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【5話】正しい距離感
本当の気持ちを2
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基城は唇を噛み締め、前髪を乱雑にがさがさとかき混ぜた。どっちでもいいし何でもいいから、何か言ってくれ。何ならこの際有坂でもいいから、盛大に笑っていじってほしい。
重い空気感の中、それを破ったのは不釣り合いな拍手の音だった。
「……お、おめでとう!」
「……は? どういう意味」
四宮が普段か細い声を、一生懸命に張り上げた。緊張した表情が解けて、頬を紅潮させている。優生も何故か同様に赤くなり、基城から視線を逸らしながら、唇を引き結んでいた。
「ど……どういうこと?」
「え、えっとね。話すと長くなるんだけど……」
「長くっ!? そんなに長い付き合いなのかっ?」
「ち、ちがくて! 実はその……久世くんに大学にいる間、ボディーガードをしてもらえないかって僕が頼んで……」
「ボディーガードぉ?」
頭を剃りサングラスをかけた屈強な黒スーツの男が思い浮かんだ。が、四宮の指す言葉は、少し違う意味合いらしい。
「基城が勘違いしてるみたいだから俺から説明させて」
四宮に代わり、優生が話し始める。高校までは車での送迎を親にしてもらっていたが、大学へ進学してからは難しくなったこと。可愛らしい容姿から付きまとわれたりトラブルに巻き込まれたりすることが多かったらしく、偶然授業で一緒になった優生が、事情を知りボディーガードを引き受けたというのが真相だった。
「じゃあ、付き合ってないっていうのは本当……」
「それは前も説明した」
「説明されたのは覚えてる! けど、ほとんど毎日一緒にいたら誰でもそう思うだろ!」
優生と四宮は顔を見合わせて「そうかなぁ」と呟いた。鈍感な二人に「俺以外でも周りはそう思ってる」と告げる。
──何か……バカみてぇ。四宮に取られるかもって思った自分が。
「こっちは神崎くんがオメガって言われたほうがびっくりした」
「あー……うん……ずっと嘘ついてたってわけじゃなくて、最近オメガになったんだ。……って言っても信じられないと思うけど」
「えっ? 神崎くんも?」
「うん?」
──も?
「え、すごい偶然だね! 久世くんの妹さんも最近アルファからオメガになったって」
「妹……? そいつ、一人っ子だけど?」
「……えっ?」
「四宮……ストップ」
優生が狼狽えて、四宮の発言を遮る。優生と基城とで食い違う妹の存在、そして偶然にも似た身の基城。四宮は合点がいったようで、「あ、そういうことか」と、悟った様子だ。
四宮の一言に、優生の頬の発赤はより深刻になる一方だった。
「久世くん、すごく妹さん思いだと思ってたのに。そっか……なるほど」
「……嘘ついてたのは悪かったけど、これ以上は傷を抉らないでほしい」
優生は苦い顔をする。妹というワードは含蓄のあるものらしいが、基城は最後まで何が何だか分からなかった。四宮は「神崎くんの邪魔したら悪いし」と、基城をからかってから去っていく。基城と優生も、ざわついた周囲から逃れるために、大学の敷地を出た。
四宮を挟んでいる間は、以前のようにするすると自然な会話ができていたが、今はぎこちない。
「なー、妹ってどういう意味?」
「え……?」
「いやだから。俺だって知らなかったし。複雑な関係とか?」
こちらは真剣に聞いているのに、優生は強張った表情を崩し笑う。笑うところか、と基城は顔をしかめた。
「あー……いや。ただの例え話だよ」
「例え話?」
「オメガのことを四宮に教えてもらってたから。発情期のこととかどうしたら楽になるか、とか。だから架空の妹を使いました」
「ふぅん?」
まだ的を得てないようなふりをする基城に、優生はつけくわえる。
「……ここまで説明しても分かんないのかよ」
「あ、今溜め息ついただろ! あーもう、やっぱり来るんじゃなかった! お前なんかきらい!」
「俺は好き」
「は……?」
いつもは呆れたような態度を取るか、はいはいと軽く流されるだけだったのに。ふいに真正面から打ち返されて……しかも、嫌いだったやつから思いもよらないことを言われて。
「な、な……なんで」
「本当、何でだろう。基城ってがさつだし、好き嫌い多いし、こういう話しても全然伝わらないし。何で好きになったんだろう」
「俺が……オメガになったからじゃないのか?」
「違う。もっと前から好きだった。多分、幼稚園のときから」
さらっと十数年以上積もった好意を告白され、胸やけがした。……幼稚園というと、優生は途中で編入という形で入園してきた。そこで何故か優生は友達ができなくて。
「入園試験が難しい代わりに、大学までは余程のことがない限りエスカレーターで行ける私立。だから毎年倍率が二桁超えてすごいんだよ。後から知ったんだけど、俺の親はそれを編入って形にしてもらった。普通はあり得ないことだけど」
「へ、へぇ? 裏口……みたいな?」
「そ。裏口入学」
あっけらかんと優生は認める。優秀な成績にも関わらず、そんなことをする必要があるのだろうか。
「そんなことする必要あるか? 俺でも受かったのに」
「俺、受験のときに日本にいなかったんだよ。だから遅れて編入するしかなかった。で、基本的に編入は不可だから、親の見栄のためだけに入れられたって感じかな」
重い空気感の中、それを破ったのは不釣り合いな拍手の音だった。
「……お、おめでとう!」
「……は? どういう意味」
四宮が普段か細い声を、一生懸命に張り上げた。緊張した表情が解けて、頬を紅潮させている。優生も何故か同様に赤くなり、基城から視線を逸らしながら、唇を引き結んでいた。
「ど……どういうこと?」
「え、えっとね。話すと長くなるんだけど……」
「長くっ!? そんなに長い付き合いなのかっ?」
「ち、ちがくて! 実はその……久世くんに大学にいる間、ボディーガードをしてもらえないかって僕が頼んで……」
「ボディーガードぉ?」
頭を剃りサングラスをかけた屈強な黒スーツの男が思い浮かんだ。が、四宮の指す言葉は、少し違う意味合いらしい。
「基城が勘違いしてるみたいだから俺から説明させて」
四宮に代わり、優生が話し始める。高校までは車での送迎を親にしてもらっていたが、大学へ進学してからは難しくなったこと。可愛らしい容姿から付きまとわれたりトラブルに巻き込まれたりすることが多かったらしく、偶然授業で一緒になった優生が、事情を知りボディーガードを引き受けたというのが真相だった。
「じゃあ、付き合ってないっていうのは本当……」
「それは前も説明した」
「説明されたのは覚えてる! けど、ほとんど毎日一緒にいたら誰でもそう思うだろ!」
優生と四宮は顔を見合わせて「そうかなぁ」と呟いた。鈍感な二人に「俺以外でも周りはそう思ってる」と告げる。
──何か……バカみてぇ。四宮に取られるかもって思った自分が。
「こっちは神崎くんがオメガって言われたほうがびっくりした」
「あー……うん……ずっと嘘ついてたってわけじゃなくて、最近オメガになったんだ。……って言っても信じられないと思うけど」
「えっ? 神崎くんも?」
「うん?」
──も?
「え、すごい偶然だね! 久世くんの妹さんも最近アルファからオメガになったって」
「妹……? そいつ、一人っ子だけど?」
「……えっ?」
「四宮……ストップ」
優生が狼狽えて、四宮の発言を遮る。優生と基城とで食い違う妹の存在、そして偶然にも似た身の基城。四宮は合点がいったようで、「あ、そういうことか」と、悟った様子だ。
四宮の一言に、優生の頬の発赤はより深刻になる一方だった。
「久世くん、すごく妹さん思いだと思ってたのに。そっか……なるほど」
「……嘘ついてたのは悪かったけど、これ以上は傷を抉らないでほしい」
優生は苦い顔をする。妹というワードは含蓄のあるものらしいが、基城は最後まで何が何だか分からなかった。四宮は「神崎くんの邪魔したら悪いし」と、基城をからかってから去っていく。基城と優生も、ざわついた周囲から逃れるために、大学の敷地を出た。
四宮を挟んでいる間は、以前のようにするすると自然な会話ができていたが、今はぎこちない。
「なー、妹ってどういう意味?」
「え……?」
「いやだから。俺だって知らなかったし。複雑な関係とか?」
こちらは真剣に聞いているのに、優生は強張った表情を崩し笑う。笑うところか、と基城は顔をしかめた。
「あー……いや。ただの例え話だよ」
「例え話?」
「オメガのことを四宮に教えてもらってたから。発情期のこととかどうしたら楽になるか、とか。だから架空の妹を使いました」
「ふぅん?」
まだ的を得てないようなふりをする基城に、優生はつけくわえる。
「……ここまで説明しても分かんないのかよ」
「あ、今溜め息ついただろ! あーもう、やっぱり来るんじゃなかった! お前なんかきらい!」
「俺は好き」
「は……?」
いつもは呆れたような態度を取るか、はいはいと軽く流されるだけだったのに。ふいに真正面から打ち返されて……しかも、嫌いだったやつから思いもよらないことを言われて。
「な、な……なんで」
「本当、何でだろう。基城ってがさつだし、好き嫌い多いし、こういう話しても全然伝わらないし。何で好きになったんだろう」
「俺が……オメガになったからじゃないのか?」
「違う。もっと前から好きだった。多分、幼稚園のときから」
さらっと十数年以上積もった好意を告白され、胸やけがした。……幼稚園というと、優生は途中で編入という形で入園してきた。そこで何故か優生は友達ができなくて。
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「へ、へぇ? 裏口……みたいな?」
「そ。裏口入学」
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