35 / 58
第8章:明らかになる真の敵
6:四十年前
しおりを挟む***
今からおよそ四十年前の出来事。
当時の私は、第十六代国王ホードラン様率いる、ヴェルハーラ王国王属魔導師団に所属し、国の至る所で起こる災事の対処に日々追われていた。
ホードラン様は、国王でありながらも、その卓越した光の魔法を駆使し、国に迫りくる何者かの影と戦い続けていた。
そんな国王の為に、少しでも力になれればと、私は一人、国中を巡って、後に五大賢者と呼ばれる事となる、強い力を持った魔導師達を探し出したのだ。
それが、若き日のクレイマン、ケットネーゼ、レイニーヌ、シドラーの四人だった。
それぞれに出会った日の事は、今でも鮮明に覚えている。
皆揃って、ダース族の姿形をしている私の事を、決して見た目で差別などせず、快く話を聞いてくれた。
そして、それぞれが、それぞれに、この国の危機を感じ取っていた。
どこからともなく迫りくる、邪悪なる力の影を、皆案じていた。
だから私は、四人に頼んだのだ。
私と共に王都へ行き、国王ホーランド様の下で、この世にはびこる悪を亡ぼす為に、どうか力を貸して欲しいと……
クレイマン、ケットネーゼ、レイニーヌ、シドラーは、口を揃えてこう言った。
「みんなで国を救おう!」
こうして、我々五人の魔導師は、五大賢者として、国の危機を救うべく、邪悪なる力の根源を探す旅へと出たのだ。
私達五人は、この広いヴェルハーラ王国を幾年も旅して回った。
野を越え山を越え、いくつもの村を訪れて、災厄に苦しむ人々を救っていった。
そうしていくうちに、我々は、一つの答えに辿り着いた。
国中で起こっている数多の災厄の元凶は、肉体を持たない、思念体ではないか、と……
思念体とは、何者かの持つ強い意志が、体から抜け出し、外の世界へと放たれたものの事を指す。
それは、いわば思いの塊に過ぎないが故に、他者に何らかの悪影響を及ぼす事など到底考えられないものだ。
ましてや、国の至る所に災厄を撒いて回るなど不可能だと、当時の私は考えていた。
……だがしかし、現実は違った。
とてつもなく強力な意志を持ちながら、その肉体を自由に動かせないある者の思いが、思念体として体を抜け出し、国の各地に災厄をばら撒いていたのだ。
その思念体の持ち主の名は、ワイティア。
今は亡き、銀竜イルクナードのその子孫……
北にそびえるボボバ山の山中にて、数百年前にこの世に産み落とされし時からずっと、卵の外の世界へ飛び出せる日を今か今かと待ち望んでいた、幼き竜の子だった。
***
「ちょちょっ!? ちょっと待って! ロドネスさん、今なんて言いました!?」
ロドネスの話を、リオが慌てた様子で中断する。
リオだけではない、マンマチャックもジークも、エナルカもテスラも、ロドネスの口から出たその名前に、驚愕の表情を浮かべている。
「我々五人が最後に訪れし地が、ボボバ山の山中にある、今は亡き銀竜イルクナードの墓穴だった。そこに、それは存在した。骨と化したイルクナードの亡骸に守られている、銀色に光り輝く巨大な卵。我々が近くに来た事を感じて、その卵は自ら語りかけて来た。『我が名はワイティア。裁定者イルクナードの意志を継ぐ者なり』とな……」
ロドネスの言葉に、五人の呼吸が止まった。
ワイティア……
およそ四十年前に、この国を襲った災厄の元凶の名が、ワイティア……
まさか、偶然の一致……?
いや、それにしては出来過ぎている。
しかし、ならば……、どうして?
それぞれがそれぞれに、思い出していた。
王都ヴァルハリスの中心、そこにある光の城、スヴェート城。
そこに暮らす、この国の王……、長い白髪に、深い青の瞳が印象的な、若い男。
優しい笑顔を讃え、国の未来を案じて涙を流していた……、リオ達をこの地へと送り出した張本人、十七代ヴェルハーラ王国国王ワイティアの事を。
「銀竜イルクナードは、その昔、魔法を使う人々がこの地に住まうずっと以前から、ボボバ山を中心としたこの地を守ってきた。それ故に、他所からやってきた魔法を使う人々が、野山を切り開き、国を建て、自然を破壊していく様は、断じて許せない行為だったのだ。怒ったイルクナードは人々に、様々な災厄をもたらした。気候を操り、田畑を干上がらせ、国中に稲妻の雨を降らせた。多くの人々が、強大なる力の前に敗れ、その身を滅ぼしていったと聞く。しかし、時の賢者達によって、なんとかイルクナードの怒りは収まり、人々はイルクナードを神と崇める事を誓って、和解した……、はずだった」
マンマチャックは思い出していた。
悲しきタンタの歴史の中に登場する、偉大なる銀竜イルクナードの存在を。
しかし歴史とは、往々にして捻じ曲げられていくらしい。
イルクナードは、自分が考えているような、強く正しい竜ではなかったようだと、マンマチャックは思った。
「イルクナードは懸念していた。自らの命が尽き、この世を去った後、魔法を使う人々がまた、多くの自然を傷付けはしないだろうかと……。そして、それは現実となった。イルクナード亡き世を、人々は謳歌し、ヴェルハーラ王国は繁栄していった。人の数が増えると同時に、自然は減っていった。野山に暮らしていた、人とは相容れぬ魔物や魔族達は、その身を隠すように生きていくしか道はなかった。黒竜ダーテアスの末裔であるダース族もその一つ。時が経ち、魔法を使う人々とダース族が解り合うまでには、幾多の争いがあったとも聞いている。そんな中で、国に暮らす人々は、徐々にその魔力を失っていった。平和が続いていたが故に、誰もその事には気を留めなかったが……。確実に、魔法を使う事が出来る人の数は減っていった。そしてそれが、思念体であるワイティアの生み出した、第一の災厄だったのだ」
ジークは思い出していた。
巨人族の末裔であるアレッド族と、魔法を使う人々の間には、埋めようにも埋まらない深く深い溝があるという事を。
幼い頃から、体が大きいというだけで、周りから好奇の視線を送られてきた。
実際に、見知らぬ大人に訳もないのに怒鳴られたり、暴力を振るわれた経験も少なからずある。
アレッド族もまた、ダース族と同じに、魔法を使う人々によって迫害され、その身を隠すようにして生きてきた種族なのだった。
「卵の外に出る事が出来ない竜の子ワイティアは、その強い思いでもって、思念体として外の世界へと飛び出した。そして、自然を守りたいという銀竜イルクナードの意志を継いで、魔法を使う人々をこの地より根絶やしにしようと画策を始めたのだ。手始めに、人々から魔力そのものを奪い始めた。こうする事で、抵抗する術を無くそうと考えたのだろう。そうしてから、人々の住まう地に、様々な災厄をもたらした。銀竜イルクナードより受け継ぎし、天候を操る力を駆使して、北の山々には大雪を降らせ、南の地域は日照り続きで砂漠と化した。東西の森には危険な魔物を放ち、人々を襲わせた。そうして着実に、この地を荒らす人々の数を減らしていったのだ」
エナルカは思い出していた。
凶暴化したドゥーロによって、命を落とした、師であるシドラーの事を。
そして、感じていた。
四十年前の出来事と、今現在この国で起きている様々な出来事が、まるで歴史を繰り返しているかのように、とても似通ったものであるという事を。
「しかし、その野望は、私達の出現で打ち砕かれる事となる。災厄の元凶を探し当てた五人の魔導師は、その卵を、マハカム魔岩と呼ばれる魔封じの石で封印する事にしたのだ。そうすれば、各地に災厄をもたらしている思念体は、殻の外には出られなくなる。ベナ山の洞窟に存在するマハカム魔岩を彫り出し、術をかけ、我々五人は、ボボバ山のイルクナードの墓穴へと向かった。そして、魔封じの石を使って、思念体ですら外に出られぬように、硬く硬い封印の魔法を、ワイティアの本体が存在する巨大な卵にかけたのだ」
リオは、ふと思い出していた。
そう言えば昔、クレイマンに連れられて、ベナ山の奥深くにある、美しく輝く虹色のクリスタルの洞窟を訪れた事があったのだ。
そうか、あれは全てマハカム魔岩だったのかと、リオは今更ながらに気付き、一人で感動していた。
「しかし、今の話ですと……。その、銀竜イルクナードが残した卵には、封印の魔法をかけた為に、もはや中の者は外へは出られないはず……、ですよね?」
エナルカが、戸惑いつつも尋ねる。
「そうだ。そのはずだった……。しかし、何らかの理由で、竜の子ワイティアは、思念体として再び世に現れた。封じ込めたはずの魔法が不完全であったか、それ以上にワイティアの力が強かったのか、今となっては分からぬが……」
そうしてロドネスは、再び語り始めた。
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる