君とエアーコンタクト! ※休載中

まゆぽん

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第1話

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時は今よりほんの少しだけ未来の話。

とある大手電機メーカーの社長の息子に生まれた俺は、何故かやたらと電化製品との相性が悪く、使っているとよく故障を引き起こす。

そのうち俺は電化製品をほぼ与えられなくなり……触ることすら禁止され……

……にも関わらず、周りの電化製品は何故かよく壊れ、俺は大事な商品の敵として家族に疎まれるようになった。

おかげで物心つく前に都会の実家からは体良く追い出され、田舎のじーさんばーさんの家で暮らすように強要され……
成人後。じーさんばーさんが亡くなった今でも、一人暮らしには十分すぎるほどの広い一軒家で、実家の援助を受けながらのんびり暮らしている。

そんな俺の生活は毎日シンプルだ。
朝起きて夜寝るまで、ほぼ1日外に出ずに家でダラダラして過ごす。
外出により、人様の家や公共の電化製品を壊さないようにするためだ。

この家の電化製品が壊れた場合は、解体できそうなものならとりあえず解体してみる。
そして内部の構造を勉強し、どうすれば壊れにくくなるかを研究しては直してみるのを繰り返す。

機械との相性が悪くて何度壊れても、直し方さえわかっていれば特に問題はないと、割と楽観的に生きていた。

だって体質なのは、どうしようもないし……。

「それにしても……暑い……」

8月の猛暑。
さっきまで鳴いていたはずのセミの声が聞こえなくなり、室温は40度以上になっていた。
リビングに併設している窓は全開にしてあるが、風を全然感じない。
田舎といえどこれだけ暑いのだから、都会にある実家はもっと暑いだろう……。

まぁ、今の時代の都会の公道はすべて半透明の長い筒のような形に整備され、冷暖房が当たり前にいきわたり、この周辺の田舎のように、太陽に照らされながら土やアスファルトの上を歩くことはほぼないと思うが。。。

「んー、、、直せるかなぁ……」

俺は小さな脚立にのぼり、壊れて不調になっているエアコンの構造を調べるべく、分解を始めていた。
エアコンは昔からある長方形で壁に取り付けるタイプなので、素人でもある程度は分解することが可能だった。

この家には、同じ形のエアコンが2台ある。もう1台は寝室だ。

予備があるならこの暑い中無理に直さなくてもよいかもしれないが、何せすぐに電化製品を壊す体質ゆえに、放置しておいてもう1台が壊れたらそれこそ悲惨だ……。夜眠れなくなる。

それに本音を言うと、毎日暇だ。超暇だ。
山ほどあるゲーム機やソフトは飽きたし壊したものもあるし、ネットサーフィンもネットゲームもやりすぎて超飽きた。
彼女はいないし、田舎では出会いがないし、女の子をお金で呼ぶためにその手のサイトにアクセスすれば、実家に監視されている俺の個人IDから速攻データを割り出され、数か月ネット回線を遮断されること間違いなしだ。さすがにそれは嫌だ。

だからあえて自分に試練をかざす!
暑い中、アツイことをする「漢」とやらを魅せる‼
修理を頼むのは最終手段だ‼

そんな独り言をボソボソつぶやきながら汗だくでエアコンを分解していると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。

ピンポーンは一度だけでなく、二度三度と繰り返す。

(この鳴らし方……どう考えてもあいつらだな……)

仕方なく手を止め、脚立から降りたところで白いチワワ型のドア・ロボがトコトコとやってきた。

ドア・ロボとは、その名の通りインターフォンの音に反応して動き、来客を知らせてくれる小さなロボットだ。
こうして音が聞こえる時はよいが、例えば風呂に入っていたり、イヤホンで音楽を聴いていて来客に気付かない時もあり、そういう時に家人を探し回って知らせてくれるので意外と重宝する。

ドア・ロボの背中には液晶モニターがついていて、玄関の監視カメラとリンクしているのでどこかに触れると映像が映し出される。

そこには予想通り、監視カメラにギリギリ入る顔3つがひしめきあって映っていた。

「「「ぼっちゃ~ん! あけて下さいよぉ~‼」」」

人の好さそうな顔立ちをした3人が満面の笑顔で叫ぶ。ちなみに全員男で白衣姿だ。
細いのがA山、太いのがB田、小さいのがC川。略してABCトリオ。
正式な名前は忘れたが、呼び方がそれで通るので、特に覚える必要もなかった。

「ロボ向かわせるから、ちょっと待ってろ!」

3人に声をかけてから、ドア・ロボに向かって「オープン・ドア」というと、チワワは可愛いお尻をこちらに向けた後、猛ダッシュで玄関の方へ走り出した。

「え!? おい……」

速度の設定は「散歩程度」にしてあるはずだが、猛ダッシュしたということは、またどこかの回路がバクった可能性がある……

「3日前に直したばっかなのに……」

俺はため息をつき、後を追って玄関に向かった。

すると予想通り、ドッカーンッ‼と大きな音がして、玄関のドアに体当たりしたらしきチワワが足をジタバタさせながら靴にまみれてひっくり返っていた。
本来なら、チワワの目から出るビームのような認証システムを使って自動でパスワードを入力し、玄関のセキュリティを解除してドアを開けてくれるはずなのだが……。

「やはり故障か……」

あとで直そう……。

俺はチワワを抱え、仕方なく玄関のドアノブに手をかけた。

この家の周りには、人体感知センサーが山ほど張り巡らされているため、身体情報を登録されていない者は玄関にたどり着くことすらできない仕組みになっている。
ご近所さん、ただの通りすがり……何か1つでもセンサーに引っ掛かかると、この周辺にひそんで生活しているらしき親の会社の警備隊員が山ほど沸いて出てきて容赦なく身体検査を始める。

親の会社の幹部が開発したケタ違いの機器の中に、肌にちょっと触れるだけで、相手の名前・生年月日・住所・身長・体重・体脂肪・心拍数等の情報がワラワラ出てくるものがある。
さすがにそこまで個人情報が出てくる機器は、拳銃と同じである程度の上位資格がないと所持することは許されていないらしいけど。

一応俺は「大手電機メーカーの社長の息子」という立場上、年に数回の身代金目的者は絶えないらしかった。
俺の元まで辿り着く者がほぼいないため、年間報告書を受け取って流し読みする程度で詳細まではよく知らないし、興味もないけれど。

―――――暑っ……! 眩しすぎて、、、目がチカチカする……!

玄関のドアをほんの少し開けただけで、意識がもっていかれそうになった。

真上に日よけの屋根はあるが、視界に入る眩しい景色は溶けているようにもやっとして見える。いわゆる陽炎かげろうってやつだ。

室内が暗かったわけではないが、ずっと細かい作業をしていて目が疲れていた。
エアコンが不調なせいで暑さに身体は慣れつつあったが、眩しさにはまだ目が慣れない。

「「「ぼっちゃ~ん!イイモノ持ってきましたよ~‼」」」

もやぁ~っとする光の中から声の方が先に飛んできて、そのあと少しずつ3人の輪郭が現れてきた。

(そうだ……。この3人を出迎えるためにドアを開けたんだった……)

ほんの一瞬でその思考がすっ飛んでしまうほど、今日の気温はヤバすぎる。。。

「お前らは、ほんと変わらないな……」

―――――こんなクソ暑い中、いつも通りの涼しい笑顔で笑いやがって……。

半分笑顔で、半分呆れ顔。
そんな俺の表情を見てニンマリした3人は、「だってぼっちゃんラブですからー!」と口々に言いつつ、適当なキメポーズで俺にアピールした。毎度のことなのでスルーだけど。

「とにかく入れよ。暑いだろ。……といっても、うちのエアコンは今不調だから、外とそんなに温度変わらないかもしれないけど……」

俺が顎でクイッと家の中を指すと、

「「「お邪魔しまーっす‼ あとお土産がありまーっす‼」」」

3人は元気よく言い放ち、自分たちの後ろに立ててあったらしき大きなダンボールの梱包を横にしてから玄関に押し込んで来た。

「なんだこれ‼ でかっ……!」

突っ込まずにいられない。

長さはおそらく2メートル……以上……!?

ガッシリとした梱包のせいか、横幅は玄関に入るギリギリだった。
中身が余程貴重なのか、ABCトリオはぶつけないように慎重にゆっくり運んでいる。

「「「ふふふ。とてもいいモノですよ~‼ 絶対ぼっちゃんの好みにヒットする自信作ですから、開封をお楽しみに~♪」」」

「まぁ、、、なんでもいいけど、ゴミはちゃんと持ち帰れよ?」

「「「はぁーい♪」」」

中身に興味深々だけど、俺が触ると壊しやすいだろうから組み立てが済むまでは絶対に触らない。それは暗黙の了解だった。

玄関から短い廊下を渡り、リビングへ。

3人は、リビングに入ってすぐの場所に荷物をおろすと、「重かったー」「腰にきたー」「運べてよかったー」と順番に叫んで一息ついた後、今度はゆっくり丁寧にダンボールをはがし始めた。

はがしてもはがしてもダンボールが出てくる……。どんだけ厳重な梱包だよ!

(まぁ、見てる分には面白いけど……)

―――――この時の俺は、

この箱の中身が、俺の日常生活を大きく変えることになるとはつゆ知らず、、、

「中身がエアコンだったら嬉しいな~」……なんて。

……呑気に、考えていたのである。


つづく。
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