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【1章】好きなんかじゃない
パーティー2
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「あー……そういや、優生に」
声をかけてくるのを忘れたことを思い出した。一応、姉の一人は基城の居場所を知っているので、何やかんやで優生にも事情は伝わるだろう。部屋に入り、基城はふかふかのベッドへ雪崩れた。一番上まで締めていたタイを緩め、ボタンも数個ほど外そうとするが、指先が震えておぼつかない。
「あー……くそ」
人混みのなか、風邪でも移されたのだろうか。こんなことになるなら、本当に欠席すればよかったと後悔する。いっそ眠ってしまったほうが楽になるんじゃないかと、基城は目を閉じて何も考えないことにした。……が、そうすると、余計に症状が悪化するような気がする。
数十分前までは普通だったのに、風邪ごときでこんなに早く体調が悪くなるものなのだろうか。不安に苛まれる中で、扉の向こうから微かに優生の声が聞こえた。
「基城? ドア開けられる?」
「優生」と返事をしたつもりだが、思った以上に掠れていて、もう一度呼ぶ気力もない。返答がないことで、優生が去ってしまうのが堪らなく不安だった。
──不安? 意味分かんねー……。
そう思うのも、身体が弱っているからだ。水と解熱剤を買ってきてもらおうと、基城は扉の鍵を開ける。唐突に扉が開かれ、基城の足元はぐらついた。
「危ないっ……」
「あ……」
基城の身体は、さらに大きな身体の中へ収まる。抱きついたような体勢になってしまい、基城はすぐに手をついて離れた。
「わ、悪い。調子悪くてふらついて」
部屋で休んでいることは、文香から聞いたのだろう。ペットボトルに入った水と、解熱剤の箱が入ったコンビニの袋を、優生は手に提げていた。どちらも基城が欲していたものだ。
「あ、買ってきてくれたの? 気利くじゃん。サンキュ」
安心感からか、いくらか頭が回るようになっている。何故か優生は、袋を手渡そうとせず、入口で固まったままだ。基城と目が合うと、それで意識を取り戻したかのように、咄嗟に袖口で鼻を覆った。
「何だよ。そんなに風邪移されんの嫌なら……」
「基城って……オメガだったの?」
「……は?」
どうして今、そんな突拍子もないことを言うのか。基城には理解できなかった。優生の声色にはいつものようなからかいが一切なく、それに震える声で返答した。
「なわけねぇじゃん。アルファ性の通知、お前と一緒に見ただろ? 俺がオメガなわけ……」
「だって基城。すげぇいい匂いさせてる」
悪戯かドッキリか。いずれにしてもたちが悪い。匂いごと逃さないようにと、優生にきつく抱擁される。勢いづいた優生を、踏ん張りの利かない足で受け止めることはできず、共に背後のベッドへと倒れ込んだ。
「なにやってんだよ、バカ……!」
「基城こそ、抑制剤打たないであんな場所にいたの? アルファだらけのところに」
「はあ? 意味分かんねぇ……だから! 俺はオメガなんかじゃ」
覆い被さる優生の身体を押して起き上がろうとするも、岩みたいにびくともしない。首筋に顔を埋められ、基城はつい驚いて声を上げてしまった。
「ば、ばか、いい加減に……」
再び上体を起こし、基城を見下ろす優生はしたり顔だ。
「オメガの匂いがする。発情してるだろ、基城」
「は……発情?」
人口の大多数を占めるベータと、少数のアルファ、さらに少数のオメガが存在している。その中で、アルファとオメガのみが番という強固な関係を築くことができる。さらに番の中でも、互いの顔を見ただけでヒートを起こす、運命の番というものも存在するらしい。
発情とは、より優秀なアルファを引き寄せるために、三ヶ月に一度の周期でオメガの身に起こる現象だ。
もちろん、アルファと診断された基城に発情期が訪れるわけがない。
──何なんだよ、本当に……俺の家系はアルファばっかりなのに。オメガなんか一人も。
何かの間違いではないのだろうか。そう思いたいのだが、アルファの優生に迫られて、疼く身体を抑えられない自分がいる。優生も同様に、オメガのフェロモンに反応し、ヒートと呼ばれる状態に陥っていた。アルファ性はオメガの項から発せられるフェロモンを感知すると、理性など関係なくオメガを襲う。
……そう学んだはずだ。
──俺達はアルファ同士……それなのに。何で、こんな状況に……。
「基城」
身体が密着した状態で名前を呼ばれ、下腹にじんと響く。春の嵐のような激しい発情期に飲まれ、思考と躊躇う気持ちは溶ける。名前をひたすらに呼び合う最中、唇を何度も吸われ、酸欠でくらくらとした。
「ゆう、せ……」
互いの視線がぶつかる。これから先の行為を止めるという意思は、互いになかった。全身に汗をかいた身体でも、優生は厭わず素肌に口付ける。くすぐったいだけの感覚のはずが、徐々に官能を呼び起こす。
声をかけてくるのを忘れたことを思い出した。一応、姉の一人は基城の居場所を知っているので、何やかんやで優生にも事情は伝わるだろう。部屋に入り、基城はふかふかのベッドへ雪崩れた。一番上まで締めていたタイを緩め、ボタンも数個ほど外そうとするが、指先が震えておぼつかない。
「あー……くそ」
人混みのなか、風邪でも移されたのだろうか。こんなことになるなら、本当に欠席すればよかったと後悔する。いっそ眠ってしまったほうが楽になるんじゃないかと、基城は目を閉じて何も考えないことにした。……が、そうすると、余計に症状が悪化するような気がする。
数十分前までは普通だったのに、風邪ごときでこんなに早く体調が悪くなるものなのだろうか。不安に苛まれる中で、扉の向こうから微かに優生の声が聞こえた。
「基城? ドア開けられる?」
「優生」と返事をしたつもりだが、思った以上に掠れていて、もう一度呼ぶ気力もない。返答がないことで、優生が去ってしまうのが堪らなく不安だった。
──不安? 意味分かんねー……。
そう思うのも、身体が弱っているからだ。水と解熱剤を買ってきてもらおうと、基城は扉の鍵を開ける。唐突に扉が開かれ、基城の足元はぐらついた。
「危ないっ……」
「あ……」
基城の身体は、さらに大きな身体の中へ収まる。抱きついたような体勢になってしまい、基城はすぐに手をついて離れた。
「わ、悪い。調子悪くてふらついて」
部屋で休んでいることは、文香から聞いたのだろう。ペットボトルに入った水と、解熱剤の箱が入ったコンビニの袋を、優生は手に提げていた。どちらも基城が欲していたものだ。
「あ、買ってきてくれたの? 気利くじゃん。サンキュ」
安心感からか、いくらか頭が回るようになっている。何故か優生は、袋を手渡そうとせず、入口で固まったままだ。基城と目が合うと、それで意識を取り戻したかのように、咄嗟に袖口で鼻を覆った。
「何だよ。そんなに風邪移されんの嫌なら……」
「基城って……オメガだったの?」
「……は?」
どうして今、そんな突拍子もないことを言うのか。基城には理解できなかった。優生の声色にはいつものようなからかいが一切なく、それに震える声で返答した。
「なわけねぇじゃん。アルファ性の通知、お前と一緒に見ただろ? 俺がオメガなわけ……」
「だって基城。すげぇいい匂いさせてる」
悪戯かドッキリか。いずれにしてもたちが悪い。匂いごと逃さないようにと、優生にきつく抱擁される。勢いづいた優生を、踏ん張りの利かない足で受け止めることはできず、共に背後のベッドへと倒れ込んだ。
「なにやってんだよ、バカ……!」
「基城こそ、抑制剤打たないであんな場所にいたの? アルファだらけのところに」
「はあ? 意味分かんねぇ……だから! 俺はオメガなんかじゃ」
覆い被さる優生の身体を押して起き上がろうとするも、岩みたいにびくともしない。首筋に顔を埋められ、基城はつい驚いて声を上げてしまった。
「ば、ばか、いい加減に……」
再び上体を起こし、基城を見下ろす優生はしたり顔だ。
「オメガの匂いがする。発情してるだろ、基城」
「は……発情?」
人口の大多数を占めるベータと、少数のアルファ、さらに少数のオメガが存在している。その中で、アルファとオメガのみが番という強固な関係を築くことができる。さらに番の中でも、互いの顔を見ただけでヒートを起こす、運命の番というものも存在するらしい。
発情とは、より優秀なアルファを引き寄せるために、三ヶ月に一度の周期でオメガの身に起こる現象だ。
もちろん、アルファと診断された基城に発情期が訪れるわけがない。
──何なんだよ、本当に……俺の家系はアルファばっかりなのに。オメガなんか一人も。
何かの間違いではないのだろうか。そう思いたいのだが、アルファの優生に迫られて、疼く身体を抑えられない自分がいる。優生も同様に、オメガのフェロモンに反応し、ヒートと呼ばれる状態に陥っていた。アルファ性はオメガの項から発せられるフェロモンを感知すると、理性など関係なくオメガを襲う。
……そう学んだはずだ。
──俺達はアルファ同士……それなのに。何で、こんな状況に……。
「基城」
身体が密着した状態で名前を呼ばれ、下腹にじんと響く。春の嵐のような激しい発情期に飲まれ、思考と躊躇う気持ちは溶ける。名前をひたすらに呼び合う最中、唇を何度も吸われ、酸欠でくらくらとした。
「ゆう、せ……」
互いの視線がぶつかる。これから先の行為を止めるという意思は、互いになかった。全身に汗をかいた身体でも、優生は厭わず素肌に口付ける。くすぐったいだけの感覚のはずが、徐々に官能を呼び起こす。
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