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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★
511:カムバァアーーーークッ!!!!
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***
《チャイロ様のお世話をするにあたっての心得》
その1:部屋の中を明るくしてはいけない。
その2:チャイロ様が言葉を発した時は、その声に耳を傾け、命令には決して逆らわず、従う事。
その3:万が一、チャイロ様の姿を目にしても、驚いたり叫んだりしてはいけない。
***
「これが、チャイロ様の部屋の扉の鍵です。それから……、もし、あまりに夜言が激しく、チャイロ様ご自身がお苦しそうな時は、歌を歌って差し上げてください。そうすれば治る事がありましたので……」
黒い石で出来た鍵の束をティカに手渡し、そう言い残して、チャイロ様の世話役であった侍女のトエトは、重そうな体を引きずって、フラフラとした足取りで廊下を歩いて行った。
……なんだろうな、すっごく不安。
普通さ、誰かのお世話をするってなったら、どういう時に、どこをどうして何をすればいいのか、っていう詳細な説明が必要だと思うんだ。
なのに、俺に伝えられたのは三つの心得のみ。
しかも、そのどれもこれも、普通のお世話とはかけ離れていると感じざるを得ない内容のものだ。
この心得のみで、お世話をしろと?
無茶苦茶だな、おい。
まず、部屋を明るくしてはいけないらしい。
……何故?
暗闇の中でお世話をしろと??
どういうプレイだよそれ???
二つ目、チャイロ様の命令には必ず従わなければならない。
まぁこれは、相手が王子様なのだから、当たり前と言っちゃ当たり前なのだが……
変な事を命じられても、全部従わなきゃならないとなれば、かなりハードル高いぞこれ。
裸で腹踊りくらいなら出来るけど、もっと変な事を命じられでもしたら、どうすりゃいいんだ?
そして最後の心得。
チャイロ様の姿を見ても、驚いたり叫んだりしちゃ駄目って……、おいおいおい、ヤバくないかそれ?
裏を返せばそれは、チャイロ様の姿がとんでもなくとんでもないもので、驚いたり叫んだりする可能性が大いにある、という事なのではなかろうか。
となると……、まさか、チャイロ様は化け物なんじゃ……
ひゃああぁぁぁぁ~っ!!!!!
どうしようどうしようっ!?
さっきは勢い余って、王子様のお世話くらい一人でできる、なんて言っちゃったけど、今はもう不安しかないっ!!
トエト!!! カムバァアーーーークッ!!!!
「よし、中に入ろう」
ひょおおおおおぉぉぉっ!?!??
焦る俺の気持ちなんて全く無視して、ティカはそう言った。
そして、暗闇が広がるチャイロ様の部屋へと、足を踏み入れた。
ここここここ……、怖いっ!
めっちゃ暗いしっ!!
それに……、なんか、血の匂いがするぅうっ!!?
夜目が効く俺でも、明るい所から暗い所にいきなり入ると、視界が安定するのに少々時間がかかる。
加えてこの真っ暗闇……、全く何も見えない。
視覚が働かないとなると、他の感覚が研ぎ澄まされるのは当然であるが、俺の鼻は、本当に微かな、ほんの少しの血の匂いを嗅ぎ取っていた。
なんで、王子様の部屋なのに、血の匂いがするの?
王子様……、何してんのぉおっ!?
若干パニックに陥りながらも、なんとか平静を保とうと努力する俺。
周囲の様子を見て取れないかと、視線をあちこちに向けてみる。
だが……、やはり何も見えない。
昼間だというのにこの暗さは異常である。
入口のドアの明かり以外は本当に、闇に飲まれたかのように真っ黒だった。
ティカは、俺が入っている金の檻を、入口のドアのすぐ脇に降ろした。
そして、何かを探すように、真っ暗な部屋を歩いている。
おおお、お願いっ!
床に置かないでっ!!
一人にしないでぇえっ!!!
ガクブルガクブル
「確か右側に……、おぉ、これだな」
ティカがそう言うと、シュッというマッチを擦るような音が聞こえて、部屋に柔らかな明かりが灯った。
どうやら、そこには小さなランタンがあったらしい。
「さて……、一度扉を閉めようか」
ティカは、ランタンを壁際にある木製の机の上に置き、ギギギーっという鈍い音を立てながら、部屋の扉を閉めた。
そうする事で、外からの光が遮られて、部屋の中はランタンの明かりのみとなり、かえって部屋の様子がよく見て取れるようになった。
うぉお~!? なんじゃこりゃ!??
真っ黒じゃねぇかっ!!??
……こりゃ、明かりがなけりゃ真っ暗だわな。
外観同様、部屋の中は壁も床も天井も、光沢のある真っ黒な石造りなのだ。
窓は一つもないが、扉は廊下側と、その反対の壁に一つずつつ、計二つている。
そして、右側の壁際には、ランタンの置かれた木製の小さなテーブルと椅子があり、左側の壁際には一人用のベッドがあって……、んん?
「は……、ひっ!? 血っ!??」
壁際に置かれたベッドの上にある白いシーツは、所々が赤茶けていて、それが血の乾いたものであると勘付いた俺は、小さく悲鳴を上げた。
「静かにっ! チャイロ様に聞こえてしまう!!」
ティカは怖い顔でそう言って、俺を睨み付ける。
「ごっ!? ごめんにゃさいっ!!」
小声で謝る俺。
するとティカは膝を折り、俺が入っている金の檻の扉をそっと開けてくれた。
……まぁ、鍵は元々かけられてなかったから、出ようと思えば、いつでも自力で出られたのだけどね。
「出て来い。ここが今日から君の部屋となる、チャイロ様の世話役を務める侍女の待機部屋だ」
ティカの言葉に俺は、ぶるっと体を震わせて、チョロっと漏らしてしまった。
まさか……、この真っ暗闇で、真っ黒で、ベッドのシーツが血に染まっているような部屋が、俺の部屋だと?
「そして、これを渡しておこう」
ティカは俺に、トエトから預かった黒い石の鍵の束を手渡した。
ズシっとした重みのあるそれは、全部で三つの鍵が束ねられている。
「一つは外に繋がる扉の鍵、もう一つは中部屋に繋がる扉の鍵、そしてもう一つがチャイロ様の部屋の鍵だ」
ティカはそう説明してくれたが、鍵はどれもこれもほぼほぼ同じ形をしていて、どれがどの扉の鍵なのか全く分からない。
それに、三つ目はチャイロ様の部屋の鍵って言ったけど、そもそもここがチャイロ様の部屋ではなかったのか?
「あ、あの……。えと、チャイロ様の部屋に続く扉は、どこに?」
「実は、この扉の先に、中部屋と呼ばれる小さな部屋がもう一つある。更にその先に、チャイロ様の部屋があるのだ」
ふむ、なるほど……
つまりは二重構造? いや、三重構造?? になっているわけですな???
チャイロ様って奴は、それほどまでに厳重に守られているわけか……
「先程トエトが言っていたように、チャイロ様は夜言が酷い。時には一晩中叫んでおられる事もあると聞いた。故に、その声が外に漏れぬよう、このような部屋の作りになっているのだ。壁はことさら分厚く、扉も他のものと違って頑丈だ。即ち、中の音は外には漏れぬ」
おぉ、なるほどそっちか……
チャイロ様を守る為の構造なのではなくて、外に声が漏れない為の仕様なわけね。
……ていうかさ、一つ疑問があるのだけど。
「その……、夜言? って、何なんですか??」
聞き慣れないその言葉に、俺は首を傾げた。
寝言の事だろうか?
けど、一晩中叫んでいる事もあるって……、ヤバくないか、その寝言。
「夜言は……、自分も直接聞いた事がない故、詳細は分からぬが……。チャイロ様は夜間の就寝時に、我々紅竜人の言葉ではない何かを、そのお口から発せられているのだそうだ。何を言っておられるのかは全く不明なのだが……。チャイロ様の母君である亡き王妃様は、その夜言の為に亡くなられたと言われている。故にチャイロ様は、大声で叫ぼうとも外に声が漏れる事のないこの部屋で、ずっと生活しておられるのだ」
なんと!? 殺人寝言なのか!!?
……いやでも、人を殺せる寝言って何よ??
呪いの言葉とか、そういう類???
うわぁ~、ホラーじゃんかぁ~。
……え? でもさ、え??
ちょ、ちょっと待てよ、それってもしかして……???
「えっと、あの……。その、チャイロ様の夜言って……、この部屋にいても聞こえるんですか?」
全く気は進まないが、ここが今日から俺の部屋なのである。
チャイロ様の部屋と、扉二枚で仕切られたこの真っ暗な侍女の待機部屋で、今日から俺は一人で寝泊まりをするわけなのだ。
夜間に殺人寝言を叫ぶっていうけど……、中部屋を挟んでいるわけだから、まさかここまでは聞こえないよね?
「無論、聞こえるのだろうな。ベッドのシーツを見てみろ。トエトがチャイロ様の夜言に苦しみ、耳を掻きむしったが故の血痕が残っている。歌を歌って差し上げれば治ると、トエトは言っていたが……、それが本当ならば、シーツがこのように血に染まる事もなかっただろう。モッモよ、チャイロ様の夜言は回避できぬと心得ておけ」
うっわ……、マジかぁ……
俺、今夜から、殺人寝言を聞かなきゃならないの?
それでなくても、聴覚が超絶優れている俺は、虫の羽音だけでも飛び起きちゃうほどなのに……
きっつ! めちゃきっつ!!
……俺、明日まで生きていられるかなぁ?
なんか、全然自信ないんだけど。
そもそも、何でこんな事になったんだ??
食材としての運命を回避出来たのは良かったけど、思っていた展開とは全く違うぞ???
当初の予定では、俺のこの愛くるしい容姿を活かして、可愛いペットになるはずだったのに……、なのに……、なのにぃいっ!!!
ぬぁあああぁぁぁぁっ!!!!
「食事はトエトか、もしくは他の侍女がここまで運んでくるだろう。君はそれを奥の部屋におられるチャイロ様の元へと運び、召し上がっていただくのだ。無論、チャイロ様のお部屋の中も明かりは皆無。ある程度はトエトが片付けていると思うが、散らかっている可能性もある。足元には充分に注意しろ。そして、チャイロ様の衣類や寝具の替えも同じく、侍女が毎朝運んでくる故、君はチャイロ様のお着替えをてつだい、古くなった衣服を侍女に渡すのだ。他にも仕事はあるが、詳しい事は後でトエトが説明してくれるだろう。それから……」
淡々としたティカの説明を静かに聞きながらも、俺の心は絶叫していた。
グレコ! カービィ!! ギンロ!!!
お願い……、早く迎えに来てぇえっ!!!!
《チャイロ様のお世話をするにあたっての心得》
その1:部屋の中を明るくしてはいけない。
その2:チャイロ様が言葉を発した時は、その声に耳を傾け、命令には決して逆らわず、従う事。
その3:万が一、チャイロ様の姿を目にしても、驚いたり叫んだりしてはいけない。
***
「これが、チャイロ様の部屋の扉の鍵です。それから……、もし、あまりに夜言が激しく、チャイロ様ご自身がお苦しそうな時は、歌を歌って差し上げてください。そうすれば治る事がありましたので……」
黒い石で出来た鍵の束をティカに手渡し、そう言い残して、チャイロ様の世話役であった侍女のトエトは、重そうな体を引きずって、フラフラとした足取りで廊下を歩いて行った。
……なんだろうな、すっごく不安。
普通さ、誰かのお世話をするってなったら、どういう時に、どこをどうして何をすればいいのか、っていう詳細な説明が必要だと思うんだ。
なのに、俺に伝えられたのは三つの心得のみ。
しかも、そのどれもこれも、普通のお世話とはかけ離れていると感じざるを得ない内容のものだ。
この心得のみで、お世話をしろと?
無茶苦茶だな、おい。
まず、部屋を明るくしてはいけないらしい。
……何故?
暗闇の中でお世話をしろと??
どういうプレイだよそれ???
二つ目、チャイロ様の命令には必ず従わなければならない。
まぁこれは、相手が王子様なのだから、当たり前と言っちゃ当たり前なのだが……
変な事を命じられても、全部従わなきゃならないとなれば、かなりハードル高いぞこれ。
裸で腹踊りくらいなら出来るけど、もっと変な事を命じられでもしたら、どうすりゃいいんだ?
そして最後の心得。
チャイロ様の姿を見ても、驚いたり叫んだりしちゃ駄目って……、おいおいおい、ヤバくないかそれ?
裏を返せばそれは、チャイロ様の姿がとんでもなくとんでもないもので、驚いたり叫んだりする可能性が大いにある、という事なのではなかろうか。
となると……、まさか、チャイロ様は化け物なんじゃ……
ひゃああぁぁぁぁ~っ!!!!!
どうしようどうしようっ!?
さっきは勢い余って、王子様のお世話くらい一人でできる、なんて言っちゃったけど、今はもう不安しかないっ!!
トエト!!! カムバァアーーーークッ!!!!
「よし、中に入ろう」
ひょおおおおおぉぉぉっ!?!??
焦る俺の気持ちなんて全く無視して、ティカはそう言った。
そして、暗闇が広がるチャイロ様の部屋へと、足を踏み入れた。
ここここここ……、怖いっ!
めっちゃ暗いしっ!!
それに……、なんか、血の匂いがするぅうっ!!?
夜目が効く俺でも、明るい所から暗い所にいきなり入ると、視界が安定するのに少々時間がかかる。
加えてこの真っ暗闇……、全く何も見えない。
視覚が働かないとなると、他の感覚が研ぎ澄まされるのは当然であるが、俺の鼻は、本当に微かな、ほんの少しの血の匂いを嗅ぎ取っていた。
なんで、王子様の部屋なのに、血の匂いがするの?
王子様……、何してんのぉおっ!?
若干パニックに陥りながらも、なんとか平静を保とうと努力する俺。
周囲の様子を見て取れないかと、視線をあちこちに向けてみる。
だが……、やはり何も見えない。
昼間だというのにこの暗さは異常である。
入口のドアの明かり以外は本当に、闇に飲まれたかのように真っ黒だった。
ティカは、俺が入っている金の檻を、入口のドアのすぐ脇に降ろした。
そして、何かを探すように、真っ暗な部屋を歩いている。
おおお、お願いっ!
床に置かないでっ!!
一人にしないでぇえっ!!!
ガクブルガクブル
「確か右側に……、おぉ、これだな」
ティカがそう言うと、シュッというマッチを擦るような音が聞こえて、部屋に柔らかな明かりが灯った。
どうやら、そこには小さなランタンがあったらしい。
「さて……、一度扉を閉めようか」
ティカは、ランタンを壁際にある木製の机の上に置き、ギギギーっという鈍い音を立てながら、部屋の扉を閉めた。
そうする事で、外からの光が遮られて、部屋の中はランタンの明かりのみとなり、かえって部屋の様子がよく見て取れるようになった。
うぉお~!? なんじゃこりゃ!??
真っ黒じゃねぇかっ!!??
……こりゃ、明かりがなけりゃ真っ暗だわな。
外観同様、部屋の中は壁も床も天井も、光沢のある真っ黒な石造りなのだ。
窓は一つもないが、扉は廊下側と、その反対の壁に一つずつつ、計二つている。
そして、右側の壁際には、ランタンの置かれた木製の小さなテーブルと椅子があり、左側の壁際には一人用のベッドがあって……、んん?
「は……、ひっ!? 血っ!??」
壁際に置かれたベッドの上にある白いシーツは、所々が赤茶けていて、それが血の乾いたものであると勘付いた俺は、小さく悲鳴を上げた。
「静かにっ! チャイロ様に聞こえてしまう!!」
ティカは怖い顔でそう言って、俺を睨み付ける。
「ごっ!? ごめんにゃさいっ!!」
小声で謝る俺。
するとティカは膝を折り、俺が入っている金の檻の扉をそっと開けてくれた。
……まぁ、鍵は元々かけられてなかったから、出ようと思えば、いつでも自力で出られたのだけどね。
「出て来い。ここが今日から君の部屋となる、チャイロ様の世話役を務める侍女の待機部屋だ」
ティカの言葉に俺は、ぶるっと体を震わせて、チョロっと漏らしてしまった。
まさか……、この真っ暗闇で、真っ黒で、ベッドのシーツが血に染まっているような部屋が、俺の部屋だと?
「そして、これを渡しておこう」
ティカは俺に、トエトから預かった黒い石の鍵の束を手渡した。
ズシっとした重みのあるそれは、全部で三つの鍵が束ねられている。
「一つは外に繋がる扉の鍵、もう一つは中部屋に繋がる扉の鍵、そしてもう一つがチャイロ様の部屋の鍵だ」
ティカはそう説明してくれたが、鍵はどれもこれもほぼほぼ同じ形をしていて、どれがどの扉の鍵なのか全く分からない。
それに、三つ目はチャイロ様の部屋の鍵って言ったけど、そもそもここがチャイロ様の部屋ではなかったのか?
「あ、あの……。えと、チャイロ様の部屋に続く扉は、どこに?」
「実は、この扉の先に、中部屋と呼ばれる小さな部屋がもう一つある。更にその先に、チャイロ様の部屋があるのだ」
ふむ、なるほど……
つまりは二重構造? いや、三重構造?? になっているわけですな???
チャイロ様って奴は、それほどまでに厳重に守られているわけか……
「先程トエトが言っていたように、チャイロ様は夜言が酷い。時には一晩中叫んでおられる事もあると聞いた。故に、その声が外に漏れぬよう、このような部屋の作りになっているのだ。壁はことさら分厚く、扉も他のものと違って頑丈だ。即ち、中の音は外には漏れぬ」
おぉ、なるほどそっちか……
チャイロ様を守る為の構造なのではなくて、外に声が漏れない為の仕様なわけね。
……ていうかさ、一つ疑問があるのだけど。
「その……、夜言? って、何なんですか??」
聞き慣れないその言葉に、俺は首を傾げた。
寝言の事だろうか?
けど、一晩中叫んでいる事もあるって……、ヤバくないか、その寝言。
「夜言は……、自分も直接聞いた事がない故、詳細は分からぬが……。チャイロ様は夜間の就寝時に、我々紅竜人の言葉ではない何かを、そのお口から発せられているのだそうだ。何を言っておられるのかは全く不明なのだが……。チャイロ様の母君である亡き王妃様は、その夜言の為に亡くなられたと言われている。故にチャイロ様は、大声で叫ぼうとも外に声が漏れる事のないこの部屋で、ずっと生活しておられるのだ」
なんと!? 殺人寝言なのか!!?
……いやでも、人を殺せる寝言って何よ??
呪いの言葉とか、そういう類???
うわぁ~、ホラーじゃんかぁ~。
……え? でもさ、え??
ちょ、ちょっと待てよ、それってもしかして……???
「えっと、あの……。その、チャイロ様の夜言って……、この部屋にいても聞こえるんですか?」
全く気は進まないが、ここが今日から俺の部屋なのである。
チャイロ様の部屋と、扉二枚で仕切られたこの真っ暗な侍女の待機部屋で、今日から俺は一人で寝泊まりをするわけなのだ。
夜間に殺人寝言を叫ぶっていうけど……、中部屋を挟んでいるわけだから、まさかここまでは聞こえないよね?
「無論、聞こえるのだろうな。ベッドのシーツを見てみろ。トエトがチャイロ様の夜言に苦しみ、耳を掻きむしったが故の血痕が残っている。歌を歌って差し上げれば治ると、トエトは言っていたが……、それが本当ならば、シーツがこのように血に染まる事もなかっただろう。モッモよ、チャイロ様の夜言は回避できぬと心得ておけ」
うっわ……、マジかぁ……
俺、今夜から、殺人寝言を聞かなきゃならないの?
それでなくても、聴覚が超絶優れている俺は、虫の羽音だけでも飛び起きちゃうほどなのに……
きっつ! めちゃきっつ!!
……俺、明日まで生きていられるかなぁ?
なんか、全然自信ないんだけど。
そもそも、何でこんな事になったんだ??
食材としての運命を回避出来たのは良かったけど、思っていた展開とは全く違うぞ???
当初の予定では、俺のこの愛くるしい容姿を活かして、可愛いペットになるはずだったのに……、なのに……、なのにぃいっ!!!
ぬぁあああぁぁぁぁっ!!!!
「食事はトエトか、もしくは他の侍女がここまで運んでくるだろう。君はそれを奥の部屋におられるチャイロ様の元へと運び、召し上がっていただくのだ。無論、チャイロ様のお部屋の中も明かりは皆無。ある程度はトエトが片付けていると思うが、散らかっている可能性もある。足元には充分に注意しろ。そして、チャイロ様の衣類や寝具の替えも同じく、侍女が毎朝運んでくる故、君はチャイロ様のお着替えをてつだい、古くなった衣服を侍女に渡すのだ。他にも仕事はあるが、詳しい事は後でトエトが説明してくれるだろう。それから……」
淡々としたティカの説明を静かに聞きながらも、俺の心は絶叫していた。
グレコ! カービィ!! ギンロ!!!
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