最弱種族に異世界転生!?小さなモッモの大冒険♪ 〜可愛さしか取り柄が無いけれど、故郷の村を救う為、世界を巡る旅に出ます!〜

玉美-tamami-

文字の大きさ
524 / 804
★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

511:カムバァアーーーークッ!!!!

しおりを挟む
***

《チャイロ様のお世話をするにあたっての心得》

   その1:部屋の中を明るくしてはいけない。

   その2:チャイロ様が言葉を発した時は、その声に耳を傾け、命令には決して逆らわず、従う事。

   その3:万が一、チャイロ様の姿を目にしても、驚いたり叫んだりしてはいけない。

***







「これが、チャイロ様の部屋の扉の鍵です。それから……、もし、あまりに夜言よごとが激しく、チャイロ様ご自身がお苦しそうな時は、歌を歌って差し上げてください。そうすれば治る事がありましたので……」

   黒い石で出来た鍵の束をティカに手渡し、そう言い残して、チャイロ様の世話役であった侍女のトエトは、重そうな体を引きずって、フラフラとした足取りで廊下を歩いて行った。
   
   ……なんだろうな、すっごく不安。
   普通さ、誰かのお世話をするってなったら、どういう時に、どこをどうして何をすればいいのか、っていう詳細な説明が必要だと思うんだ。
   なのに、俺に伝えられたのは三つの心得のみ。
   しかも、そのどれもこれも、普通のお世話とはかけ離れていると感じざるを得ない内容のものだ。
   この心得のみで、お世話をしろと?
   無茶苦茶だな、おい。

   まず、部屋を明るくしてはいけないらしい。
   ……何故?
   暗闇の中でお世話をしろと??
   どういうプレイだよそれ??? 

   二つ目、チャイロ様の命令には必ず従わなければならない。
   まぁこれは、相手が王子様なのだから、当たり前と言っちゃ当たり前なのだが……
   変な事を命じられても、全部従わなきゃならないとなれば、かなりハードル高いぞこれ。
   裸で腹踊りくらいなら出来るけど、もっと変な事を命じられでもしたら、どうすりゃいいんだ?
   
   そして最後の心得。
   チャイロ様の姿を見ても、驚いたり叫んだりしちゃ駄目って……、おいおいおい、ヤバくないかそれ?
   裏を返せばそれは、チャイロ様の姿がとんでもなくとんでもないもので、驚いたり叫んだりする可能性が大いにある、という事なのではなかろうか。
   となると……、まさか、チャイロ様は化け物なんじゃ……

   ひゃああぁぁぁぁ~っ!!!!!

   どうしようどうしようっ!?
   さっきは勢い余って、王子様のお世話くらい一人でできる、なんて言っちゃったけど、今はもう不安しかないっ!!
   トエト!!! カムバァアーーーークッ!!!!

「よし、中に入ろう」

   ひょおおおおおぉぉぉっ!?!??

   焦る俺の気持ちなんて全く無視して、ティカはそう言った。
   そして、暗闇が広がるチャイロ様の部屋へと、足を踏み入れた。
   
   ここここここ……、怖いっ!
   めっちゃ暗いしっ!!
   それに……、なんか、血の匂いがするぅうっ!!?

   夜目が効く俺でも、明るい所から暗い所にいきなり入ると、視界が安定するのに少々時間がかかる。
   加えてこの真っ暗闇……、全く何も見えない。
   視覚が働かないとなると、他の感覚が研ぎ澄まされるのは当然であるが、俺の鼻は、本当に微かな、ほんの少しの血の匂いを嗅ぎ取っていた。

   なんで、王子様の部屋なのに、血の匂いがするの?
   王子様……、何してんのぉおっ!?

   若干パニックに陥りながらも、なんとか平静を保とうと努力する俺。
   周囲の様子を見て取れないかと、視線をあちこちに向けてみる。
   だが……、やはり何も見えない。
   昼間だというのにこの暗さは異常である。
   入口のドアの明かり以外は本当に、闇に飲まれたかのように真っ黒だった。

   ティカは、俺が入っている金の檻を、入口のドアのすぐ脇に降ろした。
   そして、何かを探すように、真っ暗な部屋を歩いている。

   おおお、お願いっ!
   床に置かないでっ!!
   一人にしないでぇえっ!!!

   ガクブルガクブル

「確か右側に……、おぉ、これだな」

   ティカがそう言うと、シュッというマッチを擦るような音が聞こえて、部屋に柔らかな明かりが灯った。
   どうやら、そこには小さなランタンがあったらしい。
   
「さて……、一度扉を閉めようか」

   ティカは、ランタンを壁際にある木製の机の上に置き、ギギギーっという鈍い音を立てながら、部屋の扉を閉めた。
   そうする事で、外からの光が遮られて、部屋の中はランタンの明かりのみとなり、かえって部屋の様子がよく見て取れるようになった。

 うぉお~!? なんじゃこりゃ!??
 真っ黒じゃねぇかっ!!??
 ……こりゃ、明かりがなけりゃ真っ暗だわな。
   
   外観同様、部屋の中は壁も床も天井も、光沢のある真っ黒な石造りなのだ。
   窓は一つもないが、扉は廊下側と、その反対の壁に一つずつつ、計二つている。
   そして、右側の壁際には、ランタンの置かれた木製の小さなテーブルと椅子があり、左側の壁際には一人用のベッドがあって……、んん?
   
「は……、ひっ!? 血っ!??」

   壁際に置かれたベッドの上にある白いシーツは、所々が赤茶けていて、それが血の乾いたものであると勘付いた俺は、小さく悲鳴を上げた。

「静かにっ! チャイロ様に聞こえてしまう!!」

   ティカは怖い顔でそう言って、俺を睨み付ける。

「ごっ!? ごめんにゃさいっ!!」

   小声で謝る俺。
   するとティカは膝を折り、俺が入っている金の檻の扉をそっと開けてくれた。
   ……まぁ、鍵は元々かけられてなかったから、出ようと思えば、いつでも自力で出られたのだけどね。

「出て来い。ここが今日から君の部屋となる、チャイロ様の世話役を務める侍女の待機部屋だ」

   ティカの言葉に俺は、ぶるっと体を震わせて、チョロっと漏らしてしまった。

   まさか……、この真っ暗闇で、真っ黒で、ベッドのシーツが血に染まっているような部屋が、俺の部屋だと?

「そして、これを渡しておこう」

   ティカは俺に、トエトから預かった黒い石の鍵の束を手渡した。
   ズシっとした重みのあるそれは、全部で三つの鍵が束ねられている。

「一つは外に繋がる扉の鍵、もう一つは中部屋に繋がる扉の鍵、そしてもう一つがチャイロ様の部屋の鍵だ」

   ティカはそう説明してくれたが、鍵はどれもこれもほぼほぼ同じ形をしていて、どれがどの扉の鍵なのか全く分からない。
   それに、三つ目はチャイロ様の部屋の鍵って言ったけど、そもそもここがチャイロ様の部屋ではなかったのか?

「あ、あの……。えと、チャイロ様の部屋に続く扉は、どこに?」

「実は、この扉の先に、中部屋と呼ばれる小さな部屋がもう一つある。更にその先に、チャイロ様の部屋があるのだ」

   ふむ、なるほど……
   つまりは二重構造? いや、三重構造?? になっているわけですな???
   チャイロ様って奴は、それほどまでに厳重に守られているわけか……

「先程トエトが言っていたように、チャイロ様は夜言が酷い。時には一晩中叫んでおられる事もあると聞いた。故に、その声が外に漏れぬよう、このような部屋の作りになっているのだ。壁はことさら分厚く、扉も他のものと違って頑丈だ。即ち、中の音は外には漏れぬ」

   おぉ、なるほどそっちか……
   チャイロ様を守る為の構造なのではなくて、外に声が漏れない為の仕様なわけね。

   ……ていうかさ、一つ疑問があるのだけど。

「その……、夜言? って、何なんですか??」

   聞き慣れないその言葉に、俺は首を傾げた。

   寝言の事だろうか?
   けど、一晩中叫んでいる事もあるって……、ヤバくないか、その寝言。

「夜言は……、自分も直接聞いた事がない故、詳細は分からぬが……。チャイロ様は夜間の就寝時に、我々紅竜人の言葉ではない何かを、そのお口から発せられているのだそうだ。何を言っておられるのかは全く不明なのだが……。チャイロ様の母君である亡き王妃様は、その夜言の為に亡くなられたと言われている。故にチャイロ様は、大声で叫ぼうとも外に声が漏れる事のないこの部屋で、ずっと生活しておられるのだ」

   なんと!? 殺人寝言なのか!!?
   ……いやでも、人を殺せる寝言って何よ??
   呪いの言葉とか、そういう類???
   うわぁ~、ホラーじゃんかぁ~。

   ……え? でもさ、え??
   ちょ、ちょっと待てよ、それってもしかして……???

「えっと、あの……。その、チャイロ様の夜言って……、この部屋にいても聞こえるんですか?」

   全く気は進まないが、ここが今日から俺の部屋なのである。
   チャイロ様の部屋と、扉二枚で仕切られたこの真っ暗な侍女の待機部屋で、今日から俺は一人で寝泊まりをするわけなのだ。
   夜間に殺人寝言を叫ぶっていうけど……、中部屋を挟んでいるわけだから、まさかここまでは聞こえないよね?

「無論、聞こえるのだろうな。ベッドのシーツを見てみろ。トエトがチャイロ様の夜言に苦しみ、耳を掻きむしったが故の血痕が残っている。歌を歌って差し上げれば治ると、トエトは言っていたが……、それが本当ならば、シーツがこのように血に染まる事もなかっただろう。モッモよ、チャイロ様の夜言は回避できぬと心得ておけ」

   うっわ……、マジかぁ……
   俺、今夜から、殺人寝言を聞かなきゃならないの?
   それでなくても、聴覚が超絶優れている俺は、虫の羽音だけでも飛び起きちゃうほどなのに……
   きっつ! めちゃきっつ!!

   ……俺、明日まで生きていられるかなぁ?
   なんか、全然自信ないんだけど。
   そもそも、何でこんな事になったんだ??
   食材としての運命を回避出来たのは良かったけど、思っていた展開とは全く違うぞ???
   当初の予定では、俺のこの愛くるしい容姿を活かして、可愛いペットになるはずだったのに……、なのに……、なのにぃいっ!!!
   ぬぁあああぁぁぁぁっ!!!!

「食事はトエトか、もしくは他の侍女がここまで運んでくるだろう。君はそれを奥の部屋におられるチャイロ様の元へと運び、召し上がっていただくのだ。無論、チャイロ様のお部屋の中も明かりは皆無。ある程度はトエトが片付けていると思うが、散らかっている可能性もある。足元には充分に注意しろ。そして、チャイロ様の衣類や寝具の替えも同じく、侍女が毎朝運んでくる故、君はチャイロ様のお着替えをてつだい、古くなった衣服を侍女に渡すのだ。他にも仕事はあるが、詳しい事は後でトエトが説明してくれるだろう。それから……」

   淡々としたティカの説明を静かに聞きながらも、俺の心は絶叫していた。
   
   グレコ! カービィ!! ギンロ!!!
   お願い……、早く迎えに来てぇえっ!!!!   
   
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...