光が眩しすぎて!!

きゅうとす

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変わる世界

歩むなら

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ノベムの研究室で今回の依頼の顛末をエレと共にノベムに報告した。どちらにせよ明日には軍神の息吹(ドゥラメンテ)の拠点に報告に行くつもりではいた。それが早まっただけだ。
ノベムとエレの綿密なチェックで僕の魔導体の問題点は解消されたらしい。大きな負荷が細かな罅やら亀裂を生む寸前だったらしいけど修復されて問題無くなった。だから、ノベムに金貨1枚を請求されたけど仕方ない。

その後はノベムも交えて打ち上げに行った。もちろんノベムの行きたい店だ。肉の食べ放題で色んな種類の肉が取り揃えてある。野菜やら飲み物やらあるが酒類は一切無い。
その理由を店員に聞くと酒乱が暴れるからだそうで時間制限もある。冒険者が集まりやすいから時間制限を越えると揉め事になりやすいらしい。
それでも女性に人気なのはデザートも充実しているからだろう。3人で金貨1枚近くも掛かった。こんな出血は今回限りにして欲しい。

打ち上げの後はノベムはさっさと拠点に帰った。ノベムが軍神の息吹の皆に僕の事は話しておいてくれるらしいので来なくて良いと言われてしまった。疲れも溜まっているはずだから休めとも言われた。
エレも宿に戻って休むので明日また、冒険者ギルドで落ち合う事になった。ノベムの研究室に戻ってすることが無いと思って居たけど思ったより疲れが溜まっていたらしい、気付いたら寝落ちしていた。

翌日、目が覚めるとお腹が鳴った。夕べに食事が要らないくらいに沢山食べたから大丈夫と思ったけど一晩で消えてしまったらしい。孤児院にいた頃は空腹で常に腹を鳴らしていた。それに比べれば夢のような生活ではある。常に危険と隣り合わせだけれども。

僕はベッドから起き出し、隣の部屋に当たる台所で保存庫のドアを開けた。中から冷気が漂い出す。この保存庫は人の背の高さ程あり、ドアが3つ付いている。
一番上は凍らせた食材の肉類が入っている。
2番目には熱に弱い野菜類が入っている。
一番下は凍ったものを解凍したり、外に出して埃を付けたくないパンなどが入ってる。

僕は黒パンを取り出し口に咥えた。そして更にピッチャーに入ってる牛乳をグラスに注いでピッチャーを戻した。この保存庫に入れておけば牛乳も腐らず2、3日は保つ。
全く便利な保存庫だ。もちろんノベムの魔導具だ。ノベムが言うにはこれより大きな保存庫が今まで数個売れていると言う。もちろん買い手は貴族でこの街の領主や高位貴族らしい。もちろん拠点にも同じ物が置いてあるが中身はいっぱいになっているらしい。便利に慣れると言うのは恐ろしい。

黒パンと牛乳を交互に食べて飲んでお腹が膨らんた。朝としてはこれくらいで十分だ。ベッドまで戻り、下着を着替える。その際に軽く身体を拭く。汗で汚れた服は後で洗濯するので籠に纏めて入れておく。
隣の籠に何か入ってるなと見たらノベムの下着だった。きっと、僕が居ないときに来て着替えたのだろう。少し考えて、そのままあったように戻し忘れることにした。

そうこうしている間に夜が明け、朝日が昇って来た。僕は装備を整えてノベムの研究室を出て、冒険者ギルドに向かった。

冒険者ギルドは既に混み合い始めていた。壁の掲示板には昨日の売れ残りの依頼が幾つか残っているが誰も見向きもしない。今日の追加が貼り出されて居ないからだ。
受付の奥から受付嬢2人が紙束とピンを持って現れた。この時間に来るのは僕も始めてだったから興味深々で遠くから見ていた。荒くれ者達の冒険者は先を争うように詰め寄る事無く少し離れて受付嬢の作業を見守る。

受付嬢達は全て貼り終えるとさっさと退避した。途端に見守っていた冒険者が雪崩を打って掲示板に詰め寄って、依頼書を引き剥がす。遠目から貼ってある内容を確認していたみたいで真っ先に目的の依頼書を引き剥がす。先を取られて悔しがる間もなく他の依頼書を目掛けて移動する。依頼書を巡って争わないのは不思議だった。随分とお行儀が良い。

「ははは、不思議でしょ?」

隣からエレの声がした。掲示板の前の冒険者達を見ていて気付かなかった。エレを見て僕は言った。

「本当だね。もっと乱暴なのかと思ってた」

「受付嬢に乱暴を働いたり、依頼書を巡って喧嘩したり、他の冒険者の行動を妨害したりするとその時点で冒険者証を取り消されるのよ。ほら、あそこからサブマスが見張ってる。」

エレが指し示す階段の上では腕を組んで掲示板に群がる冒険者達を睨むマルチアスさんがいた。あそこから見張っていたんだ。

「本当だ。ありゃあ怖いね」

依頼書を剥がした冒険者達が今度は受付嬢の前に列を作り始めた。

「冒険者ギルドの中で乱暴を働けば即座にサブマスに伸されるからね。あたしもアホな奴が伸されるのを何回か見てるよ」

酒場のテーブルでも依頼書を交換したり、お金を渡したり交渉している者達もいた。僕の視線がそちらに向いているのを見てエレが教えてくれる。

「依頼書を引き剥がした者に駄賃を渡したり、交換したりしてるのよ。読んで見て自分達に無理な依頼だったら戻すより話し合った方が早いからね」

掲示板をみれば引き剥がした依頼書を戻す者もいれば残り物を目て回る者もいた。掲示板の前に冒険者が少なくなるとざわつきは無くなって、受付嬢と冒険者の話し声な方が多くなった。依頼を受ける為の確認をしてるからだろう。

「さ、あたし達はあっちへ行こう」

エレが言ったのはおいでおいでをする階段にいるサブマスのマルチアスさんのところだった。僕達を見つけて呼んでいた。
僕達が来るのを見てマルチアスさんはギルマスの部屋に入って行く。僕達もその後に続いて部屋に入った。

そこにはいつも通り不機嫌なギルドマスターのデッセンバーグが椅子に深く座っていた。僕達が入ると腕を組んで目を瞑っていた顔を上げで目を開いた。

「来たか、遅いな。」

呼ばれて直ぐに来たのにこの言い草だよ。

「分かってると思うがご領主様のオーステナイト侯爵がお呼びだ。今日の昼食後に会うそうだ。今から行くぞ」

まるでギルマスも行くような言い方だった。

「ギルマスも行かれるので?」

マルチアスさんが確認するように言った。

「そうだ、後を頼むぞマルチアス」

マルチアスさんにそう告げると僕達を睨んだ。

「儂が連れて行くが粗相の無いようにな。儂が話すからお前らは黙っていろ。」

言いたい事だけ言うとどっこらしょと重そうな身体を揺すって立ち上がりそのまま部屋を出て行った。僕達はポカンとして立って居たらマルチアスさんが叫んだ。

「ああもう、『草原の風』はギルド裏手の馬車に乗れ!ギルマスはもう行ったぞ。遅れると煩いから!」

マルチアスさんが教えてくれたお陰で直ぐに行動に移したらギルマスが馬車に乗り込もうとしていた。後に続いて乗ろうとすると怒鳴られた。

「何、乗ろうとしてる!お前らは外を走れ!シッシッ!」

追い払われてしまったので仕方なく、僕達は馬車の後を走る事になった。

「なんて、ケチ!」

全くエレの言う通りだ。走るのは吝かでは無いけどこの仕打ちは酷い。馬車の後を15分程走ると街の中心の大きな屋敷が見えた。あれが領主の館らしい。

馬車からデッセンバーグが降りてくるとこれまた何も言わずに開けられた門を潜った。僕達も無言で後に続いた。デッセンバーグは何も言わなくても僕達が付いてくるものと思って居るようだった。

屋敷に入る時に執事にドアの前でデッセンバーグが来訪を告げて、中に誘われた。案内は別のメイドが先導して、僕達は屋敷の中を進んだ。さすがは侯爵家の家だ、とても広い。廊下はピカピカだし、壁には綺麗な模様が描かれているし、時々額縁に入った絵が飾られたり、高そうな壺が置かれている。

お金が余っていますと言う感じが強い。でもデッセンバーグの服装の様なゴテゴテした感じはしなくて、こういった美術品に疎い僕でも素直に凄いと感じられる。何度か角を曲がって1つの応接室と思われる部屋に案内された。誘われてデッセンバーグがズカズカ入るが相変わらず遠慮が無い。しかも少し部屋に入った途端に不機嫌になった。ふんと鼻を鳴らす。

「ちっ!」

小さく舌打ちしたのを聞いたぞ。こんな豪華な応接室にどんな文句があると言うのか。

大きめの部屋の中央にある1つのソファには3人は座れそうだ。それが幅広なテーブルを挟んで2つある。横には暖炉があるが焚かれて居ない。暖炉の反対側には窓があって外が見える。どうやら中庭のようだ。

デッセンバーグがギロリと案内したメイドを睨む。顔を青くしたメイドは一瞬怯えたが俯いて我慢したようだ。手が白くなるほどエプロンの端を握りしめている。
ドカドカと歩いて行ってデッセンバーグはソファの一つにドカリと座った。

デッセンバーグの視線がなくなったメイドが部屋の隅に設えてあったワゴンの上の道具を使って紅茶を入れてデッセンバーグの前に置く。俺はエレと見合わせてデッセンバーグの方に近づき、座ろうとするとデッセンバーグにギロリと睨まれた。どうやら座ってはいけないようだ。

メイドもデッセンバーグにしか紅茶をだしていない。仕方ないからデッセンバーグが座っているソファの後ろにエレと並んで立った。イライラしてるデッセンバーグが2杯目の紅茶を飲み干した頃にドアが開いて、玄関で会った執事が姿を現してひとりの貴族が姿を見せた。

金髪の恰幅の良い30代の貴族だった。ゴツいと言った印象で鍛えているのが貴族らしい煌びやかな服を着ていても分かった。そして眉も唇も太かった。それでいてギョロリとした青い瞳が何故か愛らしく見えて悪者に見えなかった。デッセンバーグはその男が現れると直ぐにその場で立ち上がり身体を捻りがらお辞儀をした。こんなデッセンバーグ見たことが無い。何時もなら同じくらいそっくり返ってる。

「オーステナイト様、お呼びにデッセンバーグ参上致しました」

僕はデッセンバーグの声を合わせて右手を胸の前に横にしてお辞儀をした。マルチアスさんがこうしろと言ったのだ。

「おお、デッセンバーグ、ご苦労」

声を掛けられたのはデッセンバーグたが僕も頭を元の位置に戻す。声を掛けられなければお辞儀したままでないといけないらしい。

「それで、後ろの少年が例の英雄か?」

「はっ!」

デッセンバーグが肯定した。デッセンバーグに向いていた視線が僕に向いた。そして隣のエレにも向く。エレも僕と同じ様に緊張しているようだった。

「隣の少女はパーティメンバーか?」

エレが口を開くより早くデッセンバーグが答えた。

「はっ、さようで御座います。」

「パーティ名は何と言う?」

明らかにエレに向かって質問したオーステナイト侯爵にデッセンバーグが答える。

「『草原の風』と言いまして、少年は『ブルク』少女は『エレ』と申します」

あくまでも僕達が直接答えるのは阻止するつもりのようだ。まぁ、黙ってろと言われたしなあ。内心デッセンバーグに呆れながら僕は平常心を保とうとした。そんな顔をしていたからかオーステナイト侯爵から直接聞かれてしまった。

「ブルクよ、サウザンドトレントは強かったか?」

デッセンバーグが答えるかと思ったけど名指しされたので答えない訳にはいかなかった。

「はい、僕には手に余る強敵でした。」

僕の答えに満足したのかオーステナイト侯爵がエレにも質問した。

「エレよ、ブルクはどんな英雄だ?」

名指しすればデッセンバーグに答えさせる事が無いと得心したのか答え難い質問をした。

「ええと、ゆ、勇敢だと思います」

「なるほどな。自分のランクよりも高いランクの魔物に他人の冒険者を助ける為に果敢に挑戦したか・・・儂もそこに居たかった」

何だかとんでも無い事を言い出したぞ、この人。

「お戯れが過ぎますぞ、オーステナイト様」

デッセンバーグがオーステナイト侯爵の言葉を咎めた。失言だったと気付いたのかオーステナイト侯爵は後頭部を掻いた。

「はは、どうにも強い者に憧れてしまってな」

見た目から言ったらオーステナイト侯爵はA級冒険者並の迫力があるけどなぁ。

「それでだな、ブルク君。君にはBランクになって貰いたい」

えっ、Bランク?オーステナイト様の言っている意味が分からなかった。

「何を言い出すやら・・・幾らオーステナイト様と言えど横暴が過ぎますぞ」

怒気を含んだ声音でデッセンバーグが言った。なのにオーステナイト様はどこ吹く風と言った感じだった。

「駄目なのか?デッセンバーグ」

「むろん、駄目でございます。コヤツはつい最近報奨でCランクになったばかり。報奨でランクを上げても2階級特進でC-3と言った所でしょう」

「むむむ、英雄なのに」

オーステナイト様は報奨が少ないとばかりに膨(ふく)れる。何故あなたが膨(ふく)れるの?

「しょせん、一度だけのたまたまです。下手にランクを上げて死なれでもしたらオーステナイト様の名に傷が付きますぞ」

名前が傷つくと言われてオーステナイト様はハッとして手を打った。

「なら、こうしよう。報奨は報奨でもメダルの褒章はどうだ?そうだな、平民にやれるのは・・・『黒綬褒章』はどうだ?」

全て否定しては不味いと思ったのかデッセンバーグは答えた。

「それは良い考えですが、ランク上げと褒章は多すぎますが、その褒章は私が頂きましょう」

「なぬ?何故デッセンバーグにやらねばならぬのだ?」

「何、私デッセンバーグは冒険者ギルドのマスターです。立派な英雄と呼ばれるような冒険者を育てた褒美と言う事ですよ。これならば素晴らしい英雄がいる都市の侯爵様と褒め称えられるでしょう」

どうやらオーステナイト侯爵は僕を英雄に仕立てて自慢したいらしい。そこにデッセンバーグが乗っかろうとしているようだ。

「うん、悪くない考えだ。よし、『黒綬褒章』はデッセンバーグに贈ろう」

オーステナイト様もデッセンバーグもニマニマして僕よりも嬉しそうだ。悪巧みの大人が2人いたよ。隣のエレも何も言わないけど呆れているみたいだ。

「あのーオーステナイト様」

僕は声を掛けた。デッセンバーグは口を開くなとは言ったけど褒美をくれるつもりのある相手がいるんだから欲しいよ。2人がなんだとばかりにこちらを向いた。

「なんだね、英雄ブルク」

「僕、欲しい物があるんです」

僕に欲しい物があると聞いてオーステナイト様は喜んだよ。

「なんだね」

評判を気にはするけど子供には基本的には優しいオーステナイト様のようだ。

「剣が欲しいんです。実はサウザンドトレントとの戦いでボロボロになっちゃって」

豚鬼王オークキングと戦いで魔剣クルナワを紛失してるんだ。ノベムの話では豚鬼王オークキングの目に突き刺さっていたらしいんだけど。病院生活を出て冒険者の再開でお金も無かった僕はノベムから剣を借りっぱなしだった。
ノベムの錬金術の習作らしいから切れ味は悪くないけどとうとうサウザンドトレント戦でボロボロになった。サウザンドトレントの賞金で新しく買うつもりだったけどオーステナイト様に頼んでみることにした。

「ふむ、なるほど。なら、わが家の宝物庫から好きな剣を持って行くと良い。それなりの名刀がある筈だ。」

おお、言ってみるものだ。

「その代わり儂に貰ったと言うのだぞ」

オーステナイト様に念を押された。

「ありがとうございます、ついでにエレにも何か頂けませんか?」

「ん?魔法使い向けの武器か。あまりコレクションは無いが気に入った物があればやろう」

「こら、ブルク!オーステナイト様に欲をかくな」

デッセンバーグだって欲をかいて黒綬褒章をねだった癖にそんな事言えないと思う。

「ははは、良いぞ。」

やっぱりオーステナイト様は良い人みたいだ。オーステナイト様が手を叩いて執事を呼んだ。そして僕達を宝物庫に案内してやるように命令した。僕達がオーステナイト様の前を辞する時にデッセンバーグが言った。

「お前達はそのまま帰れ、儂はオーステナイト様と話があるからな」

言うだけ言うとデッセンバーグはオーステナイト様に向き合って何かを話始めた。もう、僕たちには興味が無いみたいだった。僕達は部屋の外に出ると執事の後に付いて歩き、地下室に行く扉の前で待たされた。
すると、執事は別の若そうな執事を連れて来た。手には何かを持っていた。

「あれってなんだろう」

エレに聞くとエレが答えた。

「目録じゃないかしら、宝物庫の宝が何があるか記録してるのよ、きっと」

執事は若い執事に任せると直ぐに何処かに行ってしまった。若い執事が手に持っていた目録みたいな物を扉に押し当てるとカチャと鍵の開く音がした。目録が鍵の役割をした魔導具みたいだった。

「中は暗いのであまり僕から離れないで下さい。僕の回りだけしか明るくならないので離れると迷子になりますよ」

そう若い執事が言ってドアを押して中に入った。僕達も続く。
下り階段を少し降りていくと確かに目録を中心に数mしか明るく無いので危険だった。若い執事が目録を捲って何かを確かめて暗がりの中を進んだ。
明かりがなくても夜目の効く僕なら歩けそうに思えたのに全くの暗闇で何も分からなかった。この部屋は少しも明かりが入らない様な魔導具みたいだった。保管の問題だろうか、保安の問題なのか分からない。

若い執事の後を右へ左へ曲がってある棚の前で止まった。棚と上には煌びやかな剣の様な物が置いてあった。持ち手の装飾が綺麗で柄も何かの文様が入っている。鞘も金銀の装飾模様が入って居るけど凄く細身で少し軟に見えた。

「これは『ビゼンオサフネ』と言う東洋の『カタナ』です。切れ味は抜群な片刃となってます。」

長さ的には僕にも振るえると思えたけど片刃では使い難い。

「綺麗ですけど僕は両刃の剣が欲しいんです」

僕が言うと若い執事は目録を見て何か操作した。それから頷いて移動した。棚を幾つかずれるとそこには確かに剣があった。持ち手が長くて両手持ちと思える。剣は幅広く長かった。僕の掌2個分くらいの幅に僕の身長程の長さがあった。鞘は無く剥き出しの剣先は影のせいか黒ぐろとしていた。

「妖刀『ベルセルク』だそうです。かつて戦場で1000人以上を切ったせいで所持者に『狂乱』のスキルを与えるそうです。」

駄目だろう、こんな剣は。危なすぎる。

「いや、もっと普通な剣は有りませんか」

僕は若い執事に要望を伝えた。

「う~ん、そう言われても。」

そう言いながら若い執事は目録を弄ると隣に移動した。

「これはどうです?『アルティマエッジ』と言うそうです。」

そこにあったのは両手持ちの持ち手に少し大きめの柄が付いた長さが僕の今持っている剣より少し短い剣だった。見た目は普通な形をしていたけど全ての色が赤かった。エレが怖がって僕の腕に捕まる。

「うわぁ凄いなこれ」

僕の感想に若い執事が説明してくれた。

「何処かの遺跡に封印されていた剣らしいです。色が色だけに誰も直接触りません。鑑定持ちが調べたようですが名前以外は何も分からなかったらしいです。」

ヤバそうー!触ったら絶対何かあるよね。

「資料に依るとこれを見付けた冒険者はいつの間にか行方不明になってますね」

ヤバイなんてもんじゃないよね。

「止めておいた方が良いよ」

エレが囁いた。だから僕は言った。

「こんなの要りません!」

大袈裟でなく手を振って拒否をした時に隣にぽつんと片手剣の持ち手だけが置いてあるのに気付いた。

「これは何ですか?」

僕が若い執事に聞くと目録で見てくれて教えてくれた。

「魔剣ホトムラと言うそうです。」

そう言ってむんずと掴んで見せた。

「こんなふうに持っても何も起きませんし、持ち手だけなので『アルティマエッジ』と一緒に買ったらしいです。鑑定だと『持ち手を選ぶ魔剣、意のままに刃を作ることが出来る』らしいです。」

ぽいっと若い執事に『魔剣ホトムラ』を投げられて慌てて僕が掴む。途端に心に声が聞こえた。

>やっとまともな剣士に出会えたぞ

思わず周りを見渡してしまった。そんな僕の行動にエレが不思議そうな顔をした。ああこれは魔剣クルナワと同じなんだと分かった。

>汝が我を使うか?

心のなかで肯定すると『魔剣ホトムラ』が了解した。

「執事さん、僕がこれを貰います。」

僕の言葉に執事さんが驚いた。

「そんな持ち手しか無い剣とも言えない物で良いのかい」

エレもなんとも言えない顔で見てる。

>我を使うなら魔力を捧げよ

魔剣クルナワはそんな事言わなかった。

>何、あんな駄剣と一緒にするな。さあ早く

言われるままに僕が魔力を持ち手から伝えると本来刃があるべきところからオレンジ色に光輝く刀身が現れた。

「わっ、わわ。何ですかいったい!」

「びっくり!」

若い執事さんとエレが驚いた。

「魔力を通すと剣先が生まれるようだよ」

僕の言葉に若い執事が言った。

「さすがは英雄ですね!」

魔力を止めると剣先が短くなって消えた。これは便利かも。

「はは、良いものを見付けた」

僕が満足した事に若い執事が得心してエレに言った。

「次はあなたですね。杖をお探しとか。こちらです。」

こころなしかエレに対する態度が丁寧な気がする。若い執事が案内したのは少し奥まった壁際だった。そこには引き出しが沢山あり、壁には多くの短杖が飾られていた。壁一杯に並んだ杖はほとんど短い物だったけれど全て装飾が異なっていた。
壁を見たエレが感嘆の声を上げ、引き出しを引いてそこに並べられた杖を見てまた驚いた。

「凄いわ、いったい幾つあるのかしら」

呟きに似た言葉に若い執事が答えた。

「ええと、約3000種類程あるようです。長い杖が良いようでしたらそちらの右手に立て掛けられていますよ」

若い執事が言いながら移動したので慌ててついて行く。言った様に引き出しの横には数10本の長い杖が立て掛けられてあった。それのどれもか魔石を装飾に用いてあった。僕には杖の良し悪しなんて分からないけれど変わった杖ばかりだった。

エレは片側から順番に見て行ったけれどなかなか決められないでいた。僕が欲しい訳でもないけれど暇だったので腰に吊るした魔剣『ホトムラ』に触れて聞いて見た。

>ふむ、あの女性の魔力の相性はそこの太くて重そうな杖かそこに落ちている短くて歪んだ杖だろうさ

魔剣ホトムラが言うように立て掛けてある杖の端に杖の持ち手の先が折れたような杖が転がっていた。目の前には棍棒と見間違う様な形の杖があった。

「エレ、この杖とかあそこの杖とかどうだ?」

僕は杖選びに夢中になっていたエレに声を掛けた。夢中になり過ぎて僕の声が聞こえなかったとみえて、もう一度僕はエレに呼び掛けた。

「エレ、これも杖らしいよ」

棍棒の様な杖をエレの目の前に差し出すとやっと気付いてくれた。

「えっ、何これ?」

棍棒の様な杖を手にして言った事は驚きだった。

「見た目ほど重くないわ、不思議」

細くなった持ち手の端に黄色い魔石が埋め込まれていて魔力を増幅してくれるのかも知れない。
暫くエレが棍棒の様な杖を振り回して言った。

「凄いわ、これ。軽いだけじゃなくて魔力が使い易いわ。ん~~風と砂かしら」

楽しそうに棍棒の様な杖を振りかざすエレを他所に僕はもう一つの杖を拾った。持ってみると分かるがどう見てもレイピアの持ち手だった。しかも刃先が無い。手を防御する為の覆いには沢山のの魔石が埋め込まれている。それだけを見ると儀式用のレイピアの壊れた物にしか見えなかった。これも杖なのか疑問だったけどエレに渡して見ることにした。

「エレ、これも杖みたいだけど」

棍棒の様な杖を置いて、僕から受け取ったエレが言った。

「ヤダ!ブルクたらいたずらしないでよ。どう見ても壊れたレイピアじゃない」

「嫌、イタズラなんてしてないよ。此処にあった物だもの」

疑心暗鬼になりながらエレが杖として使おうとして驚いた。

「あはははは、ほんとだ。これ杖ね」

レイピアの刃先の部分が魔力で生まれて来た。

「土の魔法を使ってみたら刃先が生まれたわ。ええっとじゃあ、これはどうだ!」

エレが魔力の属性を変えたみたいで刃先が消えてそこにつむじ風が生まれた。

「凄い凄い!この小さな魔石は飾りじゃなくてあたしの魔力を増幅してるわ」

どうやら属性の全てを使えるエレの意思に答えて魔法が発動するらしい。

「あー、これも悪くないわね」

エレは沢山ある短杖では無くてレイピアの持ち手の様な杖か棍棒の様な杖のどちらかにするか迷っている。

「ん~~、ねぇ、ブルクならどちらが良いと思う?」

うわぁ、これってどっちかを選んじゃ駄目なヤツだ。前にもエレの服選びに付き合ってどっちが良いと聞かれた事があったけどその時は何も考えずに僕の好きな方を言ったら怒られたんだよね。どっちが良い・・・・・・と言う質問にはこっちって言っちゃあいけない事を学んだよ。

「どっちもエレが使うには合うと思うよ。良く考えて決めると良いよ」

僕的には棍棒の様な杖は危ない魔法使いになるし、レイピアの持ち手みたいな杖は見掛けが悪いから普通の杖が良いと思うけどどうなんだろう。
悩みに悩んだ末にエレは最初に見ていた素朴だけど大きな魔石の付いた杖に決めたんだ。若い執事は良くぞエレの選びを我慢したよ。きっと彼も女性には苦労してるんだろうと思う。














    
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