大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル

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【8話】幸せのかたち

家族のかたち2

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「何か、新婚さんみたいだな、俺達」
「急にどうしたの?」
「思ってみただけー」

優生に向かって、くすっと笑う。優生はぽっと頬を染めて、新婚さんみたいにキスをねだってきた。何度も、時折、舌を深く吸いながら。

「もう、赤ちゃんがびっくりするだろ」

基城がそう窘めると、口付けに夢中になっていた優生ははっと我に返る。

「ごめん……」
「冗談だって。もっとしよ?」
「基城……ずるい。それは」

一瞬怯んだものの、優生が途中で止める気配はない。基城も舌を出してねだるように「ん」と声を出した。優生がこちらに身を乗り出してきて、偏った体重でソファが軋む音を上げる。

手を取られ、お互いの指を繋ぎ合わせると、夢中になって唇を重ね合った。息遣いと湿っぽい音が響き、テレビの中の音がどこか遠くに聞こえる。

「ん……!」

お腹からの衝撃に、基城は思わず優生の舌先を噛んでしまった。ほとんど甘噛みのようなものだったが、異変を察した優生が身を引いた。

「基城……? 本当に具合が」

腹に手を置く基城に、優生は震える声で尋ねる。スマホを取りに行こうとして、基城の側を離れるのが心配なのか、足を縺れさせる姿が、いつもの格好いい姿とは無縁で、基城は肩を震わせる。

「ごめ……優生おもしろい……。笑わせてくるなって」

ひとまず大丈夫そうだと感じた優生は、溜め息を一つ吐いた。安堵とからかいに対して呆れるように。

「こういうときに冗談は」
「冗談でもないけど。優生が必死にキスし過ぎるから蹴られたんだって」
「誰に?」

ここには二人しかいないが、というような顔をしている。基城の手の置いた場所でようやく分かったらしく、優生の強張った表情が解ける。

「早く赤ちゃんの名前考えろよな」
「……本当に俺でいいの?」

もう何十回目かの不毛なやり取りだ。内側で胎動が大きく響き、基城は「酔いそう」と思わず呟く。

「優生が全然決めないから怒ってる」
「それは……申し訳ないけど」
「姉ちゃん達も俺じゃなくて、優生が決めたほうがいいって言ってたぞ。ネーミングセンスがないらしい。オッケー出すのは俺だから、適当に言ってみ?」

適当というのが優生からすれば、程遠い倫理観らしい。なかなか言い出さないものだから、このままでは夜が明けてしまう。俺も名前聞くまでずっと起きてるからな、と半分脅しで言うと、優生が意を決したように口を開いた。

「……のぞみ」
「のぞみ?」

あまりピンときていない基城に、ほらやっぱりみたいな顔をする。名前だけぽんと出されても正直反応に困る。由来とか背景とか……いろいろとあるだろ、と思うのに、当の本人はほんのりと頬を染めるばかりで、続きを話さない。

「どういう字書くの?」
「こう」

基城のスマホのメモ書きに、優生は「望[ノゾミ]」という文字を打った。

「これで望って読むのか? 可愛い名前じゃん。というか、もったいぶってないで教えろよな」
「いや……うん。ごめん」

優生は先ほどからずっと歯切れ悪く答える。手を繋いだりキスするところは突拍子のないことが多いのに、そのくせすぐに赤くなる。恋愛に不慣れなのはお互い様かもしれない。

「反抗期になったとき、名前が気に入らないって言われたら、俺絶対に泣くし。だから優生が考えてくれてよかった」
「基城だけ責任逃れしてずるいな」
「逃げてるんじゃなくて、俺のメンタルが粉々になりそうだから!」

ずるい、と言うわりには、優生はにこにこと嬉しそうで……幸せな顔をしていた。スマホのメモ書きに打った子供の名前を、基城は消してしまわないように保存する。

優生の名付けが気に入ったのか、それから基城のお腹を執拗に蹴ることはなくなった。


……────。


姉達は三時間なんてすぐだとか、一週間で職務復帰したなんて競い合うように語っていたが、今の基城には信じられなかった。

身体のあちこちが痛いし、気を抜けば叫び出してしまいそうだった。

それでも、姉達が一様に言う「赤ちゃんの顔を見れば何もかも吹き飛ぶ」という言葉だけは本当だと身にしみて思う。

「か、かわいいぃー! な、な? 優生」
「うん……本当にね」

赤子の顔と、優生の泣き顔を眺めていたら、基城の目も潤んでしまう。個室は広々としていて、ベッドは二つある。パートナーも一緒に泊まることができるのだ。

「よかった……赤ちゃんも元気に産まれてきてくれて、基城もありがとう」
「もー泣くなって! 俺のほうが泣きたい……」

二人の服の袖は、もうすでにぐっしょりと濡れている。ずっと可愛い、可愛いと言い合っているうちに、基城の家族が集まってきた。

「女の子だったのねー。ああ、可愛い……基城も優生くんもお疲れさま」
「本当に疲れた……」
「若いのにバテバテじゃない。二人目からは楽になるわよ」
「えぇ……」

姉はやっぱりせっかちだ。優生も何やら意味ありげに基城のほうをじっと見つめてくる。
しばらくは基城のほうを珍しく気遣っていたが、少し経つと皆赤ちゃんのほうに夢中だ。

産まれる前もベビー用品をいろいろともらっていたが、出産祝いとしてまた今日も持ってきたようだ。

「どうすんだよ、これ。病室狭くて邪魔だし持って帰るの大変だし」
「あんたは! 最初にありがとうでしょうが」
「家に送ってくれればよかっただろ」
「望ちゃんにも見せたかったの」

望を盾にされると何も言えなくなる。持ち寄ったロンパースを望の身体にあてて、可愛いとしきりに言い合っている。

盛りがっていたところ、一つの荷物が病室に届いた。基城も優生も頼んだものではないが、宛名は確かに基城になっている。

「何だろ……え、絢弓さんからだ」
「絢弓ちゃん?」

中を開くと、女の子用のフリルをあしらった乳児服が現れる。声をあげて反応したのは、姉達三人だった。

「ママ! これめちゃくちゃいいブランドの服よ」
「調べたら数十万円くらいするわ」

雑に包装紙を破ってしまった手が震える。

「え、やば……」

あの厳格に佇む絢弓の姿を思い出し、基城は受け取るのを躊躇ってしまう。何なら送り間違えていないかと心配になるほどに。

「絢弓ちゃん。きっと嬉しいのね。基城、望ちゃんをたくさん見せておやりなさいね」
「うん、そうだな」

絢弓なりの祝福なのだな、と思う。優生の口元も緩やかに上がっている。優生の方を見ると「落ち着いたら会いに行こう」と、基城の手を握るのだった。



fin.
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