最弱種族に異世界転生!?小さなモッモの大冒険♪ 〜可愛さしか取り柄が無いけれど、故郷の村を救う為、世界を巡る旅に出ます!〜

玉美-tamami-

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★ピタラス諸島第四、ロリアン島編★

533:葬儀師

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『冥界の扉とはつまり、この世とあの世を繋ぐ界門の事です。私達精霊が使う界門も冥界の扉も、どちらも本来ならば、あちら側の者にしか開く事の出来ないものなのですが……。確かこの世界には、葬儀師フューネラーと呼ばれる、死者の魂を冥界へと導く事の出来る者が存在するはず。葬儀師ならば、もしかすると、冥界の扉を開く事が出来るかも知れません!』

   興奮した様子のチルチルを前に、もはやパンク寸前の俺は、頭を抱えて眉間に皺を寄せる事しか出来ない。

   冥界の扉? あの世?? 葬儀師???
   もう、何が何だかわっかんねぇ~よ。

『ですが、相手はこの世に強い未練を持った悪魔の魂……。並大抵の葬儀師では歯が立たないでしょう。今は亡者の玉の中に閉じ込められて大人しくしているようですが、解き放たれれば最後、何をしでかすか分かりません。これは一刻を争う事態です! 早急に葬儀師を探し出し、対策を練らねばなりませんっ!!』

   急き立てるチルチル。

   うぅ~……、待って、チルチル。
   お願いだから、少し待ってちょうだいな。
   今、頭の中を必死で整理しているから。

   しかしながら、沢山の事を一気に聞いて、知って、更にはチルチルが忙しなく喋り続けるもんだから、頭の整理なんてこれっぽっちも出来やしない。
   だけど、さっきまでのイカーブと骸骨野郎の会話、そしてチルチルの話から、一つだけ確かな事が、俺には分かった。

「……あ? ん?? てことはさ。あの骸骨野郎は、イカーブの持って行った玉の中に閉じ込められている間は、悪い事が出来ない、って事だよね???」

   俺の問い掛けに、チルチルは目をパチパチとしながら一瞬黙った。

『えと……、理論上はそうなると思います。あの黒い玉は間違いなく亡者の玉です。亡者の玉に閉じ込められた魂は、閉じ込めた者しか解放出来ないはず……。なので……、はい、そうですね。モッモ様の仰るとおり、先ほどの御老体が解放しない限り、悪魔の魂は亡者の玉より自由になる事はありません』

   チルチルは、少しばかり冷静になった様子でそう言った。

「じゃあ……、まだ少し、時間に余裕がありそうじゃない?」

   イカーブは確か、チャイロを生贄にしてから、憑代となる者を王宮に迎え入れる、とかなんとか言っていたよな?
   そして、チャイロが生贄にされるのは明日……
   つまり明日までは、骸骨野郎は絶対に、亡者の玉からは解放されないって事じゃない??

『そう、ですが……。いえ、それでも早く、葬儀師を探すべきです。悪魔の魂をも冥界へと送霊出来る、凄腕の葬儀師を』

   ふむ、なるほど。
   とりあえず、明日までは大丈夫そうだな。
   となると……、これから俺がしなければならない事は二つ。
   チャイロを守る事と、葬儀師を探す事だ!
   
   ……いやでも待てよ。
   そもそも、葬儀師って何よ?
   職業の名前なの?? それとも個人の名前???
   どこに居るのよ、そいつ????
   
「ねぇチルチル。その葬儀師って、どこに居るの? どんな国にもいるもんなの?? 例えばこの国にも……、いや、この国は無理か。……どんな人なの???」

   俺の質問に、チルチルは口にムムッと力を入れて、変な顔になる。
   まるでウンコを我慢しているような顔だ。

『それが……。葬儀師がどのような方で、どこに居るのかはその……。私には、ちょっと……』

   かなりバツの悪そうな顔で、チルチルは視線を横へとそらす。

   オーノゥ……
   自分で言っておきながら、葬儀師がどんなものなのか、チルチルもよく分かってないようだ。
   つまり、どこに居るのかなんて事は、全くもって知らないらしい。

   これは困ったな、頼みの綱が切れたぞ。
   どんな者なのか分からない、どこに居るのかも分からない相手を探すのは、今の状況だと無理ゲーだ。
   そうすると……、葬儀師の事はとりあえず後回しだ。
   先に出来ることからやろう!

「チルチル。僕は今から元の部屋に戻って、チャイロを助けるよ!」

『チャイロ? ……あ、先ほど御老体が生贄にすると言っていた、この国の第一王子の事ですね??』

「うん。チャイロは僕の友達なんだ。みすみす死なせるわけにはいかないよ。だから部屋に戻って、チャイロを助ける!」

『了解しました! ……あ? え?? ちょっとお待ちください。部屋に戻るというのは、さっきの……、呪縛の間にですか???』

「え? 呪縛?? ……あ、なんかそんな事も言ってたね」

『はい。あそこは呪縛の間で、外に出してはいけないものを封印しておく為の結界が張られています。その部屋に戻るという事は……、はっ!? まさか、あの部屋に封印されているのは、その第一王子なのですかっ!??』

   目を見開き、ほっぺに両手を当てて、分かりやすく狼狽えるチルチル。

「あ……、えと……、うん。あそこにいるのが、チャイロなんだよ」

   俺の言葉にチルチルは、いつもは血色の良い顔を真っ青にして、力なくその場にへたり込んだ。







『駄目ですモッモ様! 絶対駄目っ!!』

   隠れ身のフードを纏い、周りの風景に同化しながら廊下を歩く俺。
   その足元から、チルチルが叫ぶ。

「けど、放っておく事なんて出来ないよ。チャイロを守るって、決めたんだから!」

   そう言いながらも、身体中から冷や汗が止まらない。

   悪魔の復活を阻止する為に、生贄にされそうなチャイロを、俺は絶対に救わなくちゃならない。
   だけど、チャイロが閉じ込められているあの部屋は、呪縛の間と呼ばれる強固な封印のかかった部屋で、中にあるもの、中にいる者を外に出せば、世界が滅んでしまう危険性があると、チルチルは俺に再度訴えた。
   チャイロを、あの部屋から決して、外に出してはいけないと……
   けど、今俺がチャイロを助けなければ、チャイロは明日、生贄とされてしまう。
   そうなれば、悪魔の復活を阻止出来なくなるのではないのか?
   それは良くない、むしろ最悪だ。
   あの骸骨野郎がどんな悪魔なのかは知らないけれど、悪魔がどんなに恐ろしいものか、俺は身をもって知っているのだ。
   何があっても、悪魔を蘇らせるわけにはいかない。
   だけど、チャイロを部屋の外に出せば、世界が滅ぶかも知れない……

   究極の選択を前に俺は、全身から吹き出る汗を止める事が出来なかった。
   
   辺りを警戒しながらも、早足で階段を登り、チャイロの部屋へと向かう俺。
   
『モッモ様、大丈夫ですか?』

   焦っている事が丸わかりな様子の俺に、チルチルは何度も声をかけてくれた。
   だけど、何を言ってもチルチルはきっと、チャイロを外に出す事を許してはくれないだろう。
   だから俺は、何も言葉を返す事が出来なかった。
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