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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★

630:ウンコの知り合いなんていませんけど??

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 西の空がオレンジ色に染まり始め、東の空が少しずつ暗くなってきた頃。
 巨木ユーザネイジアの根本にて、俺たちは、今夜はこの付近でキャンプをしようとテントを設営していた。
 
 悪魔カイムに操られ、興奮状態に陥っていた原住種族ハーピーは、ボナークが幼生となったカイムを捕獲した後、ヤーリュとモーブが空に向かって投げた閃光弾によって正気を取り戻した。
 眩いばかりの光に驚いて、目をパチクリさせたハーピー達は、興奮状態の時とは打って変わって、キュイキュイという大人しい鳴き声で鳴いていた。
 非言語種族故に、彼らが何を思って何を話していたのかは分からないが、ボナークが鳥笛と呼ばれる不思議な笛を吹き鳴らすと、その音に導かれる様にして、森の中へと静かに姿を消した。

 カイムの攻撃から俺を守る為、背中に酷い怪我を負ったアイビーは、いの一番にテントの中へと運ばれて行った。
 しかし、小一時間ほど経った今も、テントの中ではロビンズとエクリュによる必死の治療が行われているようだ。
 目を開いて喋っていたから、命に別状は無いと思いたいのだけど……

 同じようにカイムの黒い球を喰らっていたはずのティカはというと、なんと驚く事に無傷だった。
 ティカの体を覆っている赤い鱗は、一欠片すら欠ける事なく、また焼け焦げたりしている箇所も全く無いのだ。
 ただ、グレコの放った矢がお尻に刺さり、ギンロにタックルを喰らったもんだから、かなり不機嫌ではあったのだが……

「無傷なんですかっ!? なんて強靭な体っ!!? さすが紅竜人の戦士出のティカさんです!!! 鍛え方が違いますねぇっ!!!?」

 手当てが必要かも知れないと駆け付けたサンに、とてもビックリした様子でそう言われて、満更でもない顔をしていたのできっと大丈夫だろう。

 正直なところ、アイビーが一撃でやられるほどのあの黒い球を、何発も喰らっていたのに無傷だというのはちょっと……、凄いを通り越して、若干気持ち悪ささえ感じられた。
 ちなみに、ティカの全身からもくもくと出ていた悪魔のものと同じ黒い煙は、いつの間にか消えて無くなっていた。

 アイビーの他に、負傷者はほぼ居なかった。
 ここに来るまでに、ハーピー達との交戦で軽い手傷を負った者はいるようだが、みんなへっちゃらそうだった。
 騎士団のメンバーに守られていたテッチャとも、無事再会出来た。
 テッチャは、空を飛ぶのが相当に怖かったのだろう、もう二度と箒には乗りたくないと、俺にこっそり耳打ちしていた。 

 テントの設営が完了する頃、別行動をしていた船長ザサークと副船長のビッチェ、そして何故だかカサチョが一緒になって戻って来た。
 (カサチョがこの場に居なかった事に、この時まで俺は全く気付いていませんでしたよ)
 ザサークの背には、小さな体の魚人、ソーム族が一人乗っていた。

「ポポッ!? キッズ船長、無事だったポか!!?」

 港で別れたきりだったノリリアが、ザサークに駆け寄る。

「おうよ、心配かけたな! 探してたルオもこの通り、ピンピンしてるぜ!!」

 ザサークの背に乗っている魚人は、ハーピーに連れ去られて行方不明であった、ガレッタの弟のルオだった。
 ガレッタにそっくりなピンク色の鱗を持つその青年は、初めて見る様々な種族の寄せ集めである俺達に対し、ちょっぴり戸惑っているようだ。
 視線をあちこちに巡らせて、おどおどとしている。

「ポポ、無事で良かったポよ! 怪我は無いポか?」

「大丈夫だ! な、ルオ?」

「あ……、うん、大丈夫……、です」

 控え目ではあるものの、ノリリアの質問にルオは、笑顔でそう言って会釈をした。
 
「カサチョ、おまい何持ってんだ?」

 カービィの言葉に振り向くと、いつの間にか俺の真横に、不自然な格好をしたカサチョが立っているではないか。
 中に何かあるのだろうか、胸の前で、丸を作るように柔らかく手の平を合わせている。

「モッモよ、そなたに会いたいと申す者がここにいるでござるよ」

 ふぁ? 俺に、会いたい奴??
 ……誰??? てか何処に????

 首を傾げる俺の目の前で、カサチョはゆっくりと、合わせていた両手の掌を開いて見せた。
 そこに現れたのは、黒くて、小さな、丸い形の、……ウンコ?

「……え、何それ?」

 思わず顔をしかめる俺。
 それは完全に、ウンコにしか見えない。
 よく言えば泥団子だけど……
 いや嘘だ、ウンコだこれは。

 ……えと、じゃあ、ウンコが俺に会いたがったと?
 いやいや、馬鹿言うんじゃないよ。
 俺には、ウンコの知り合いなんていませんけど??

 と、思ったのだが……

『大陸崩壊より、時が経つ事早五百年……。お会い出来る日を、今か今かと待ち望んでおりましたノコ』

 えっ!? はっ!?? おぉおっ!?!?
 こ……、こいつは、まさかぁっ!?!??

 聞こえてきたその声と、現れた二つの目に、驚き慌てふためく俺。
 まさかこんな場所で、こんなタイミングで、こんな形で出会えるとは、夢にも思っていなかったのだ。

 高くて可愛らしいその声は、語尾が、聞き覚えのあるあの種族特有の口癖。
 パチッと開かれた二つの小さな瞳は、この者がそうであると言わんばかりに、キラキラと金色に輝いている。
 その二つの特徴から俺は、この目の前のウンコが何者なのか、瞬時に理解した。

「ギョエェェッ!? おっ、おまいはまさかっ!?? モゴ族!?!?」

 俺よりも先に、叫ぶカービィ。
 大層興奮しているのか、その目は飛び出しそうなほど大きく見開かれて、口からはヨダレが出ている。
 カサチョの手に飛びついたカービィは、小さな小さなその黒いモゴ族を、至近距離でジロジロと観察し始めた。

 カービィのオーバーリアクションに、何事かと、そばにいたグレコとギンロ、テッチャとティカが集まってくる。
 
『ち、近いノコ。もう少し離れるノコ』

 遠慮を知らないカービィの真ん丸な顔面に向かって、その黒い体をブルルと震わせ、金色の胞子を飛ばす黒いモゴ族。

「ん? ……ヒィッ!? くっさっ!!?」

 金色の胞子を吸い込んだカービィは、両手で鼻を押さえながら、思わず数歩下がった。

「あなた……、もしかして、蘑菇もご神様? なのかしら??」

 グレコの問い掛けに、黒いモゴ族は小さく頷く。

『いかにも。我が名はリュフト。小さき&蘑菇の一族を護りし、蘑菇神であるノコ』

 リュフトと名乗った黒いモゴ族は、はっきりとした口調で、自らを蘑菇神であると言った。

 グレコの視線が俺に向けられる。
 俺は急いで鞄から神様の地図を取り出し、確かめる。
 すると、俺達が今いるこの場所、アーレイク島内のやや南東にあたるその場所に、神様がいる印である黄色い光が現れていた。
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