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事の始まりー凛sideー
目が覚めると、見慣れた、いや、ようやく慣れてきた自分の部屋だと認識する。
どうやら松本が眠ってしまった凛の後処理を
済ませて運んでくれたようだ。
都内の一等地に建つこの高級低層マンションは、東條立城の所有物件である。
内装は全て、各住居所有者の希望の間取りやインテリアが採用されたセミオーダー物件で、東條自身もその最上階の5SLDKメゾネットタイプに住んでいる。
東條が代表を務める会社は、医療をITで支えるサービスを展開しており、ここ数年は国内にとどまらず海外にも進出している。
経営陣の手腕と新進気鋭の現場陣の努力もあり、この数年で300人規模に拡大するなど勢いに乗っている企業だ。
東條は東京大学の医学部を卒業後、医者にはならずアメリカへ渡り、経営など諸々を学んだ後に28歳にして起業した。
父も祖父も起業家で、幼い頃から自分もいずれは会社を起こすと思いながら育ったらしい。
テレビや雑誌の取材オファーが後を絶えないのは、単に会社に勢いがあるからだけではない。
185cmの高身長に程よく鍛えられた体はスタイル抜群でスーツがよく似合うし、少し日に焼けた肌は38歳には見えないほど滑らか。
顔もワイルド系のイケメンで、それに加えて未婚ときたら、世の者たちが放っておかない。
自身がバイセクシュアルであると公言してもなお言い寄る男女が数多いるのは、地位や名誉だけでなく、東條という人間にそれだけの魅力があるからだろう。
豪快ながらも気の回る性格で社員を大切にする姿を見て、凛も東條という人間にいつのまにか惚れてしまった一人だ。
訳あって…堂坂凛がその社長邸宅に住まうようになり、ようやく2週間が経った。
事の始まりは…遡れば、東條の会社に新入社員として入社したことだろうか。
ベンチャー企業数社に絞り、社長に直筆の手紙を送付し面接に漕ぎ着けるという尖った就活スタイルで早々に内定を勝ち取ったのが6年前。
愛嬌がありつつも的を得たトークで次々に顧客を獲得し、入社数ヶ月で新人にしてエースとさえ呼ばれるほどバリバリと仕事をこなしていた。
表向きには順風満帆な社会人生活だったが、仕事に没頭するしかない闇を人知れず抱えながら日々を過ごしていたのが1ヶ月前までのこと。
長年の身体的ストレスが祟ったのか、社会人5年目の春に社内で突然意識を失い、酷い過労につき勤務停止命令を医者から言い渡されてしまう。
長期休養の間、同期や先輩、そしてCOOである松本や社長までもが頻繁に見舞いにきてくれた。
退院してからはただ家で体を休めているだけなのに、貧血だけがなかなか治らない。
今まで通り外回りのある営業職はもう無理だと悟り、在籍したまま迷惑をかけるくらいなら辞めようと退職願を拵えたその日、
仕事終わりの夜に一人で訪れた社長に、社長秘書にならないかと打診されたのだ。
社長秘書なら、実質東條の右腕とされている松本がそれもこなしているではないか。
と辞退を申し出たが、
「いや、もう決めたことだから。療養しつつゆるく働いて、それでもダメそうだったらまたその時考えればいいよ。」
「あと、今日から俺の家に住んでね。色々教える事あるし、君の体調も心配だから。頼れる人、近くにいないんでしょ?」
優しく微笑みながらも、有無を言わさぬ迫力のある東條の言葉に気圧される。
が、必死に頭を回転させてどう立ち振る舞うべきか考えていると
「堂坂さん、もしかして悩んでる?自分で言うのも何だけど、これ以上ない誘いだと思わない?」
「あ、いや、それは重々承知しているのですが、、」
「あ、もしかして、こんなおっさんと住むなんて無理とか?」
「えっ!いえっ!とんでもないです!社長は私の憧れですし、身に余る条件に恐縮しておりまして…あの、ご迷惑ではないのでしょうか…?」
負荷を抑えて働けそうな秘書職は大変ありがたいが、社長宅に住まわせて頂くのはあまりにも恐れ多い。
それに…社長のような素敵な男性と一つ屋根の下暮らすなんて…まさかどうにかなるなんて思わないが、変な想像が働いてしまい必死に邪念を振り払う。
「仕事のせいで体調を崩してしまったのだから、責任は俺にあるし。だからそんなに恐縮しなくていい。それになにより…」
「?」
「個人的にも、堂坂さんのことを気にかけているから、近くに置いておきたいんだ。あと松本もね。この提案は松本発案なんだよ。」
え、松本さんが…?
松本隼樹は、東條に負けず劣らずの整った顔とスタイルで多くの女性社員を虜にしている会社のCOO。仕事もデキるうえに紳士的で優しく、社員からの信頼も厚い。
会社の二大看板の二人のことを、黒天使と白天使、なんて呼んでキャーキャーはしゃいでいる社員は少なくないし、
凛もその白天使、つまり松本の隠れファンだったりする。
入社当初から営業成績がよかったからか、社内で顔を合わせると必ず声をかけてくれる松本。
休憩時間はあまり人と過ごさずバルコニーでのんびりすることが多い凛だが、そこは松本の休息地でもあるのか、よく居合わせるようになってから、少しずつ意識するようになっていった。
5分10分の間、多くを語るわけではないが、二人肩を並べて珈琲を飲む時間が1日の唯一の癒し。
いつも一人称は"僕"なのに、こうして二人でいるとたまに"俺"になるところも、心を許してもらえているような気がして嬉しかった。
松本を想う気持ちは着実に膨らんでいったが、異性関係で過去に痛い目を見ている凛は、
きっと妹みたいに思ってくれているのだろう
と考え、気持ちが大きくなりすぎないように蓋をするようになっていた。
「松本もよく俺の家に出入りしてるから。仕事はまだしなくていいけど、そのうち色々教えてもらったらいい。」
「わかりました。あの、本当にありがとうございます…ご迷惑をおかけしますが、なるべく早く復帰してまたお仕事頑張りますので、よろしくお願いします」
こんなまたとない提案を断ることなんかできないと、思い切って承諾すると
「じゃ、いこっか。今は体調平気?」
「えっ?!い、今からですかっ?」
「うん。あ、部屋のこととか荷物は松本と俺の家政婦に任せるから。」
と、強引に、そしてあっという間にことは進められていった。
この時はまだ社長の本性なんて知らずにドラマのようだと楽観的でいられたのだが…
こんなことになるなんて、まったく想像もしていなかった。
どうやら松本が眠ってしまった凛の後処理を
済ませて運んでくれたようだ。
都内の一等地に建つこの高級低層マンションは、東條立城の所有物件である。
内装は全て、各住居所有者の希望の間取りやインテリアが採用されたセミオーダー物件で、東條自身もその最上階の5SLDKメゾネットタイプに住んでいる。
東條が代表を務める会社は、医療をITで支えるサービスを展開しており、ここ数年は国内にとどまらず海外にも進出している。
経営陣の手腕と新進気鋭の現場陣の努力もあり、この数年で300人規模に拡大するなど勢いに乗っている企業だ。
東條は東京大学の医学部を卒業後、医者にはならずアメリカへ渡り、経営など諸々を学んだ後に28歳にして起業した。
父も祖父も起業家で、幼い頃から自分もいずれは会社を起こすと思いながら育ったらしい。
テレビや雑誌の取材オファーが後を絶えないのは、単に会社に勢いがあるからだけではない。
185cmの高身長に程よく鍛えられた体はスタイル抜群でスーツがよく似合うし、少し日に焼けた肌は38歳には見えないほど滑らか。
顔もワイルド系のイケメンで、それに加えて未婚ときたら、世の者たちが放っておかない。
自身がバイセクシュアルであると公言してもなお言い寄る男女が数多いるのは、地位や名誉だけでなく、東條という人間にそれだけの魅力があるからだろう。
豪快ながらも気の回る性格で社員を大切にする姿を見て、凛も東條という人間にいつのまにか惚れてしまった一人だ。
訳あって…堂坂凛がその社長邸宅に住まうようになり、ようやく2週間が経った。
事の始まりは…遡れば、東條の会社に新入社員として入社したことだろうか。
ベンチャー企業数社に絞り、社長に直筆の手紙を送付し面接に漕ぎ着けるという尖った就活スタイルで早々に内定を勝ち取ったのが6年前。
愛嬌がありつつも的を得たトークで次々に顧客を獲得し、入社数ヶ月で新人にしてエースとさえ呼ばれるほどバリバリと仕事をこなしていた。
表向きには順風満帆な社会人生活だったが、仕事に没頭するしかない闇を人知れず抱えながら日々を過ごしていたのが1ヶ月前までのこと。
長年の身体的ストレスが祟ったのか、社会人5年目の春に社内で突然意識を失い、酷い過労につき勤務停止命令を医者から言い渡されてしまう。
長期休養の間、同期や先輩、そしてCOOである松本や社長までもが頻繁に見舞いにきてくれた。
退院してからはただ家で体を休めているだけなのに、貧血だけがなかなか治らない。
今まで通り外回りのある営業職はもう無理だと悟り、在籍したまま迷惑をかけるくらいなら辞めようと退職願を拵えたその日、
仕事終わりの夜に一人で訪れた社長に、社長秘書にならないかと打診されたのだ。
社長秘書なら、実質東條の右腕とされている松本がそれもこなしているではないか。
と辞退を申し出たが、
「いや、もう決めたことだから。療養しつつゆるく働いて、それでもダメそうだったらまたその時考えればいいよ。」
「あと、今日から俺の家に住んでね。色々教える事あるし、君の体調も心配だから。頼れる人、近くにいないんでしょ?」
優しく微笑みながらも、有無を言わさぬ迫力のある東條の言葉に気圧される。
が、必死に頭を回転させてどう立ち振る舞うべきか考えていると
「堂坂さん、もしかして悩んでる?自分で言うのも何だけど、これ以上ない誘いだと思わない?」
「あ、いや、それは重々承知しているのですが、、」
「あ、もしかして、こんなおっさんと住むなんて無理とか?」
「えっ!いえっ!とんでもないです!社長は私の憧れですし、身に余る条件に恐縮しておりまして…あの、ご迷惑ではないのでしょうか…?」
負荷を抑えて働けそうな秘書職は大変ありがたいが、社長宅に住まわせて頂くのはあまりにも恐れ多い。
それに…社長のような素敵な男性と一つ屋根の下暮らすなんて…まさかどうにかなるなんて思わないが、変な想像が働いてしまい必死に邪念を振り払う。
「仕事のせいで体調を崩してしまったのだから、責任は俺にあるし。だからそんなに恐縮しなくていい。それになにより…」
「?」
「個人的にも、堂坂さんのことを気にかけているから、近くに置いておきたいんだ。あと松本もね。この提案は松本発案なんだよ。」
え、松本さんが…?
松本隼樹は、東條に負けず劣らずの整った顔とスタイルで多くの女性社員を虜にしている会社のCOO。仕事もデキるうえに紳士的で優しく、社員からの信頼も厚い。
会社の二大看板の二人のことを、黒天使と白天使、なんて呼んでキャーキャーはしゃいでいる社員は少なくないし、
凛もその白天使、つまり松本の隠れファンだったりする。
入社当初から営業成績がよかったからか、社内で顔を合わせると必ず声をかけてくれる松本。
休憩時間はあまり人と過ごさずバルコニーでのんびりすることが多い凛だが、そこは松本の休息地でもあるのか、よく居合わせるようになってから、少しずつ意識するようになっていった。
5分10分の間、多くを語るわけではないが、二人肩を並べて珈琲を飲む時間が1日の唯一の癒し。
いつも一人称は"僕"なのに、こうして二人でいるとたまに"俺"になるところも、心を許してもらえているような気がして嬉しかった。
松本を想う気持ちは着実に膨らんでいったが、異性関係で過去に痛い目を見ている凛は、
きっと妹みたいに思ってくれているのだろう
と考え、気持ちが大きくなりすぎないように蓋をするようになっていた。
「松本もよく俺の家に出入りしてるから。仕事はまだしなくていいけど、そのうち色々教えてもらったらいい。」
「わかりました。あの、本当にありがとうございます…ご迷惑をおかけしますが、なるべく早く復帰してまたお仕事頑張りますので、よろしくお願いします」
こんなまたとない提案を断ることなんかできないと、思い切って承諾すると
「じゃ、いこっか。今は体調平気?」
「えっ?!い、今からですかっ?」
「うん。あ、部屋のこととか荷物は松本と俺の家政婦に任せるから。」
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こんなことになるなんて、まったく想像もしていなかった。
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