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【5章】二度目の恋
オメガ嫌いの理由1
「……千歳!」
「レグ……。なんで」
非情な裏切りにレグルシュは憤っているように見えた。千歳は反射的に自分の腹を庇った。しかし、レグルシュは千歳の手を引くと、身体が軋むほど、強く抱き締めた。
「どこにも行くな。俺にはお前が必要だ」
告白にも似た言葉に、千歳の心は歓喜する。レグルシュが、運命なのだと信じたい。手を伸ばしたい。千歳は胸の中で啜り泣くことしかできなかった。
「……レグは、オメガが嫌いなのでしょう。……僕は、オメガです」
千歳が震える声で言うと、レグルシュは悲痛そうに表情を歪ませた。
「……分かっている。こんな恨みなど、意味がないことも。それでもそう思わなければ、俺はどうしたらいいのか分からない。分かってはいるんだ。関係がないのに、千歳を傷つけた」
レグルシュの瞳が、少し濡れていることに気付く。千歳の手を取り、彼は指の先に軽く口付けた。甘い息がかかる。
「俺の番になって欲しい。俺の、生涯のパートナーとして、これからも一緒にいてくれ」
「え……」
それは予想だにしない言葉だった。呆気にとられている千歳に、レグルシュは続ける。
「赤の他人の子供なのに、ユキの面倒を見てくれていたな。俺は……そんな素敵なオメガに出会ったことがなかった。俺がどんな意地悪を言おうと、変わらなかった。それに関しては、心の底から悪いと思っている」
「それは……ユキくんには、僕のようになって欲しくなかったからで。僕には、最良の仕事ができていたかどうかは、分かりません」
「千歳にシッターを頼んで大正解だったと、俺は思う」
レグルシュが初めてありのまま笑ったような気がして、千歳の心は舞い上がった。
「答えを聞かせてくれ。千歳は……俺のことが好きか?」
幸福な言葉に、すぐに頷きたい。けれど、レグルシュは、千歳の中の新しい命も愛してくれるのか。そうでなければ、パートナーにはなれない。千歳は意を決して、全てを白状した。
「ぼくの……僕のお腹の中には、赤ちゃんが。レグとの……子供がいるんです」
「本当なのか……それは」
レグルシュが信じられないというような顔をした。次にくる言葉が怖くて、千歳はぎゅっと目を瞑る。きつく抱き締めた手を、レグルシュはそっと緩める。
「赤ちゃんは、オメガかもしれない。僕のオメガの母も、アルファとの子を身籠ったのに。産まれたのは僕でした。だから……レグに、受け入れられないと思って。レグは、オメガが嫌いだから」
「いいじゃないか。オメガだったら千歳に似るんだろう? アルファだったら、俺に似て可愛くないだろうからな」
抱えた感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、レグルシュの言葉を素直に受け取れない。皮肉なのか本音なのか、分からなくなっていた。自分がどんな顔をしているのかも、分からない。返す言葉が見つからない千歳を、レグルシュは優しく抱き締める。アルファに……恋をしている相手に触れられて、千歳は泣きたいくらいに幸せを感じていた。
「……俺が悪いのだろうな。千歳には、何度も辛い思いをさせた。俺は、捻くれてるからな」
それでも、レグルシュが他の誰よりも愛情深く、優しいところがあると、千歳は知っている。レグルシュが言葉にできなくとも、感じ取れるのだ。
「僕も……レグが好きです。告白する前に、発情期になってしまったから、その……本当の気持ちを伝えられなかった。わ、わざと誘ったんじゃないかって、嫌われたらって……」
「ああ……俺はあのときが一番怖かった。無理矢理番にする前に、千歳の気持ちが聞けてよかった」
突然吹いてきた秋風に、千歳は身体をぶるっと震わせた。レグルシュが荷物を詰めたトランクを引き、千歳を家の中へ入れる。もう二度と来ることはないと思っていた、レグルシュの寝室。冷えた手足と腹を温めるようにと、レグルシュは毛布をかけてくれた。大好きなアルファの匂いに包まれ、意識は幸せの海を漂う。夢みたいだ。でも、夢じゃない。手のひら同士を合わせて、指を絡めあった。
「──俺は、運命の番という存在が、嫌いだった。オメガのせいで、俺の家族は壊れたからな」
「……レグ?」
──オメガのせいで?
うつらうつらとする千歳の頭を撫で、レグルシュは語りだす。千歳は目を閉じ、声を追いかけながら、レグルシュの記憶に浸った。
両親はアルファ同士で日本人の母、そして、フランス人の父親。姉のエレナとレグルシュの四人家族だった。幸せな家族の仲を引き裂いたのは、とある一人のオメガだったという。
父親はそのオメガのことを運命の番だと呼び、逃げるように番とともに故郷へ帰った。レグルシュを連れて。
母親はエレナとレグルシュの両方の親権を主張したが認められず、父親はレグルシュを強引に連れ帰った。
「俺が小学二年の頃だ。昨日まで普通だった父の様子が突然おかしくなった。……オメガを好きになったと言ったんだ」
「レグ……。なんで」
非情な裏切りにレグルシュは憤っているように見えた。千歳は反射的に自分の腹を庇った。しかし、レグルシュは千歳の手を引くと、身体が軋むほど、強く抱き締めた。
「どこにも行くな。俺にはお前が必要だ」
告白にも似た言葉に、千歳の心は歓喜する。レグルシュが、運命なのだと信じたい。手を伸ばしたい。千歳は胸の中で啜り泣くことしかできなかった。
「……レグは、オメガが嫌いなのでしょう。……僕は、オメガです」
千歳が震える声で言うと、レグルシュは悲痛そうに表情を歪ませた。
「……分かっている。こんな恨みなど、意味がないことも。それでもそう思わなければ、俺はどうしたらいいのか分からない。分かってはいるんだ。関係がないのに、千歳を傷つけた」
レグルシュの瞳が、少し濡れていることに気付く。千歳の手を取り、彼は指の先に軽く口付けた。甘い息がかかる。
「俺の番になって欲しい。俺の、生涯のパートナーとして、これからも一緒にいてくれ」
「え……」
それは予想だにしない言葉だった。呆気にとられている千歳に、レグルシュは続ける。
「赤の他人の子供なのに、ユキの面倒を見てくれていたな。俺は……そんな素敵なオメガに出会ったことがなかった。俺がどんな意地悪を言おうと、変わらなかった。それに関しては、心の底から悪いと思っている」
「それは……ユキくんには、僕のようになって欲しくなかったからで。僕には、最良の仕事ができていたかどうかは、分かりません」
「千歳にシッターを頼んで大正解だったと、俺は思う」
レグルシュが初めてありのまま笑ったような気がして、千歳の心は舞い上がった。
「答えを聞かせてくれ。千歳は……俺のことが好きか?」
幸福な言葉に、すぐに頷きたい。けれど、レグルシュは、千歳の中の新しい命も愛してくれるのか。そうでなければ、パートナーにはなれない。千歳は意を決して、全てを白状した。
「ぼくの……僕のお腹の中には、赤ちゃんが。レグとの……子供がいるんです」
「本当なのか……それは」
レグルシュが信じられないというような顔をした。次にくる言葉が怖くて、千歳はぎゅっと目を瞑る。きつく抱き締めた手を、レグルシュはそっと緩める。
「赤ちゃんは、オメガかもしれない。僕のオメガの母も、アルファとの子を身籠ったのに。産まれたのは僕でした。だから……レグに、受け入れられないと思って。レグは、オメガが嫌いだから」
「いいじゃないか。オメガだったら千歳に似るんだろう? アルファだったら、俺に似て可愛くないだろうからな」
抱えた感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、レグルシュの言葉を素直に受け取れない。皮肉なのか本音なのか、分からなくなっていた。自分がどんな顔をしているのかも、分からない。返す言葉が見つからない千歳を、レグルシュは優しく抱き締める。アルファに……恋をしている相手に触れられて、千歳は泣きたいくらいに幸せを感じていた。
「……俺が悪いのだろうな。千歳には、何度も辛い思いをさせた。俺は、捻くれてるからな」
それでも、レグルシュが他の誰よりも愛情深く、優しいところがあると、千歳は知っている。レグルシュが言葉にできなくとも、感じ取れるのだ。
「僕も……レグが好きです。告白する前に、発情期になってしまったから、その……本当の気持ちを伝えられなかった。わ、わざと誘ったんじゃないかって、嫌われたらって……」
「ああ……俺はあのときが一番怖かった。無理矢理番にする前に、千歳の気持ちが聞けてよかった」
突然吹いてきた秋風に、千歳は身体をぶるっと震わせた。レグルシュが荷物を詰めたトランクを引き、千歳を家の中へ入れる。もう二度と来ることはないと思っていた、レグルシュの寝室。冷えた手足と腹を温めるようにと、レグルシュは毛布をかけてくれた。大好きなアルファの匂いに包まれ、意識は幸せの海を漂う。夢みたいだ。でも、夢じゃない。手のひら同士を合わせて、指を絡めあった。
「──俺は、運命の番という存在が、嫌いだった。オメガのせいで、俺の家族は壊れたからな」
「……レグ?」
──オメガのせいで?
うつらうつらとする千歳の頭を撫で、レグルシュは語りだす。千歳は目を閉じ、声を追いかけながら、レグルシュの記憶に浸った。
両親はアルファ同士で日本人の母、そして、フランス人の父親。姉のエレナとレグルシュの四人家族だった。幸せな家族の仲を引き裂いたのは、とある一人のオメガだったという。
父親はそのオメガのことを運命の番だと呼び、逃げるように番とともに故郷へ帰った。レグルシュを連れて。
母親はエレナとレグルシュの両方の親権を主張したが認められず、父親はレグルシュを強引に連れ帰った。
「俺が小学二年の頃だ。昨日まで普通だった父の様子が突然おかしくなった。……オメガを好きになったと言ったんだ」
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