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真実の世界
破滅が近づき
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突然目の前に現れると言った速さだった。
逃げてきた冒険者の方向の森がざわめいたと思ったら木々を破壊してその魔物が現れた。赤い体色の獅子の身体に老人の顔、皮膜の翼と猛毒蛇の尻尾、3列に並ぶ歯を持ち人語を解す存在、それがマンティコアの筈。
なのにそのマンティコアは少し違った。
その時の僕達は知らなかったけれどそもそもマンティコアはS級の魔物で地上の森にいる筈が無い。存在が観察されたのはイヌイ(北西)のダンジョン「無限の草原」だった。
斑な黒色をした体色、ひとつ目の歪んだ老人の顔、頭まで伸びていた3匹の毒蛇の尻尾、痩せ細った山羊の身体をしていたキメラのような魔物だった。
それでも毛の固い牛型の魔物グラブホーンよりも体高は高い。それが言った。
「メェ~~~!旨そうだメェ~!」
隙かさずザインとナメシお父様が前に立つ。その後ろに僕が動きをフォローする為の位置取りをする。エレのデバフ魔法が短い詠唱と共に飛んだ。あれは素早さを落とすデバフだった。
エレの真後ろにはレーアが守る様に立ち失った魔力を回復させた。更にエレが僕達3人に緑色のバフを掛ける。
これはスタミナアップのバフだった。既に僕達「草原の風」は戦う体勢が決まっていた。
正面からザインが大剣で攻撃を異形のマンティコアの顔に仕掛けた。それを迎え討とうとする異形のマンティコアの前足にナメシお父様の槍が赤みを帯びて伸びた。
むん!てぇい!
ザインとナメシお父様の裂帛の気合いがワンテンポ遅れて発させる。攻撃が届くとひとつ目の横を切られ、持ち上げた方前足から血を吹き出せた異形のマンティコアが轟くような鳴き声を上げた。
メゲェ~!
出会いは制されたが別の意思を持つかのような3つの毒蛇がナメシお父様に向かうのを僕は走り込んで魔剣クルナワで斬りつける。
2本は切り落とせたけど1本は傷つけただけで終わってしまった。僕の姿を視界の隅で捕らえて居たのか、傷付いて血を飛ばしながらナメシお父様に向かった毒蛇を回転する槍で防いだ。ほぼ死角だった筈なのに凄い!
顔から血を流して視界が悪くなったのか異形のマンティコアは頭を振って血を飛ばして来た。
チャンスと見たザインが異形のマンティコアの右側に回り込み前足を切り刻む。ナメシお父様は反対側の前足を執拗に攻撃していく。
動きを止めで攻撃をするつもりな様だった。異形のマンティコアの背面の毒蛇を排除したので攻撃は出来ない筈だと僕はそのまま回り込んだ。
目も見えづらい筈なのに気配でも分かるのか、後脚で地面を蹴り起こし、背部に飛ばして来た。
僕はその土砂を躱しきれず左側面に受けて数メートル飛ばされて転がった。エレの速度低下のバフを受けて尚もスピートはそれほど落ちて居なかった。
草が含まれた土砂を払って僕が立ち上がった時には僕を与しやすしと見たのか向きを変えてこちらに突っ込んで来る所だった。
バウゥ゙~
やけにご機嫌な声を出していた。攻撃された脚の怪我も何のそのだ。頭を下げて口を大きく開く。口の中には無数の乱杭歯が生えて涎が流れている。
エレが何か叫んだ様だだけど答えている暇が無い。僕は身体強化を最大にして避けるように飛び上がった。異形のマンティコアの口は避けられたけどその額に向かってぶつかった。
メ!メ、メ、メ、メゲェー!!!!!
僕の取り揃えられた足が異形のマンティコアの額にめり込んでいた。踝までめり込んだせいでこちらも動きが取れない。僕ごと異形のマンティコアは叫びながら頭を振った。
二度三度と振られて目が回り掛けた時に木々の枝を突き抜けて空高く飛ばされる。
眼下に森が見えた。なかなか見られない絶景の下、木々の間から異形のマンティコアが身体を横たえ悶絶しているのが見えた。
このままだと地上に衝突、その前に木々の枝で強打しそうだ。
闇魔法を使って異形のマンティコアの体液だらけの下半身を覆い足から落下した。魔導具で出来ている僕の足はとても重いのだ。
顔を両腕で庇いながら葉っぱの間を落ちた時に影を広げた。木々の影の中に下半身が沈みとぷんと水の中に落ちるような感触を受けて着地が出来た。
直ぐに影を解くと少し地面に足先が埋まっていた。ふぅ、無事で良かった。自分に安堵する。少し遠くからレーアが僕を探す声がしたので大きな声で応じると駆け寄って来た。
「ブルク!だ、大丈夫なの?!」
地面に座り込んでいる僕を見つけたレーアが言った。レーアを見上げるようにして僕は答えた。
「ああ、何とかなったよ」
あちこち擦り傷だらけで葉っぱまで付けている僕にレーアが回復魔法を掛けてくれるとギシギシ言っていた体中の痛みが引いた、さすがレーアの魔法だ。
「ありがとう、レーア」
レーアの差し出す手を掴んで立ち上がる。立ち上がった僕の周りを見回してレーアがまた言った。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、レーアのお陰でね。空高く飛んだ時はこりゃ危ないと思ったけど魔法が上手く行って良かった」
何をどうしたのか分からないと言う顔をレーアばしていた。僕はレーアと一緒にみんなの元に戻った。エレは信じられない物を見る目で僕を見ていたし、ザインは何故か呆れていた。
唯一心配して寄ってきたのはナメシお父様だった。
「大丈夫か、ブルク?とんでも無く高くまで飛ばされて居たが余り心配を掛けるな」
「ブルクはいつも無理してるのさ」
ザインが何か分かってるとも言いたげに言った。
「そうよね、サウザンドトレントとの戦いでも両足を酷使していたし。問題ない?」
「サウザンドトレント?」
ナメシお父様は知らないのだ。
「そうだな、あの時も両足を武器にしてたな」
ザインがエレの言葉に同意していた。あの時だってあの攻撃が最善だっただけさ。今回は偶然なんだけどね。
「まぁ、なんにしてもこんな魔物を倒せすとはブルクも凄いな」
攻撃力の塊みたいなナメシお父様に言われると嬉しい。みんなで倒れている異形のマンティコアを見た。魔物図鑑や伝説などで言っているマンティコアとは色々と違う部分が多かった。
「ひとつ目、山羊の身体とは随分なマンティコアだ」
ザインが言うとナメシお父様が言った。
「違いもさることながらこんな場所に出てくる事が場違い過ぎる。さっき逃げて言った冒険者達に何処から出てきたのか確認する必要があるだろう」
ザインとナメシお父様が色々と検分している側でエレが僕に聞いた。
「ねぇ、これって影に収納できるの?」
確かにデカくてグラブホーンより二周りは大きい。
「やってみる」
僕は闇魔法を使って影を伸ばし異形のマンティコアの大きさにしたけど身体半分が落ち込むだけでそれ以上沈まなかった。マンティコアに遭うまでも魔猪や一角兎などを狩って収納しているせいかも知れなかった。収納を諦めて影を消すとザインが言った。
「収納できなかったか。冒険者ギルドに言って回収して貰うしか無いな。見張りを残して報告に行こう」
誰が残り、誰が戻るかで少し揉めたけどザインがレーアを連れて報告に戻り、エレと僕とナメシお父様が見張りに立つことになった。
エレは待ち時間を使って僕の足の魔導具を見てくれる事になったからだ。ナメシお父様はもう子供じゃないのに僕の事が心配ならしい。
ザインとレーアの姿が見えなくなるとエレが僕を木の根本に座らせて足の様子を確認してくれた。やっぱり身体強化をしていてもかなりの負荷が掛かったらしく罅も入っていると言った。
僕達の様子をみながら周りをナメシお父様が警戒してくれた。幸いな事に異形のマンティコアの魔力圧に近場の魔物は逃げていたらしく、対処しなければ成らないような魔物は現れなかった。
干し肉やパンを軽く取って休憩していると太陽が傾いて夕日になって来た。やっぱり疲れていたようで気付いたら僕とエレは互いに凭れ掛かれ合いながら眠っていた様だった。
その間ナメシお父様がずっと起きていてくれたらしい。ザワザワとやって来た人の気配で僕達は目を覚ました。ザインとレーアが冒険者ギルドの職員を連れてやって来たのだった。その中にはマルチアスさんがいた。
指揮を執るのだろう、僕達では無く異形のマンティコアを見て職員にあれこれ指図し始めた。
その後に僕たちが呼ばれた。ナメシお父様にもマルチアスさんの質問が飛び、色々と聞かれた。
その中で異形のマンティコアが何処からやって来たのか分かった。どうやらダンジョン崩落の闇の亀裂の端の近くで魔物狩りをしていた冒険者達の前に亀裂の中から現れたらしい。
端にはダンジョンに降りていく道など無いから崖を登って来たらしい。あんな巨体がと思ったけど山羊などは崖を登るものだと笑いながら説明された。
それにしても異常な事だと真剣な顔でマルチアスさんが言った。僕達も昨日マルチアスさんに魔物の異変の話を聞いたばかりだった。
それから追加情報として昨日は軍神の息吹からダンジョン崩落の闇の中の異常報告を受けたと教えてくれた。
ダンジョンの中には居なかった蟻の魔物アーミーアントが出たらしい。蟻を大きくした上に体中に棘を生やした魔物で集団戦を仕掛けてくる魔物らしくA級のパーティー軍人の息吹でも苦戦したらしい。
その話を聞いて僕はなんだか感激していた。
ダンジョンの中をどれくらい入ったんだろうとかどんな魔物が居たのか興味を惹かれてならなかった。
蟻の魔物アーミーアントはやっぱりイヌイ(北西)の無限の草原ダンジョンに生息する魔物だと言うのだ。
ダンジョンに何かの異変が起きて居るのは確かだろうとマルチアスさんは言った。異形のマンティコアは解体されて各部位を荷馬車に載せて帰る事になり、僕達も一緒に帰った。
冒険者ギルドではギルド証の更新もされてナメシお父様もB-5となって「草原の風」パーティーは晴れてB級パーティーとして認められたのだった。
異形のマンティコアの手続きや支払いも冒険者ギルドが代行してギルド証に記録してくれる事になった。概算査定でも金貨300枚は下らないだろうと言われた。全員で均等しても凄い金額になるよ。
更にナメシお父様の肩慣らしで狩った魔物も換金して金貨3枚くらいになってたんだ。それはナメシお父様に渡したよ。
だから特にお金が無かったナメシお父様は助かったと言っていた。幾らお金があると言っても息子に借りるのは気が引けていたらしい。そんな事は気にしなくて良いのに。
やっぱり大金が入ったらかみんなで食べ放題の店で夕食を食べて宿に帰った。同じ宿だからまるで僕達パーティーの家のような気分だよ。
◆
翌日の午後、僕達はエレの故郷の村に向かっていた。
実はみんなで冒険者ギルドで新たな依頼を探していたらエレの故郷のオコノ村の近くの遺跡で魔物が出てると言う話を首席受付嬢のエメレーヌさんから聞かされたんだ。
依頼報酬は金貨5枚で僕達には魅力的では無かったけど一度は行ってみようと話していた所だから丁度良かった。
ただ、出てくる魔物が要領を得ないらしい。砂漠に出てくる一般的な魔物では無いらしい。相手の魔物の強さが判明していないので余り強くないパーティーには依頼し辛く困っていたらしい。
午前中に準備して昼食をウィードラドの街で取った。エレの故郷オコノ村はヒツサル(西南)の灼熱の岩塊ダンジョンの近くにあり、砂漠が近くにある。その砂漠の中に遺跡があるそうだ。
旅程として4日だから僕達は荷馬車を借りて向かった。
先ず向かうのはオコノ村のエレの 実家だ。少しエレは照れていた。森が少なくなり草原が増えてから次第に小さな木々の点在が目立つようになって3日目の野営をしてエレと一緒に見張りをした。
出現する魔物も小物が多く普通の鼠や兎が目立っていて野営の危険性が低くなっていた。
明り取りと暖の為の焚き火を前にふたりでお喋りをする。明日は故郷だからか少し早口になるエレと話しながらオコノ村の退屈な日常が分かった。子供の為に砂漠に近付くことは禁止されていても度胸試しに近付いて怒られたり、荒地での小動物の狩りとかアランとの思い出が沢山あるようだった。
今でもアランへの思いがあるんだろうか、そんな疑問を感じて僕はエレに問いかける。
「随分とエレもやんちゃだったんだね。いつもアランに付いて回ってたの?」
焚き火の灯りで揺れる表情が良くわからない。
「そうね、他に友達と言える人が居なかったのよ。小さな村だし仕事と言える仕事は無いからね」
前に聞いた時は大人達は砂漠の遺跡の周りで拾える古代魔導具や水晶石を売ることで生業にしていると言っていた。古代魔導具が遺跡の近くから何故見つかるのかも水晶石があるのかも知らないらしい。
最も古代魔導具が見つかるのも年に数回程度で、交易商が来た時に売るのだそうだ。
水晶石は宝石のような半透明な石だそうで砂の中に埋もれていることが多い。それを掘り起こしてまとめてやはり交易商に売るそうだ。こちらは重さで売買しているらしい。
土地は痩せているけど井戸水は何とか出るので穀物などを買い求める。それから荒野での小動物も食料となると言っていた。水晶石が主な収入源なのでそれを手に入れ無いのは死活問題らしい。
今回の依頼の魔物の心当たりをエレに聞いてみたけど思い当たる魔物なんて居ないらしい。と言うか砂漠に出そうなスコーピオン系やワーム系の大型の魔物なんて出た事も見た事もないそうだ。せいぜいが少し大きめの蛇系か蜥蜴系だけで、村人でも退治出来るレベルなんだそうだ。
ではどんな魔物が出たのだろう。ザインとナメシお父様が交代で御者をしている間に僕とレーアはエレから話を聞いていた。ザインとナメシお父様に申し訳なさを感じて帰り道は御者の練習をしようと思っていた。荒野の外れに石とレンガの建物が見えて来てエレが言った。
「あれがオノコ村よ」
防壁や柵も無く建物が点在し、真ん中に共用の井戸があるらしい。石をどけただけの道を通って共用井戸の近くに止めてると村人が珍しさに顔を出して来た。
エレが荷馬車から降りるとエレの顔を知ってる村人が近付いて口々にエレに聞いてきた。エレが大きな声でみんなに聞こえる様に説明した。
「私達はオノコ村の依頼を受けて冒険者として来たの!だから、村長の所に行かせて!」
「エレ!!」
村人の後ろからエレの名前を呼んだ女性が村人を掻き分けて近づいた。
「お母さん!」
ふたりが抱き合う。その後ろを男性がゆっくりと歩いて来た。ハグを止めたエレがその男性にも飛び付く。
「お父さん!」
どうやらエレの家族の様だった。しばらく何やら話してからエレが僕達の方へ声を掛けた。
「村長に挨拶に行きましょう」
荷馬車を放置出来ないので僕が見張りで残ろうとしたらレーアが代わりに残るから僕に行けと言われてしまった。その時レーアから僕がリーダーなんだからと言われて思い出した。『草原の風』を作った時エレと話して僕が引き受けたままだった。う~ん、どうなんだろう。
悩みながらナメシお父様の後を追って少し大きめのレンガ造りの家へ入った。エレが村長らしき老人にみんなを紹介して僕に気づくと言った。
「彼がパーティーリーダーのブルクです。」
白髮と白髭を揺らしながら老人が言った。
「ほう、お若いのに素晴らしいですな。儂が村長のディストですじゃ」
進められるままに僕達は椅子に座り依頼内容を確認する事になった。座ったまま、何故か誰も口を開かないので僕がディスト村長に聞く。
「なんでも、知らない魔物が出て生活が立ち行かなくなったとか」
「そうですじゃ、砂漠に行った者達が襲われていますのじゃ」
「怪我人とかは?」
「それが襲うと言っても近付かない様に脅されているみたいだそうじゃ」
おかしな事を言うディスト村長だ。魔物なら人を喰う。しかもその魔物の姿が分からないらしい。
「遺跡に近づくと砂が噴き出すらしいのじゃ。それでも近付こうとすると砂が動いて戻されると言う不思議な事が起きていると言う事ですじゃ」
話を聞けば不思議な話だった。そんな魔物の心当たりが無かったので僕はザインとナメシお父様に振ると二人とも心当たりが無いと言う。再度ディスト村長に聞くと村長は言った。
「オノコ村の伝承に少しそれらしい話はあるのじゃ」
昔オノコ村は緑豊かな森の中の都市だったけど、そこに勇者が現れて全てを破壊してしまったので女神様が封印したのが砂漠の遺跡だと言うのだ。
そして女神様は勇者が近付けない様に守護者を置いたと言うとても無茶苦茶な話だった。
「そんな話は聞いた事無いぞ」
「勇者伝説の話は聞いたな」
ナメシお父様とザインが反応して言った。ナメシお父様がル・シェール神聖国の事に詳しくないのは分かるとしてザインは何か知ってるらしい。
「他の都市での噂話だが勇者には精霊ウィンデーネが仲間としていたと言う。前にエレに話したろう?」
そうだった。エレは精霊ウィンデーネの力があるんじゃないか疑惑の話だった。
「なんじゃそれは?エレの婆さんとか知り合いじゃがそんな話は聞いた事ないぞ?」
あれ?話が違うなあ。まぁ、それはそれとして。
「姿の見えない魔物ですか」
「そうじゃ、だから冒険者ギルドからも少し吹っかけられたわ」
それで金貨5枚なのか。まぁこんな辺鄙な村だとかなり無理をしたんだろうな。エレの話でも高い古代魔導具でも出ないとそんなお金は稼げないらしいし。
「それで受けてくれるんじゃな?」
「取り敢えずは調査から始めます」
僕は無難な答え方をした。
出てくる魔物がどんな相手なのか分からないと話に成らないしね。それにエレも家族と少し話もしたいだろうからと僕達はディスト村長の案内で空き家に向かった。
そんなに離れて居ない場所だったから村長の家を出て空き家にナメシお父様とザインを残して荷馬車で待っているレーアの所へ走った。
この頃はもうほとんど違和感無しに走れる。
気分良くレーアに声を掛けて荷馬車をナメシお父様とザインが待つ空き家に進めた。荷馬車が珍しらしく子供たちが寄っては逃げて遊んでる。
特に追い払う事も無く僕達は空き家に到着した。
荷馬車から少し荷物を降ろして空き家に入った。椅子に座って雑談していたナメシお父様とザインがこちらを振り向く。
僕達も椅子に座って僕からレーアに事情を説明しておいた。そうこうしている内にエレがやって来た。
「あれ、もう家族とは良いの?」
僕の問い掛けに少し照れた様にエレが答えた。
「ええ、両親も安心してくれたみたいでまた、夜に戻ると言って出てきたわ」
「まぁ急いで砂漠に行くことも無いから情報を集めたいな」
ザインの言葉にエレが言った。
「なら、あたしが案内するわ。と言っても1軒しか無いけどね」
エレの後を付いて歩くと直ぐだった。
村長の家と変わらないくらいの大きさで中に入ると酒場だった。村人と思われる老人や若者が数名、昼間だと言うのに酒を飲んでいた。そしてその反対側には何やら良くわからない魔導具や食料と思われる麻袋が積み上げられていた。
「ここは?」
僕がエレに聞くと彼女は言った。
「オコノ村唯一の酒場にして食料店の『ブランの店』へようこそ!」
大げさな身ぶりをしておどけて見せるけど照れていた。それを見ていた酒場の店主らしき髭面の男が言った。
「おー、エレひさしぶりだな。外が騒がしいと思ったら帰って来たのか」
「ブランさん、仕事だよ、仕事!」
「はん、まだ冒険者止めて無かったのか?アランはどうした?」
アランの名前を出されて少し顔を顰めたけれど直ぐに言い返す。
「アランとは別れたの!彼は彼で聖都ハラドで冒険者してる・・・筈」
まあ、パーティーを追い出されたエレにはその後を知る由もない。エレの言葉にブランと言われた店主が絶句した。軽くからかった積りが地雷を踏んだのだ。
「すまん」
軽くブランは謝って酒場の仕事に戻った。
すると周りでエレを見ていた村人がエレに口々に声を掛け始めた。それはみんな慰めの言葉だった。よっぽどエレとアランの仲は村人に知れていたらしい。
その村人の声にいちいちエレは弁明していた。ザインとナメシお父様はそんなエレを生暖かい眼で見ながら酒場のカウンターに座り、ブランに注文しつつエレのパーティー仲間であることを告げて名乗った。レーアはどうして良いのか分からないらしくエレの後ろに立ってわたわたしていた。
僕はエレの援護をするべくエレの所へ行ってパーティー仲間であることを告げて名乗った。遠くから冷やかす声が上がったけど無視して最近の遺跡の話しを聞いてみた。
わたわたしてるレーアにも冷やかしをあげる者も居たけど同じパーティーメンバーだとして話を聞いて回って貰った。もちろん遺跡に出る魔物の話しだ。それによると
※その姿を見ていない
※鳴き声らしきものは聞いた
※大体が近づくことを邪魔される
と言う内容でやっぱり要領が得ない。
こうなったらもう直接遺跡に向かい体験するしかないと判断していると少し酔ったザインとナメシお父様が合流した。酔ったふたりを見るとふたりとも首を横に振った。やっぱり新しい情報は無かったらしい。
「そうでも無い。鳴き声が何かの警告に聞こえた者がいるらしい。そうブランが言っていた。」
どうやら酒場の店主ブランと仲良くなったらしい。同年代らしかった。一応ブランの店で食事を取れるとの事で空いていた丸テーブルで食事を取る事になった。
店主ブランが鳴き声が何かの警告に聞こえたと言う者が来たら教えてくれると言う事だった。エレも交えて話し合いをしたけど行く事が決定した。魔物の退治だがその姿も見なければどうしようも無いのだ。
出て来た食事は野営している時よりもましと言うレベルの豆料理だったが一緒に焼きたてのパンがあったので満足出来た。野営中は堅く乾燥したパンにスープを浸した食事だったのだから。
荷馬車を仕立てた僕達はまだ上等な方なのだ。固いパンが嫌ならリゾットが食べられたのだから。
パンの味の批評をしながら待っているとカウンタからブランの声がザインに声が掛かった。どうやらお目当ての人物が現れたらしい。
その人はカウンタに座り掛かりながらブランから話しを聞いたらしい。ブランからゴブレットを受け取り、一口飲んでから僕達の方へ振り向いた。
みんなの視線が凍った。なぜなら若い声なのにその人は左目から頭に掛けて剣を受けた傷を負っていたからだ。くすんだ金髪に透き通った碧眼の精悍な男だった。傷さえいなければさぞモテるだろうと言う容貌だった。
エレ、レーア、僕は顔に驚いたのだけどザインとナメシお父様は違う意味で驚いていた。
「「ジン!」」
知っている人物だったみたいだ。ジンと呼ぼれた顔に傷のある男もまたザインとナメシお父様に驚いていた。唇が釣り上がり言った。
「ザインにナメシじゃないか、奇遇だな」
再びザインとナメシお父様はカウンタに戻って酒を酌み交わしながら話をし始めた。聞こえ漏れる話しを纏めると昔パーティーを組んでいた仲間らしい。
『竜の顎』と言うA級パーティーに誘われる形でジンが抜けたらしい。当時C級だった彼は仲間に鍛えられ忽ちA級の冒険者になったらしい。その後の文字通り竜に挑んで敗れ、内紛時に剣の傷を受けて冒険者を止めてオコノ村に流れて来たらしい。ザインがオコノ村に来た経緯をジンに説明して親交を温めたのは終わった。
ジンが僕達の方を振り返って言った。
「こんなだから俺はまともに剣も振れねえ。でも村人はもっと振れねえ。だから保険のつもりで村人を守るつもりで付いて行ったんだ。そうしたら遺跡を前にして砂嵐が起きて凄い鳴き声が聞こえたのさ」
『何人も通さない。唯一通れるのは血筋の正しき者』
聞こえた事を村人に村長にも話したけど誰も信じてくれなかったそうだ。毎日酒場通いしている酔っぱらいの戯言と思われたらしい。
ザインとナメシお父様はそれからジンと付き合ったらしいけど僕達は村長の用意してくれた家に戻って休んだ。
◆
翌朝、僕達が起きても2人は起きなかった。たぶん旧友と深酒したのだろうと起きるまで休ませるつもりでのんびりとレーアとふたりで朝食を食べているとエレが乗り込んで来た。そして二日酔いと愚痴っているふたりにレーアの回復魔法を掛けさせて無理やり酔いを覚まさせられた。
「ジンを交えてあの言葉を考えたんだが、やっぱり『血筋の正しき者』ってえのは勇者の事じゃないかと言うことになったんだ」
ザインがそう言うとナメシお父様も頷いて言った。
「だから俺たちが近付いても追い返される可能性が高い。でもザインの言うエレの事が正しければまた違った結果になるかも知れない。興味津々なジンも付いてくるそうだ」
「えっ?ジンさんも?」
僕が驚いていると笑いながらナメシお父様が言った。
「片目が見えなくてもジンは強いぞ。少なくても俺の槍を全く受け付けない」
びっくりな話だった。攻撃力の塊のようなナメシお父様の槍捌きを往なす剣士なんて信じられない。僕だけじゃなくてエレもレーアも驚いている。
「ただの保険なんて言ってるがジンが砂漠の蛇や蠍を片付けているのさ。大物の魔物は無理でも腕は鈍っちゃいないぞ」
ザインがそう保証した。
ここへ来るまでもナメシお父様に剣の扱いを習って来たがジンに教えを請うのもありだなんてナメシお父様が笑いながら言った。
二日酔いを強制的に直したふたりは食欲が無いとは言え軽く朝食を取って全員で家を出た。すると壁に凭れかかったジンがそこにいた。いつから居たんだろう、全く気配が無かったよ。
逃げてきた冒険者の方向の森がざわめいたと思ったら木々を破壊してその魔物が現れた。赤い体色の獅子の身体に老人の顔、皮膜の翼と猛毒蛇の尻尾、3列に並ぶ歯を持ち人語を解す存在、それがマンティコアの筈。
なのにそのマンティコアは少し違った。
その時の僕達は知らなかったけれどそもそもマンティコアはS級の魔物で地上の森にいる筈が無い。存在が観察されたのはイヌイ(北西)のダンジョン「無限の草原」だった。
斑な黒色をした体色、ひとつ目の歪んだ老人の顔、頭まで伸びていた3匹の毒蛇の尻尾、痩せ細った山羊の身体をしていたキメラのような魔物だった。
それでも毛の固い牛型の魔物グラブホーンよりも体高は高い。それが言った。
「メェ~~~!旨そうだメェ~!」
隙かさずザインとナメシお父様が前に立つ。その後ろに僕が動きをフォローする為の位置取りをする。エレのデバフ魔法が短い詠唱と共に飛んだ。あれは素早さを落とすデバフだった。
エレの真後ろにはレーアが守る様に立ち失った魔力を回復させた。更にエレが僕達3人に緑色のバフを掛ける。
これはスタミナアップのバフだった。既に僕達「草原の風」は戦う体勢が決まっていた。
正面からザインが大剣で攻撃を異形のマンティコアの顔に仕掛けた。それを迎え討とうとする異形のマンティコアの前足にナメシお父様の槍が赤みを帯びて伸びた。
むん!てぇい!
ザインとナメシお父様の裂帛の気合いがワンテンポ遅れて発させる。攻撃が届くとひとつ目の横を切られ、持ち上げた方前足から血を吹き出せた異形のマンティコアが轟くような鳴き声を上げた。
メゲェ~!
出会いは制されたが別の意思を持つかのような3つの毒蛇がナメシお父様に向かうのを僕は走り込んで魔剣クルナワで斬りつける。
2本は切り落とせたけど1本は傷つけただけで終わってしまった。僕の姿を視界の隅で捕らえて居たのか、傷付いて血を飛ばしながらナメシお父様に向かった毒蛇を回転する槍で防いだ。ほぼ死角だった筈なのに凄い!
顔から血を流して視界が悪くなったのか異形のマンティコアは頭を振って血を飛ばして来た。
チャンスと見たザインが異形のマンティコアの右側に回り込み前足を切り刻む。ナメシお父様は反対側の前足を執拗に攻撃していく。
動きを止めで攻撃をするつもりな様だった。異形のマンティコアの背面の毒蛇を排除したので攻撃は出来ない筈だと僕はそのまま回り込んだ。
目も見えづらい筈なのに気配でも分かるのか、後脚で地面を蹴り起こし、背部に飛ばして来た。
僕はその土砂を躱しきれず左側面に受けて数メートル飛ばされて転がった。エレの速度低下のバフを受けて尚もスピートはそれほど落ちて居なかった。
草が含まれた土砂を払って僕が立ち上がった時には僕を与しやすしと見たのか向きを変えてこちらに突っ込んで来る所だった。
バウゥ゙~
やけにご機嫌な声を出していた。攻撃された脚の怪我も何のそのだ。頭を下げて口を大きく開く。口の中には無数の乱杭歯が生えて涎が流れている。
エレが何か叫んだ様だだけど答えている暇が無い。僕は身体強化を最大にして避けるように飛び上がった。異形のマンティコアの口は避けられたけどその額に向かってぶつかった。
メ!メ、メ、メ、メゲェー!!!!!
僕の取り揃えられた足が異形のマンティコアの額にめり込んでいた。踝までめり込んだせいでこちらも動きが取れない。僕ごと異形のマンティコアは叫びながら頭を振った。
二度三度と振られて目が回り掛けた時に木々の枝を突き抜けて空高く飛ばされる。
眼下に森が見えた。なかなか見られない絶景の下、木々の間から異形のマンティコアが身体を横たえ悶絶しているのが見えた。
このままだと地上に衝突、その前に木々の枝で強打しそうだ。
闇魔法を使って異形のマンティコアの体液だらけの下半身を覆い足から落下した。魔導具で出来ている僕の足はとても重いのだ。
顔を両腕で庇いながら葉っぱの間を落ちた時に影を広げた。木々の影の中に下半身が沈みとぷんと水の中に落ちるような感触を受けて着地が出来た。
直ぐに影を解くと少し地面に足先が埋まっていた。ふぅ、無事で良かった。自分に安堵する。少し遠くからレーアが僕を探す声がしたので大きな声で応じると駆け寄って来た。
「ブルク!だ、大丈夫なの?!」
地面に座り込んでいる僕を見つけたレーアが言った。レーアを見上げるようにして僕は答えた。
「ああ、何とかなったよ」
あちこち擦り傷だらけで葉っぱまで付けている僕にレーアが回復魔法を掛けてくれるとギシギシ言っていた体中の痛みが引いた、さすがレーアの魔法だ。
「ありがとう、レーア」
レーアの差し出す手を掴んで立ち上がる。立ち上がった僕の周りを見回してレーアがまた言った。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、レーアのお陰でね。空高く飛んだ時はこりゃ危ないと思ったけど魔法が上手く行って良かった」
何をどうしたのか分からないと言う顔をレーアばしていた。僕はレーアと一緒にみんなの元に戻った。エレは信じられない物を見る目で僕を見ていたし、ザインは何故か呆れていた。
唯一心配して寄ってきたのはナメシお父様だった。
「大丈夫か、ブルク?とんでも無く高くまで飛ばされて居たが余り心配を掛けるな」
「ブルクはいつも無理してるのさ」
ザインが何か分かってるとも言いたげに言った。
「そうよね、サウザンドトレントとの戦いでも両足を酷使していたし。問題ない?」
「サウザンドトレント?」
ナメシお父様は知らないのだ。
「そうだな、あの時も両足を武器にしてたな」
ザインがエレの言葉に同意していた。あの時だってあの攻撃が最善だっただけさ。今回は偶然なんだけどね。
「まぁ、なんにしてもこんな魔物を倒せすとはブルクも凄いな」
攻撃力の塊みたいなナメシお父様に言われると嬉しい。みんなで倒れている異形のマンティコアを見た。魔物図鑑や伝説などで言っているマンティコアとは色々と違う部分が多かった。
「ひとつ目、山羊の身体とは随分なマンティコアだ」
ザインが言うとナメシお父様が言った。
「違いもさることながらこんな場所に出てくる事が場違い過ぎる。さっき逃げて言った冒険者達に何処から出てきたのか確認する必要があるだろう」
ザインとナメシお父様が色々と検分している側でエレが僕に聞いた。
「ねぇ、これって影に収納できるの?」
確かにデカくてグラブホーンより二周りは大きい。
「やってみる」
僕は闇魔法を使って影を伸ばし異形のマンティコアの大きさにしたけど身体半分が落ち込むだけでそれ以上沈まなかった。マンティコアに遭うまでも魔猪や一角兎などを狩って収納しているせいかも知れなかった。収納を諦めて影を消すとザインが言った。
「収納できなかったか。冒険者ギルドに言って回収して貰うしか無いな。見張りを残して報告に行こう」
誰が残り、誰が戻るかで少し揉めたけどザインがレーアを連れて報告に戻り、エレと僕とナメシお父様が見張りに立つことになった。
エレは待ち時間を使って僕の足の魔導具を見てくれる事になったからだ。ナメシお父様はもう子供じゃないのに僕の事が心配ならしい。
ザインとレーアの姿が見えなくなるとエレが僕を木の根本に座らせて足の様子を確認してくれた。やっぱり身体強化をしていてもかなりの負荷が掛かったらしく罅も入っていると言った。
僕達の様子をみながら周りをナメシお父様が警戒してくれた。幸いな事に異形のマンティコアの魔力圧に近場の魔物は逃げていたらしく、対処しなければ成らないような魔物は現れなかった。
干し肉やパンを軽く取って休憩していると太陽が傾いて夕日になって来た。やっぱり疲れていたようで気付いたら僕とエレは互いに凭れ掛かれ合いながら眠っていた様だった。
その間ナメシお父様がずっと起きていてくれたらしい。ザワザワとやって来た人の気配で僕達は目を覚ました。ザインとレーアが冒険者ギルドの職員を連れてやって来たのだった。その中にはマルチアスさんがいた。
指揮を執るのだろう、僕達では無く異形のマンティコアを見て職員にあれこれ指図し始めた。
その後に僕たちが呼ばれた。ナメシお父様にもマルチアスさんの質問が飛び、色々と聞かれた。
その中で異形のマンティコアが何処からやって来たのか分かった。どうやらダンジョン崩落の闇の亀裂の端の近くで魔物狩りをしていた冒険者達の前に亀裂の中から現れたらしい。
端にはダンジョンに降りていく道など無いから崖を登って来たらしい。あんな巨体がと思ったけど山羊などは崖を登るものだと笑いながら説明された。
それにしても異常な事だと真剣な顔でマルチアスさんが言った。僕達も昨日マルチアスさんに魔物の異変の話を聞いたばかりだった。
それから追加情報として昨日は軍神の息吹からダンジョン崩落の闇の中の異常報告を受けたと教えてくれた。
ダンジョンの中には居なかった蟻の魔物アーミーアントが出たらしい。蟻を大きくした上に体中に棘を生やした魔物で集団戦を仕掛けてくる魔物らしくA級のパーティー軍人の息吹でも苦戦したらしい。
その話を聞いて僕はなんだか感激していた。
ダンジョンの中をどれくらい入ったんだろうとかどんな魔物が居たのか興味を惹かれてならなかった。
蟻の魔物アーミーアントはやっぱりイヌイ(北西)の無限の草原ダンジョンに生息する魔物だと言うのだ。
ダンジョンに何かの異変が起きて居るのは確かだろうとマルチアスさんは言った。異形のマンティコアは解体されて各部位を荷馬車に載せて帰る事になり、僕達も一緒に帰った。
冒険者ギルドではギルド証の更新もされてナメシお父様もB-5となって「草原の風」パーティーは晴れてB級パーティーとして認められたのだった。
異形のマンティコアの手続きや支払いも冒険者ギルドが代行してギルド証に記録してくれる事になった。概算査定でも金貨300枚は下らないだろうと言われた。全員で均等しても凄い金額になるよ。
更にナメシお父様の肩慣らしで狩った魔物も換金して金貨3枚くらいになってたんだ。それはナメシお父様に渡したよ。
だから特にお金が無かったナメシお父様は助かったと言っていた。幾らお金があると言っても息子に借りるのは気が引けていたらしい。そんな事は気にしなくて良いのに。
やっぱり大金が入ったらかみんなで食べ放題の店で夕食を食べて宿に帰った。同じ宿だからまるで僕達パーティーの家のような気分だよ。
◆
翌日の午後、僕達はエレの故郷の村に向かっていた。
実はみんなで冒険者ギルドで新たな依頼を探していたらエレの故郷のオコノ村の近くの遺跡で魔物が出てると言う話を首席受付嬢のエメレーヌさんから聞かされたんだ。
依頼報酬は金貨5枚で僕達には魅力的では無かったけど一度は行ってみようと話していた所だから丁度良かった。
ただ、出てくる魔物が要領を得ないらしい。砂漠に出てくる一般的な魔物では無いらしい。相手の魔物の強さが判明していないので余り強くないパーティーには依頼し辛く困っていたらしい。
午前中に準備して昼食をウィードラドの街で取った。エレの故郷オコノ村はヒツサル(西南)の灼熱の岩塊ダンジョンの近くにあり、砂漠が近くにある。その砂漠の中に遺跡があるそうだ。
旅程として4日だから僕達は荷馬車を借りて向かった。
先ず向かうのはオコノ村のエレの 実家だ。少しエレは照れていた。森が少なくなり草原が増えてから次第に小さな木々の点在が目立つようになって3日目の野営をしてエレと一緒に見張りをした。
出現する魔物も小物が多く普通の鼠や兎が目立っていて野営の危険性が低くなっていた。
明り取りと暖の為の焚き火を前にふたりでお喋りをする。明日は故郷だからか少し早口になるエレと話しながらオコノ村の退屈な日常が分かった。子供の為に砂漠に近付くことは禁止されていても度胸試しに近付いて怒られたり、荒地での小動物の狩りとかアランとの思い出が沢山あるようだった。
今でもアランへの思いがあるんだろうか、そんな疑問を感じて僕はエレに問いかける。
「随分とエレもやんちゃだったんだね。いつもアランに付いて回ってたの?」
焚き火の灯りで揺れる表情が良くわからない。
「そうね、他に友達と言える人が居なかったのよ。小さな村だし仕事と言える仕事は無いからね」
前に聞いた時は大人達は砂漠の遺跡の周りで拾える古代魔導具や水晶石を売ることで生業にしていると言っていた。古代魔導具が遺跡の近くから何故見つかるのかも水晶石があるのかも知らないらしい。
最も古代魔導具が見つかるのも年に数回程度で、交易商が来た時に売るのだそうだ。
水晶石は宝石のような半透明な石だそうで砂の中に埋もれていることが多い。それを掘り起こしてまとめてやはり交易商に売るそうだ。こちらは重さで売買しているらしい。
土地は痩せているけど井戸水は何とか出るので穀物などを買い求める。それから荒野での小動物も食料となると言っていた。水晶石が主な収入源なのでそれを手に入れ無いのは死活問題らしい。
今回の依頼の魔物の心当たりをエレに聞いてみたけど思い当たる魔物なんて居ないらしい。と言うか砂漠に出そうなスコーピオン系やワーム系の大型の魔物なんて出た事も見た事もないそうだ。せいぜいが少し大きめの蛇系か蜥蜴系だけで、村人でも退治出来るレベルなんだそうだ。
ではどんな魔物が出たのだろう。ザインとナメシお父様が交代で御者をしている間に僕とレーアはエレから話を聞いていた。ザインとナメシお父様に申し訳なさを感じて帰り道は御者の練習をしようと思っていた。荒野の外れに石とレンガの建物が見えて来てエレが言った。
「あれがオノコ村よ」
防壁や柵も無く建物が点在し、真ん中に共用の井戸があるらしい。石をどけただけの道を通って共用井戸の近くに止めてると村人が珍しさに顔を出して来た。
エレが荷馬車から降りるとエレの顔を知ってる村人が近付いて口々にエレに聞いてきた。エレが大きな声でみんなに聞こえる様に説明した。
「私達はオノコ村の依頼を受けて冒険者として来たの!だから、村長の所に行かせて!」
「エレ!!」
村人の後ろからエレの名前を呼んだ女性が村人を掻き分けて近づいた。
「お母さん!」
ふたりが抱き合う。その後ろを男性がゆっくりと歩いて来た。ハグを止めたエレがその男性にも飛び付く。
「お父さん!」
どうやらエレの家族の様だった。しばらく何やら話してからエレが僕達の方へ声を掛けた。
「村長に挨拶に行きましょう」
荷馬車を放置出来ないので僕が見張りで残ろうとしたらレーアが代わりに残るから僕に行けと言われてしまった。その時レーアから僕がリーダーなんだからと言われて思い出した。『草原の風』を作った時エレと話して僕が引き受けたままだった。う~ん、どうなんだろう。
悩みながらナメシお父様の後を追って少し大きめのレンガ造りの家へ入った。エレが村長らしき老人にみんなを紹介して僕に気づくと言った。
「彼がパーティーリーダーのブルクです。」
白髮と白髭を揺らしながら老人が言った。
「ほう、お若いのに素晴らしいですな。儂が村長のディストですじゃ」
進められるままに僕達は椅子に座り依頼内容を確認する事になった。座ったまま、何故か誰も口を開かないので僕がディスト村長に聞く。
「なんでも、知らない魔物が出て生活が立ち行かなくなったとか」
「そうですじゃ、砂漠に行った者達が襲われていますのじゃ」
「怪我人とかは?」
「それが襲うと言っても近付かない様に脅されているみたいだそうじゃ」
おかしな事を言うディスト村長だ。魔物なら人を喰う。しかもその魔物の姿が分からないらしい。
「遺跡に近づくと砂が噴き出すらしいのじゃ。それでも近付こうとすると砂が動いて戻されると言う不思議な事が起きていると言う事ですじゃ」
話を聞けば不思議な話だった。そんな魔物の心当たりが無かったので僕はザインとナメシお父様に振ると二人とも心当たりが無いと言う。再度ディスト村長に聞くと村長は言った。
「オノコ村の伝承に少しそれらしい話はあるのじゃ」
昔オノコ村は緑豊かな森の中の都市だったけど、そこに勇者が現れて全てを破壊してしまったので女神様が封印したのが砂漠の遺跡だと言うのだ。
そして女神様は勇者が近付けない様に守護者を置いたと言うとても無茶苦茶な話だった。
「そんな話は聞いた事無いぞ」
「勇者伝説の話は聞いたな」
ナメシお父様とザインが反応して言った。ナメシお父様がル・シェール神聖国の事に詳しくないのは分かるとしてザインは何か知ってるらしい。
「他の都市での噂話だが勇者には精霊ウィンデーネが仲間としていたと言う。前にエレに話したろう?」
そうだった。エレは精霊ウィンデーネの力があるんじゃないか疑惑の話だった。
「なんじゃそれは?エレの婆さんとか知り合いじゃがそんな話は聞いた事ないぞ?」
あれ?話が違うなあ。まぁ、それはそれとして。
「姿の見えない魔物ですか」
「そうじゃ、だから冒険者ギルドからも少し吹っかけられたわ」
それで金貨5枚なのか。まぁこんな辺鄙な村だとかなり無理をしたんだろうな。エレの話でも高い古代魔導具でも出ないとそんなお金は稼げないらしいし。
「それで受けてくれるんじゃな?」
「取り敢えずは調査から始めます」
僕は無難な答え方をした。
出てくる魔物がどんな相手なのか分からないと話に成らないしね。それにエレも家族と少し話もしたいだろうからと僕達はディスト村長の案内で空き家に向かった。
そんなに離れて居ない場所だったから村長の家を出て空き家にナメシお父様とザインを残して荷馬車で待っているレーアの所へ走った。
この頃はもうほとんど違和感無しに走れる。
気分良くレーアに声を掛けて荷馬車をナメシお父様とザインが待つ空き家に進めた。荷馬車が珍しらしく子供たちが寄っては逃げて遊んでる。
特に追い払う事も無く僕達は空き家に到着した。
荷馬車から少し荷物を降ろして空き家に入った。椅子に座って雑談していたナメシお父様とザインがこちらを振り向く。
僕達も椅子に座って僕からレーアに事情を説明しておいた。そうこうしている内にエレがやって来た。
「あれ、もう家族とは良いの?」
僕の問い掛けに少し照れた様にエレが答えた。
「ええ、両親も安心してくれたみたいでまた、夜に戻ると言って出てきたわ」
「まぁ急いで砂漠に行くことも無いから情報を集めたいな」
ザインの言葉にエレが言った。
「なら、あたしが案内するわ。と言っても1軒しか無いけどね」
エレの後を付いて歩くと直ぐだった。
村長の家と変わらないくらいの大きさで中に入ると酒場だった。村人と思われる老人や若者が数名、昼間だと言うのに酒を飲んでいた。そしてその反対側には何やら良くわからない魔導具や食料と思われる麻袋が積み上げられていた。
「ここは?」
僕がエレに聞くと彼女は言った。
「オコノ村唯一の酒場にして食料店の『ブランの店』へようこそ!」
大げさな身ぶりをしておどけて見せるけど照れていた。それを見ていた酒場の店主らしき髭面の男が言った。
「おー、エレひさしぶりだな。外が騒がしいと思ったら帰って来たのか」
「ブランさん、仕事だよ、仕事!」
「はん、まだ冒険者止めて無かったのか?アランはどうした?」
アランの名前を出されて少し顔を顰めたけれど直ぐに言い返す。
「アランとは別れたの!彼は彼で聖都ハラドで冒険者してる・・・筈」
まあ、パーティーを追い出されたエレにはその後を知る由もない。エレの言葉にブランと言われた店主が絶句した。軽くからかった積りが地雷を踏んだのだ。
「すまん」
軽くブランは謝って酒場の仕事に戻った。
すると周りでエレを見ていた村人がエレに口々に声を掛け始めた。それはみんな慰めの言葉だった。よっぽどエレとアランの仲は村人に知れていたらしい。
その村人の声にいちいちエレは弁明していた。ザインとナメシお父様はそんなエレを生暖かい眼で見ながら酒場のカウンターに座り、ブランに注文しつつエレのパーティー仲間であることを告げて名乗った。レーアはどうして良いのか分からないらしくエレの後ろに立ってわたわたしていた。
僕はエレの援護をするべくエレの所へ行ってパーティー仲間であることを告げて名乗った。遠くから冷やかす声が上がったけど無視して最近の遺跡の話しを聞いてみた。
わたわたしてるレーアにも冷やかしをあげる者も居たけど同じパーティーメンバーだとして話を聞いて回って貰った。もちろん遺跡に出る魔物の話しだ。それによると
※その姿を見ていない
※鳴き声らしきものは聞いた
※大体が近づくことを邪魔される
と言う内容でやっぱり要領が得ない。
こうなったらもう直接遺跡に向かい体験するしかないと判断していると少し酔ったザインとナメシお父様が合流した。酔ったふたりを見るとふたりとも首を横に振った。やっぱり新しい情報は無かったらしい。
「そうでも無い。鳴き声が何かの警告に聞こえた者がいるらしい。そうブランが言っていた。」
どうやら酒場の店主ブランと仲良くなったらしい。同年代らしかった。一応ブランの店で食事を取れるとの事で空いていた丸テーブルで食事を取る事になった。
店主ブランが鳴き声が何かの警告に聞こえたと言う者が来たら教えてくれると言う事だった。エレも交えて話し合いをしたけど行く事が決定した。魔物の退治だがその姿も見なければどうしようも無いのだ。
出て来た食事は野営している時よりもましと言うレベルの豆料理だったが一緒に焼きたてのパンがあったので満足出来た。野営中は堅く乾燥したパンにスープを浸した食事だったのだから。
荷馬車を仕立てた僕達はまだ上等な方なのだ。固いパンが嫌ならリゾットが食べられたのだから。
パンの味の批評をしながら待っているとカウンタからブランの声がザインに声が掛かった。どうやらお目当ての人物が現れたらしい。
その人はカウンタに座り掛かりながらブランから話しを聞いたらしい。ブランからゴブレットを受け取り、一口飲んでから僕達の方へ振り向いた。
みんなの視線が凍った。なぜなら若い声なのにその人は左目から頭に掛けて剣を受けた傷を負っていたからだ。くすんだ金髪に透き通った碧眼の精悍な男だった。傷さえいなければさぞモテるだろうと言う容貌だった。
エレ、レーア、僕は顔に驚いたのだけどザインとナメシお父様は違う意味で驚いていた。
「「ジン!」」
知っている人物だったみたいだ。ジンと呼ぼれた顔に傷のある男もまたザインとナメシお父様に驚いていた。唇が釣り上がり言った。
「ザインにナメシじゃないか、奇遇だな」
再びザインとナメシお父様はカウンタに戻って酒を酌み交わしながら話をし始めた。聞こえ漏れる話しを纏めると昔パーティーを組んでいた仲間らしい。
『竜の顎』と言うA級パーティーに誘われる形でジンが抜けたらしい。当時C級だった彼は仲間に鍛えられ忽ちA級の冒険者になったらしい。その後の文字通り竜に挑んで敗れ、内紛時に剣の傷を受けて冒険者を止めてオコノ村に流れて来たらしい。ザインがオコノ村に来た経緯をジンに説明して親交を温めたのは終わった。
ジンが僕達の方を振り返って言った。
「こんなだから俺はまともに剣も振れねえ。でも村人はもっと振れねえ。だから保険のつもりで村人を守るつもりで付いて行ったんだ。そうしたら遺跡を前にして砂嵐が起きて凄い鳴き声が聞こえたのさ」
『何人も通さない。唯一通れるのは血筋の正しき者』
聞こえた事を村人に村長にも話したけど誰も信じてくれなかったそうだ。毎日酒場通いしている酔っぱらいの戯言と思われたらしい。
ザインとナメシお父様はそれからジンと付き合ったらしいけど僕達は村長の用意してくれた家に戻って休んだ。
◆
翌朝、僕達が起きても2人は起きなかった。たぶん旧友と深酒したのだろうと起きるまで休ませるつもりでのんびりとレーアとふたりで朝食を食べているとエレが乗り込んで来た。そして二日酔いと愚痴っているふたりにレーアの回復魔法を掛けさせて無理やり酔いを覚まさせられた。
「ジンを交えてあの言葉を考えたんだが、やっぱり『血筋の正しき者』ってえのは勇者の事じゃないかと言うことになったんだ」
ザインがそう言うとナメシお父様も頷いて言った。
「だから俺たちが近付いても追い返される可能性が高い。でもザインの言うエレの事が正しければまた違った結果になるかも知れない。興味津々なジンも付いてくるそうだ」
「えっ?ジンさんも?」
僕が驚いていると笑いながらナメシお父様が言った。
「片目が見えなくてもジンは強いぞ。少なくても俺の槍を全く受け付けない」
びっくりな話だった。攻撃力の塊のようなナメシお父様の槍捌きを往なす剣士なんて信じられない。僕だけじゃなくてエレもレーアも驚いている。
「ただの保険なんて言ってるがジンが砂漠の蛇や蠍を片付けているのさ。大物の魔物は無理でも腕は鈍っちゃいないぞ」
ザインがそう保証した。
ここへ来るまでもナメシお父様に剣の扱いを習って来たがジンに教えを請うのもありだなんてナメシお父様が笑いながら言った。
二日酔いを強制的に直したふたりは食欲が無いとは言え軽く朝食を取って全員で家を出た。すると壁に凭れかかったジンがそこにいた。いつから居たんだろう、全く気配が無かったよ。
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