大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル

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【1章】好きなんかじゃない

パーティー1

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三つ子の姉の誕生日パーティーは毎年、都内のホテルを貸し切って行われる。姉達は皆、優秀なアルファで、神崎かんざきグループの重役にそれぞれ就いている。末っ子の基城もときはまだ学生だ。

「毎年すごい規模だよね」
「挨拶するだけで疲れる。分かんねー人だらけだし」

話しかけてきたのは、友人の一人である久世くぜ 優生ゆうせいだった。
身内だけでなく、縁のある関係者を招いてのパーティーだ。優生とは幼稚舎からの腐れ縁で、小中高クラスまで一度も離れず一緒だった。基城と優生が通っているのは、幼稚舎から大学までいわゆるエスカレーター式の私学だ。

内部進学組だからといって、胡座をかいていいわけではなく、成績は一定の水準を求められる。基城はそれなりに努力して苦労したが、同じアルファの優生が藻掻いているような姿を見たことがない。

──気に入らねーやつ。

内心そう思ったことは、何度もあった。同じアルファなのに、差を見せつけられているようで、その余裕っぷりが嫌いだった。

基城が毛嫌いしていることは伝わっているだろうが、優生は特に距離を取ったりしない。むしろ、怒る基城をからかってくるほどだ。そんな優生だからこそ、友達として長続きしたのかもしれない。

長めに伸ばされた黒髪は、スーツに合うように後ろに流している。知らない空気を纏った優生に、基城は歯噛みする。中学までは身長、体重、短距離走のタイム、テストの点数まで、何から何まで一緒だったのに、高校からは差をつけられている。全て基城のほうが優生に劣る形で。

「スーツに着せられてる」と、今朝も姉達に小馬鹿にされ、「欠席してやるからな」と喧嘩をしてきたところだ。しかしながら、三人の姉達はビジネスでもプライベートでも、結束が強い。三人相手に勝てるわけがなく、それに姉達に逆らうと後が怖いので、基城は不貞腐れながらも毎年顔を出している。

「お前もせっかくの休日なのに嫌じゃねーの?」
「ん、俺? 俺は別に。出席しないとあの人達が煩いから」

と言いながら、優生は「あの人」と呼んだ父母に視線をやる。家具を取り扱う業界大手の久世インテリアの社長と、社長夫人だ。手厳しそうな雰囲気を纏う久世の両親が、基城は苦手だった。元々、神崎家も久世家と同じように、住宅のみを取り扱う企業だったのだが、ここ十数年で傘下の中小企業を増やした。これは元々の経営参画にはなく、実両親の世話焼き気質が招いた結果だ。

基城の両親は絵に描いたようなお人好しで、親類……とは名乗るが、怪しい人間に、再興不能な会社を次々と押しつけられた。明らかな不良債権を引き取った両親に、姉達も親戚も呆れたが、予想を裏切る形で、事業を再建していった。捨て猫を拾うよりも気軽に、父母は潰れかけの会社を次々と引き取り、周りの予想を裏切る形で、神崎グループは急成長した。

メディアに目をつけられ、父母は事業立て直しの番組に何度か出演している。アルファ同士のおしどり夫婦だと、評判は上々だ。

会場が暗くなり、三つ子の姉達は揃って壇上に上がる。三人いればスピーチの長さも三倍だ。基城は観客に紛れて、やる気のない拍手を送った。

──帰りてー……。

ホテルのケータリングで腹もそこそこに膨れ、早くお開きにならないかと、そればかり考える。

「なー、優生……」

と、声をかけた先には誰もいない。久世の唯一の跡取り息子である優生は、基城とは違い、業界人からそこそこ目をかけられている。対して、基城には規格外に優秀過ぎる姉が三人もいるので、こういう場での存在感は薄い。

駄弁る相手もとうとういなくなり、不貞腐れた基城は苛立ちを食欲を満たすことで抑えることにした。ノンアルコールのシャンパンを流し込んだはずが、思ったより強い炭酸にむせてしまう。

──何か、この部屋暑くないか?

全身からぶわっと汗が吹き、倦怠感に襲われる。額に手をあててみたが、手指の先まで熱く、温度差が分からない。今まで感じたことのない、奇妙な感覚だった。

大事になる前に上階に取ってある部屋へ、基城は戻ることにした。黙っていなくなると、後で姉達に口煩く詰められるので、一番近くにいた次女の文香ふみかに声をかける。

「部屋で休んでくるわ」
「基城っ。あんたまたサボる気でしょ……って、本当にしんどそうね。顔が真っ赤」
「え、そんなに? 気疲れかも」
「そんな繊細じゃないでしょ」

そんな冗談言えるくらいなら大丈夫ね、と文香は返した。

「倒れるほうが迷惑だから、早く休んでおいで」
「普通に心配できないのかよ!」

と、基城が吠えても、文香はつんとしている。勝ち気な長女、強気な次女、腹黒の三女の弟は、常に心労が絶えない。会場を出て、右往左往しながらも、基城はエレベーターの前へ着いた。人の視線から解き放たれると、さらにどっと気怠さがやってくるような気がした。
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