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第一章 「始まりの日」
夜空
しおりを挟む木々が生い茂り、暗闇に包まれて視界が確保できない道を進む、二人の野盗。
しかし野盗というには、どこかひ弱そうで頼りない顔立ちをした男達であり、どちらも骨と皮のように痩せ細り、無精髭を生やしている姿は、まさに瓜二つだった。
それもそのはずで、この二人は双子の兄弟であり、そして二人揃って野盗の中でも一番格下に扱われており、今まで碌な扱いをされずに、ただこき使われている日々を送り続けている男達だった。
ぜぇぜぇと息を切らし、今にも倒れそうになりながら、その二人は山道を登り続けている。
「ほ、本当に、この先に金目のものがあるのかよ…?」
「知るか…。何が何でも探さないと…後で何を言われるか分かったもんじゃ…ねぇ…」
息も絶え絶えに、二人は励ますわけでもなく、また答えが見えているわけでもなく、微かに聞き取れる程の声で会話をする。
何故二人がこのような山道を走っているのかは、セドニアに襲来した野盗達が各自散開して金品を探す中、一番面倒な場所を指定されたことが理由だった。
格下であるが故に断れず、ただ言われるがままに従うことしかできなかった二人は、己の情けなさと野盗達の粗暴さを恨むしかできなかった。
やがてどれぐらい走っただろうか、拓けた場所に佇む、光が灯された一軒の建物が二人の前に現れた。
目的地も分からず、ただ言われるがままに走り続けていた二人にとって、それはまさしく希望の光だった。
「へへ…何だ、でけえ建物じゃねえか…」
「ここなら、金目のものにあり付けそうだぜ…」
今までの表情は消え、厭らしい笑みを浮かべた二人はその建物に足をゆっくり進める。
古くやや劣化が見受けられる建物ではあるが、広さは中々のもので、何かしらのものが置いてあるに違いない。
そんなことを思った二人の耳に、彼らとは別の足音が耳に届く。
その音は後方から聞こえ、二人が振り返ると、そこには此方に向かってくる人影があった。
「待ちなさい」
このような場所には不似合いな白衣を纏い、眼鏡を掛けた黒髪の男。
姿からして医者だろうか、その男の声を聞いた二人は、思わず足を止めた。
その男こそイライジャであり、彼はカイト達よりも早くこちらに向かう二人の野盗を追い掛けて来ていた。
「何だぁ、お前?」
「それ以上、ここから先に進むことは許しません。即刻、この場から立ち去りなさい」
男に臆する素振りを見せないイライジャは、ただはっきりと言い捨てる。
無視されたことに腹を立てたのか、その男は腰から下げた鞘から短剣を抜き取り、それをイライジャに突き立てた。
「「はいそうですか」って下がると思ってんのか、あぁ?」
男は自分ができる精一杯の凄味を含めた表情で脅すが、当のイライジャは表情一つ変えないばかりか、呆れたように溜め息を吐く。
顔はともかく、短剣を向けられているのだから、普通であれば恐怖を感じるはずだが、イライジャは短剣を見ることもなく額に手を当てていた。
「…まあ、期待はしていませんでしたけどね…。しかし、こうも予想通りの反応をされてしまっては、何と言って良いものか…」
「何をブツブツと言ってんだ、てめえ!」
「これは失礼。では、最後に確認しますが、退く気はないということでよろしいですね?」
思い悩む表情を浮かべたイライジャだったが、男の声に対して笑顔を浮かべる。
その顔の中に恐怖は一切なく、いつもの患者に接する医者としての笑顔は、この状況では極めて異質だった。
一向に臆することがない、余裕なイライジャに痺れを切らした男は、短剣を突き立てたまま、もう片方の手でイライジャの胸倉を掴む。
「ヘラヘラ笑いやがって!!ぶっ殺してやる!!」
怒りはするものの、男は決して殺そうとしたわけではない。
殺意を向けているように見せ掛けているだけで、それはただの脅しに過ぎないはずだった。
しかし、その行為はイライジャにとって十分な答えであり、男の腕を逆に掴み、それを素早く捻り上げる。
突如激痛に襲われた男は悲鳴を上げ、これ以上捻られないように自身も身を捩るが、イライジャはその手を離すどころか、続けてもう片方の手を突き出し、男の顎に掌底打ちを繰り出した。
その一撃は、今まで上げていた悲鳴を止める程で、その攻撃を受けた男は顔と全身を仰け反らせたかと思うと、両膝をついてそのまま地面に崩れ落ちた。
「こんな風に掴まれては、皺になってしまうではありませんか。予備の白衣はまだ乾いていないのになぁ…」
気絶した男には目もくれず、胸倉を掴んでいた腕を解きながら、イライジャは皺が付いた白衣の心配をしていた。
一人残された男は、足元で倒れる仲間とイライジャを交互に見た後、その強さに恐怖心を抱きながら後退りする。
しかし、今にも逃げ出しそうなその男を、イライジャは見逃さなかった。
「さて、残るのは貴方一人ですか?それとも、他に仲間はいますか?」
「い、いねえよ…!ここに来たのは、俺達二人だけだ!!」
「そうですか。では、貴方を倒せば良いというわけですね」
手の関節を回してコキコキと音を鳴らしながら、イライジャは足を進める。
男はイライジャの後方に視線を向けるが、自分が言った通り、ここに来たのは自分達だけであり、残る仲間が来てくれるのではと思ったが、人影も見当たらず足音も聞こえない。
増援が来てくれればと願うも、その願いは容易く裏切られた。
「ああ、下の町では私が何人か倒しておきましたし、今頃私の友人達が倒している頃だと思いますよ。増援を期待しても無駄じゃないですか?」
そんな男の思惑を読んでいたのか、そしてさらに追い打ちを掛けるように、イライジャは冷たく言い切る。
逃げることも叶わない状況に追い込まれた男は、泣き出しそうな情けない顔になりながら短剣を取り出す。
そしてそれを震える両手で握り締め、歯をガチガチと鳴らしながらイライジャと対峙した。
「ほう…。たとえ野盗であろうと、貴方には貴方なりの信念がある、というわけですか。そうでなくては、人ではなくなる。ただの野盗にしては勿体無いと言いたいところですが、残念です」
情けなく土下座をして、許しを請うこともできた。
ただなりふり構わずに逃げ出すこともできた。
しかし、男はどちらもせず、震えながらも、怯えながらもこうして対峙している。
野盗でありながらも、逃げ出さないその姿勢にイライジャは敵でありながらも賞賛した。
だが、彼は野盗である。
如何に理由があれど、人々を襲い、私利私欲を満たす野盗に違いはなく、今まで悪事を働いた事実は変わらないし、それを許すわけにはいかない。
イライジャは静かに構え、しばらく静寂が流れた。
時間としては、ほんの一瞬だった。
骨を殴る音が聞こえたとほぼ同時に、短剣を握っていた男は地面に倒れていた。
イライジャは乱れた白衣を叩きながら、ずれた眼鏡を指で押し上げ、自らが倒した男達を一瞥する。
死んだように倒れる二人だったが、決して殺してはおらず、気絶した状態であった。
「…このような者達が現れる世界の何処が、秩序と平和が保たれているというんだ…」
そう小さく呟いたイライジャは、星で満たされた夜空を見上げる。
イライジャの胸中とは裏腹に、その空は美しく輝いていた。
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