五人の賢者 〜白の王と黒い竜〜

玉美-tamami-

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第7章:いざ、オエンド山脈へ

2:カトーバ荒野

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 夜が来た。
 冷ややかな風が吹き抜けるここは、カトーバ荒野のど真ん中。
 今にも枯れてしまいそうな痩せ細った木々が点在する、岩と砂の地である。
  
 王都ヴェルハリスの南門より出発して丸一日。
 昼食の休憩はとったものの、それ以外は走りっぱなしであった五人と、それぞれを乗せている馬は、かなり疲労の色が濃くなっていた。

 王都の外に広がっていた草原は、半日も行くと、その姿を荒れ果てた荒野へと変えた。
 緑は減り、川もなければ泉もなく、生き物の姿はほとんど見なくなっていた。 

「そろそろ、野営の準備をしましょう」

 テスラの言葉に従って、五人は馬を降りた。
 近くにあった大きな木を真ん中に、野営の準備を始める五人。
 慣れた手つきで準備をするテスラとジーク、手こずる残りの三人。
 結局、テスラとジークが三人を手伝って、野営の準備は完了した。
 空には星々が煌めいて、どこか遠くで獣が遠吠えをしていた。

「よいしょっと……、ふぅ~。思ったよりも疲れたね」

 座るのにちょうど良さそうな倒木に腰掛けて、一息つくリオ。

「私も……。こんなに長時間、一人で馬を操った事がなくて……、ヘトヘトだわ」

 リオの隣に腰掛けるエナルカ。

「明日はもう少し、進み方を考えましょう。あまり無茶をしてもいけませんからね」

 近くの小枝を拾い集めながら、マンマチャックが言う。

「そんな小せぇのは駄目だ。こっちを使え」
  
 そう言ってジークが担いできたのは、リオの身長ほどはありそうな、太い倒木の幹だった。

「リオ様、火をお願いします」
  
 せっせと夕食の用意を始めていたテスラが、リオに頼む。

「あ、任せてっ!」
  
 頼られた事が嬉しかったリオは、すぐさま両手で魔法陣を発動させて、そして……
  
 ボォオォッ!!!

「うぉわっ!?」

「きゃあっ!?」
  
 例によって火力の調節がうまくいかずに、燃え盛る紅の炎を発現してしまった。
 驚くマンマチャックとエナルカ。
 眉間に皺を寄せるジークと、無表情ながらも少しばかり困った風になるテスラ。

「あ……、ははは。火はついたでしょ?」

 轟々と音を立てて燃える倒木の幹を前に、リオは苦笑いするしかなかった。

 夕食は、テスラの作った根菜のスープとパン、干し肉の炙ったものだった。
 育ち盛りである五人は、あまり深く考えずに、お腹が満たされるまで食べ物を食べた。
 しかし、手持ちの食糧は限られている。
 おそらく、このまま遠慮なく食べていくと、食糧は早々に底をつくであろう。
 だが、その事実に気付く者は、五人の中にはいなかった。

「あ~、美味しかったぁ!」

「ほんと! お昼ご飯の時も思っていたけれど、テスラってお料理上手よね!」

 リオとエナルカの言葉に対し、テスラはいつもの無表情ではあるものの……  

「あ……、ありがとう……」

 ほんの少しではあるが、嬉しいという感情を、言葉で表した。
 その反応に、リオとエナルカは揃って笑顔になるのであった。

「どれくらい、進んだのでしょうね?」
  
 地図を広げるマンマチャック。

「さぁな。けど、オーウェンのおっさんが七日かかるって言ってたろ? まだまだだぜきっと」

 鞄の中に入っていたヤカンに水を満たし、茶葉を入れて、火にかけるジーク。
 皆に食後のお茶を振る舞おうと考えているのだ。
 長い間、適当なレイニーヌと共に旅をしていただけあって、見た目によらず、なかなかに世話焼きである。

「今日は南へ真っ直ぐに進んで参りましたが、明日は少し、東へと進みましょう。私達が目指すオエンド山脈は、南東に位置しておりますので」

 オーウェンから授かったのであろう、方位磁針を片手に、テスラがそう言った。

「黒竜ダーテアスは、どうして災厄を撒くのだろう? どうして僕たちの師を、死に追いやったのかな? 国を、滅ぼしたいのかな?」
 
 突然のリオの言葉に、皆がギョッとする。
 しかしリオは、呑気に夜空の星々を眺めていた。

「そんなもん……。理由なんざねぇんだよ。邪悪なる力ってもんは、存在するだけで悪なんだ。誰を呪い殺そうが、国を滅ぼそうが、そこに意味なんてねぇんだよ」
  
 このクソ餓鬼は何を言いだすんだ? とでも言いたげな顔をしながらも、皆に出来上がったお茶を振る舞うジーク。

「これは、自分の考えでしかないのですが……。やはり、それぞれが師から託された、マハカム魔岩が関係していると思うのです。そこで、尋ねたいのですが……。テスラ、あなたもマハカム魔岩を持ってはいませんか?」

 ジークからお茶の入ったカップを受け取って、マンマチャックが尋ねた。

「そうよ! 常闇の主ロドネス様の娘ならもう一つのマハカム魔岩を持っているはずよね!?」

 興奮気味なエナルカは早口となる。
 リオとジークは、期待を込めて、テスラの言葉を待った。
 しかし、テスラは首を横に振り……

「魔導師ロドネスは、私に何も残しておりません。あなた方の言う、マハカム魔岩というものも、何も……」
  
 無表情ではあるけれど、どこか寂しげなその言葉に、四人はそれ以上の事を、テスラに聞けなくなってしまったのだった。





 カトーバ荒野を行く事、七日七晩。
 八日目の朝、リオ達はようやく、オエンド山脈の麓に広がる森へと辿り着いた。
 森の名はモルトゥル。
 王都の東側よりこのオエンド山脈の裾野まで広がる、深く深い森である。

 ここへ来るまでにリオ達は、案の定、食糧を食べ尽してしまっていた。
 無理もない……、皆無計画に、先の事など考える事もなく、食べたいだけたべていたのだから……
 四日目の夜にはもう、手元に食糧はほとんど何も残っていなかったのだ。
 それでもなんとか、マンマチャックは食べられる草や葉を見つけたし、旅慣れているジークが、荒野に生息する小さな動物達を狩って、それらの肉も食べていたのだが…… 
 これまであまりひもじい経験をした事のないリオ、マンマチャック、エナルカは、旅の過酷さを思い知り、少々参ってしまっていて、日に日に口数が少なくなっていっていた。

 それに加えて、夜間、簡易テントで眠っていたリオ達は、野生の肉食魔獣達の夜襲に遭った。
 名も知らぬその魔獣達は、十数匹で群を成し、鋭い爪と牙でテントをズタズタに引き裂いて、中で眠るリオ達を襲ってきたのだ。
 だがしかし、リオ達は幼いと言えども、五大賢者を師に持つ魔導師なのである。
 相手が恐ろしい肉食魔獣の群であろうとも、リオ達の魔法の前に、太刀打ちできる獣などただの一匹もなかった。
 けれども、度重なる魔獣の奇襲は、リオ達の体力を確実に削っていった。
 ただでさえも、慣れない簡易テントでの寝泊りで、なかなか寝付く事ができない上に、いつ魔獣に襲われるのかわからないときたら、おちおち寝てもいられなかった。
 それに、魔獣に襲われた際に魔法を行使した事で、リオのテントは焼け焦げて穴が空き、エナルカのテントは風の魔法でどこかへ飛んでいってしまったのだった。
 それぞれ、リオはマンマチャックのテントに、エナルカはテスラのテントを共に使う事となったのだが……
 もともと一人用のテントなのである、窮屈で仕方がない。
 加えて、魔獣によって引き裂かれたテントであるからして、隙間風が終始入り込み、熟睡する事など到底不可能だった。

 そして、それぞれが乗って来た五頭の馬は、魔獣達の奇襲によってどこかに逃げてしまったのである。
 よってリオ達は、この足場の悪い、どこまでも続くカトーバ荒野を、自分の足で歩く事を余儀なくされたのであった。
 今現在の五人は、寝不足と空腹、疲労によって皆一様に顔色が悪く、その表情は暗く、会話もない。
 しかし、ようやく荒れ果てたカトーバ荒野を抜けて、木々の生い茂るモルトゥルの森を目の前にすると、少しばかり元気を取り戻したのだった。

「森の中ならば、少なくとも、食べられる果物があるはずです」

 マンマチャックは力強く言う。

「そっか! じゃあ、早く探そうっ!」

 お腹がペコペコのリオが、走り出す。

「あっ!? おいっ! 一人で行くなっ!」

 ジークの制止も聞かずに、どんどん森の奥へと走っていくリオを、四人は慌てて追うのであった。
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