33 / 87
2章
33
しおりを挟む
宿木に戻って来た。
見覚えは…ない。ほとんど周り見てなかったしな。只々不安で心細かったことだけ覚えてる。
「カイト、今晩はここで泊まってもいいし、もっと先へ進んでもいいぞ」
宿木を見つめて立ち尽くす俺の肩をギィがそっと後ろから引き寄せる。背中にあたるがっしりした体の固さと温もりに、あの時の不安な気持ちを思い出し始めていた心がフッと軽くなった。
「ここにしようよ。2人に会った思い出の場所だしさ」
横から見下ろしてくるギィとその後ろでこちらを心配そうに見ていたルークに、ニッと笑いかける。
そうだ、俺はあの時とはもう違うんだ。今はもう心細いことなんてない。だって迎えに来てくれる人だっているんだ!
5日前、半年過ごした魔王領を出発した。もの凄く濃い毎日だった。
「まだここに居ていいのに…ルークもギィも迎えに来るのが早すぎるのよ!まだまだ一緒にやりたい事がいっぱいよ!?」
子どもが独り立ちする時ってこんな感じなのかしら。とルークとギィを睨みつけながら文句を言う魔王はどう見ても俺より年下なんだけどな…。
「覚えも良く頭の回転も悪くなく、欠点らしきは素直過ぎるところぐらい。もうしばらく時間をかければそこも克服できたかと思うと惜しいですね」
「セイ殿の教えを受けたにも関わらず、あの腹黒さが伝染らなかったのは素晴らしいことですよ。健やかな心と身体は良質な食事と睡眠が作ります。羽目を外しすぎてはいけませんよ」
ハク、母親みたいになってるぞ。あと意外と毒舌なんだよな。セイとしょっちゅう嫌味合戦してたけど、あれって絶対同族嫌悪だよな。仲良くしろよ。
「鍛錬は続けるように」
「次会ったときに腑抜けてたらイチからやり直しだからな!」
得体の知れない俺を拾って連れて来てくれたのはギィとルークだけど、保護してこの世界での生き方を教えて導いてくれたのは魔王領のみんなだ。ここはもう俺にとって安全で安心できるこの世界での実家になってる。
離れるのは寂しいけれど、ギィやルークが暮らす街や外の世界を見てみたいって俺から言い出して魔王領から出ることにした。
魔力には慣れてきてもう眩しく感じずに見る事ができるようになった。対象の魔力の多さみたいなものを眩しさ度合いで見分けることもできるくらいに視界の切り替えに熟練できてる。魔力の多い野菜は美味しいから、主に食べ頃を見極めるために使ってます。
魔力を自分に溜めることはできないままだけど、そこは魔王が色々考えてくれて俺用のモバイルバッテリーを作ってくれた。
ランプやコンロなどの一般に普及している道具は魔力が動力になってる。魔力が溜まってる魔力鉱石を電池みたいに本体に取り付けてるんだけど、起動するのに自分の魔力を使うらしい。最初にちょっと魔力を流して電池の魔力を起こすみたいな感じ。俺は魔力がないからそれができなくて使えない。そこで、持ち運べて自由に中の魔力を取り出して使えるバッテリーがあればいいんじゃないかってなった。
本来、他人の魔力を取り込むのは自身の魔力と反発して不快なものだから、これまで魔力鉱石から直に魔力を取り込む仕組みはなかった。でも俺は自分の魔力っていうのがないからな!誰の魔力でも取り込めます!
魔王が作ったのは触れると魔力が流れ込んでくる機械みたいなもの。それに電池の魔力鉱石を嵌めて、俺が触ると中の魔力が流れ込んでくる。俺は流れ込んできた魔力をそのまま使う。という感じ。
電池の魔力鉱石は普通に売られているから、最初はそれから魔力を取り込めないか試してみたんだけど取り込む先から消えていってしまって全然魔力量が足りなかった。
色々試して最低でも5倍くらいの大きさの魔力鉱石がないと容量が足りないことが判明。道具を1個起動するのにその道具の動力になる魔力の5倍の魔力が必要ってことだから、恐ろしいほど燃費が悪いってことなんだけど、それでも俺には必要で。
魔王とセイは嬉々として研究と改良に取り組んでた。妖が出現したときの最終兵器として待機している以外は特にすることがないらしい魔王は、こういう道具とかを作るのを趣味にしてて一般に普及している物もあるんだとか。
久々にチヤ様が楽しそうにしておられていて嬉しい限りです。ってハクがにっこりしてた。
見覚えは…ない。ほとんど周り見てなかったしな。只々不安で心細かったことだけ覚えてる。
「カイト、今晩はここで泊まってもいいし、もっと先へ進んでもいいぞ」
宿木を見つめて立ち尽くす俺の肩をギィがそっと後ろから引き寄せる。背中にあたるがっしりした体の固さと温もりに、あの時の不安な気持ちを思い出し始めていた心がフッと軽くなった。
「ここにしようよ。2人に会った思い出の場所だしさ」
横から見下ろしてくるギィとその後ろでこちらを心配そうに見ていたルークに、ニッと笑いかける。
そうだ、俺はあの時とはもう違うんだ。今はもう心細いことなんてない。だって迎えに来てくれる人だっているんだ!
5日前、半年過ごした魔王領を出発した。もの凄く濃い毎日だった。
「まだここに居ていいのに…ルークもギィも迎えに来るのが早すぎるのよ!まだまだ一緒にやりたい事がいっぱいよ!?」
子どもが独り立ちする時ってこんな感じなのかしら。とルークとギィを睨みつけながら文句を言う魔王はどう見ても俺より年下なんだけどな…。
「覚えも良く頭の回転も悪くなく、欠点らしきは素直過ぎるところぐらい。もうしばらく時間をかければそこも克服できたかと思うと惜しいですね」
「セイ殿の教えを受けたにも関わらず、あの腹黒さが伝染らなかったのは素晴らしいことですよ。健やかな心と身体は良質な食事と睡眠が作ります。羽目を外しすぎてはいけませんよ」
ハク、母親みたいになってるぞ。あと意外と毒舌なんだよな。セイとしょっちゅう嫌味合戦してたけど、あれって絶対同族嫌悪だよな。仲良くしろよ。
「鍛錬は続けるように」
「次会ったときに腑抜けてたらイチからやり直しだからな!」
得体の知れない俺を拾って連れて来てくれたのはギィとルークだけど、保護してこの世界での生き方を教えて導いてくれたのは魔王領のみんなだ。ここはもう俺にとって安全で安心できるこの世界での実家になってる。
離れるのは寂しいけれど、ギィやルークが暮らす街や外の世界を見てみたいって俺から言い出して魔王領から出ることにした。
魔力には慣れてきてもう眩しく感じずに見る事ができるようになった。対象の魔力の多さみたいなものを眩しさ度合いで見分けることもできるくらいに視界の切り替えに熟練できてる。魔力の多い野菜は美味しいから、主に食べ頃を見極めるために使ってます。
魔力を自分に溜めることはできないままだけど、そこは魔王が色々考えてくれて俺用のモバイルバッテリーを作ってくれた。
ランプやコンロなどの一般に普及している道具は魔力が動力になってる。魔力が溜まってる魔力鉱石を電池みたいに本体に取り付けてるんだけど、起動するのに自分の魔力を使うらしい。最初にちょっと魔力を流して電池の魔力を起こすみたいな感じ。俺は魔力がないからそれができなくて使えない。そこで、持ち運べて自由に中の魔力を取り出して使えるバッテリーがあればいいんじゃないかってなった。
本来、他人の魔力を取り込むのは自身の魔力と反発して不快なものだから、これまで魔力鉱石から直に魔力を取り込む仕組みはなかった。でも俺は自分の魔力っていうのがないからな!誰の魔力でも取り込めます!
魔王が作ったのは触れると魔力が流れ込んでくる機械みたいなもの。それに電池の魔力鉱石を嵌めて、俺が触ると中の魔力が流れ込んでくる。俺は流れ込んできた魔力をそのまま使う。という感じ。
電池の魔力鉱石は普通に売られているから、最初はそれから魔力を取り込めないか試してみたんだけど取り込む先から消えていってしまって全然魔力量が足りなかった。
色々試して最低でも5倍くらいの大きさの魔力鉱石がないと容量が足りないことが判明。道具を1個起動するのにその道具の動力になる魔力の5倍の魔力が必要ってことだから、恐ろしいほど燃費が悪いってことなんだけど、それでも俺には必要で。
魔王とセイは嬉々として研究と改良に取り組んでた。妖が出現したときの最終兵器として待機している以外は特にすることがないらしい魔王は、こういう道具とかを作るのを趣味にしてて一般に普及している物もあるんだとか。
久々にチヤ様が楽しそうにしておられていて嬉しい限りです。ってハクがにっこりしてた。
6
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。
篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる