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★ピタラス諸島第三、ニベルー島編★

379:反射

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   馬面だったアンソニーの体がモロモロと剥がれ落ちていき、中から現れたのは整った顔立ちの白い美少年。 
   推定身長1トール、つまり俺より頭一個分ほど背が高く、見た目には十歳くらいだ。
   体系は細身、というより痩せ過ぎ。
   白い短髪と白い肌は本当に雪のように真っ白で、瞳は透明度の高い赤色をしている。
   耳が尖ってないからエルフではないだろうけど……、とてもじゃないが、人間だとも思えない。

   何なんだこいつぅっ!?
   しかも、くっそぉ……、何で美少年なんだぁっ!??

「さ~て、誰から魔法をかけて欲しい?」

   ニコニコと笑いながら、ユラユラと体を揺らす白い美少年。
   その手には、何やら黒くて短い杖を握っている。
   おそらくその杖で、森に入ってきた人間達を馬面に変えていったのだろう。

「おまいは誰だ!? 名を名乗れっ!!」

   ローブの内側から取り出した杖を白い美少年に向け、叫ぶカービィ。
   すると、白い美少年の眉がピクリと動いたかと思うと、それまでの笑顔がスッと消えて……

「誰が……、喋っていいって言った?」

   シュン……、ドパーンッ!

「うわぁっ!?!?」

   あまりに一瞬の出来事、あまりに衝撃的なその光景に、俺は思わず声を上げ、目を見開いて驚く。

   白い美少年が躊躇なく、手に持った黒い杖から、光の玉のような何かをカービィ目掛けて発射したのだ。
   しかしながら、それがカービィに当たる事はなく、何かに弾かれて隣の木にぶち当たって砕けた。
   木が焼け焦げる匂いが辺りに漂って、幹には真っ黒な焼け跡が残った。

   なっ!? なんっ!??

   何が起きたのかと慌てふためく俺。
   目を凝らして見てみると、カービィの周りには、うっすらとだが青い光の膜が張られているように見える。
   そしてそれは、俺とギンロ、グレコとカナリーとマシコットの周りにも張り巡らされていた。

   これは……、あ、カービィの守護魔法か!?
   いつの間にっ!??

「あははっ! 凄いなっ!? 君、やっぱり魔法が使えるんだっ!!!」

   何故だか嬉しそうに笑い声をあげる白い美少年。
   
   ……分からない。
   彼の感情の仕組みが、俺には全く理解出来ない。
   今さっきキレて、明らかに何かの攻撃魔法を仕掛けた相手に対し、何故そんなにも屈託のない笑顔を向けられるのか……、全くもって理解不能だ。

「もっぺん聞くぞ! おまいは誰だ!? 何故こんな事をするんだ!?? 町のみんなを馬面にしたのも、全部おまいだなっ!??? 答えろぉっ!!!!!」

   えっと、カービィさんや……、ちゃっかり質問増えてませんか?

「どうして答えなきゃならないの?」

   白い美少年は、悪びれる様子もなく首を傾げる。

   ……う、それは、仰る通りですね。

「おまいが呪いをかけたせいで、みんなが町へ戻れなくて困ってんだ! 呪いを解く方法を教えろっ!!」

「嫌だよ。町へ帰りたいのなら、あのまま帰ればいいのさ」

   え……、あの不細工な馬面で? いやいや、それは無理でしょうよ。
   あんなままで帰ったりしちゃ、それこそ化け物呼ばわりされて捕まえられて、最後には処刑されちゃうかも。
   
「どうやら話しても無駄なようだな……。マシコット! カナリー!!」

   カービィが二人の名前を呼ぶと、マシコットとカナリーも、ローブの内側からサッと杖を取り出して、白い美少年に向けた。
   三対一の構図……、白い美少年の圧倒的不利だ。

「せっかく仲良くなろうと思っていたのにな。人間や奴等以外の者がこの森に来るなんて、本当に久しぶりだったから……。僕は、とても残念だよ」

   白い美少年はそう言うと、笑顔のままで涙を流した。

   怖いっ! 君の感情どうなってんのっ!?
   なんで笑ったまま泣いてるのっ!??

「僕の思い通りにならないのなら……、みんな、ケダモノになればいい。そうさ、醜いケダモノになればいいんだっ! あっはっはっはっ!!」

   気が狂ったような笑い声をあげる白い美少年。
   そして次の瞬間、カッ! と目を見開いたかと思うと、頭上に杖を高く掲げて、眩いばかりの光を放った。

   はっ!
   あれはもしかしてっ!?
   みんなが馬面にされた光ではっ!??

   いやぁあぁぁ~っ!!!
   馬面になんてなりたくないぃいぃっ!!!!

   思わずギンロの頭の後ろに隠れる俺。
   だがしかし、俺の心配を他所に、その光が俺たちに届く事はなかった。

反射アダナクラス!」
反射アダナクラス!」
反射アダナクラス!」

   カービィ、マシコット、カナリーの三人は、同時に同じ呪文を唱え、魔法を行使した。
   俺たちの前に、鏡のような光の結晶が現れて、白い美少年の魔法は真っ直ぐに跳ね返されて……

「わっ!? うわぁあぁぁっ!??」

   白い美少年は、自ら放った魔法の光に飲み込まれた。
   そして……

「あ……、うわぁ~、戻ったな……」

   俺は思わずそう呟いた。

「うぎゃあぁ~!? ケダモノ!?? うわぁあぁぁっ!???」

   自らが放った魔法を、カービィ達の反射魔法によってその身に受けた白い美少年は、見覚えのある馬面になった。
   ただ、何故かその毛色は白く、瞳は真っ赤なままだった。

   慌てふためき、ガタガタと震えながら絶叫する元白い美少年(今は馬面)。

   ……いやあんた、その魔法を他人にかけてたのよ?
   その辺り、いったいどうお考えで??
   やっぱり嫌でしょ??? そんな馬面。
   ちょっとは彼らの気持ちがわかったかね????

   ボロボロと涙を流しながら、「嫌だ! 嫌だ!!」と叫び続ける白い馬面少年に、俺たちはなんとも言えない視線を向ける。

「ふん、青二才め」

   ニヤリと笑ってそう言うと、カービィは静かに杖をしまった。 
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