五人の賢者 〜白の王と黒い竜〜

玉美-tamami-

文字の大きさ
29 / 58
第7章:いざ、オエンド山脈へ

7:母

しおりを挟む

「お前の出生と、黒竜ダーテアス……。いったい、何の因果があるってんだ?」

 突如として始まったテスラの昔語りに対し、早くもじれったくなったジークが問うた。

「では、結論から申し上げましょう……。我らが今、倒さんとする黒竜ダーテアスは、魔導師ロドネスなのです」

 テスラの言葉に、四人の呼吸が止まった。
 いったい、テスラは何を言っているのだろう? と、理解できずにいるようだ。

「そんな……。ちょ、ちょっと……、ちょっと待ってよ……。どうしてそうなるの? 全然意味が分からない……」

 混乱しているエナルカは、振り絞るようにそう言った。

「魔導師ロドネスはその昔、国属の魔導師団の団長……、つまり、私の育ての親であるルーベル様の師でした。先代国王であるホードラン様とは、王が即位なされた当時からの付き合いであったと聞いております。そして、およそ四十年前に、この国を数多の災厄が襲った際、皆様の師である魔導師四人を探し出し、災厄の元凶であった恐るべき魔物を倒そうと招集したのも、魔導師ロドネスでした」

「そっか……。ロドネスさんは、偉大な魔導師だったんだね」

 リオの、空気が全く読めてない言葉に、マンマチャックはまたしても顔をしかめるも、テスラの話の続きが聞きたいと思い、喉まで出かかっていた言葉をグッと飲み込んだ。

「そうですね……。結果、招集に応じた四人の魔導師と共に災厄の魔物を倒し、封印し、魔導師ロドネスも五大賢者の一人として讃えられました。しかし……。それから二十五年後……。今から十五年前のあの日、気高き五大賢者であった魔導師ロドネスは、死にました……。どこからともなくやってきた邪悪なる力に、負けてしまったのです」

「……おめぇよ、もうちょいわかりやすく話せねぇか? 俺は頭が良くねぇから、遠回しに言われても、さっぱり分かんねぇんだよ」

 結論は教えてもらったものの、今度は過程の話がなかなか進まない事に苛々し始めるジーク。

「魔導師ロドネスは、ダース族の出身でした。私達が先ほどお会いした、黒竜を祖に持つあのダース族です。ダース族は、その体、その魂に、黒竜の血が流れています。即ち、一度邪悪なる力にその心が染まってしまえば、恐ろしい黒竜の姿へと変貌してしまうのです」

「じゃあ……、でも……、えっと……、んん?」

 必死に話を聞いていたマンマチャックも、エナルカ同様混乱し始める。

「あの日、何があったのか……、真実を知る者は誰一人としていません。しかし、私が生まれた日の夜、王の部屋から悲鳴が聞こえ、ルーベル様とオーウェン様が王の部屋へ駆け付けると……。そこにいたのは、体を血の海に沈め、息絶えた、先代国王ホーランド様と、赤子の私を抱いて放心する幼きワイティア王……。そして、黒竜と化し、その鋭い爪先を赤く染めた、魔導師ロドネスの姿でした。邪悪なる力に心を奪われてしまった事によって、偉大なる魔導師ロドネスは死に、黒竜ダーテアスが生まれた……、という事です」

 一通り、話し終わったらしいテスラは、こくんと一口お茶を飲んだ。
 リオ達はというと……
 あまりに衝撃的な真実に、言葉を失い、思考は完全に停止していた。

 ……、…………、…………………

 沈黙が続いた。
 四人は誰も、言葉を発せずにいる。
 リオでさえも、言うべき言葉が定まらずにいた。
 視線を左右へと泳がせるも、四人が四人とも、この先の会話をどこへ向かわせるのが正解なのか、お互いに救いを求め合っていた。

「……なので、黒竜ダーテアスは、私の母である魔導師ロドネスなのです」

 沈黙を破ったのはテスラだった。
 その言葉に、堪らずリオが、

「えぇっ!? ロドネスさんって、女の人だったのっ!?」

 と、大声で叫んだ。

 いや、まぁ、意外っちゃ意外だけど……、そこ重要じゃねぇし、と思うジーク。
 では、父親は誰なのだろうと、不思議に思うマンマチャックと、もはや話についていけないエナルカ。

「えっ!? でも……、ちょっと待ってよ! テスラは、自分のお母さんを倒そうとしていたの!?」

 リオの言葉に、他の三人は複雑な顔になる。
 ジークは、幼い頃に母を亡くしていたが、その優しい顔は今でもハッキリと思い出せる。
 マンマチャックも、父が亡くなる少し前に母と死別していたが、成人するまでの長い時間を、共に楽しく生きてきた記憶がある。
 エナルカの母は健在で、今も母や父の暮らす風の集落を守らんとする為に、ここにいるのだ。
 それぞれが、過ごしてきた時間は違えども、母親というものには言い知れない愛情を感じていた。
 三人にとっても、かけがえのない存在である母親というものを、テスラは今、自らの手で倒そうとしているのだ。
 その心理が、三人には理解出来なかった。

「そう、なりますね……。けれど、それがきっと、私がこの世界に生まれてきた意味なのでしょう。邪悪なる力によって、黒竜と化してしまった母を止める事。それが私の運命なのです」

 ただ平然と、いつもの無表情でそう言ったテスラに対し、ジーク、マンマチャック、エナルカの三人は、背筋が凍るような寒気を感じた。
 いくら、生まれた時から離れ離れで、顔も見た事がないような間柄だとはいえ、実の母親を亡き者にするのが自分の運命だなんて……、あまりにも残酷すぎやしないか。
 そして、それを平然と言ってのけるテスラに対し、言葉では言い表せないほどの恐怖を、三人は感じていた。
 だが、リオは違った。

「そんなの間違ってる! 駄目だよ! 世界に一人しかいない、自分のお母さんを倒すだなんてっ! そんなの絶対に駄目だっ!」

 出会って一番の大声を出すリオに、テスラは少々驚いた顔になる。
 まさか、ここまで全力で否定されるとは、思ってもみなかったのだ。
 だがしかし、逆にそれが嬉しくもあった。
 黒竜ダーテアスと話がしてみたい……、そう言ったリオの優しい心を、テスラは感じていた。
 だからこそ、真実を打ち明けたのだ。

「何か方法があるはずだよ。テスラのお母さんを元に戻す方法が、何かきっと……。それを僕たちが探せばいいじゃないか!」

 リオの言葉に、テスラの赤い瞳には薄らと、涙が浮かんでいた。

 これまで、テスラの中にはずっと、迷いがあった。
 先代国王を殺害し、国中に災厄をばらまく邪悪なる力の根源、黒竜ダーテアス。
 それを倒すのは、国属の魔導師としては当たり前の事であり、王の言葉は正しい。
 しかし、それは即ち、テスラに実の母を殺せと言っている事と同等なのである。
 幼き頃より世話になっているルーベルやオーウェンも、それを望んでいる。
 黒竜ダーテアスを倒す事が、自分の使命であり、運命である。
 ずっと、そう思っていた。

 誰一人として、自分に、母を救えとは言ってくれなかった……
 魔導師ロドネスは死んだ、黒竜ダーテアスと化したロドネスはもう戻らない、殺すしかない、殺すしかないのだ……

 テスラは、長年の間ずっと、自分にそう言い聞かせてきたのだった。

 それが今日、今、終わった。
 自分の気持ちに嘘をつき続けてきたテスラの人生は、リオの一言によって、終わったのだ。
 もう、自分の気持ちに嘘をつかなくてもいい。
 その思いが涙となって、テスラの頬を伝った。

 テスラの涙に驚く四人。
 しかし四人は、その涙の意味を、これまで無表情の下でひた隠しにしてきたテスラの本当の気持ちを、しっかりと受け止めていた。

 マンマチャックは、リオと初めて出会った時のあの言葉を思い出していた。
 師であるケットネーゼの死を、悼んでくれたリオの言葉を……
 リオは、問題を起こす天才ではあるけれど、人の心の痛みを知る優しさはちゃんと知っているのだ。
 そのリオが、自分達がこれから進むべき道を示してくれた。
 少しばかり……、いや、かなり無謀なものではあるが……、それでも、やる価値はある。
 ならば、ここで自分が言うべき言葉は一つだと、マンマチャックは決心した。

「黒竜ダーテアスと、話し合いましょう」

 マンマチャックの言葉に、涙を流すテスラは、ハッとした表情でその顔を見やる。
 マンマチャックはテスラの目を見つめて、優しく微笑んだ。

「そうするしかなさそうだな……。まぁ、言葉が通じるかどうかは、後で考えるかぁ~」

 欠伸をしながら言うジーク。
 しかし内心では、かなり大事になってきたなと、気をしっかり持たねばと、思い直していた。  

「やりましょう。テスラのお母さんなんだもん、きっと話せば通じるはず……。それに、そうしないと、私たちはきっと前には進めないわ」

 エナルカは、意を決したようにそう言った。
 自分に何ができるのかは分からないが、それでも……、やれる事をしよう! と、気持ちを新たにしていた。

 四人の言葉にテスラは、生まれて初めて、声を上げながら泣いた。
 これまで我慢していた感情が、一気に溢れ出てくるかの如く、涙も鳴き声も、止める事が出来なかった。

 そんなテスラを、優しく見守る四人。
 そして、それぞれがそれぞれに、感じていた。
 きっと、邪悪なる力の根源は、黒竜ダーテアスではなく、別にいる、と……
 それが何なのか、何者なのか、何処にいるのか、四人には皆目見当もつかない。
 しかし、何とかして、黒竜と化してしまった魔導師ロドネスを救わねばならない、それこそが、師が望んだ未来であり、自分たちが出会った理由であり、運命であるのだと、四人は強く思うのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...