大嫌いなアルファと結婚しまして

リミル

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【8話】幸せのかたち

家族のかたち1

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「……基城が俺の母の子供だったら、上手くいってたのかな」

優生がしんみりと呟くので、基城は「無理だと思う」と即座に否定した。

「それ、姉ちゃんと話題になったことあるけど、“基城は橋の下に捨てられそう”で終わったぞ」
「……そんな話したことあるの?」
「優生が弟で、俺が久世家に産まれてたらー、って想像な。本っ当、失礼な姉ちゃん達だよな」

優生も想像の中で勝手に弟にされて、そちらのほうがちょっとかわいそうだった。

「いいな。羨ましい。姉弟仲良くて」
「優生は一人っ子だもんな。そんなにほしいなら姉ちゃん一人くらい……いや、二人やるぞ。俺は一人でいい。……一人でもしんどいか」

優生は珍しく基城の膝の上に頭を乗せた。

「どうしたんだ?」
「うん……ちょっと気疲れ」
「頼りねー」
「ちょっとだけ休ませて」

優生がふと見せる弱音が、時たま嬉しかったりする。以前までは、基城の前でこんな姿なんて晒さなかったのに。片思いをしている頃から、格好つけていたんだと想像すると、面白くてにやける。

基城の下腹に手を添えて、優生は顔を寄せた。

「何か言ってる?」
「まだ分からないな」

身動ぐと、くすぐったい。優生の黒髪を撫でているうちに、うとうととしてくる。気疲れは膝枕をする目的で言ったのかと思ったが、本当に疲労が溜まっていたらしい。

「優生、赤ちゃんみてー」

くすくすと基城は笑う。優生は基城の腹部に手のひらを押し当てたままで、眠ってしまった。しばらくそのままにしておいたが、さすがに足が痺れてきて、自分でベッドに行くよう揺さぶった。優生は基城の身体を抱えられるが、基城にとっては困難だ。

「ちゃんと自分で布団かけろよな。風邪引くぞ」
「うん……」

優生は半分夢の中だ。布団の端を掴むだけで、またすやすやと寝入ってしまう。基城は仕方ない、と呟き、一緒の布団に入った。

──かわいー寝顔。

優生のこういう顔は珍しいかもしれない。いつも基城が先に寝て、優生よりも後に起きる。六時間は熟睡しないと、翌日は欠伸ばかりしている。

規則正しい寝息に誘われるように、基城も優生の背中の体温を感じながら目を閉じた。


……────。


大学三年へ進級し、基城は休学届を提出した。顔見知りのやつからは「留年した」なんて、噂されていることを優生から聞いた。

「許せねぇ……一発殴りたい」
「俺が否定しておいたから。有坂と一緒に」
「余計心配だわ! あいつ、余計なこと言ってないだろうな」
「有坂は口が固いから大丈夫だよ」

休学の理由が優生の子供を身籠っているとは説明できない。冬期休暇の間にお腹の子は順調に育ち、膨らんだお腹は隠しきれないほどに大きくなっていた。

「何かあったらすぐ言ってね」
「はいはい。心配性だなぁ。優生は」
「当たり前」

基城と優生は、実家に移り住んでいる。大学近くのマンションは、学生が行き来するため、人目を避ける必要があったからだ。

一階から三階までのリフォームは、三ヶ月ほどで終わった。壁紙は全て張り替えてもらい、バスルームもトイレも上等なものを入れてもらった。

並んでいた姉三人の部屋は壁を取り壊し、二人の寝室として使っている。

「何か……いいのかな。こんな広い家に住まわせてもらって」
「母さんが使ってくれたほうがいいって言ったんだからそれでいいだろ」

優生は事あるごとに、贅沢な悩みを漏らす。広い寝室に家具は置いてあるものの、面積のほうが大きすぎて、話し声が反響する。
両親の前でジャグジー付きのバスタブを基城が希望したら、優生は小さく縮こまっていて、それもなかなか面白かった。

「というか、優生が全然欲しいもの言わないから、姉ちゃん達もつまんないって言ってたぞ」
「え、本当?」

これまた優生は焦った様子で、聞き返す。嘘はついていないのだが、多少姉達のぼやきを脚色している。

「逆に……よくなかったかな。お姉さん達の気遣いを無駄にしてしまって」
「姉ちゃんと仲が拗れたら後が怖いぞ」
「……ベビー用品とか、あるとありがたいんだけど」
「もうすでにいっぱいあるけどな。分かった。姉ちゃんに伝えとく」

この前も大きなベビーベッドをもらったばかりだ。段ボール箱のまま置いておくのも忍びなくて、休日に組み立てたのだが、当然まだ使い道もなく、荷物置き場と化している。

「こんなに愛されて幸せものだなー。お前は」

皆が誕生を今か今かと待ち望んでいる。あと数ヶ月が焦れったく感じてしまう。姉達も同じような気持ちだったのだろうかと思うと、面白くなって笑みが溢れる。

「早く出てこいよー……」

ここ最近同じことばかりつい言ってしまうので、それを聞いた優生も笑った。以前、基城は姉と同様にせっかちだと言われたことをふと思い出し、否定できないな、と頭の片隅で思う。

あれほどサボりたい一心だった大学も、行けない身となれば、多少は恋しくなるものだ。けれど、家にいて、優生を見送る朝の時間と、おかえりを言う習慣は悪くないな、とも思っている。
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