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第6章:光の城
4:名誉勲章
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夜が更けた。
盛大に開かれた晩餐会はお開きとなり、四人は寝床である城の二階の客間へと戻った。
オーウェンが心配していた通り、ジークは酒に飲まれて酔い潰れてしまっていた。
だがそれは、決してやけを起こしたが故のものではなく、心強い仲間に巡り会えた事で、これまでずっと張り詰めていた心の糸が、少しばかり緩んだ為であった。
マンマチャックとリオは、自分よりも数倍大きな体を持つジークを、力を合わせてベッドまで運んだ。
ジークは、幸せそうな笑みを浮かべて、夢の中へと落ちていった。
「ジーク様には今後、お酒を控えて頂きましょう」
だらしなく眠るジークを睨みながら、エナルカがそう言った。
「そうですね。自分も、旅の最中では酒は禁止とします。なかなかに足元がふらつきますから……、おととっ」
隣に座っていた貴族の者に無理矢理に酒を勧められたマンマチャックは、生まれて初めてそれを口にしたのだが、あまりに酷いその味と、後から襲いくる目眩に、二度と酒は飲むまいと心に決めた。
父はどうであったか知らないが、自分は酒は苦手だ……、と判断したのだ。
「でも楽しかったね~。あんなに沢山の人と一緒に食事をするなんて、僕初めてだったんだ~」
まだ子どものリオは、アルコールの入っていない果実のジュースを飲んでいただけなのだが……
楽しげな場の雰囲気に酔ったらしく、締まりのない顔で笑っている。
眠るジーク、ふらふらしているマンマチャック、にまにましているリオ。
そんな三人を見てエナルカは、この先、本当に大丈夫かしら? と、一抹の不安を抱くのであった。
すると、部屋の扉をコンコンと、誰かがノックした。
「は~い」
例によって、何の気なしに、リオが返事をする。
「失礼する」
扉を開けて入ってきたのはオーウェンだ。
その手には、丸めた羊皮紙の束を一つ持っている。
「ふむ、やはり酔い潰れたか」
ベッドで眠るジークを見て、苦笑いするオーウェン。
「あ、そういえば……。まだ、これからの日程をお聞きしてませんでしたね?」
頭が酷くクラクラとする中、額に手を当てて、マンマチャックはそう言った。
「うむ。しかし、皆疲れているようだな。簡潔に話そう、そのまま聞いてくれ」
オーウェンは、手に持っている羊皮紙の束を開き、中に書かれている文言を読み上げ始める。
「明日の午前、朝食が済んだ後、城内の聖堂にて、加護の儀を執り行う。加護の儀とは、ヴェルハーラに暮らす者達全ての守り神である、今は亡き銀竜イルクナードに対し、旅の安寧と無事の帰還を願い、君達をお守り下さるようにと祈りを捧げる儀式だ。国属の魔導師達による神聖なる儀式であるからして、身に纏う衣服はこちらが用意し、明日の朝ここに届けさせる。そして午後からは、名誉勲章授与式が執り行われる。城の屋上庭園にて行われる予定だが、雨天の場合は玉座の間にて行われる。これは、旅立つ君達に、国家の存続の為に重要な働きをした者に与えられる名誉勲章を、先に授与する為の式典だ。先ほどの晩餐会で出席しておられた王族貴族の方々も来賓として招かれる。そして明後日……。君達は日の出と共にこの城を出て、南区の大通りを盛大なるパレードでもって見送られ、南門から都外へと出る。そこから先の道は、君達だけで進まねばならない……。だが安心してくれ。明日の夕食が終わった後で、オエンド山脈への道筋を記した地図を元に、私が君達に様々な説明をしようと思う。何か聞きたいことがないか、明日の夜までに考えておいてくれ。私からの説明は以上だが、現時点で何か質問はあるかね?」
オーウェンの長く難しい説明に、リオはぽかんとした様子でいるし、マンマチャックはまだ頭がクラクラしているようで考えが巡らず、ジークは眠っている為に論外で、エナルカは予定が詰まっている事に対して更に不安を抱いている。
三人が何も口にしない事を確認し、オーウェンはくるくると羊皮紙を巻き直した。
「そう案ずるでない。儀式や式典は全て、周りが取り仕切ってやってくれるものだ。君達はただ、周りの様子を見ていれば良い。そして、かけられる言葉の一つ一つを真摯に受け止め、心に刻むのだ」
オーウェンはそう言って、三人に目配せをした後、部屋を出て行った。
残された三人はそれぞれに、これから起きる事について、思いを巡らせていたが……
疲れからくる眠気の為に、いつしか皆、深い眠りについていたのであった。
朝がやってきた。
バルコニーへと繋がる大きなガラス窓からは、眩しいくらいの太陽の光が射し込んでいる。
そんな中、最初に目覚めたのはリオだった。
今まで経験したことのないような、寝心地の良いふかふかの布団の中で小さく身を丸めて眠っていたリオは、パチっとその瞼を開いた。
ゆっくりと身を起こし、寝ぼけ眼を擦りながら、ここはどこだろう? と考える。
あぁそうか……、僕、お城にいたんだっけ……
他のベッドで眠る、マンマチャック、ジーク、エナルカを順番にその視界に捉えて、リオはにっこりと笑う。
これからみんなと、黒竜退治に出掛けるなんて……、いつかクレイマンさんに話せたら、きっとすごくびっくりするだろうな~。
ふふふと小さく声を出して笑い、リオはベッドから降りた。
大きなガラス窓をそっと開けて、バルコニーへと出るリオ。
東の空にはもう太陽が昇っていて、王都の家々の煙突からは既に白い煙が上がっている。
空は雲一つない快晴で、実に気持ちの良い朝だった。
さぁ、今日はとっても忙しいぞぉっ!
リオは大きく伸びをして、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ヴェルハーラに生きる全ての者を守りし銀竜イルクナードよ。この地より明日、若き五人の魔導師が旅立つ。彼らの旅の平穏と、その命を守りたまえ。ヴェルハーラの神よ、偉大なる銀竜よ、我らの願いを聞き入れたまえ」
城の北東に位置する大聖堂では、今現在、五人の魔導師の為に、加護の儀が執り行われている。
儀式を受ける為に、専用の白いローブに身を包むのは、リオ、マンマチャック、ジーク、エナルカ、そしてテスラの五人。
その頭に白い花冠を被って跪き、目を閉じ、胸に手を当てて、聖堂の前方にある、巨大な、白い銀竜イルクナードの石像に祈りを捧げていた。
大聖堂は、城と同じ白い石造りであって、その天井は見上げるほどに高い。
壁面に設けられた複数の窓からは太陽の光が射し込み、そこかしこに灯された蝋燭のオレンジ色の火と相まって、とても幻想的な光景が広がっていた。
儀式を取り仕切るは、城に住まう国属の魔導師達。
皆年老いてはいるものの、その体は魔力に満ち満ちている。
だがしかし、彼らは大変に緊張した面持ちでいた。
目の前で跪く五人の若き魔導師達の、その内に秘めた力に驚き、恐れ、また敬意をもって、儀式を進行していたのであった。
現国王であるワイティア王も、勿論その儀式に参加していた。
五人より前の位置で跪き、銀竜イルクナードに祈りを捧げるワイティア王。
ここにいる全員が、五人の旅の無事を願い、祈りを捧げていた。
だがしかし、当の本人達はというと……
リオは、初めて経験する儀式というものに対し、とてもワクワクしていて、目を閉じなければならない場面でも周りの様子が気になって、薄目を開けて視線を泳がせていた。
マンマチャックは、まだ昨晩の酒のせいで気分が悪く、お願いだから早く終わらないものかと、こちらも全く儀式に集中していない。
ジークはというと、こちらはもう起きてすらおらず、目を閉じなければいけないという事を利用して、スースーと小さく寝息を立てている。
エナルカだけは、一生懸命に祈っているかと思いきや……、こちらは何やら、頭に乗せた花冠のサイズが合わないらしく、ずり落ちて来ないかとその事ばかり気にしている。
そしてテスラは……
彼女は終始無表情を貫き、五人の中でただ一人、傍目には真面目に儀式を受けているように見られただろう。
しかし、その本心を知る者は、ここには一人もいない。
その事をリオ達四人が知るのは、もう少し後になってからであった。
昼食を終えた五人は次に、城の屋上庭園にて、名誉勲章の授与式に参加するべく、揃って階段を上っていた。
リオは、いわずもがな、とてもワクワクして心躍らせて、スキップするかのようにして階段を上る。
ようやく体調が落ち着いたマンマチャックも、名誉勲章という誉れ高きものを頂けるという事に、とても上機嫌な様子だ。
ジークは、さほど興味などない、という顔つきでいるが、内心は少し嬉しさを感じていた。
エナルカも同様に、シドラーが生きていれば褒めてくれただろうと、心が弾んでいた。
その中で、テスラは未だに無表情を貫いていた。
リオは、そんなテスラの様子を不思議に思う。
昼食の際に何度か話し掛けてみたのだが、無視された、とまではいかないものの、テスラはリオの言葉を全て、さらりとかわしていったのだ。
幸いにして、リオはそのような事ではめげない性格なので、ここでもテスラに向かって話し掛ける。
「ねぇ、テスラは嬉しくないの? 名誉勲章だよ?」
喜んでいる風には到底見えないテスラに対し、リオはそう尋ねた。
すると、これまで無言、もしくは片言でしか返事をしなかったテスラが、言葉を発した。
「嬉しい? 何故、嬉しいのですか?」
質問に対して質問で返されたリオは、う~んと考える。
「だって、そんなに簡単に貰えるものじゃないでしょう? 名誉勲章なんて。それに、とっても名誉な事をするから、貰えるものなんでしょう? だったら、とっても嬉しい事じゃないか!」
リオは一生懸命に考えて、笑顔でそのように言ったのだが……
テスラは無表情でこう返してきた。
「名誉勲章はこれまで、戦で功績を上げた者のみが与えられてきたものです。まだ戦いもしていない私達が、何故それを与えられるのか……、その意味を、お分かりですか?」
テスラの言葉にリオは首を傾げたが、他の三人はテスラの言いたい事が分かり、言葉を失った。
「分からないけれど……。今から凄い事を僕達がするから、前もってくれるって事じゃないの?」
リオの言葉は間違っていない。
しかし……
「その通りです。私達はこれから、偉業を成し遂げる。しかし、後から名誉勲章を渡したのでは遅い。何故なら私達は、生きてここへは帰る事はないだろうと思われているからなのです。これのどこが、嬉しいと言うのですか?」
テスラの言葉は、リオの心に刺さった。
まさか、この名誉勲章授与式は、そのような意味で執り行われるものだっただなんて……
リオ、マンマチャック、ジーク、エナルカは、共に言葉を失って、先ほどまでの嬉々とした気持ちは、その心の中から完全に消え去ってしまっていた。
盛大に開かれた晩餐会はお開きとなり、四人は寝床である城の二階の客間へと戻った。
オーウェンが心配していた通り、ジークは酒に飲まれて酔い潰れてしまっていた。
だがそれは、決してやけを起こしたが故のものではなく、心強い仲間に巡り会えた事で、これまでずっと張り詰めていた心の糸が、少しばかり緩んだ為であった。
マンマチャックとリオは、自分よりも数倍大きな体を持つジークを、力を合わせてベッドまで運んだ。
ジークは、幸せそうな笑みを浮かべて、夢の中へと落ちていった。
「ジーク様には今後、お酒を控えて頂きましょう」
だらしなく眠るジークを睨みながら、エナルカがそう言った。
「そうですね。自分も、旅の最中では酒は禁止とします。なかなかに足元がふらつきますから……、おととっ」
隣に座っていた貴族の者に無理矢理に酒を勧められたマンマチャックは、生まれて初めてそれを口にしたのだが、あまりに酷いその味と、後から襲いくる目眩に、二度と酒は飲むまいと心に決めた。
父はどうであったか知らないが、自分は酒は苦手だ……、と判断したのだ。
「でも楽しかったね~。あんなに沢山の人と一緒に食事をするなんて、僕初めてだったんだ~」
まだ子どものリオは、アルコールの入っていない果実のジュースを飲んでいただけなのだが……
楽しげな場の雰囲気に酔ったらしく、締まりのない顔で笑っている。
眠るジーク、ふらふらしているマンマチャック、にまにましているリオ。
そんな三人を見てエナルカは、この先、本当に大丈夫かしら? と、一抹の不安を抱くのであった。
すると、部屋の扉をコンコンと、誰かがノックした。
「は~い」
例によって、何の気なしに、リオが返事をする。
「失礼する」
扉を開けて入ってきたのはオーウェンだ。
その手には、丸めた羊皮紙の束を一つ持っている。
「ふむ、やはり酔い潰れたか」
ベッドで眠るジークを見て、苦笑いするオーウェン。
「あ、そういえば……。まだ、これからの日程をお聞きしてませんでしたね?」
頭が酷くクラクラとする中、額に手を当てて、マンマチャックはそう言った。
「うむ。しかし、皆疲れているようだな。簡潔に話そう、そのまま聞いてくれ」
オーウェンは、手に持っている羊皮紙の束を開き、中に書かれている文言を読み上げ始める。
「明日の午前、朝食が済んだ後、城内の聖堂にて、加護の儀を執り行う。加護の儀とは、ヴェルハーラに暮らす者達全ての守り神である、今は亡き銀竜イルクナードに対し、旅の安寧と無事の帰還を願い、君達をお守り下さるようにと祈りを捧げる儀式だ。国属の魔導師達による神聖なる儀式であるからして、身に纏う衣服はこちらが用意し、明日の朝ここに届けさせる。そして午後からは、名誉勲章授与式が執り行われる。城の屋上庭園にて行われる予定だが、雨天の場合は玉座の間にて行われる。これは、旅立つ君達に、国家の存続の為に重要な働きをした者に与えられる名誉勲章を、先に授与する為の式典だ。先ほどの晩餐会で出席しておられた王族貴族の方々も来賓として招かれる。そして明後日……。君達は日の出と共にこの城を出て、南区の大通りを盛大なるパレードでもって見送られ、南門から都外へと出る。そこから先の道は、君達だけで進まねばならない……。だが安心してくれ。明日の夕食が終わった後で、オエンド山脈への道筋を記した地図を元に、私が君達に様々な説明をしようと思う。何か聞きたいことがないか、明日の夜までに考えておいてくれ。私からの説明は以上だが、現時点で何か質問はあるかね?」
オーウェンの長く難しい説明に、リオはぽかんとした様子でいるし、マンマチャックはまだ頭がクラクラしているようで考えが巡らず、ジークは眠っている為に論外で、エナルカは予定が詰まっている事に対して更に不安を抱いている。
三人が何も口にしない事を確認し、オーウェンはくるくると羊皮紙を巻き直した。
「そう案ずるでない。儀式や式典は全て、周りが取り仕切ってやってくれるものだ。君達はただ、周りの様子を見ていれば良い。そして、かけられる言葉の一つ一つを真摯に受け止め、心に刻むのだ」
オーウェンはそう言って、三人に目配せをした後、部屋を出て行った。
残された三人はそれぞれに、これから起きる事について、思いを巡らせていたが……
疲れからくる眠気の為に、いつしか皆、深い眠りについていたのであった。
朝がやってきた。
バルコニーへと繋がる大きなガラス窓からは、眩しいくらいの太陽の光が射し込んでいる。
そんな中、最初に目覚めたのはリオだった。
今まで経験したことのないような、寝心地の良いふかふかの布団の中で小さく身を丸めて眠っていたリオは、パチっとその瞼を開いた。
ゆっくりと身を起こし、寝ぼけ眼を擦りながら、ここはどこだろう? と考える。
あぁそうか……、僕、お城にいたんだっけ……
他のベッドで眠る、マンマチャック、ジーク、エナルカを順番にその視界に捉えて、リオはにっこりと笑う。
これからみんなと、黒竜退治に出掛けるなんて……、いつかクレイマンさんに話せたら、きっとすごくびっくりするだろうな~。
ふふふと小さく声を出して笑い、リオはベッドから降りた。
大きなガラス窓をそっと開けて、バルコニーへと出るリオ。
東の空にはもう太陽が昇っていて、王都の家々の煙突からは既に白い煙が上がっている。
空は雲一つない快晴で、実に気持ちの良い朝だった。
さぁ、今日はとっても忙しいぞぉっ!
リオは大きく伸びをして、朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「ヴェルハーラに生きる全ての者を守りし銀竜イルクナードよ。この地より明日、若き五人の魔導師が旅立つ。彼らの旅の平穏と、その命を守りたまえ。ヴェルハーラの神よ、偉大なる銀竜よ、我らの願いを聞き入れたまえ」
城の北東に位置する大聖堂では、今現在、五人の魔導師の為に、加護の儀が執り行われている。
儀式を受ける為に、専用の白いローブに身を包むのは、リオ、マンマチャック、ジーク、エナルカ、そしてテスラの五人。
その頭に白い花冠を被って跪き、目を閉じ、胸に手を当てて、聖堂の前方にある、巨大な、白い銀竜イルクナードの石像に祈りを捧げていた。
大聖堂は、城と同じ白い石造りであって、その天井は見上げるほどに高い。
壁面に設けられた複数の窓からは太陽の光が射し込み、そこかしこに灯された蝋燭のオレンジ色の火と相まって、とても幻想的な光景が広がっていた。
儀式を取り仕切るは、城に住まう国属の魔導師達。
皆年老いてはいるものの、その体は魔力に満ち満ちている。
だがしかし、彼らは大変に緊張した面持ちでいた。
目の前で跪く五人の若き魔導師達の、その内に秘めた力に驚き、恐れ、また敬意をもって、儀式を進行していたのであった。
現国王であるワイティア王も、勿論その儀式に参加していた。
五人より前の位置で跪き、銀竜イルクナードに祈りを捧げるワイティア王。
ここにいる全員が、五人の旅の無事を願い、祈りを捧げていた。
だがしかし、当の本人達はというと……
リオは、初めて経験する儀式というものに対し、とてもワクワクしていて、目を閉じなければならない場面でも周りの様子が気になって、薄目を開けて視線を泳がせていた。
マンマチャックは、まだ昨晩の酒のせいで気分が悪く、お願いだから早く終わらないものかと、こちらも全く儀式に集中していない。
ジークはというと、こちらはもう起きてすらおらず、目を閉じなければいけないという事を利用して、スースーと小さく寝息を立てている。
エナルカだけは、一生懸命に祈っているかと思いきや……、こちらは何やら、頭に乗せた花冠のサイズが合わないらしく、ずり落ちて来ないかとその事ばかり気にしている。
そしてテスラは……
彼女は終始無表情を貫き、五人の中でただ一人、傍目には真面目に儀式を受けているように見られただろう。
しかし、その本心を知る者は、ここには一人もいない。
その事をリオ達四人が知るのは、もう少し後になってからであった。
昼食を終えた五人は次に、城の屋上庭園にて、名誉勲章の授与式に参加するべく、揃って階段を上っていた。
リオは、いわずもがな、とてもワクワクして心躍らせて、スキップするかのようにして階段を上る。
ようやく体調が落ち着いたマンマチャックも、名誉勲章という誉れ高きものを頂けるという事に、とても上機嫌な様子だ。
ジークは、さほど興味などない、という顔つきでいるが、内心は少し嬉しさを感じていた。
エナルカも同様に、シドラーが生きていれば褒めてくれただろうと、心が弾んでいた。
その中で、テスラは未だに無表情を貫いていた。
リオは、そんなテスラの様子を不思議に思う。
昼食の際に何度か話し掛けてみたのだが、無視された、とまではいかないものの、テスラはリオの言葉を全て、さらりとかわしていったのだ。
幸いにして、リオはそのような事ではめげない性格なので、ここでもテスラに向かって話し掛ける。
「ねぇ、テスラは嬉しくないの? 名誉勲章だよ?」
喜んでいる風には到底見えないテスラに対し、リオはそう尋ねた。
すると、これまで無言、もしくは片言でしか返事をしなかったテスラが、言葉を発した。
「嬉しい? 何故、嬉しいのですか?」
質問に対して質問で返されたリオは、う~んと考える。
「だって、そんなに簡単に貰えるものじゃないでしょう? 名誉勲章なんて。それに、とっても名誉な事をするから、貰えるものなんでしょう? だったら、とっても嬉しい事じゃないか!」
リオは一生懸命に考えて、笑顔でそのように言ったのだが……
テスラは無表情でこう返してきた。
「名誉勲章はこれまで、戦で功績を上げた者のみが与えられてきたものです。まだ戦いもしていない私達が、何故それを与えられるのか……、その意味を、お分かりですか?」
テスラの言葉にリオは首を傾げたが、他の三人はテスラの言いたい事が分かり、言葉を失った。
「分からないけれど……。今から凄い事を僕達がするから、前もってくれるって事じゃないの?」
リオの言葉は間違っていない。
しかし……
「その通りです。私達はこれから、偉業を成し遂げる。しかし、後から名誉勲章を渡したのでは遅い。何故なら私達は、生きてここへは帰る事はないだろうと思われているからなのです。これのどこが、嬉しいと言うのですか?」
テスラの言葉は、リオの心に刺さった。
まさか、この名誉勲章授与式は、そのような意味で執り行われるものだっただなんて……
リオ、マンマチャック、ジーク、エナルカは、共に言葉を失って、先ほどまでの嬉々とした気持ちは、その心の中から完全に消え去ってしまっていた。
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