睨まれた。

「いったいどう言う了見だ?あぁん?」

「死んだつう噂があったんだぞぉ?」

ええっ~、この場合どう答えたら良いんだろう。心配してくれていたみたいな気もするんだけど。前は因縁付けられて馬鹿にされた筈なんだけどなぁ。すると周りから小声で僕の名前を言う声が上がり始めたんだ。

「なぁあれってあの噂の男か?」

「凄い怪我をしたって聞いたわよ」

「身体の半分を喰われたってホントかよ」

「そんなに凄い奴には見えねぇぜ」

いったい冒険者ギルドにどんな噂がたっているんだろう。2年もギルドに来ていないと分からないんだけどなぁ。

するとギルドの受付からちょっと退いてくれと声が掛かりながら人がやって来た。僕がそちらを振り向くと凶悪な笑顔が見えた。グレイの髪青い目、ボサボサの髪は変わらない冒険者ギルドのサブマスターのマルチアスさんだった。いや、少し髪が薄くなったかな。

「ブルグだよな、ようやく退院したか。」

マルチアスさんはロージィとベッツを睨んで威圧的に言った。

「我らが冒険者の英雄様に失礼を働いて無いだろうな」

その言葉にベッツが眉を潜めて反抗するような言った。

「んな訳ねぇだろ、マルチアスさんよぉ。俺たちゃ前とは違うんだ」

それに賛同してロージィが僕をちらりと見ながらマルチアスさんに言った。

豚鬼王オークキングとタメ張れる英雄様を心配しただけだろうが。俺達ゃあ、豚鬼オークですら二人がかりでこの有様だぜ」

ロージィもベッツも豚鬼オークにやられたらしい傷跡を見せて鼻を鳴らした。

「まぁお前達もCランク止まりだがな。・・・Bランクは無理だろうな」

「「言われるまでもねえぜ」」

ロージィとベッツが声を揃えて小さく答えた。

「それよりブルグ。お前はこっちだ。」

マルチアスさんが僕の腕を取ってさっさと歩き出した。何処へ行くのだろうかと思ったら2階のギルドマスターの部屋に連れ込まれたのだ。

ええっ、僕退院したばかりなのに何か怒られるの?




















    
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