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第一章 「始まりの日」
少年と少女
しおりを挟む光の粒子を纏うヴィアは、一歩ずつ男へと近付いていく。
今までリンクスと対峙していた男も、眉をひそめてヴィアと無数に飛び交う光の粒子に視線を向けた。
それもそのはずで、光を放つ人間などいるはずがなく、初めて見るのだから当然だろう。
「何だぁ、その光は?」
それに気付いたリンクスも、思わずヴィアに顔を向ける。
その行為は戦闘中に隙を見せることになるが、そんなことに構う余裕など今のリンクスにはありはしなかった。
「まさか、力を使いこなせるのか…!?」
常人では有り得ない、特異且つ異質な力。
それを見せるヴィアは立ち止まり、ローブの中からゆっくりと右手を差し出し、そして男を指差した。
「最後に命令します。残る者達を連れて、今すぐこの町から立ち去りなさい」
真っ直ぐな瞳で、ヴィアは男に強い口調で命令する。
「何だと?俺に指図するつもりか?」
しかし、男は聞く耳を持たなかった。
そればかりか、男は下品な笑い声を上げながら、震える腹を叩いて挑発した。
「これは警告です。もし聞き入れられないというのなら、今ここであなたに制裁を下します」
「やれるものならやってみろってんだ!!その生意気な口を黙らせてやるぜ!!」
「ならば、「再生」の力にひれ伏しなさい」
警告を聞き入れない男に対し、最後に言い切ったヴィアの表情に最早慈悲はなかった。
ヴィアが腕を振るうと、光の粒子は一斉に飛び散り、そしてその周囲に集ったかと思えば、先程見た光の剣が次々に構築されていく。
数にして五本の光の剣は宙に舞い、そしてその刃先は男を捉えており、これには男も息を呑んだ。
男が何かを言おうとしたのも束の間、それを遮るように光の剣は次々とその場から飛び出し、男を取り囲む。
そしてその刃は男の身体を次々と斬り付けていき、男は悲鳴を上げた。
「びぎゃああああぁぁあああぁ!!」
本来ならば光という無機質なものであるにもかかわらず、その剣はまるで意志を持っているかのように自律的に動き、そして斬られた男の身体からは鮮血が噴き出る。
光で構築された剣はレイピアのように細身であり、一撃の威力は決して高くはないものの、その本数によって次々と繰り出される非人為的な速度と追撃が何よりも驚異的であり、男の身体を赤く染める。
男は膝をつき、そのまま地面に崩れ落ちそうになるが、両手をついてその巨体を支え、歯を剥きだしてヴィアを睨み付けた。
「小娘がああぁぁ…!!」
その顔は、ヴィアを連れて行くという当初の下卑たものではなく、怒りと苦痛で歪んだものへと変貌していた。
しかし、一方のヴィアは依然として立ち尽くしたままであり、再び腕を振るって宙に舞う光の剣を操る。
それらは再び男に向かうが、男も手にしていた棍棒を乱暴に振り回す。
一心不乱に振り回された棍棒は一本の光の剣に当たると、それは光の粒子を撒き散らして消え去った。
光といえども、普通の武器と同じように防御する術はある。
半ば反射的に行われた防衛行動だったが、この事実に気付いた男は、水を得た魚のように活気を取り戻し、雄叫びを上げながら棍棒を振るう速さを上げ、次々と光の剣を打ち消していった。
残る剣の数が二本となったヴィアは、表情こそ変えないもののそれらを自身の周囲に戻し、攻撃の手を止める。
「ぐへへへ…!!対策が分かれば、こっちのもんだぜ…!!」
男は苦痛と歓喜が入り混じった笑い声を上げながら、よろよろと立ち上がる。
カイトの攻撃を防いだ分厚い脂肪が功を奏したのか、傷付いてはいるものの男を打ち倒すまでのダメージは与えられていないようで、驚異的なタフネスと執念が男の身体を突き動かしていた。
次の一手を与えようとヴィアが腕を動かそうとした時、宙に舞う一本の剣は反応し、自身が望むものではない彼方へと飛んでいく。
異変に気付いたヴィアがその方向に顔を向けると、そこには光の剣を掴むリンクスの姿があった。
「…久しぶりだな、この感触は」
自身が掴む剣を眺めながら、リンクスは呟く。
その感触を確かめながらも、しかしその表情は言葉とは裏腹に嬉しそうなものではなかったが。
「どうして、あなたが…?」
「悪いが、少し借りるぞ」
ヴィアの問い掛けに答えることなく、剣を構えたリンクスは地面を蹴る。
予想外の乱入に男は反射的に棍棒を振るうが、リンクスはそれよりも素早く地面を蹴って飛び上がり、男の眼前に現れる。
一瞬にして距離を詰められた男は、防御も回避もすることができず、愕然と口を開けたまま剣を引くリンクスを見ることしかできなかった。
「あ…が…!!」
「捉えたぞ…!」
鋭い眼光を放ちながら、短く宣言したリンクスは剣を握っていた腕を突き出した。
目にも留まらぬ速さで突き出された剣は男の右肩を捉え、その一撃は男の悲鳴と共に血を散らすだけでなく、棍棒を握る手をだらしなく垂れ下げさせる。
一撃で男の肩を破壊したことで、男は既に武器を振るうことはできなくなり、それに続くように指にも力が入らなくなり、男の手からは棍棒が手放された。
「ぐ…ぅ…おおおおおおっ!!」
地面に音を立てて落ちる棍棒と共にリンクスは着地するが、男は尚も抵抗を止めることなく残った左手で振り払う。
怒りに任せて振られた左手に気付いたリンクスは剣を構えて咄嗟に防御するが、その一撃は握られていた剣を弾き飛ばす程の威力であった。
弾かれた剣は光の粒子を撒き散らしながら消え去り、体勢を崩したリンクスにとって、この状況は不利であった。
反撃も防御も、回避もできない状況に陥ったリンクスの視界には、怒りで我を失った男が左手を上げており、今にも振り下ろされそうになっている。
そしてヴィアも、残る一本の剣で援護しようにも、リンクスと男が重なる形となっては誤ってリンクスを攻撃しかねない為に思うように援護できず、ましてその剣を手にして攻撃しようにも、今からでは間に合わない。
万事休すかと思われたその時、ヴィアの背後から、こちらに駆け寄る足音が耳に届いた。
「しゃがめ、リンクス!!」
その足音の主はカイトであり、その声と共に地面を蹴る。
飛び上がったカイトは空中を舞う一本の剣を掴むと、それを男に目掛けて投げ付けた。
凄まじい速さで刃を向けたまま投げられた剣はリンクスの方向へと向かうが、先程の言葉を確かに聞いていたリンクスは、上半身を屈める。
間一髪とはこのことで、リンクスの髪を掠めながら、投げられた剣は男の腹部に突き刺さった。
男の身体は大きく仰け反り、小さな呻き声を上げながら男は仰向けのまま地面に倒れ込み、それと同時に、突き刺さっていた光の剣は粒子となって消え去り、地面を滑りながら着地した。
一瞬の静寂がその場を支配するが、それを破ったのは、溜め込んでいた空気を溜め息と共に吐き出したカイトだった。
「…ふぅ」
何が起きたのかを未だに理解できない表情を浮かべるヴィアだったが、それは上半身を起こすリンクスも同様だった。
カイトにとってはただ目に飛び込んだ剣を掴み、それを投げ付ける行為をしただけだったが、リンクスとヴィアにとって、それは「しただけ」という言葉で片付けられないものがあった。
そんな二人の視線の意図に気付くはずもなく、ただ視線に感付いたカイトは怪訝そうな表情を浮かべた。
「何見てんだよ」
「君は…何者なの?」
「はぁ?」
突然聞かれたカイトは、予想外の質問に耳を疑う。
リンクスも何も言わず、ただカイトとヴィアを見つめていた。
(選ばれた二人が出会う、か…。これも因果か、それとも…)
「大変だ!!野盗が孤児院に向かったぞ!!」
各々の思惑が張り巡らせる中、今まで隠れていた住人の声がその場に届く。
すぐに我に戻ったカイト達は、孤児院が建てられた山へと顔を向けた。
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