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変わる世界
滾る勇気で
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ドアを叩いて僕を連れてマルチアスさんがギルドマスターの部屋に入る。大きな材質の良さそうな机の向こう側には金髪で豆の様な碧眼をした額が禿げ上がって居る太っちょが座っていた。
「ギルドマスター、ブルクを連れて来ました!」
マルチアスさんが得意そうに僕を紹介した。
書類を見ていたギルドマスターが頭を上げてマルチアスさんと僕を見比べた。そして鼻を鳴らした。
身に付けた装飾品がじゃらりと音を立てた。丸く黒い宝石は高そうな光を放った。服装と装飾品が似合って居なかった。
むしろ下品に見えた。
この人がギルドマスターのデッセンバーグか。ノベムからとても嫌そうに話を聞いていた。
元ランクSパーティ『金の大翼(ゴールドウィング)』の斥候冒険者でギルドマスターまで上り詰めた人だった。
金の大翼と言うパーティはお金になる依頼は受けるが見返りが少ないと全く仕事を受けないと言う事で有名なパーティらしかったが仕事を選別したお陰でSランクまで上り詰めたらしい。
実力のあるパーティリーダーは評判が良かったらしいがデッセンバーグは上手く立ち回りある貴族に気に入られ冒険者ギルドに採用されたらしい。
ノベムは「金に汚くて疑り深い嫌な奴」と言っていたけど見た目がまんまだった。
「ああん、ブルクだと?・・・ああ、英雄に祭り上げた怪我人のことか。そいつがそうなのか、マルチアス」
デッセンバーグは立ち上がりもしないで僕を睨み付けた。その目は僕を値踏みしているようでとてもねっとりとしていた。
「そうですよ、ギルドマスター。ようやく退院出来て義理堅くもギルドに挨拶に来てくれたんです。」
いつもの事なのかマルチアスさんはそんなギルドマスターのデッセンバーグの様子も気にもせずに言ったのだ。
「それにしても普通の冒険者の小僧にしか見えんが」
「ああ、わたしは治療院に何度か行って見てますがノベムの魔導具のお陰で普通の冒険者にしか見えませんよ、なぁブルク」
「ええ、ノベムさんの魔導具で義肢と肩を治して貰いました。」
「ふん、それにしても偉く高くついてるわ。お前の報奨金の金貨100枚でも足りんかったぞ」
報奨金?金貨100枚?何のことだ?
僕が理解していないのをデッセンバーグは鼻で笑って言った。
「なんだ、知らんのか。お前が豚鬼王を阻止した事にオーステナイト卿はいたく感激されてな、どうせ死ぬお前の為に報奨金金貨100枚と表彰状を出されたのだ。最も報奨金はお前の治療費に全て消えたがな。」
詰まらない事を言ったと言う風に肩を進めてテーブルの中から一枚の紙を取り出し僕に投げて寄越した。それは大きな羊皮紙だった。
枠を複雑な文様で飾られ僕の功績を称え、報奨金を与え、冒険者ランクをあげる旨が描かれていた。
「残っているのはその表彰状だけだ。生き残ってしまったからお前のランクをCランクまで上げてやる。最も魔物が狩れるのか知らんがな」
それだけ言うとデッセンバーグは再び椅子に座って書類作業に戻って行った。これ以上話すことも無いと言うのだろう。
酷い態度だけど僕にも用は無かった。その代わりご機嫌なマルチアスさんと階下に降りて行った。
階段に僕たちが姿を現すと様子を伺っていた冒険者達が歓声を上げた。
僕は手にしていた表彰状を見てどうしたものか考えているとマルチアスさんがギルドの壁に飾ると言い出した。マルチアスさん的には目をかけていた僕が結果を出したのがうれしかったらしい。恥ずかしいがそれでマルチアスさんに報いれるなら良いかなと諦めた。
ギルド内では周りの冒険者達に肩を叩かれて、拍手されて、褒められた。見知らぬ冒険者も僕を褒めてくれるのはとても嬉しかった。今までは貶される事しか無かったからだ。
僕は冒険者ギルドに他の用事は無かったからもう一度ノベムに報告しに戻ることにした。
冒険者仲間に称えられるという興奮も冷めない内にノベムの研究室の前を通るとノベムが待っていた。
「通るのを待ってた」
ノベムはどうやら前衛レイピア騎士のジュリィと斥候暗器のジャンヌが行ったと言うケーキ屋には行かなかったらしい。
僕はノベムの研究室に引き入れられて当分は此処から仕事を請け負う用に命令される。退院したとは言え、経過を診るにはノベムの研究室の方が都合が良いらしい。
僕としては宿代が浮くから助かる。
ノベムはどうするのかと聞けばパーティのホームに殆ど使っていない自室があるらしい。詳しくは教えてくれなかったが依頼を遂行中くらいしかパーティメンバーと交流していないらしい。依頼完了の打ち上げとかは一応参加するが直ぐに研究室に逃げてくるみたいだ。
パーティメンバーと疎遠な訳では無いが積極的な交流はしていないから僕にノベムが構うのが他のメンバーには奇異に見えるらしい。
女性同士はそれなりに仲が良いらしいがジュリィとジャンヌほどじゃないと言う。
「男どもは2人が仲良く見えるらしい」
ノベムに言わせれば腹の探り合いになることが多くて打ち解けると言うほどのものでは無いみたいだ。女同士は怖いな。
こんな事を口にするノベムはそれなりに僕に気持ちを許して居るのかな?なんて、得意になっても良いのかな。僕が居ても研究室では簡単に服を脱いで下着になって部屋着に着替えたりするのはちょっと違うと思うけど。姉弟?
兎に角、僕は次の日からノベムの研究室から冒険者ギルドに向かって仕事をし始めた。
最初は一般依頼のスライムや一角兎や薬草採取から始めた。東の草原に行けば薬草は見つかるし、スライムやら一角兎がちらほらと居るので一緒に狩るのだ。
ノベムが造ってくれた足は問題なく僕の身体を支え、普通に走る事さえ出来た。
随分と振って居なかった魔剣クルワナとの意思疎通も問題無かった。クルワナに言わせればむしろ前よりも僕の魔力を良く感じられると言っていた。確かに入院中から魔力を身体のあちこちに滞留させる訓練は欠かせなかった。
そのせいだろうと思う。お陰で意識せずとも両足も右肩も違和感無く扱えている。動きもひょっとするとエレの掛けてくれた魔法強化と同じくらい動けているかも知れなかった。
そう言えばアランとはまだ会えて居ない。2年も経てば冒険者もランクが上がり拠点を移す事もあるから当然と言えば当然だけど、エレには会った。
ソロで冒険者をしてると聞いて驚いた。エレはC1級になっていた。名ばかりのC5級の僕とは違って積み重ねた経験のランクだ。
僕は何時も通りに狩りに行くつもりだったけどエレの話を聞くことにした。僕が豚鬼王に殺され掛かった事件の前にアランとエレはあるパーティに誘われて一緒に護衛依頼を受けた。それは聖都ハラドへ向かう商隊から受けた依頼だった。ふたりは僕と別れた後に身体強化の魔法を学んでから急激にランクが上がり、C級に上がったので護衛依頼する経緯で聖都ハラドに拠点を移したのだった。
聖都ハラドは教皇の住まう聖なる都で住人は全て家を与えられるが管理されている。入るには難しく出るには簡単だが他国の者が入る時は教会にて身体の何処かに聖刻を刻まれる事になる。
聖刻とは創造神ウェンバの印(クレスト)の事だ。
人口は約20万人らしい。規模はウィードラドの約4倍程で複数の区域に別れていて、中心に聖塔が不夜城の如く光り輝き、旧聖都(オルトス)、聖都(ナラニ)、新聖都(ネオン)と拡がっている。
旧聖都と聖都と新聖都の間にそれぞれ幅20m程の壁があって自由に行き来は出来ない。旧聖都には聖職者が住み、聖都には貴族と特権大商人が住み、新聖都には一般市民が棲み分けしている。冒険者ギルド本部は聖都(ナラニ)の南部地域にある。
ギルドマスターは聖都に住むが他の一般職員は新聖都(ネオン)から通っている。だから聖都ハラドを訪れた冒険者は外周壁を抜けて新聖都ネオンで宿を確保してから聖都に入り冒険者ギルドへ行く事になる。
冒険者証が通行の為には欠かせない。冒険者は住人とならないので聖刻は受けないのだ。
そうやって聖都ハラドでの冒険者となったアランとエレは護衛依頼で一緒になった者たちのパーティに入ったのだ。
パーティの名前は『生命の樹』で拳法家ナクル(C3)18歳と炎魔法使いフィアナ(C3)16歳と僧侶ボウス(C4)19歳だった。
アランは剣士(C5)でエレが魔法強化弱化(C5)を使えたのでバランスとしては問題無かった。リーダーは僧侶ボウスだった。後衛として全体を見ながら指示を飛ばしていたのだ。
拳法家ナクルは細身の長身の浅黒い男だった。その鍛えられた肉体は薄着の服も相まって外から分かった。目も短い髪も黒かった。
炎魔法使いフィアナは赤かった。立ち上る炎の様な髪は赤くて癖が強いのかどんなに動いても崩れなかった。そして瞳は透き通る様な青だった。小柄な身体をお決まりの魔法服で隠し、身の丈に合わない長い杖を携えていた。
僧侶ボウスは銀色の瞳に灰色の長い髪をした少し太った男だった。炎魔法使いフィアナより頭ひとつ高い背丈に銀色の僧侶服を着ていた。普通は白い筈のその服は特別誂えなのか細めの目が尊大に見せていた。声が甲高く女性のような話し方をする為性別を間違えてしまいそうだった。
僧侶ボウスが言う。
「ひとつ上のランクに上がるには戦力アップご不可欠なのよ。その点2人の参加は願っても無いわ。警護依頼で実力も見せて貰ったし」
エレの話では3人の連携は既に完成されていてアランとエレが手を出す場面はさほど無くて多少のフォローを入れる程度だったようだ。
ゴブリンやコボルトなど集団戦を得意とする魔物に対しては炎魔法使いフィアナの範囲魔法『炎の庭』でダメージを与えて行動力を削ぎ、危険な個体から拳法家ナクルが『一撃必殺』で各個撃破する。僧侶ボウスと炎魔法使いフィアナで弱りきった個体に止めを刺す。体力と魔力が不足した場合僧侶ボウスが『暫時回復』で補うと言ったパターンだった。
そこに入ったアランは拳法家ナクルの補助をし、エレは最初に全員の魔法強化をする程度だったようだ。
もちろん豚鬼など群れる事の少ない魔物ではエレの魔法強化(バフ)と魔法弱体化(デバフ)は効果を発揮していた。みんなで集中攻撃する事で反撃されるリスクを減らせるからだ。
アランが魔物を多く倒しランクがエレよりも早く上がるのも仕方の無い事だった。そのせいでパーティの中で一番ランクが低かったのはエレになってしまっていた。
アランがエレにふたりでいた時のように配慮してくれれば良かったのだろうけど、パーティ戦での居心地が良かったのか昔ほど気に掛けなくなって行ったらしい。
全員が身体強化を使える為にエレの魔法強化(バフ)の出番が少なくなったと言うのも大きかったらしい。と言うか僧侶ボウスが有能過ぎてエレの出番が無かったようだ。
もちろんエレが無能だった訳では無いのだろう。でも、活躍に差が出来てランクに目に見える違いが出てしまうとパーティリーダーである僧侶ボウスも庇い切れなかった。
パーティの中でエレを切れと主張したのは意外にも炎魔法使いフィアナよりもアランだった。むしろ僧侶ボウスは自身の目の行き届かない部分をフォローしていたエレを買っていたらしい。
結局1年ちょっとで傷心のエレはパーティを追い出され、聖都ハラドからウィードラドの街に戻る事になった。
街に戻ったエレはソロで冒険者をしたり他のパーティの援助をしたりして、新しいパーティに入る事は無く過ごしていたらしい。一通り想いの丈を口にしてエレは泣き出してしまった。
相当に不満が溜まっていたらしい。
「あたしだって頑張ってたのよ。なのに、なのにー何よアランの奴!『役立たずは出ていけ!』なんて。あんたの動きが良かったのはあたしの魔法強化(バフ)のお陰じゃない!
あたしがあんたの狙った魔物に魔法弱化(デバフ)を掛けるからあんたの攻撃が通るのよ!判って無いんじゃない?一緒に強くなって一旗上げようって言ってたじゃない!
嘘ついたの?ぐすっ。あんたの剣の支払いだってあたしが貸したのよ?金貨を返せって言ったらけち臭いって何よ!
借りたものは返すのは当たり前じゃない!馬鹿ぁー!
依頼が終わっても汗も拭きやしないんだから、臭いのよ!面倒だなんてバカなの?そんなんだから風邪引くのよ。
あたしが何度あんたの看病したと思ってるの?治っても『ありがとう』のひとつも言えないなんて、あたしの事何だと思ってるのよ!ふざけないで!!
ほんとに、本当にー!アランの馬鹿ぁー!」
2時間位エレはアランの不満を口にして酒を飲み、憂さを僕の前で晴らしていた。疲れたからか静かになったので寝てしまったのかもと思ったらガバっと喰い付かれて僕の近況の事を聞かれたよ。僕が死にかけた事も知らずに居たらしく豚鬼王の話をしたら驚かれたよ。
「英雄が戻ったってあちこちで聞いたけど、あれってブルクの事だったの?」
「いや、英雄って程の事は無いんだけどね。やっと一人前の冒険者として仕事をやってるところさ。そろそろ依頼を受けようかなと思ってる。」
僕の話にエレが意外な話をした。
「良かったらまた、あたしとパーティ組まない?」
「エレとパーティ?」
アランと言う前衛が居ないけど僕も前の様に負担にはならない筈だし、何より仲間が居るのは嬉しい。
パーティを組むデメリットを考えても以前とは比べ物にならない筈だ。
「そう、あたしとブルクのパーティよ」
「うん、そうだね」
僕がエレに頷こうとした時に声が掛かった。
「ブルク、何してる」
僕の背後から現れたのはノベムだった。声に驚いたのは僕だけじゃなかった。
「ノベムさん?軍神の息吹の魔法使いのノベムさんなのよね!」
「誰?」
エレの感激を何も感じないノベムの問いかけだった。
「あれ?ノベム。なんて冒険者ギルドに?」
「ブルクを探しに来た。それでその女は誰?逢引?」
ノベムの言葉に僕もエレも真っ赤になった。
「ち、違うよ!この人はエレ。以前に助けて貰った冒険者だよ」
僕がエレをノベムに紹介すると少し怒った様な顔だったノベムの顔が柔らかくなった。安心したみたいだ。なんで?
「エレって言います。ランクC1の魔法使いです。うわぁ~本物のノベムさんだぁ!」
僕にはエレがノベムに感激する意味が分からなかった。同じ魔法使いだからむしろライバルではと思った。エレが自分に興奮しているのが嬉しいのか少し鼻が膨らんだ。これでも付き合いが長くなってノベムの感情が表情から読める様になって来ていた。
「あっ!最初にあたしがブルクに助けられたんです。そのお返しに少し手伝っただけで」
ノベムが本当かとばかりに僕を見るので僕はエレとの出会いを簡単に説明した。
森での死体漁りからの帰り道に草原の岩の近くでぐったりとしていたエレに持っていたポーションで回復を助けた事。
アランがギルド職員とともに助けに戻った事。
僕の助けのお返しにアランとエレが依頼を一緒に達成した事。ノベムは納得したらしく僕を連れて行こうとしたけどエレの言葉に立ち止まった。
「それでブルクとパーティを組もうと話して居たんです」
またもやノベムは僕の手を繋いだまま顔を見た。だから僕はノベムの手を解いてエレの境遇を話した。
話を聞くに連れてノベムは呆れたと言う顔をした。でもそれはアラン達パーティ『生命の樹』に向けられていなかった。エレに呆れていたのだった。
「はあぁ~、エレとか言ったわね、あなた。魔法を舐めてる?」
エレはノベムの怒りの矛先がアラン達に向かわずに自分に向いていることに戸惑っていた。
「そ、そんな事ありません!でも、魔法は独学で誰にも教わって無かったから・・・」
深いため息を下を向いてノベムが付くとエレに向かって言った。
「良い?魔法はこの世界の深淵。学問。剣を振り回すだけのバカや身体を苛め抜く拳野郎はいざ知らずあたし達は研究者。成長が遅いのは当たり前」
エレにとっては初耳だったのか、意外な事を聞いたと言う顔になった。
「もっと自分の魔力、魔法を知りなさい」
「はい!・・・でもどうやって?」
「ああ、もう口で説明するの面倒。良いわ、あんたも来なさい」
ノベムは僕とエレの手を引いて冒険者ギルドを出た。連れて来られたのはノベムの研究室だった。僕をベッドに座らせてノベムはエレに言った。
「良く見てなさい。」
それからやった事はノベムの何時もの触診だった。ノベムが言うには自分の魔力を使って僕に埋め込まれた魔導具か正しく働いているかを確認しているそうだ。僕にはノベムの指先が僕をくすぐっている様な気がするだけだった。
ノベムはチラチラエレの様子を確認しながら僕にする触診を進めて、時折口にした。
「ほら、ここ。魔力の歪みが判る?」
「魔力を流すにはもっと細めないと」
「ここはもっと魔力を強めて」
ノベムの言葉に魔力視出来ない筈のエレが答える。
「感覚で分かるけどこれは何?」
「細めるって・・・ムズいよぉ~」
「このくらい?もっと?」
昼間とはいえ薄暗い部屋の中なら僕も魔力視出来るけど自分のはなぁ。それよりもノベムとエレが肌けた僕の胸に顔を近付けて舐めるように見てるから息が掛かって身悶えしそうだよ。
確かに肩にはノベムの魔導具が埋まってるって聞いてたけど、胸にまであんの?
「の、ノベムー!そんな所を触んないでぇー!」
「あっ、間違えて乳首触った。」
全身に震えが来たよ。声にならない叫び声を上げた僕にエレまで含み笑いをした。
誂(からか)ってるなら勘弁して欲しいんだけどなぁ。そんなふうに2人に遊ばれながらずっと我慢しているとやっと終わった。
「ふぅ~、やっと終わったぁ」
僕が声にしながら服を直しているとノベムが言った。
「次は両足だよ」
「まだやるの?」
「エレの勉強を兼ねてる」
「ごめんね、ブルク」
僕の抗議は関係無いようだった。ノベムは何時もの事かも知れないけどエレは可愛らしく謝ってくれたんだ。
それから夕方遅くまで2人の玩具にされて僕はへとへとになった。でも僕以上に疲れて居たのはエレだった。ノベムの指導の元に集中して魔力を使ったから疲労困憊したらしい。
「ん、今回も問題無し」
ノベムは何時もと変わらない。ノベムは疲れないのかと見てると引き出しからポーションを2つ出してエレに渡していたよ。
「スタミナポーション使うと良い」
確かにエレにはポーションが必要だった。
「ありがとう、師匠!」
エレがノベムを師匠と呼んだから怒るかと思ったけどそんな事は無かった。むしろ少し照れてる。
とっても珍しいノベムを見てしまった。
そう言えばノベムのエレに対する態度が僕とは違う。話し方も僕にはぶっきらぼうなのにエレには丁寧だ。スタミナポーションを出すのも珍しい。エレを大事にしているのかも知れない。
「今日はこれでおしまい。明日は午後からブルクの狩りに付き合う」
えっ?そんな話は聞いてないよ。僕がびっくりしてノベムを見ると意地悪な笑みを浮かべた。
「ブルクに選択権は無い」
そんなぁ~、僕ががっくりと項垂れるとエレが笑った。和気あいあいとした雰囲気に2人がなって僕が少し拗ねたけど、エレは予約していた宿屋に戻って行った。
それを僕とノベムが研究室から見送った。ノベムも行くのかと思ったら少し僕に話があるようだった。ノベムが振り返って言った。
「ブルク、言っておく」
エレに対する笑顔を消した無表情なノベムがやけに深刻そうだった。
「エレに魔導具の触診を任せる。その後は此処に来なくなって良い」
まさかの決別宣言だった。愕然としたけれど確かにノベムに甘え過ぎていたかも知れなかった。宿屋に支払うお金だけで無くノベムが何時でも保護してくれていると言う安心感が大きかった。
「分かった。色々と世話になった。明日からで良いよね、まさか今から出ていけとは言わないよね?」
ノベムに礼を言いちょっと皮肉る。少し睨まれた。
「違う!エレの筋は良いけど直ぐじゃない。後、2回は付いて指導が要る。」
良かった。今直ぐじゃないみたいだ。ノベムの触診は今まで10日に1回程だったから20日くらいは居ても良いらしい。ほっと息をするとノベムがニヤリと笑った。
「ブルクも冒険者に復帰した。だから金貨1枚も復活する」
なんてこった!あの恐怖の支払いが始まるのか!
「ブルクには甘えを許さない」
「わ、判ったよ。頑張って稼ぐよ」
「分れば宜しい」
ノベムは僕に言うだけ言って研究室を出ていった。僕はノベムを見送ってベッドに座り込むと盛大にため息を付いた。
「あ~あ、頑張らないとな。まぁ取りあえず夕食だな」
僕は夕食の準備をして食べた後軽く身体を拭いてからベッドにダイブした。
翌日、僕が冒険者ギルドに行くとエレに声を掛けられた。
「ブルクおはよう」
「ああ、エレおはよう」
「今日はどうする積り?ふたりだからパ、パーティ組んで依頼受ける?」
なんだか緊張してるみたいでノベムみたいな無愛想な言い方をした。
「あーそうだね。アランとの時はどうしてたの?」
途端にエレの笑顔が凍りついた。あっ、ヤバイ。言っちゃいけない事言ったみたいだ。地雷を踏んだぞ。
「・・・ブルクぅ~あいつの名前は言わないでぇ~」
「ご、ごめんってば!パ、パーティ名だったよね。えーと、何が良いかなぁ~」
話題を変えたお陰でエレの表情も和らいだ。
「何か爽やかな名前が良いなぁ」
エレの希望どうり爽やかそうな名前を幾つか上げて『草原の風』に決めた。空いていた受付嬢のカラムさんの前に行ったら、ちょっと待ってねと言われて待っているとサブマスのマルチアスさんが現れた。
なんで?エレもぎょっとしていた。
「驚く事はねえだろう。ギルドの英雄の担当を唯の受付嬢にさせる訳にはいかないからな」
理屈は良く分からないけど僕が絡む事は全部サブマスのマルチアスさんに話さないといけないらしい。解せぬ。
気を取り直してパーティを組むことになった話をしてパーティ名の登録をして貰う。当然ランクが上のエレがリーダーだ。エレは僕にリーダーをして欲しいと言ったけどこれはギルドの決まり事だから仕方ないのだ。
『草原の風』パーティはリーダーがエレで所属員が僕ブルクだ。パーティランクはCだけど直ぐにでもエレはランクアップ出来るだろうから僕も早くランクを上げないと迷惑を掛けてしまう。だから方針としては僕のランクアップを優先してくれる事になった。
だから依頼もランクCの魔物を中心に狩って行く事になった。マルチアスさんに依頼の事を聞くと探してくれた。
「これなんかどうだ。」
マルチアスさんが見せてくれた依頼は『ミニトレントの幹50本』とあった。そこには説明にミニトレントは『サウザンドトレントの若枝』とあった。トレントは木の魔物である事は知って居るけどサウザンドトレントについては知らなかった。
「この説明にあるサウザンドトレントってどんな魔物ですか?」
僕の問い掛けに苦笑しながらマルチアスさんが言った。
「ギルドで売ってる魔物図鑑を買ってくれよ。簡単に言えば高さ3から5m位になる枝を垂らしたトレントの親だ。ランクはBさ。滅多に見かける事は無いけどお前達では負けるから直ぐに逃げろ。ミニトレントはランクCで若芽から育つと走り回ってあちこちに移動する。このミニトレントが育つとサウザンドトレントになると言われてるぞ」
さり気なく魔物図鑑を売り込んで来たけど必要かな。後で買って置こう。
「ありがとうございます。エレはどう思う?」
僕はエレの意見を聞いた。エレの方が僕より冒険者が長いからね。
「良いと思うわよ。数は多いけど何とかなるでしょ」
あっけらかんとエレが了承してくれた。それを聞いてマルチアスさんが依頼処理をしてくれた。
依頼完遂で金貨1枚になるけど不足していてもミニトレントの幹1本当たり銀貨1枚で引き取ってくれるらしい。ついでにマルチアスさんが言っていた魔物図鑑を僕が買う。
これを見ればトレントの生息地が分かるだろう。銀貨2枚の割には薄い本だった。直ぐに出掛けたがるエレを説得してギルド内で本を二人して読んだ。
本によると一番近い生息地はウィードラドの街の真南にあるコンモリの森らしい。そんなに大きな森では無いけど近くに川が流れているせいで動物も魔物も多いようだ。徒歩で半日程度だから今から行くと夕方前には着く筈だ。
エレに何処に行こうとしていたのか聞けばダンジョンのある魔の森に行こうとしていたらしい。確かにトレントは居たかも知れないけど僕達のランクではとても太刀打ち出来ない強さの相手しか居ないと魔物図鑑には描いてあった。
エルダートレントとかハイトレントなんかランクAの魔物だった。止めて良かった。確かにミニトレントを生むらしいけどそれでもランクBらしいよ。死んじゃうって!
一応、道具屋さんとか巡って必要な物を買い求めてからウィードラドの街の南門を抜けたのは夕方が近かった。
「ギルドマスター、ブルクを連れて来ました!」
マルチアスさんが得意そうに僕を紹介した。
書類を見ていたギルドマスターが頭を上げてマルチアスさんと僕を見比べた。そして鼻を鳴らした。
身に付けた装飾品がじゃらりと音を立てた。丸く黒い宝石は高そうな光を放った。服装と装飾品が似合って居なかった。
むしろ下品に見えた。
この人がギルドマスターのデッセンバーグか。ノベムからとても嫌そうに話を聞いていた。
元ランクSパーティ『金の大翼(ゴールドウィング)』の斥候冒険者でギルドマスターまで上り詰めた人だった。
金の大翼と言うパーティはお金になる依頼は受けるが見返りが少ないと全く仕事を受けないと言う事で有名なパーティらしかったが仕事を選別したお陰でSランクまで上り詰めたらしい。
実力のあるパーティリーダーは評判が良かったらしいがデッセンバーグは上手く立ち回りある貴族に気に入られ冒険者ギルドに採用されたらしい。
ノベムは「金に汚くて疑り深い嫌な奴」と言っていたけど見た目がまんまだった。
「ああん、ブルクだと?・・・ああ、英雄に祭り上げた怪我人のことか。そいつがそうなのか、マルチアス」
デッセンバーグは立ち上がりもしないで僕を睨み付けた。その目は僕を値踏みしているようでとてもねっとりとしていた。
「そうですよ、ギルドマスター。ようやく退院出来て義理堅くもギルドに挨拶に来てくれたんです。」
いつもの事なのかマルチアスさんはそんなギルドマスターのデッセンバーグの様子も気にもせずに言ったのだ。
「それにしても普通の冒険者の小僧にしか見えんが」
「ああ、わたしは治療院に何度か行って見てますがノベムの魔導具のお陰で普通の冒険者にしか見えませんよ、なぁブルク」
「ええ、ノベムさんの魔導具で義肢と肩を治して貰いました。」
「ふん、それにしても偉く高くついてるわ。お前の報奨金の金貨100枚でも足りんかったぞ」
報奨金?金貨100枚?何のことだ?
僕が理解していないのをデッセンバーグは鼻で笑って言った。
「なんだ、知らんのか。お前が豚鬼王を阻止した事にオーステナイト卿はいたく感激されてな、どうせ死ぬお前の為に報奨金金貨100枚と表彰状を出されたのだ。最も報奨金はお前の治療費に全て消えたがな。」
詰まらない事を言ったと言う風に肩を進めてテーブルの中から一枚の紙を取り出し僕に投げて寄越した。それは大きな羊皮紙だった。
枠を複雑な文様で飾られ僕の功績を称え、報奨金を与え、冒険者ランクをあげる旨が描かれていた。
「残っているのはその表彰状だけだ。生き残ってしまったからお前のランクをCランクまで上げてやる。最も魔物が狩れるのか知らんがな」
それだけ言うとデッセンバーグは再び椅子に座って書類作業に戻って行った。これ以上話すことも無いと言うのだろう。
酷い態度だけど僕にも用は無かった。その代わりご機嫌なマルチアスさんと階下に降りて行った。
階段に僕たちが姿を現すと様子を伺っていた冒険者達が歓声を上げた。
僕は手にしていた表彰状を見てどうしたものか考えているとマルチアスさんがギルドの壁に飾ると言い出した。マルチアスさん的には目をかけていた僕が結果を出したのがうれしかったらしい。恥ずかしいがそれでマルチアスさんに報いれるなら良いかなと諦めた。
ギルド内では周りの冒険者達に肩を叩かれて、拍手されて、褒められた。見知らぬ冒険者も僕を褒めてくれるのはとても嬉しかった。今までは貶される事しか無かったからだ。
僕は冒険者ギルドに他の用事は無かったからもう一度ノベムに報告しに戻ることにした。
冒険者仲間に称えられるという興奮も冷めない内にノベムの研究室の前を通るとノベムが待っていた。
「通るのを待ってた」
ノベムはどうやら前衛レイピア騎士のジュリィと斥候暗器のジャンヌが行ったと言うケーキ屋には行かなかったらしい。
僕はノベムの研究室に引き入れられて当分は此処から仕事を請け負う用に命令される。退院したとは言え、経過を診るにはノベムの研究室の方が都合が良いらしい。
僕としては宿代が浮くから助かる。
ノベムはどうするのかと聞けばパーティのホームに殆ど使っていない自室があるらしい。詳しくは教えてくれなかったが依頼を遂行中くらいしかパーティメンバーと交流していないらしい。依頼完了の打ち上げとかは一応参加するが直ぐに研究室に逃げてくるみたいだ。
パーティメンバーと疎遠な訳では無いが積極的な交流はしていないから僕にノベムが構うのが他のメンバーには奇異に見えるらしい。
女性同士はそれなりに仲が良いらしいがジュリィとジャンヌほどじゃないと言う。
「男どもは2人が仲良く見えるらしい」
ノベムに言わせれば腹の探り合いになることが多くて打ち解けると言うほどのものでは無いみたいだ。女同士は怖いな。
こんな事を口にするノベムはそれなりに僕に気持ちを許して居るのかな?なんて、得意になっても良いのかな。僕が居ても研究室では簡単に服を脱いで下着になって部屋着に着替えたりするのはちょっと違うと思うけど。姉弟?
兎に角、僕は次の日からノベムの研究室から冒険者ギルドに向かって仕事をし始めた。
最初は一般依頼のスライムや一角兎や薬草採取から始めた。東の草原に行けば薬草は見つかるし、スライムやら一角兎がちらほらと居るので一緒に狩るのだ。
ノベムが造ってくれた足は問題なく僕の身体を支え、普通に走る事さえ出来た。
随分と振って居なかった魔剣クルワナとの意思疎通も問題無かった。クルワナに言わせればむしろ前よりも僕の魔力を良く感じられると言っていた。確かに入院中から魔力を身体のあちこちに滞留させる訓練は欠かせなかった。
そのせいだろうと思う。お陰で意識せずとも両足も右肩も違和感無く扱えている。動きもひょっとするとエレの掛けてくれた魔法強化と同じくらい動けているかも知れなかった。
そう言えばアランとはまだ会えて居ない。2年も経てば冒険者もランクが上がり拠点を移す事もあるから当然と言えば当然だけど、エレには会った。
ソロで冒険者をしてると聞いて驚いた。エレはC1級になっていた。名ばかりのC5級の僕とは違って積み重ねた経験のランクだ。
僕は何時も通りに狩りに行くつもりだったけどエレの話を聞くことにした。僕が豚鬼王に殺され掛かった事件の前にアランとエレはあるパーティに誘われて一緒に護衛依頼を受けた。それは聖都ハラドへ向かう商隊から受けた依頼だった。ふたりは僕と別れた後に身体強化の魔法を学んでから急激にランクが上がり、C級に上がったので護衛依頼する経緯で聖都ハラドに拠点を移したのだった。
聖都ハラドは教皇の住まう聖なる都で住人は全て家を与えられるが管理されている。入るには難しく出るには簡単だが他国の者が入る時は教会にて身体の何処かに聖刻を刻まれる事になる。
聖刻とは創造神ウェンバの印(クレスト)の事だ。
人口は約20万人らしい。規模はウィードラドの約4倍程で複数の区域に別れていて、中心に聖塔が不夜城の如く光り輝き、旧聖都(オルトス)、聖都(ナラニ)、新聖都(ネオン)と拡がっている。
旧聖都と聖都と新聖都の間にそれぞれ幅20m程の壁があって自由に行き来は出来ない。旧聖都には聖職者が住み、聖都には貴族と特権大商人が住み、新聖都には一般市民が棲み分けしている。冒険者ギルド本部は聖都(ナラニ)の南部地域にある。
ギルドマスターは聖都に住むが他の一般職員は新聖都(ネオン)から通っている。だから聖都ハラドを訪れた冒険者は外周壁を抜けて新聖都ネオンで宿を確保してから聖都に入り冒険者ギルドへ行く事になる。
冒険者証が通行の為には欠かせない。冒険者は住人とならないので聖刻は受けないのだ。
そうやって聖都ハラドでの冒険者となったアランとエレは護衛依頼で一緒になった者たちのパーティに入ったのだ。
パーティの名前は『生命の樹』で拳法家ナクル(C3)18歳と炎魔法使いフィアナ(C3)16歳と僧侶ボウス(C4)19歳だった。
アランは剣士(C5)でエレが魔法強化弱化(C5)を使えたのでバランスとしては問題無かった。リーダーは僧侶ボウスだった。後衛として全体を見ながら指示を飛ばしていたのだ。
拳法家ナクルは細身の長身の浅黒い男だった。その鍛えられた肉体は薄着の服も相まって外から分かった。目も短い髪も黒かった。
炎魔法使いフィアナは赤かった。立ち上る炎の様な髪は赤くて癖が強いのかどんなに動いても崩れなかった。そして瞳は透き通る様な青だった。小柄な身体をお決まりの魔法服で隠し、身の丈に合わない長い杖を携えていた。
僧侶ボウスは銀色の瞳に灰色の長い髪をした少し太った男だった。炎魔法使いフィアナより頭ひとつ高い背丈に銀色の僧侶服を着ていた。普通は白い筈のその服は特別誂えなのか細めの目が尊大に見せていた。声が甲高く女性のような話し方をする為性別を間違えてしまいそうだった。
僧侶ボウスが言う。
「ひとつ上のランクに上がるには戦力アップご不可欠なのよ。その点2人の参加は願っても無いわ。警護依頼で実力も見せて貰ったし」
エレの話では3人の連携は既に完成されていてアランとエレが手を出す場面はさほど無くて多少のフォローを入れる程度だったようだ。
ゴブリンやコボルトなど集団戦を得意とする魔物に対しては炎魔法使いフィアナの範囲魔法『炎の庭』でダメージを与えて行動力を削ぎ、危険な個体から拳法家ナクルが『一撃必殺』で各個撃破する。僧侶ボウスと炎魔法使いフィアナで弱りきった個体に止めを刺す。体力と魔力が不足した場合僧侶ボウスが『暫時回復』で補うと言ったパターンだった。
そこに入ったアランは拳法家ナクルの補助をし、エレは最初に全員の魔法強化をする程度だったようだ。
もちろん豚鬼など群れる事の少ない魔物ではエレの魔法強化(バフ)と魔法弱体化(デバフ)は効果を発揮していた。みんなで集中攻撃する事で反撃されるリスクを減らせるからだ。
アランが魔物を多く倒しランクがエレよりも早く上がるのも仕方の無い事だった。そのせいでパーティの中で一番ランクが低かったのはエレになってしまっていた。
アランがエレにふたりでいた時のように配慮してくれれば良かったのだろうけど、パーティ戦での居心地が良かったのか昔ほど気に掛けなくなって行ったらしい。
全員が身体強化を使える為にエレの魔法強化(バフ)の出番が少なくなったと言うのも大きかったらしい。と言うか僧侶ボウスが有能過ぎてエレの出番が無かったようだ。
もちろんエレが無能だった訳では無いのだろう。でも、活躍に差が出来てランクに目に見える違いが出てしまうとパーティリーダーである僧侶ボウスも庇い切れなかった。
パーティの中でエレを切れと主張したのは意外にも炎魔法使いフィアナよりもアランだった。むしろ僧侶ボウスは自身の目の行き届かない部分をフォローしていたエレを買っていたらしい。
結局1年ちょっとで傷心のエレはパーティを追い出され、聖都ハラドからウィードラドの街に戻る事になった。
街に戻ったエレはソロで冒険者をしたり他のパーティの援助をしたりして、新しいパーティに入る事は無く過ごしていたらしい。一通り想いの丈を口にしてエレは泣き出してしまった。
相当に不満が溜まっていたらしい。
「あたしだって頑張ってたのよ。なのに、なのにー何よアランの奴!『役立たずは出ていけ!』なんて。あんたの動きが良かったのはあたしの魔法強化(バフ)のお陰じゃない!
あたしがあんたの狙った魔物に魔法弱化(デバフ)を掛けるからあんたの攻撃が通るのよ!判って無いんじゃない?一緒に強くなって一旗上げようって言ってたじゃない!
嘘ついたの?ぐすっ。あんたの剣の支払いだってあたしが貸したのよ?金貨を返せって言ったらけち臭いって何よ!
借りたものは返すのは当たり前じゃない!馬鹿ぁー!
依頼が終わっても汗も拭きやしないんだから、臭いのよ!面倒だなんてバカなの?そんなんだから風邪引くのよ。
あたしが何度あんたの看病したと思ってるの?治っても『ありがとう』のひとつも言えないなんて、あたしの事何だと思ってるのよ!ふざけないで!!
ほんとに、本当にー!アランの馬鹿ぁー!」
2時間位エレはアランの不満を口にして酒を飲み、憂さを僕の前で晴らしていた。疲れたからか静かになったので寝てしまったのかもと思ったらガバっと喰い付かれて僕の近況の事を聞かれたよ。僕が死にかけた事も知らずに居たらしく豚鬼王の話をしたら驚かれたよ。
「英雄が戻ったってあちこちで聞いたけど、あれってブルクの事だったの?」
「いや、英雄って程の事は無いんだけどね。やっと一人前の冒険者として仕事をやってるところさ。そろそろ依頼を受けようかなと思ってる。」
僕の話にエレが意外な話をした。
「良かったらまた、あたしとパーティ組まない?」
「エレとパーティ?」
アランと言う前衛が居ないけど僕も前の様に負担にはならない筈だし、何より仲間が居るのは嬉しい。
パーティを組むデメリットを考えても以前とは比べ物にならない筈だ。
「そう、あたしとブルクのパーティよ」
「うん、そうだね」
僕がエレに頷こうとした時に声が掛かった。
「ブルク、何してる」
僕の背後から現れたのはノベムだった。声に驚いたのは僕だけじゃなかった。
「ノベムさん?軍神の息吹の魔法使いのノベムさんなのよね!」
「誰?」
エレの感激を何も感じないノベムの問いかけだった。
「あれ?ノベム。なんて冒険者ギルドに?」
「ブルクを探しに来た。それでその女は誰?逢引?」
ノベムの言葉に僕もエレも真っ赤になった。
「ち、違うよ!この人はエレ。以前に助けて貰った冒険者だよ」
僕がエレをノベムに紹介すると少し怒った様な顔だったノベムの顔が柔らかくなった。安心したみたいだ。なんで?
「エレって言います。ランクC1の魔法使いです。うわぁ~本物のノベムさんだぁ!」
僕にはエレがノベムに感激する意味が分からなかった。同じ魔法使いだからむしろライバルではと思った。エレが自分に興奮しているのが嬉しいのか少し鼻が膨らんだ。これでも付き合いが長くなってノベムの感情が表情から読める様になって来ていた。
「あっ!最初にあたしがブルクに助けられたんです。そのお返しに少し手伝っただけで」
ノベムが本当かとばかりに僕を見るので僕はエレとの出会いを簡単に説明した。
森での死体漁りからの帰り道に草原の岩の近くでぐったりとしていたエレに持っていたポーションで回復を助けた事。
アランがギルド職員とともに助けに戻った事。
僕の助けのお返しにアランとエレが依頼を一緒に達成した事。ノベムは納得したらしく僕を連れて行こうとしたけどエレの言葉に立ち止まった。
「それでブルクとパーティを組もうと話して居たんです」
またもやノベムは僕の手を繋いだまま顔を見た。だから僕はノベムの手を解いてエレの境遇を話した。
話を聞くに連れてノベムは呆れたと言う顔をした。でもそれはアラン達パーティ『生命の樹』に向けられていなかった。エレに呆れていたのだった。
「はあぁ~、エレとか言ったわね、あなた。魔法を舐めてる?」
エレはノベムの怒りの矛先がアラン達に向かわずに自分に向いていることに戸惑っていた。
「そ、そんな事ありません!でも、魔法は独学で誰にも教わって無かったから・・・」
深いため息を下を向いてノベムが付くとエレに向かって言った。
「良い?魔法はこの世界の深淵。学問。剣を振り回すだけのバカや身体を苛め抜く拳野郎はいざ知らずあたし達は研究者。成長が遅いのは当たり前」
エレにとっては初耳だったのか、意外な事を聞いたと言う顔になった。
「もっと自分の魔力、魔法を知りなさい」
「はい!・・・でもどうやって?」
「ああ、もう口で説明するの面倒。良いわ、あんたも来なさい」
ノベムは僕とエレの手を引いて冒険者ギルドを出た。連れて来られたのはノベムの研究室だった。僕をベッドに座らせてノベムはエレに言った。
「良く見てなさい。」
それからやった事はノベムの何時もの触診だった。ノベムが言うには自分の魔力を使って僕に埋め込まれた魔導具か正しく働いているかを確認しているそうだ。僕にはノベムの指先が僕をくすぐっている様な気がするだけだった。
ノベムはチラチラエレの様子を確認しながら僕にする触診を進めて、時折口にした。
「ほら、ここ。魔力の歪みが判る?」
「魔力を流すにはもっと細めないと」
「ここはもっと魔力を強めて」
ノベムの言葉に魔力視出来ない筈のエレが答える。
「感覚で分かるけどこれは何?」
「細めるって・・・ムズいよぉ~」
「このくらい?もっと?」
昼間とはいえ薄暗い部屋の中なら僕も魔力視出来るけど自分のはなぁ。それよりもノベムとエレが肌けた僕の胸に顔を近付けて舐めるように見てるから息が掛かって身悶えしそうだよ。
確かに肩にはノベムの魔導具が埋まってるって聞いてたけど、胸にまであんの?
「の、ノベムー!そんな所を触んないでぇー!」
「あっ、間違えて乳首触った。」
全身に震えが来たよ。声にならない叫び声を上げた僕にエレまで含み笑いをした。
誂(からか)ってるなら勘弁して欲しいんだけどなぁ。そんなふうに2人に遊ばれながらずっと我慢しているとやっと終わった。
「ふぅ~、やっと終わったぁ」
僕が声にしながら服を直しているとノベムが言った。
「次は両足だよ」
「まだやるの?」
「エレの勉強を兼ねてる」
「ごめんね、ブルク」
僕の抗議は関係無いようだった。ノベムは何時もの事かも知れないけどエレは可愛らしく謝ってくれたんだ。
それから夕方遅くまで2人の玩具にされて僕はへとへとになった。でも僕以上に疲れて居たのはエレだった。ノベムの指導の元に集中して魔力を使ったから疲労困憊したらしい。
「ん、今回も問題無し」
ノベムは何時もと変わらない。ノベムは疲れないのかと見てると引き出しからポーションを2つ出してエレに渡していたよ。
「スタミナポーション使うと良い」
確かにエレにはポーションが必要だった。
「ありがとう、師匠!」
エレがノベムを師匠と呼んだから怒るかと思ったけどそんな事は無かった。むしろ少し照れてる。
とっても珍しいノベムを見てしまった。
そう言えばノベムのエレに対する態度が僕とは違う。話し方も僕にはぶっきらぼうなのにエレには丁寧だ。スタミナポーションを出すのも珍しい。エレを大事にしているのかも知れない。
「今日はこれでおしまい。明日は午後からブルクの狩りに付き合う」
えっ?そんな話は聞いてないよ。僕がびっくりしてノベムを見ると意地悪な笑みを浮かべた。
「ブルクに選択権は無い」
そんなぁ~、僕ががっくりと項垂れるとエレが笑った。和気あいあいとした雰囲気に2人がなって僕が少し拗ねたけど、エレは予約していた宿屋に戻って行った。
それを僕とノベムが研究室から見送った。ノベムも行くのかと思ったら少し僕に話があるようだった。ノベムが振り返って言った。
「ブルク、言っておく」
エレに対する笑顔を消した無表情なノベムがやけに深刻そうだった。
「エレに魔導具の触診を任せる。その後は此処に来なくなって良い」
まさかの決別宣言だった。愕然としたけれど確かにノベムに甘え過ぎていたかも知れなかった。宿屋に支払うお金だけで無くノベムが何時でも保護してくれていると言う安心感が大きかった。
「分かった。色々と世話になった。明日からで良いよね、まさか今から出ていけとは言わないよね?」
ノベムに礼を言いちょっと皮肉る。少し睨まれた。
「違う!エレの筋は良いけど直ぐじゃない。後、2回は付いて指導が要る。」
良かった。今直ぐじゃないみたいだ。ノベムの触診は今まで10日に1回程だったから20日くらいは居ても良いらしい。ほっと息をするとノベムがニヤリと笑った。
「ブルクも冒険者に復帰した。だから金貨1枚も復活する」
なんてこった!あの恐怖の支払いが始まるのか!
「ブルクには甘えを許さない」
「わ、判ったよ。頑張って稼ぐよ」
「分れば宜しい」
ノベムは僕に言うだけ言って研究室を出ていった。僕はノベムを見送ってベッドに座り込むと盛大にため息を付いた。
「あ~あ、頑張らないとな。まぁ取りあえず夕食だな」
僕は夕食の準備をして食べた後軽く身体を拭いてからベッドにダイブした。
翌日、僕が冒険者ギルドに行くとエレに声を掛けられた。
「ブルクおはよう」
「ああ、エレおはよう」
「今日はどうする積り?ふたりだからパ、パーティ組んで依頼受ける?」
なんだか緊張してるみたいでノベムみたいな無愛想な言い方をした。
「あーそうだね。アランとの時はどうしてたの?」
途端にエレの笑顔が凍りついた。あっ、ヤバイ。言っちゃいけない事言ったみたいだ。地雷を踏んだぞ。
「・・・ブルクぅ~あいつの名前は言わないでぇ~」
「ご、ごめんってば!パ、パーティ名だったよね。えーと、何が良いかなぁ~」
話題を変えたお陰でエレの表情も和らいだ。
「何か爽やかな名前が良いなぁ」
エレの希望どうり爽やかそうな名前を幾つか上げて『草原の風』に決めた。空いていた受付嬢のカラムさんの前に行ったら、ちょっと待ってねと言われて待っているとサブマスのマルチアスさんが現れた。
なんで?エレもぎょっとしていた。
「驚く事はねえだろう。ギルドの英雄の担当を唯の受付嬢にさせる訳にはいかないからな」
理屈は良く分からないけど僕が絡む事は全部サブマスのマルチアスさんに話さないといけないらしい。解せぬ。
気を取り直してパーティを組むことになった話をしてパーティ名の登録をして貰う。当然ランクが上のエレがリーダーだ。エレは僕にリーダーをして欲しいと言ったけどこれはギルドの決まり事だから仕方ないのだ。
『草原の風』パーティはリーダーがエレで所属員が僕ブルクだ。パーティランクはCだけど直ぐにでもエレはランクアップ出来るだろうから僕も早くランクを上げないと迷惑を掛けてしまう。だから方針としては僕のランクアップを優先してくれる事になった。
だから依頼もランクCの魔物を中心に狩って行く事になった。マルチアスさんに依頼の事を聞くと探してくれた。
「これなんかどうだ。」
マルチアスさんが見せてくれた依頼は『ミニトレントの幹50本』とあった。そこには説明にミニトレントは『サウザンドトレントの若枝』とあった。トレントは木の魔物である事は知って居るけどサウザンドトレントについては知らなかった。
「この説明にあるサウザンドトレントってどんな魔物ですか?」
僕の問い掛けに苦笑しながらマルチアスさんが言った。
「ギルドで売ってる魔物図鑑を買ってくれよ。簡単に言えば高さ3から5m位になる枝を垂らしたトレントの親だ。ランクはBさ。滅多に見かける事は無いけどお前達では負けるから直ぐに逃げろ。ミニトレントはランクCで若芽から育つと走り回ってあちこちに移動する。このミニトレントが育つとサウザンドトレントになると言われてるぞ」
さり気なく魔物図鑑を売り込んで来たけど必要かな。後で買って置こう。
「ありがとうございます。エレはどう思う?」
僕はエレの意見を聞いた。エレの方が僕より冒険者が長いからね。
「良いと思うわよ。数は多いけど何とかなるでしょ」
あっけらかんとエレが了承してくれた。それを聞いてマルチアスさんが依頼処理をしてくれた。
依頼完遂で金貨1枚になるけど不足していてもミニトレントの幹1本当たり銀貨1枚で引き取ってくれるらしい。ついでにマルチアスさんが言っていた魔物図鑑を僕が買う。
これを見ればトレントの生息地が分かるだろう。銀貨2枚の割には薄い本だった。直ぐに出掛けたがるエレを説得してギルド内で本を二人して読んだ。
本によると一番近い生息地はウィードラドの街の真南にあるコンモリの森らしい。そんなに大きな森では無いけど近くに川が流れているせいで動物も魔物も多いようだ。徒歩で半日程度だから今から行くと夕方前には着く筈だ。
エレに何処に行こうとしていたのか聞けばダンジョンのある魔の森に行こうとしていたらしい。確かにトレントは居たかも知れないけど僕達のランクではとても太刀打ち出来ない強さの相手しか居ないと魔物図鑑には描いてあった。
エルダートレントとかハイトレントなんかランクAの魔物だった。止めて良かった。確かにミニトレントを生むらしいけどそれでもランクBらしいよ。死んじゃうって!
一応、道具屋さんとか巡って必要な物を買い求めてからウィードラドの街の南門を抜けたのは夕方が近かった。
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