五人の賢者 〜白の王と黒い竜〜

玉美-tamami-

文字の大きさ
36 / 58
第8章:明らかになる真の敵

7:真の敵

しおりを挟む
 ***

 十五年前のあの日、あの夜……

 私が眠る城の室内に、一人の子どもが現れた。
 青い瞳を持った、白髪の少年。
 私は咄嗟に、その子どもに言い知れぬ恐怖を感じた。
 しかし、お産を終えてすぐの体は言う事を聞かずに、我が子を抱き上げる事すらままならず……
 少年はこう言った。

『長い間、封印してくれてありがとう。君達のおかげで、僕の中にある魔力が高まったんだ。だからこうしてお礼を言いに来たのさ。だけど……。もう君達に用はない。みんな順番に、あの世に送ってあげるからね』

 平然と、笑った顔でそのような事を言ってのける少年に対し、動けぬ私は叫び声を上げるしかなかった。
 すぐさま、隣の部屋に眠っていたホードラン様が駆け付けてくれたが、その時にはもう、私の体は、巨大な黒竜のものへと変わってしまっていた。
 そこからの記憶は、酷くおぼろげで……
 突然の竜化に、私の精神はついていけず、ただただ我が子を守ろうと、必死になっていた事は確かだが……
 目の前で血飛沫が飛んだかと思うと、ホードラン様は既に亡き者になっていた。
 少年は、生まれたばかりのテスラを抱えて、最後にこう言った。

『大丈夫。この子は僕が責任を持って預かるから。いつか君の元へ返すよ。いつかきっと、ね』

 部屋へと駆け付けた、弟子であるルーベルと、国営軍の副隊長であったオーウェンは、私を見るなり血相を変えて、攻撃を仕掛けてきた。
 無理もない、突如として、城内に恐ろしい古の竜が現れたのだからな。
 しかし……、それを抜きにしても、当時の彼らはどこか、虚ろな目をしていたようだと、今となってはそう思える。

 攻撃を受けた私は、このまま城にいては自分の身さえ危ういと、生まれたばかりのテスラを置いて、このオエンド山へと逃げおおせたのだ。
 それからは……、何年も何年も、この洞窟に閉じ籠り、我を忘れぬようにと、一つの箱に様々な物を詰め込んで近くに置き、時折眺めては、愛しのホードラン様の顔や、残してきたテスラの顔を思い出していたのだが……
 それもいつしかなくなって、知らぬ間に、十五年の歳月が流れていた。

 ***





 ロドネスは話し終えると、疲れたような顔をして、ふ~っと重い息を吐いた。

「……テスラ、カップを出せるか?」

 ジークの突然の問い掛けに、テスラは驚いたが、何も言わずに鞄の中からカップを一つ取り出した。
 それを受け取ったジークは、魔法陣を発動させて、カップの中に、少し色のついた水を生成し、ロドネスに手渡した。 

「回復効果のある水だ。少しでも、魔力が回復するといいが……」

 不器用なジークなりの、精一杯の優しさだった。

「ありがとう。君は、レイニーヌにそっくりだな」

 カップを受け取って口へと運んだロドネスは、ふっと笑ってそう言った。

「その……、竜化してしまったのは何故ですか? 何故突然……? 御自分で竜化されたわけではないのですよね?」

 マンマチャックが尋ねた。

「私の記憶が定かなら、自分で竜化した覚えはない。何か、逆らえぬ大きな力によって支配された……、ように感じた。君たちの師である五大賢者が、様々な呪いによって死に至らしめられた事を考えると……、おそらく、私にも何かしらの呪いがかけられたのだろう。竜化の術を解けぬという、恐ろしい呪いだ。竜化は、洗練されたダース族の魔導師であれば、使う事の出来る術ではあるものの、行使する際には多量の魔力を要する。故に、長年に渡ってそれを行使し続ければ、その命を削っていく事と同等になる。あの少年は……、私に竜化が解けぬ呪いをかけて、じわじわと命を削って殺す事が目的だったのであろう。しかし、先ほど君たちがここへ来た途端に、その呪いは解けたようだ。何故だかは分からぬが、私の中に先ほどまであった、何者かに支配されているかのような禍々しい感覚が、今は全て無くなっているように感じる」

 ロドネスの言葉に、リオ達五人は、順番にお互いの顔を見比べて、気まずい雰囲気となる。

 何故、ロドネスの呪いが解けたのか……
 その理由を、五人は口に出さずとも、薄々と勘付いているのだ。
 そして、その事が何を意味するのかをも五人は理解しており、自分達はやはり、とんでもない事をしてしまったようだと、言葉を失い、顔色を悪くしている。

「質問を戻そうか……。君達は何故、どうしてここに来た? 他の五大賢者は呪いでこの世を去ったと言ったが……、いったい、何者がそのような呪いをかけた? もしやとは思うが……。私に竜化が解けぬ呪いをかけたあの少年が、五大賢者に呪いをかけ、命を奪ったのではあるまいな? だとしたら……、答えはただ一つだ」

 ロドネスの言葉に、その先を聞きたくないと思う五人。
 しかし、その言葉を聞かなければ、真実へと辿り着けないのもまた事実である。

「その、答えとは……?」

 意を決したテスラが、静かに尋ねた。

「私に呪いをかけたのも、他の五大賢者に呪いをかけたのも、同一の者であろう。我ら五大賢者に恨みを抱き、また自分を生み出しし銀竜イルクナードの大いなる意思を受け継いでいる者……。他ならぬ、竜の子ワイティアの仕業に違いない」

 五人にとって、聞きたくなかった事実、考えたくなかった結論。
 しかし、それが真実に違いないと、それぞれがそれぞれに、心の中で理解していた。
 そして、自分達がここまで来た理由、その意味も、五人は理解し始めていた。

「自分達は……、ヴェルハーラ王国の現国王である者の命令で、この地を訪れました。邪悪なる力の根源とされる、黒竜ダーテアスを倒すようにと仰せつかって……。しかしそれは全て、仕組まれた罠だったようです」

 悔しそうに歯を食いしばるマンマチャック。

「つまりこうか……。あいつは、五大賢者と、五大賢者が行使した封印の魔法が邪魔だった。だから、封印を解く鍵を持った俺達を、ここへ来させたんだな。あわよくば、俺達とロドネスを相打ちにさせようとでも思ってたんだろうよ。マハカム魔岩を一つにして封印の魔法を解き、五大賢者全てを亡き者にして、この世を支配する為に……。俺達は、その策略にまんまとはまっちまって、封印を解いちまったってわけか……」

 ジークは、表情こそ変えないものの、両手の拳をきつく握り締めている。

「まさか……。マハカム魔岩を、一つに合わせたのか?」

 ロドネスは、明らかに声色を変えて、眉間に皺を寄せた。

「あ、はい、思わず……。というか、箱を空けて、ロドネスさんのマハカム魔岩のペンダントを僕が取り出すと、どこからともなく気味の悪い声が聞こえてきて……。それで、みんなのペンダントが独りでに一つになって、次の瞬間にはもう、粉々に砕け散ってしまったんです」

 悪気なく、淡々と話すリオに対し、唖然とするロドネス。

「やっぱりあれは、その……、封印が解けたって事なんですよね? だとしたらその……。ボボバ山にあるっていう、銀竜の卵が……、孵っていたり、して……?」

 おそるおそる尋ねるエナルカ。

「おそらくそういう事だろう……。そうか、私の呪いが解けたのもきっと、もう呪いをかけておく必要がないと判断した為か……。竜の子ワイティアは、本当の意味で、この世に解き放たれたのやも知れぬ……。事は一刻を争うぞ。君達は急ぎ王国へ戻って、現国王にこの事を伝えよ。私を邪悪なる力の根源であるという妄言を吐くような王ではあろうが、王は王だ。急ぎ伝え、国の全勢力を持ってワイティアを迎え撃たねばならぬ」

 殺気立つロドネスを前に、五人は目を逸らし、揃って渋い顔になる。
 このような反応をする五人を、ロドネスは怪訝な表情で見つめる。
 だがしかし、先ほどのマンマチャックとジークの言葉を思い返し、ロドネスはすぐにその表情を変えて、最悪のシナリオを自身の中で描き上げた。
 恐れていた事が現実となってしまった事を、ロドネスは瞬時に理解した。
 そして、テスラがそれを告げた。

「国王は頼りに出来ません。何故ならば、私達をここへよこしたその国王こそが、竜の子ワイティアなのですから」

 テスラの言葉に、ロドネスも、リオ達も、言葉を失ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...