24 / 58
第7章:いざ、オエンド山脈へ
2:カトーバ荒野
しおりを挟む夜が来た。
冷ややかな風が吹き抜けるここは、カトーバ荒野のど真ん中。
今にも枯れてしまいそうな痩せ細った木々が点在する、岩と砂の地である。
王都ヴェルハリスの南門より出発して丸一日。
昼食の休憩はとったものの、それ以外は走りっぱなしであった五人と、それぞれを乗せている馬は、かなり疲労の色が濃くなっていた。
王都の外に広がっていた草原は、半日も行くと、その姿を荒れ果てた荒野へと変えた。
緑は減り、川もなければ泉もなく、生き物の姿はほとんど見なくなっていた。
「そろそろ、野営の準備をしましょう」
テスラの言葉に従って、五人は馬を降りた。
近くにあった大きな木を真ん中に、野営の準備を始める五人。
慣れた手つきで準備をするテスラとジーク、手こずる残りの三人。
結局、テスラとジークが三人を手伝って、野営の準備は完了した。
空には星々が煌めいて、どこか遠くで獣が遠吠えをしていた。
「よいしょっと……、ふぅ~。思ったよりも疲れたね」
座るのにちょうど良さそうな倒木に腰掛けて、一息つくリオ。
「私も……。こんなに長時間、一人で馬を操った事がなくて……、ヘトヘトだわ」
リオの隣に腰掛けるエナルカ。
「明日はもう少し、進み方を考えましょう。あまり無茶をしてもいけませんからね」
近くの小枝を拾い集めながら、マンマチャックが言う。
「そんな小せぇのは駄目だ。こっちを使え」
そう言ってジークが担いできたのは、リオの身長ほどはありそうな、太い倒木の幹だった。
「リオ様、火をお願いします」
せっせと夕食の用意を始めていたテスラが、リオに頼む。
「あ、任せてっ!」
頼られた事が嬉しかったリオは、すぐさま両手で魔法陣を発動させて、そして……
ボォオォッ!!!
「うぉわっ!?」
「きゃあっ!?」
例によって火力の調節がうまくいかずに、燃え盛る紅の炎を発現してしまった。
驚くマンマチャックとエナルカ。
眉間に皺を寄せるジークと、無表情ながらも少しばかり困った風になるテスラ。
「あ……、ははは。火はついたでしょ?」
轟々と音を立てて燃える倒木の幹を前に、リオは苦笑いするしかなかった。
夕食は、テスラの作った根菜のスープとパン、干し肉の炙ったものだった。
育ち盛りである五人は、あまり深く考えずに、お腹が満たされるまで食べ物を食べた。
しかし、手持ちの食糧は限られている。
おそらく、このまま遠慮なく食べていくと、食糧は早々に底をつくであろう。
だが、その事実に気付く者は、五人の中にはいなかった。
「あ~、美味しかったぁ!」
「ほんと! お昼ご飯の時も思っていたけれど、テスラってお料理上手よね!」
リオとエナルカの言葉に対し、テスラはいつもの無表情ではあるものの……
「あ……、ありがとう……」
ほんの少しではあるが、嬉しいという感情を、言葉で表した。
その反応に、リオとエナルカは揃って笑顔になるのであった。
「どれくらい、進んだのでしょうね?」
地図を広げるマンマチャック。
「さぁな。けど、オーウェンのおっさんが七日かかるって言ってたろ? まだまだだぜきっと」
鞄の中に入っていたヤカンに水を満たし、茶葉を入れて、火にかけるジーク。
皆に食後のお茶を振る舞おうと考えているのだ。
長い間、適当なレイニーヌと共に旅をしていただけあって、見た目によらず、なかなかに世話焼きである。
「今日は南へ真っ直ぐに進んで参りましたが、明日は少し、東へと進みましょう。私達が目指すオエンド山脈は、南東に位置しておりますので」
オーウェンから授かったのであろう、方位磁針を片手に、テスラがそう言った。
「黒竜ダーテアスは、どうして災厄を撒くのだろう? どうして僕たちの師を、死に追いやったのかな? 国を、滅ぼしたいのかな?」
突然のリオの言葉に、皆がギョッとする。
しかしリオは、呑気に夜空の星々を眺めていた。
「そんなもん……。理由なんざねぇんだよ。邪悪なる力ってもんは、存在するだけで悪なんだ。誰を呪い殺そうが、国を滅ぼそうが、そこに意味なんてねぇんだよ」
このクソ餓鬼は何を言いだすんだ? とでも言いたげな顔をしながらも、皆に出来上がったお茶を振る舞うジーク。
「これは、自分の考えでしかないのですが……。やはり、それぞれが師から託された、マハカム魔岩が関係していると思うのです。そこで、尋ねたいのですが……。テスラ、あなたもマハカム魔岩を持ってはいませんか?」
ジークからお茶の入ったカップを受け取って、マンマチャックが尋ねた。
「そうよ! 常闇の主ロドネス様の娘ならもう一つのマハカム魔岩を持っているはずよね!?」
興奮気味なエナルカは早口となる。
リオとジークは、期待を込めて、テスラの言葉を待った。
しかし、テスラは首を横に振り……
「魔導師ロドネスは、私に何も残しておりません。あなた方の言う、マハカム魔岩というものも、何も……」
無表情ではあるけれど、どこか寂しげなその言葉に、四人はそれ以上の事を、テスラに聞けなくなってしまったのだった。
カトーバ荒野を行く事、七日七晩。
八日目の朝、リオ達はようやく、オエンド山脈の麓に広がる森へと辿り着いた。
森の名はモルトゥル。
王都の東側よりこのオエンド山脈の裾野まで広がる、深く深い森である。
ここへ来るまでにリオ達は、案の定、食糧を食べ尽してしまっていた。
無理もない……、皆無計画に、先の事など考える事もなく、食べたいだけたべていたのだから……
四日目の夜にはもう、手元に食糧はほとんど何も残っていなかったのだ。
それでもなんとか、マンマチャックは食べられる草や葉を見つけたし、旅慣れているジークが、荒野に生息する小さな動物達を狩って、それらの肉も食べていたのだが……
これまであまりひもじい経験をした事のないリオ、マンマチャック、エナルカは、旅の過酷さを思い知り、少々参ってしまっていて、日に日に口数が少なくなっていっていた。
それに加えて、夜間、簡易テントで眠っていたリオ達は、野生の肉食魔獣達の夜襲に遭った。
名も知らぬその魔獣達は、十数匹で群を成し、鋭い爪と牙でテントをズタズタに引き裂いて、中で眠るリオ達を襲ってきたのだ。
だがしかし、リオ達は幼いと言えども、五大賢者を師に持つ魔導師なのである。
相手が恐ろしい肉食魔獣の群であろうとも、リオ達の魔法の前に、太刀打ちできる獣などただの一匹もなかった。
けれども、度重なる魔獣の奇襲は、リオ達の体力を確実に削っていった。
ただでさえも、慣れない簡易テントでの寝泊りで、なかなか寝付く事ができない上に、いつ魔獣に襲われるのかわからないときたら、おちおち寝てもいられなかった。
それに、魔獣に襲われた際に魔法を行使した事で、リオのテントは焼け焦げて穴が空き、エナルカのテントは風の魔法でどこかへ飛んでいってしまったのだった。
それぞれ、リオはマンマチャックのテントに、エナルカはテスラのテントを共に使う事となったのだが……
もともと一人用のテントなのである、窮屈で仕方がない。
加えて、魔獣によって引き裂かれたテントであるからして、隙間風が終始入り込み、熟睡する事など到底不可能だった。
そして、それぞれが乗って来た五頭の馬は、魔獣達の奇襲によってどこかに逃げてしまったのである。
よってリオ達は、この足場の悪い、どこまでも続くカトーバ荒野を、自分の足で歩く事を余儀なくされたのであった。
今現在の五人は、寝不足と空腹、疲労によって皆一様に顔色が悪く、その表情は暗く、会話もない。
しかし、ようやく荒れ果てたカトーバ荒野を抜けて、木々の生い茂るモルトゥルの森を目の前にすると、少しばかり元気を取り戻したのだった。
「森の中ならば、少なくとも、食べられる果物があるはずです」
マンマチャックは力強く言う。
「そっか! じゃあ、早く探そうっ!」
お腹がペコペコのリオが、走り出す。
「あっ!? おいっ! 一人で行くなっ!」
ジークの制止も聞かずに、どんどん森の奥へと走っていくリオを、四人は慌てて追うのであった。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる