異世界強制お引越し 魔力なしでも冒険者

緑ノ深更

文字の大きさ
55 / 87
2章

55

しおりを挟む
「カイト、どう?揃った?」

今日はルークが講師の訓練で近くの森へ採取に来てる。参加者は俺以外にはE級1人、D級1人の3人だ。外で行われる訓練は講師1人に対し多くても5人まで。今日の参加者はこれまでにも何度か一緒になってるやつら。年も近そうだから友達になれたらいいんだけど。

参加者は申込者の中から講師が選ぶ。A級のギィとルークが講師をする訓練は毎回すごい競争率らしいんだけど、俺は身内特権で申し込めば確実に参加できちゃってる。そういうのも俺が遠巻きにされてる理由なんだろうけど、そこを譲る気はない。だって他の講師の外の訓練には参加できないんだから多めに見て欲しいよ。

「うん。なかなかいい状態のが集めれたと思うんだ。日陰でも見つけれたから図鑑に書き込んどこうと思って」
「査定が楽しみだな」
「今日こそはルークに勝てるかもしれない!」
「ははは。まだまだ負けないよ」

まだ他の2人は採取中みたいだし、今なら聞いてもいいかな?

「ねぇ、ルークはギィの全力の戦闘って見たことある?ギィとパーティー組んだ人がすごいすごいって言ってたけど俺見たことないから、どんな感じなんだろうって思って」
「あー、前に組んだことのあるB級のパーティーかな?
ギィの戦闘はすごいと言えばすごいけどそいつらが言うすごいは本当にギィがすごい理由とはズレてると思うなぁ。そいつらの言ってるすごいは見えてる戦闘力のことだと思うんだよね。
もちろんギィは強い。俺とはタイプが違うから戦い方については俺も細かい部分まで評価できるものではないけど、純粋な攻撃力は随一だと思うよ。
でも、本当にギィがすごいのは判断力と冷静さだ。
激しい戦闘になると特に近接戦闘タイプのやつは一種の興奮状態になって周りが見えなくなることがあるんだ。それで怪我をすることもあるし、戦闘が終わっても気が立ってるままのやつも出てくる。
ギィはそれがない。戦闘中も周りもみてきっちり計算してパーティーを組んでいるやつらを支えながら最も強い攻撃も与えることができるんだ。
パーティーを組んでるやつらにしたらいつも以上に攻撃が当たるように感じるだろうし、戦えてる爽快感みたいなものも強くなるだろうね。ギィがそう導いているんだけどね。そいつらもそこに気づけないうちはまだまだA級にはなれないな」
「へぇー。ルークもそういう判断をするの?」
「まぁ、俺は遠距離タイプだしそれが役割だしね。戦闘にも興味が出てきた?」
「うぅん。そういう訳じゃないんだけど、俺の入れない世界だなぁって、ちょっと…ね」

ルークは何も言わず俺の頭をかきまぜた。
ちょっと寂しかったって言わなくてもわかってくれたかな。こういうとこはルークの方が断然頼れる気がする。

「あ、そういえばルークもずっと宿だよね?いつかエリカから移動するから?」
「ん?移動する予定は今のところないよ?なんで?」
「俺の居たところでは宿ってその日のうちに家に帰れないときに泊まるものだったから、移動しないんだったら家の方がいいんじゃないかと思って。そういうのホームって言うんでしょう?」
「ホーム…それ、ギィにも言ったのか?」
「うん。ギィもルークもいつかエリカから移動しちゃうんだったら、俺はエリカに居たいから1人で家借りないといけないな。って思って」
「え?家ってホームだよね?ホームは1人では住まないんじゃないかなぁ」
「そうなの?一人暮らしはない?」
「ない…な。最初から一人ってのはないと思う。ギィはなんて言ってた?」
「ギルドに聞いてみるって言ってたけど…。家だとお風呂あるって。ギィが家借りたらルークも一緒に住む?」
「いや…それは…俺はカイトといれるから嬉しいけど、ギィが何て言うかなぁ…。もう一度ギィとちゃんと話した方がよさそうだぞ。まぁ、そんなにすぐ動かないとは思うが」
「??」

3人だと狭くなるってことかな?
ルークも一緒だとルームシェアって感じで楽しいと思ったんだけどなぁ。

採取をしていた2人が戻ってきた。E級はヤック、D級はグレンだ。そう、2人とも前にギルド長が言ってた拠点に住んでる冒険者だった。拠点は家の屋根に風見鶏が付いてるから”風見鶏”って呼ばれてる。

「2人とも依頼数は集まったか?」
「「はい」」
「よし、じゃあ荷物をまとめて帰る準備だ」

俺は広げてた採取物を種類ごとに束ねてそれぞれ紙のファイルに挟んで袋に仕舞う。今日は植物の採取だったからファイルに挟んでおくと持ち運びのときの破損が少なくて査定額が上がるんだ。

「なぁ、お前、それ、なんでそんなことするんだ?」

初めてヤックに声をかけられた。グレンもこっちを見てる。ルークは見守る姿勢なので俺が答えて大丈夫かな。

「えっと、こうやって持って帰ると端っこが折れたりしにくいから査定額が下がりにくいかと思って。あと、袋の中で混ざったりもしないし。カウンターで出すときもサッてできるよ」
「へぇー。いいな。それ自分で考えたのか?」
「えっ?うん。だって便利だし。報酬多い方がいいし」

これでもまだギィにもルークにも勝てないけど。でも、時給じゃなくて達成で給料が出るんだったらちょっとでも高くなるようにしないと損だろ!

「俺も真似してもいいか?ちょっとでも報酬多くしたい」
「そんなの俺に聞かなくてもいいに決まってる。今日はコレ使う?余ってるし。ほら、グレンも」

余分に持ってきてた紙ファイルを2人に渡す。紙ファイルはギルドの書類整理で要らなくなった物を貰ったリサイクルだ。

「俺はコレ使ってるけど、挟めたらなんでもいいと思う。ほんとはコレのサイズにぴったりの袋があれば採取しながら収納していけるんだけど、まだ見つけられてないんだよね…」
「お前、カイトだっけ。ちゃんと自分で考えてやってるんだな」
「えぇ…」
「だっていつもギィさんとルークさんと一緒にいてさ。全部用意してもらってやってるんだと思ってたから…」

俺も。ってグレンも小さく言った。ショックだ…。そんな風に見られてたのか。

「コレにぴったりの袋さ、ティナに言ったら何かあるかも。あ、ティナって風見鶏にいるE級の女な」

知ってる。あと、女っていうか女の子ね。たぶん年下だと思う。

「今度話しかけてみようかなぁ」
「いいんじゃね?アイツ、カイトがかわいいって言ってたから話しかけたら大興奮するんじゃね?」
「ぇ。なんだそれ」
「知らね。女ってすぐかわいいって言うしよくわからん」

帰り支度が出来たので移動開始だ。森を出るまでは周囲の警戒も怠らない。俺は魔力を見れば獣の接近にはすぐ気づけるんだけどね。でも訓練だから魔力は見ずに警戒方法を習いながら移動する。
街道に出てからはちょっとくらいはおしゃべりしても大丈夫。
2人は依頼報酬のうち必要な分を除いた余分を風見鶏に入れてるんだそうだ。だからちょっとでも報酬を上げたいって。偉いなー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

巨人の国に勇者として召喚されたけどメチャクチャ弱いのでキノコ狩りからはじめました。

篠崎笙
BL
ごく普通の高校生だった優輝は勇者として招かれたが、レベル1だった。弱いキノコ狩りをしながらレベルアップをしているうち、黒衣の騎士風の謎のイケメンと出会うが……。 

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

処理中です...