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第6章:光の城
3:晩餐会
しおりを挟む「それでは、こちらのお部屋をお使い下さいませ。左手の扉の先には水場が、右手の扉はクローゼットとなってございます。晩餐会は夕刻六時より開かれるとのことですので、それまでの時間はこちらでお過ごしくださいませ。何か御用の際はそちらのベルを鳴らしてください、すぐに私がかけつけます。では、失礼致します」
ぺこりと頭を下げて、白くて品の良い衣服に身を包んだメイドは部屋を出て行った。
リオ達四人が連れて来られたのは、城の二階に位置する広い部屋。
他国の貴族や王族の来訪時に使用される、豪華で清潔な客間だ。
これまでと同じように、白い石造りのこの部屋にも、床には赤い絨毯が敷かれ、壁には黄金の照明具が等間隔に並んでいる。
部屋の中央には、これまた高級そうな低めのテーブルと、大きなソファーが二つ。
壁際にはベッドが四つ並べられており、大きなガラス窓の外にはバルコニーが設置されている。
もともと、王都の中でも、この城が建つ土地は標高が高い為に、バルコニーからは王都の様子が一望出来た。
そして、遥か南にそびえるオエンド山脈のその姿も、リオは目にしていた。
ワイティア王との謁見の後、リオ達四人は、旅立ちまでの数日を、この城の中で過ごす事となった。
なんでも、旅に必要な食糧や水、その他備品や馬は、ワイティア王が用意してくれるらしい。
リオは、なんて良い王様なんだろう、と感心したし、マンマチャックは、有難いけれども、自分は既に馬を持っているので、後で国王に断りを入れなければ、と考えている。
ジークは、部屋に置かれたベッドを目にして、久しぶりに足を延ばして眠れると満足しているし、エナルカは、こんなにも良くしてもらっているのだから、期待に応えなければならないと意気込んでいる。
それぞれが、それぞれに、黒竜ダーテアスを倒す旅に出る事に対し、前向きな心構えでいた。
しばしの間、四人が部屋で寛いでいると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「は~い」
リオが何の気なしに返事をする。
「失礼する」
扉を開けて入ってきたのはオーウェンだった。
オーウェンの登場に、四人は少しばかり緊張した面持ちになる。
これは、国王と謁見した後、部屋に案内されるまでの間にメイドから聞いた話なのだが……
このオーウェン、実は、この国で三番目に偉い人物だという。
ヴェルハーラ王国という国は、国の最高責任者として国王がその座に君臨し、その下に二人の宰相が付くという。
宰相とは、国王が国を治めるのを助ける者である。
そして、その二人の宰相のうちの一人が、このオーウェンなのであった。
オーウェンは軍人だが、国王直下の軍人という事はつまり、この国の国営軍のトップであることを示していたのだ。
オーウェンの一声で、何千、何万という数の軍人が、その命令に従うのだという。
しかしながらリオは、そのような事を聞いてもいまいちピンとこないし、マンマチャックにも国のなんたるかは難しくて理解できなかった。
ジークはあまり興味がなく、メイドの話は全て上の空で聞いていたし、エナルカはやっぱり凄い人だったんだ~と、漠然と思っただけであった。
それでもやはり、オーウェンを前にすると、四人は少しばかり身が引き締まるのだ。
それほどまでにこのオーウェンは、体中からその偉大さを放っているのであった。
「晩餐会の前に、今後の日程を話しておこう。晩餐会では酒も振る舞われる。後回しにすると、君達の中の誰かさんは酔いつぶれるだろうと思ったのでな」
ちらりとジークを見るオーウェン。
「あぁ? 俺は酒に飲まれたりしねぇよ」
不機嫌な顔になるジーク。
「そうか、それは失礼した。なんせ、君の師であるレイニーヌは、かなり酒癖の悪い女だったと記憶しているからな……。てっきり君もそうかと」
ふっと笑ったオーウェンに対し、ジークは目をパチクリさせる。
「オーウェンさん、あなた……。恵みの女神レイニーヌ本人に、お会いしたことがあるんですか?」
エナルカが尋ねた。
「勿論。先代国王が亡くなられるまでは、この城で頻繁に晩餐会が開かれていたからな。レイニーヌだけではない、クレイマンも、ケットネーゼも、シドラーも、そしてロドネスもだ。皆、先代国王を慕い、晩餐会の招待には毎回快く応じてくれいていた」
オーウェンの言葉に、四人は一様に驚く。
まさかこのオーウェンが、自分達の師と顔見知りだったなどとは、思いもよらなかったのだ。
「クレイマンさんはっ!? お酒に強かったんですかっ!? 僕は、クレイマンさんがお酒を飲むところなんて見た事ないんですけど!」
リオが、やや興奮気味で尋ねた。
「いや、クレイマンは酒に弱かった。いつもケットネーゼに絡まれて、無理矢理酒を飲まされ、翌日の夕方まで客間で倒れていたよ」
オーウェンの言葉に、父ならそのような事をしそうだと、マンマチャックは渋い顔になる。
「シドラー様は、どんなご様子でしたか?」
エナルカは、自分の知らない師の話を聞けるのではないかと、目をキラキラさせて尋ねた。
「シドラーは、いつでも冷静だった。酒を飲もうとも、飲まずとも、その威厳は変わりなかった。しかし……、少々女に弱くてな。メイドとは目も合わせられぬほどに、恥ずかしがり屋であった」
オーウェンの言葉に、若き日のシドラーがそのような性格だったとは、全く知らなかったエナルカは、口を半開きにして驚いた。
「すごいすごいっ! オーウェンさんは、僕達の師の事を、とてもよく知っていたんですねっ!」
なんだかとても嬉しい気持ちが溢れてきて、ピョンピョンと撥ねるリオ。
その気持ちは、他の三人も同じだった。
自分達が慕い、尊敬する師の事を、誰かと共有できる事が嬉しいのだ。
結局この後も、五大賢者達の思い出話に花を咲かせてしまったオーウェンは、本来の目的であった今後の日程の説明ができないままに日は暮れて、晩餐会の時間となってしまったのであった。
「勇敢なる、若き魔導師達に……、乾杯っ!」
「乾杯っ!」
夕刻六時、空に星が見え始める頃。
城内の広い食堂で、リオ達四人を歓迎する晩餐会が執り行われた。
とてつもなく広いテーブルと、そこに並べられた数十脚の椅子。
そして、その椅子に座る、とても気品のある人々と、テーブルの上に大量に並べられた豪華な料理を前に、リオは目を左右へキョロキョロと泳がせていた。
招待された人々は皆、かなり年配の者達ばかりである。
顔に無数の皺がある者や、声が掠れて聞き取れない者、頭に毛が一本もない者など、見るからに高齢の者達ばかりで、国王ワイティアの若年ぷりは更に際立っていた。
国王ワイティアは、数日の後に黒竜退治へと赴く四人を、晩餐会に出席している王族や貴族達に、丁寧に紹介した。
リオ・クレイマン、十二歳、出身は北西のベナ山、五大賢者の一人、紅蓮の覇者クレイマン・ギブルソンの弟子。
マンマチャック・ケットネーゼ、十七歳、出身は北東のボボバ山、五大賢者の一人、森の聖者ケットネーゼ・ルルルの弟子であり、子息。
ジーク・レイニーヌ、十九歳、出身は南西の町クオデア、五大賢者の一人、恵みの女神レイニーヌ・バレンティアの弟子。
エナルカ・シドラー、十三歳、出身は西のキナトゥー原野の風の集落、五大賢者の一人、神風の使い手シドラー・アルドネスの弟子。
この時リオは、初めて知った。
自分の名前に、クレイマンという名が含まれているという事を。
この国の魔導師は皆、一番弟子に自分の名前を継がせるというしきたりがあった。
それに乗っ取ってワイティア王は、晩餐会に出席した者達に対し、そのようにして四人の名前を伝えたのであった。
四人はそれを聞いて、まるで世界で一番の誉れを貰ったかのような、とても誇らしい気持ちになるのだった。
「ここでもう一人、私から紹介したい者がいます。テスラ、入ってきなさい」
ワイティア王の言葉に、食堂の扉がゆっくりと開いて、一人の少女が中へと入って来た。
漆黒の長い髪に、透き通るような白い肌。
端正に整った顔には、血のように赤い隻眼と、もう片方にはきつく眼帯を巻いている。
背はスラリと高く、歩みはゆっくりと優雅だ。
とても美しい女だとリオは思うが、その表情がどこか異質だと感じるのは、少女がまるで感情が無いような無表情であるからだろうか。
ワイティア王の隣で歩みを止めた少女は、皆の方に向き直った。
「テスラ・ロドネス、十五歳、出身はここ、王都ヴェルハリス。五大賢者の一人、常闇の主ロドネス・ブラデイロの……、御息女です」
ワイティア王の言葉に、そこにいた人々は騒然となる。
「なんと!? ロドネス殿の娘!?」
「そのような者がいたとは……、なぜこれまで公表されなかったのですか!?」
「国王! 説明をっ!」
口々に、まるでワイティア王を責めるかのような発言をする人々。
「静粛にっ!」
傍で控えていたオーウェンが、声を荒げて皆を制止した。
「この国を共に支えてくださる皆様に、長年秘密を抱えたままでいる事は、私もとても心苦しく感じておりました。しかしそれは、このテスラの希望でした。常闇の主ロドネスは、生後間もないテスラを残し、行方不明となった。それを皆様がどのようにお考えか、私には到底知る事など出来ません。しかしながら申し上げたい。この世に生まれた命に、罪はない、と……」
ワイティア王の言葉に、集まった人々は苦虫を潰したような、なんとも言えない表情で下を向いた。
リオ、マンマチャック、ジーク、エナルカの四人は、人々の反応も、ワイティア王の言葉の意味も、何一つわからなかった。
しかし、四人が四人とも、分かった事があった。
目の前にいる少女は、五大賢者の一人、常闇の主ロドネスの実の娘。
だとしたらきっと、ワイティア王は次にこう言うに違いない。
「このテスラにも、こちらの四人の若き魔導師達と共に、黒竜ダーテアス討伐の旅に出てもらいます」
その言葉に、四人は納得したように頷いた。
常闇の主ロドネスの実の娘ならば、彼女の持つ魔力、その強さは、自分達に負けず劣らず素晴らしいものに違いない。
心強い味方がまた一人増えたのだ、と、四人は笑顔になる。
しかし、そんな四人とは裏腹に、周りの人々が少女に向ける視線は冷ややかであった。
まるで、この少女は信用ならない、とでも言いたげな……、そんな風に、リオには感じられたのだった。
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