大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル

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【7話】恋と呼ぶまで

結婚報告3

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「……年頃なのに浮かれた話もないから、まさかとは思ってたけれど。よりにもよって神崎の子と……姉妹の誰かならまだしも末子なんてね」

──この空気で切り出せるか……っ!

溜め息ならこっちがつきたい。続けて絢弓は何故か基城に憐憫の目を向けた。

「そちらも最初は受け入れてなかったでしょうに。どういう心境の変化? お姉さんやお母さんの入れ知恵かしら?」
「それはない! ……です。というか、優生が好き好き言ってきて」
「……ちょっと、基城。もう少しオブラートに……」
「はあ? 何だよ、お義母さんに嘘つくわけにはいかないだろ」

こそっと耳打ちされ、基城はつい言い返してしまう。

「それで? 話はそれだけではないのでしょう」
「え、あ……はい。俺、優生の子を妊娠してて」

難儀していた言葉は、緊張が解れたせいか素直に出てきた。絢弓はまるきり想定していなかったわけではないらしい。
受け入れも拒絶も見せない様子が、どこか不気味だった。

「……砂羽ちゃんもそうだったわ」
「砂羽?」

普段聞き慣れない名前に、聞き返してしまった。砂羽とは母親の名前だ。同棲をする前の顔合わせで、「同級生のよしみ」だと溢していたのは覚えている。

「俺の母さんと友達なんですか?」
「友達……そうね。気の置けない仲だった。私達、神崎と久世の跡取り娘でアルファで。共通点はいくつもあったの。楽しいことも悩みも、普通の子には話せないことも砂羽ちゃんには話せたわ」

砂羽は楽しそうに久しぶりの再会を喜んでいて、絢弓は真逆の反応だったのが、以前は気がかりだった。

「事業が大変なときに砂羽ちゃんは出産をしてね。私は反対していたの。口にしたこともあった。砂羽ちゃんとは気まずくなって……友達付き合いは、それきりね」

それから絢弓は自分の子供を授かることはなかったと明かした。張り詰めた気を逸らすように、絢弓はティーカップをゆらゆらと回した。

「気にしないようにしていても、だめね。一番気を許せる親友だったからこそ、いろいろな感情をぶつけたくなるもの。……だから、あなた達にはいつ何時でも仲睦まじくいてほしいわ。おばさんのいらないお節介かもしれないけれど」

基城と優生は同時に互いを見合わせた。仲睦まじく、と言われた後で視線が交差するのがくすぐったい。

「それじゃあ……」

気色めいた声を揃って上げた二人を諌めるよう、絢弓は「ただし」と遮る。

「あなた達の誠意は伝わりました。けれど、大変なのはこれからですよ。強い気持ちだけでは子供は育てられない。それは……理解していますか?」
「も、もちろん……」
「本当に?」

うぐ、と基城は言葉を詰まらせる。お腹の中に新しい命がいることすら半信半疑で、出産してからのことは、まだふわふわとした雲のように定まっていない。絢弓は先のことを見据えているのだ。

「基城は一年休学して、俺は大学に残ります。今住んでいるマンションは引き払い、基城のご実家に俺も住まわせてもらって、そこから通学します」
「え? そうなの?」

そんな話、聞いていない。疑問を率直に口にすると、優生が「そうなの」とまるで小さな子供に言い聞かせるように、基城の耳へそう吹き込んできた。

絢弓はそんな様子に溜め息をつく。苦笑いを讃えながら。

「……それでは先が思いやられます」
「俺は基城となら、成し遂げられると思っています」
「その言葉、決して忘れないように」

優生は「はい」と短く返事をする。基城も隣の優生にならい、これ以上ないくらい背筋を伸ばして頷いた。

一時間ほどしか滞在していなかったはずなのに、まるで一日中外に出ていたかのように身体が重い。二人の部屋についたのは夕方頃。まだ日は落ちていない時間だが、どっと疲労が溜まっている。

「はあ……分かってたけど絢弓さん厳しい……。でも、感触はまあまあよかったな」
「……そう?」
「自分の親なのに分かんないのかよ」

親じゃないし、と毒づく優生を、基城は「おい」と半ば呆れながら注意した。

「俺、お茶ひっかけられるかもって覚悟してた。何かさ、あるだろ? 俺の娘はやらん! ってちゃぶ台返しするやつ」
「さあ?」
「知らねーのかよ」

俗物に疎い優生を、基城は笑った。

「というか、お前も急にアドリブなんてしだすからびっくりした。俺の実家で暮らすとか」
「アドリブじゃないけど」
「……本気ってことか?」

優生は首を振って肯定した。実家のほうがゆっくり過ごせるし、家政婦も呼べるので基城にとっては心強い。

「今より学校が遠くなるけどいいのか?」
「いいよ。元々、ここは基城のお義母さんが用意してくれた場所だし……基城の実家にお世話になることも、まだ承諾してもらってないことだけど……」
「絶対いいって言うぞ。優生には家族揃ってベタ甘だからなー」

張り詰めていた優生の表情は和らぐ。優生の実家へ行く前は、冷たい顔をしていたのが気がかりだったが、基城はそうしてよかったと思う。一歩でも、絢弓に歩み寄れただろうか。

「よかったな、優生」
「何が?」
「んー、いろいろ。行ってよかっただろ?」
「うん……まあ」

相変わらずの煮え切らない返事だ。不貞腐れているというよりは、戸惑いという表現のほうがしっくりとくる。

「あの人、ずっと俺のことが嫌いなんだと思ってた。多分、他人の子供だったから、どう接していいか分からなかったんだと思う。俺に……嫌われたくなかったんだろうな。反対に甘やかし方も、知らなさそうだし」

うんうんと頷きながら、幼少期を振り返っては分析する優生に、基城は少々辟易している。

「……何か、親子揃ってまどろっこしいな!」

ほぼ毎日本音で殴り合って、三つ子の団結力にいつも惨敗している基城にとっては、信じられない世界だった。口煩い姉の一番近くで育ってきたので、家族であっても無理矢理仲良くしろとは言えないが、せめて喧嘩の一つでもしろよとは思う。

──ま、できないところが、こいつの優しさなんだよな。

思えば優生とは、本気で喧嘩をしたことはない。翌日まで持ち込んだことがないのだ。

「でも、お前も俺と結婚したんなら、俺の味方しろよ」
「え?」
「姉ちゃん三人との喧嘩! 優生いないと俺いっつもボコボコにされるし!」
「それは……基城とお義姉さんの間の問題じゃ。俺は関係ない……」
「関係なくないっ! 俺達結婚するんだからな」

苦難の道も幸せを感じるときも、これからはずっと隣だ。優生は溜め息をつきながらも、とびきりの幸せを噛み締める表情をしている。自分では気付いていないんだろうな、と思う。

「ちゃんと責任取れよ、旦那様」

茶化して放った言葉に、優生は馬鹿真面目に大きく頷く。感極まったときにいつもそうしているように、基城の唇に何度も自分のものを重ねた。
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