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冒険者Dとダドンの街

塩漬け案件1ー砦と料理人ゾット

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俺=ギリは街の衛兵に挨拶して北門から歩いて出る。
まだ、朝早く暗いが問題ない。街道を走り出せばあっと言う間にトップスピードに達し、街道を外れた遠くに城塞が見えて来た。この辺からのんびりとあるき出す。
城塞には目の良い奴が詰めて居るから何時もと違う様相を見せると気付かれる。
街道に大岩が見えて来たので街道を外れて右に入っていくと小川が流れている。これを渡ってから川沿いに進む。
岩肌が消えて植物が茂り始め、森が見えてくる。
更に30分も進むと小さな滝があった。此処で小休憩を取る。
移動速度が早すぎても怪しまれるから時間調整だ。ギリの能力でも朝早く出ても昼前に着くのがやっとなので小1時間程のんびり過ごす。
森の中には小動物が住んでいて水辺に寄ってくる事もある。
滝の裏側に移動していると滝に水飲みに小動物がやって来た。あれはウサギのようだ。2匹だから番かも知れない。

俺=ギリは脅さない様に滝の裏側にある洞窟を進む事にした。この洞窟は城塞に繋がっている秘密の抜け穴だ。連絡や人員の交代で使われる。所々松明が掲げられ薄暗いが歩けないことはない。
うねったり登ったり下ったりしているがわざとそのような作りになっているらしい。城塞から追手が来たときのためらしい。

突当りに階段が見えた。やっと到着だ。昼を過ぎている筈だ。
腹を押さえると俺=ギリの腹が鳴った。階段を登り切ると小部屋に出る。
小部屋のドアを開けるとそこは城塞内部だ。

出口には見張りの2人が立っていた。新人のクライと俺とこの城塞に来たマテァだ。軽く挨拶をすると挨拶を返される。

「何かあったのか、ギリ」
「ああ、親分に報告だ。塩漬けが溶かされたらしい。」
2人が笑いだした。

「A級のソロ冒険者が受けたらしいぜ」
と言うと更に腹を抱えて笑う。

「誰だよ、そいつ!何処の馬の骨だ?」
「さぁな、とにかく報告さ」

俺=ギリは軽く躱して城塞の奥へ歩いて行く。
曲がりくねった壁の中を進むとドアがあった。
ドアを開けて暫く進み、更に突き当たりの階段を登るとまた通路がある。
更に進むと立派なドアのついた部屋があった。

ここが強奪王オレンの執務室だ。ドアをノックすると中から応答があった。ゆっくりとドアを開けて中に入る。
目の前に大きな机に向かって大男が座っている。強奪王オレンだ。
机の隣にあるソファに座っている男が話し掛けていた。この男は副将のバイダル。オレンの右腕だ。
オレンが俺=ギリに気が付き、こちらに声を掛ける。

「ちょと待ってろ、直ぐに終わる。」
オレンはバイダルに少し話すと再びこちらを向いた。

「それで何事だ。」
バイダルも俺=ギリを見る。

「はい、実は・・・」と話す。

暫く黙って考えていたがオレンはバイダルに知ってるかと聞く。
俺の名前を言うがバイダルは否定した。知らないらしい。

「分かった、取り敢えず様子を見よう。ご苦労だった。」
そう言ってオレンは机から小袋を取り出し、俺=ギリに投げた。

「報酬だ。追加の情報が入ったらまた教えろ」
と言った。頭を下げて部屋を出る。

部屋を出る時ドアの前に居た二人組に睨まれる。見張りで筋肉の塊のようなアシとルイは俺のような弱い奴か嫌いなのだ。

俺=ギリは部屋を出ると階段を降り、食堂を目指す。腹が減ったのだ。

食堂は調理場のカウンターの近くに5席しか無かった。とても狭い。席に座ってゆっくり食事をする時間があまり無い職場だからである。
本来の城塞の役割は敵が来た時に迅速に兵を出陣させる為にある。訓練も交替制で常時行われるのだ。兵の最小単位が5人の為食堂もその数なのだ。

俺=ギリはカウンターから頭を調理場に見せ、声を掛ける。

「ゾッド、飯をくれ!」
調理場で昼食の後片付けをしていた髭面の眼帯男が腕まくりしたままこちらを向いた。

「おう、ギリじゃねえか、報告か?」
口を動かしていても手は休めない。洗い物の濡れた手を腰の手拭きで拭ってから

「賄いしかねぇが、良いか?」
と聞いてくる。

「はっ、食えりゃ何でも構わねぇ」
と返す。

出された賄いは調理場の奥で立食いしていた若い料理番と同じ肉のペーストと屑野菜の炒め物と黒パンだった。旨かった。
食べ終わった後、話があるとゾッドに言うと片付け後に休憩に入るから隣のゾッドの部屋で待ってろと言われる。ククク、好都合じゃねぇかと小さく呟きながら隣の部屋に移動する。

ゾッドの部屋は簡素だった。食堂で顔を合わせる事はあっても部屋に入るのは初めてだ。料理人らしく整えられ清潔に保たれ、机の上には何かの本とランプしか無かった。
ゾッドは強奪王オレンやバイダルと同じ元騎士だったそうだ。騎士の位は剛・堅・硬とあって堅までなった強者だ。
ベッドに座って何気に本の表紙を見ると『甘い菓子の作り方』とあった。あの面で菓子まで作りやがるのかと笑う。
暫くするとドアを開けてのっそりとゾッドが入って来た。

「それで、何の用だ?」
問いかけに答えるように立ち上がり、人のベッドに何時までも座ってる訳にはいかないのでゾッドと入れ替わりにゾッドの肩に手をやる。
スキル『無貌』を行使して俺=ゾッドとなるとゾッドは泥人形となってベッドに倒れ込んだ。ゾッドにゃあ悪いがその姿を有効活用させて貰うぜ。

泥人形のゾッドを見下ろしながら記憶を#弄_まさぐ_#る。
都合のいい事に強奪王オレンは毒殺などを恐れて信頼の置けるゾットに特別に作らせた食事を自分の部屋に持ち込ませて居た。その時に部屋に居るのはオレンとバイダルとゾットだけになる。
バイダルも一緒に喰うらしい。羨ましい事で!くくくっ!ならば一緒に奪って殺るまでさ。
ゾットの部屋にあった紐で泥人形のゾットを縛り上げ、ギリと同じ様にベッドの下に押し込んて置く。では、暫くはゾットで居ようか。

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