溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル

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【7章】新しい未来

すれ違った先の愛情1

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「え、エレナさん……! 頭を上げてください……」
「千歳くんは優しすぎるわ! 見捨てられてもおかしくないのよ、あんた。千歳くん。これだと足りないでしょう? もっと殴ってほしいところある?」

エレナの気迫に、千歳は否定の意味で首を左右に振った。
一部始終を見ていなかった斗和は、不思議そうに首を傾げている。

「レグとは話し合ったので大丈夫です。……あの、どこでその話を」
「斗和が俺に教えてくれたの」

ユキはそう答えた。斗和から聞いた話を、ユキがエレナに伝えたのだろう。意気消沈するレグルシュに、ユキはバーベキューの残りとオレンジジュースを持ってきた。まるで「元気を出して」と言っているみたいだ。

「ちーのこと悲しませたら許さないからね!?」
「わ、分かってる。幸せにしているつもりだ」
「つもりじゃダメでしょお!? もー、レグ頼りないから、ちーは俺と結婚すればよかったの!」

千歳より二十歳も下のアルファは、エレナと同様に憤っている。あの頃よりも広くなった背中を見つめながら、千歳は懐かしい気持ちを募らせるのだった。


……────。


「痛くない?」
「……ああ、もう大丈夫だ」

レグルシュは左頬を擦りながら、言った。エレナに引っ叩かれた頬は、数週間もすれば腫れも引いてきた。千歳は毎夜、斗和が寝静まった頃を見計らい、湿布を貼っている。レグルシュは「大丈夫だ」と言うが、痕が残ると大変だ。千歳は肌の状態をよく観察するために、彼の口元へ顔を近付ける。

「夜だけしか貼ってないから、肌荒れは大丈夫ですね」
「そうだな」

普段より少しだけ熱くなっている頬に、自分の手を軽く押しつける。

「こうしていると、昔のことを思い出しますね」

レグルシュは逡巡した後で、ああ、と答える。ユキの我儘に逆上したレグルシュを、千歳が身を挺して庇った日のこと。オメガに対して厳しかったレグルシュの、優しい一面を知ったのだ。

「……あのときは、本当に悪かったな」
「通りがかりで手が当たっただけでしょう? 不運でした」

千歳の言葉に、レグルシュは申し訳無さそうな顔のまま、微かに笑った。頬の状態を観察するために顔を近付けると、レグルシュは千歳の唇を素早く奪った。悪戯が成功し、嬉しそうにペリドットの瞳を歪ませる。

「千歳に看病してもらうのなら、姉貴に殴られるのも悪くないな。もちろん、反省はしているが」
「僕は本気で心配しているんです」

千歳の言葉をよそに、レグルシュは首や頬に細やかなキスを落とす。体躯の大きいレグルシュに迫られて、ベッドに腰かけていた体勢が徐々に崩れていく。

「んっ……レグ」
「かわいい。千歳」

名前を呼ぶ声は、いつになく甘く、千歳の胸をざわつかせる。青い水面にさざ波を立てるような、淡い期待が薄い皮膚の下で膨らんでいる。首にかかった金色の髪に、千歳は指を通す。

「髪、伸びたね」
「最近忙しくて切りに行けてなかったからな……不潔か?」

一時期、斗和がもう少し幼い頃、髪を引っ張られるのが嫌で、レグルシュは襟足を短くしたことがあった。しかし、斗和には不評で抱っこするときに必ず不機嫌になった。

それ以来、レグルシュは襟足を少し遊ばせている。仕事では後ろで結んでいるので、野暮ったさはなく、より色気が増しているような気さえする。

「ううん。格好よくて好き」
「──っ。お前は……!」

盛ったレグルシュに完全に押し倒され、唇を貪る勢いで何度も塞がれた。乱れた髪を掻き上げる仕草に、千歳の心臓はとくんと跳ねる。

自分に欲情している……レグルシュが。それを自覚したとき、身体の体温はぐんと上がり、アルファを誘惑するオメガのフェロモンが散った。

「俺はお前の本音が……時々怖くなる。死にそうなほど嬉しくて、理性を持たないまま、抱き潰してしまうのが怖い」
「……僕だって。そ、その。レグとしているときは、何が何だか分からなくて……気持ちよくしてもらってるのは、覚えてるんだけど」

千歳の言葉を飲み込むように、深く口付けられる。粘膜同士が触れ合う度に、腰の奥がずくずくと疼いた。声と音が漏れないように、千歳は与えられた快楽を身体の奥底に押し込めることにいっぱいだった。

震える身体に、レグルシュはキスの雨を降らせる。

「千歳。我慢は必要ないだろう?」
「……あ」

息子の存在を気にしていたが、そういえば夕方頃に、幼稚園のお泊り会へと送り出したのだった。あのときの悲痛そうなレグルシュの顔を思い出し、千歳はふっと笑ってしまった。

夫夫仲が戻ったときから、レグルシュとは一週間と空けず、行為をしている。斗和を起こさないように細心の注意を払いながら。

それでも声を押し殺しているときの癖が抜けきれず、眉根にぎゅっと皺をつくってしまう。

「……あっ」
「そんなに固くなっていると、朝になるぞ」
「だ、だって。くせになりそうで……」

レグルシュは軽い口調で、声を漏らさないように縮こまる千歳を笑った。
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