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【4話】これが愛?
不穏な雨2
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すぐに文香がやって来て、琴音を抱き上げた。また帰りに買うから、と言っても、琴音は納得しないのか、激しく首を振る。
「俺、ちょっと外まで探しに行ってくる」
「ちょっとって……こんな大雨なのよ。明日、雨があがってからでも」
「それだと流されるだろ? さっき琴音と遊んでたところだと思う。そんなに遠くないし」
それなら、と姉はしぶしぶ了承した。
「琴音、探してみるけど、見つからなかったらまた新しいの買おう」
琴音はまだ不服そうだが、うんと頷く。雨風が吹き荒れる外に出ようとしたところに、声をかけられる。
「基城、危ないから俺も行く」
「いいって。軽く見てくるだけだから。そうしないと琴音も納得しないだろ?」
「でも……」
優生は軒先まで出たが、雨足の強さに怯んでいる。基城の着ている服もすぐに濡れて重くなった。ここまで濡れるともうどうなっても一緒だな、と思う。
基城自身も本気で見つかるとは思っていない。どうせ戻ってくる頃には部屋の隅から出てきたと言って、笑われるのがオチだろう。
琴音と一緒に入った茂みを確認すると、懐中電灯に反射して一瞬光るものが見えた。手探りで拾い上げてみれば、泥にまみれたキーホルダーがある。
正直、見つかった嬉しさよりも、苦笑がこみ上げてくる。
「マジか、本当にあった……琴音も大事にしてんなら落とすなよな」
なんて、半分本気じゃない誰にも聞かれていないぼやきを呟く。豪雨の音で、それは基城の耳にもほとんど入らなかった。
持ってきた懐中電灯は濡れすぎたせいか、帰路の途中で点かなくなった。戻る選択肢が頭をよぎったが、どうせ別のものを持ってきても同じことになるので諦めた。
スマホも持ってきていないため、道標となる明かりはない。明らかに行き道よりも歩いている感覚がして、心中は不安に包まれる。
道はすでに泥濘んでいて、自分の通ってきた道も足跡も雨に流されて消えている。優生は近くにいないだろうか。気付けばいつも隣にいるはずの優生が、今はいない。
下唇を噛んで躊躇ったのは、ほんのわずかな時間だった。基城は優生の名前を何度も呼ぶ。
──何でこんなときだけいないんだよ……っ!
恨み節を叫びたくなる。眼前に白い光がちらちら舞っているのがふと見えた。右往左往しながら、基城から離れようとしていたので、引き留めるために大きな声を出す。
「基城っ!」
「ゆうせ……おせぇんだよ、バカ」
「早く。こっちまで来れる?」
「大丈夫……う、わっ……」
踏み出した先の地面が思った以上に深い泥濘で、基城は前のめりに体勢を崩す。それだけならばよかったのだが、踏ん張っているもう片方の足もずぶずぶと沈んでいく。
そこで、自分が初めて急な斜面にいることが分かった。コテージまでどう帰ろうかと歩いているうちに、道を外れてしまったのだろう。
ずりずりと身体は下の方へ落ちていく。やがて踏ん張る体力もなくなり、基城は雨が流れる方向と一緒に滑落する。
最後に優生の手が触れたかどうか、曖昧な記憶しか残らなかった。
……────。
雨の音、そして濡れた服が纏わりつく嫌な感覚で、意識は覚醒した。起き上がると、腰のあたりが少し痛む。目を覚ましたとき、優生がいて安堵で泣きそうになってしまった。
「ゆうせ……俺……」
状況は全く分からないが、雨風が凌げる場所にはいるようだ。しかし、泊まるはずだったコテージよりも古臭く、風が強く吹くとギシギシと建物が音を立てる。
殴られることも覚悟していた。自分の無鉄砲のせいで、優生を巻き込んでしまった。しかし、優生は基城を責めるどころか、強く抱き締めてきた。「よかった……」と、基城よりも泣き出しそうな声を出しながら。
「生きた心地がしなかった……」
「ごめん……俺、どうしよ……」
優生に落ち着くよう言われたが、どうしたって無理だった。手を握られて、背中をさすられているうちに、速くなっていた呼吸は少しずつ戻っていく。
優生によると、基城達が今いる場所は、普段は使われていない山小屋だということ。登山者が休憩するために使われるもので、簡易なベッドや食糧、水が備蓄されていた。
「お姉さん達と連絡が取れて、今動くのは危険だから明日雨が止んだら戻るって伝えてる。あと、お姉さんから“バカ基城”だって」
姉達が怒っている様子が目に浮かぶ。しかも三人だ。基城の手は自然と胃のあたりをさすっていた。
とりあえず服が水を吸って重い。いくら真夏とはいえど、このままでは身体が冷えてくる。基城は上下の衣服を全て脱ぎ、木の梁へ吊るしかけた。
「基城……」
優生が何とも頼りない声で、名前を呼ぶ。いきなり前触れもなしに脱いだのは少し悪かったとは思うが、そもそも宣言するようなことでもないとは思う。過剰に反応する優生に、基城はこれ見よがしに溜め息をついた。
「俺、ちょっと外まで探しに行ってくる」
「ちょっとって……こんな大雨なのよ。明日、雨があがってからでも」
「それだと流されるだろ? さっき琴音と遊んでたところだと思う。そんなに遠くないし」
それなら、と姉はしぶしぶ了承した。
「琴音、探してみるけど、見つからなかったらまた新しいの買おう」
琴音はまだ不服そうだが、うんと頷く。雨風が吹き荒れる外に出ようとしたところに、声をかけられる。
「基城、危ないから俺も行く」
「いいって。軽く見てくるだけだから。そうしないと琴音も納得しないだろ?」
「でも……」
優生は軒先まで出たが、雨足の強さに怯んでいる。基城の着ている服もすぐに濡れて重くなった。ここまで濡れるともうどうなっても一緒だな、と思う。
基城自身も本気で見つかるとは思っていない。どうせ戻ってくる頃には部屋の隅から出てきたと言って、笑われるのがオチだろう。
琴音と一緒に入った茂みを確認すると、懐中電灯に反射して一瞬光るものが見えた。手探りで拾い上げてみれば、泥にまみれたキーホルダーがある。
正直、見つかった嬉しさよりも、苦笑がこみ上げてくる。
「マジか、本当にあった……琴音も大事にしてんなら落とすなよな」
なんて、半分本気じゃない誰にも聞かれていないぼやきを呟く。豪雨の音で、それは基城の耳にもほとんど入らなかった。
持ってきた懐中電灯は濡れすぎたせいか、帰路の途中で点かなくなった。戻る選択肢が頭をよぎったが、どうせ別のものを持ってきても同じことになるので諦めた。
スマホも持ってきていないため、道標となる明かりはない。明らかに行き道よりも歩いている感覚がして、心中は不安に包まれる。
道はすでに泥濘んでいて、自分の通ってきた道も足跡も雨に流されて消えている。優生は近くにいないだろうか。気付けばいつも隣にいるはずの優生が、今はいない。
下唇を噛んで躊躇ったのは、ほんのわずかな時間だった。基城は優生の名前を何度も呼ぶ。
──何でこんなときだけいないんだよ……っ!
恨み節を叫びたくなる。眼前に白い光がちらちら舞っているのがふと見えた。右往左往しながら、基城から離れようとしていたので、引き留めるために大きな声を出す。
「基城っ!」
「ゆうせ……おせぇんだよ、バカ」
「早く。こっちまで来れる?」
「大丈夫……う、わっ……」
踏み出した先の地面が思った以上に深い泥濘で、基城は前のめりに体勢を崩す。それだけならばよかったのだが、踏ん張っているもう片方の足もずぶずぶと沈んでいく。
そこで、自分が初めて急な斜面にいることが分かった。コテージまでどう帰ろうかと歩いているうちに、道を外れてしまったのだろう。
ずりずりと身体は下の方へ落ちていく。やがて踏ん張る体力もなくなり、基城は雨が流れる方向と一緒に滑落する。
最後に優生の手が触れたかどうか、曖昧な記憶しか残らなかった。
……────。
雨の音、そして濡れた服が纏わりつく嫌な感覚で、意識は覚醒した。起き上がると、腰のあたりが少し痛む。目を覚ましたとき、優生がいて安堵で泣きそうになってしまった。
「ゆうせ……俺……」
状況は全く分からないが、雨風が凌げる場所にはいるようだ。しかし、泊まるはずだったコテージよりも古臭く、風が強く吹くとギシギシと建物が音を立てる。
殴られることも覚悟していた。自分の無鉄砲のせいで、優生を巻き込んでしまった。しかし、優生は基城を責めるどころか、強く抱き締めてきた。「よかった……」と、基城よりも泣き出しそうな声を出しながら。
「生きた心地がしなかった……」
「ごめん……俺、どうしよ……」
優生に落ち着くよう言われたが、どうしたって無理だった。手を握られて、背中をさすられているうちに、速くなっていた呼吸は少しずつ戻っていく。
優生によると、基城達が今いる場所は、普段は使われていない山小屋だということ。登山者が休憩するために使われるもので、簡易なベッドや食糧、水が備蓄されていた。
「お姉さん達と連絡が取れて、今動くのは危険だから明日雨が止んだら戻るって伝えてる。あと、お姉さんから“バカ基城”だって」
姉達が怒っている様子が目に浮かぶ。しかも三人だ。基城の手は自然と胃のあたりをさすっていた。
とりあえず服が水を吸って重い。いくら真夏とはいえど、このままでは身体が冷えてくる。基城は上下の衣服を全て脱ぎ、木の梁へ吊るしかけた。
「基城……」
優生が何とも頼りない声で、名前を呼ぶ。いきなり前触れもなしに脱いだのは少し悪かったとは思うが、そもそも宣言するようなことでもないとは思う。過剰に反応する優生に、基城はこれ見よがしに溜め息をついた。
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