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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
649:『聖母アリマの奇跡』
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銀の書物改めリブロ・プラタは、フワフワと空中移動し、俺たちが今いる巨大円形昇降機内の、入り口扉から見て右手にある別の扉の前で止まった。
その赤銅色の観音開きの扉の中心には、秘密結社サルヴァトルの象徴である五芒星のレリーフが刻まれており、その周りには煌めく銀色の宝石が散りばめられていた。
『これより先は第一試練の間! 挑戦者共に告ぐ!! 第一の試練は、己との戦い!!! 故にこれより先は、他者との無駄な会話は慎み、己の心一つで試練に挑め!!!! 万が一にも守れぬ者には、それ相応の裁きが下るぞ!!!!!』
リブロ・プラタはそう言って、再度水色の瞳をカッと見開いた。
ふむ、つまり……、試練の最中は喋っちゃ駄目、みんなと相談しちゃ駄目って事か。
となると、各々が各々でしっかり考えなきゃいけないって事になるが……、なんだろう、不安過ぎるな。
ドキドキドキドキ
ゴクリと生唾を飲む俺。
すると、リブロ・プラタの言葉に呼応するように、扉の銀色の宝石が光を放ち始め、扉がひとりでにゆっくりと開いていき……、奥に別の部屋が現れた。
既に明かりが灯されているらしいその部屋は、部屋の中央に何やら像が存在している。
「さぁ……、みんな、行くポよ」
ノリリアの言葉に、全員が無言のまま頷いた。
これまでにない緊張感の中、リブロ・プラタを先頭に、俺たちは部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋は円形で、先程と違って比較的低い位置に天井がある。
これまでと同じく、床も壁も天井も赤銅色一色なのだが、部屋の中央にある何かの像だけは、キラキラと輝く銀色をしていた。
その像は、一見するとガラス細工、或いは何かの金属であるかのように見えるが、その透明度が高く、全体が美しく輝いている事から、何かの宝石だろうと俺は推測した。
恐らく、ここへ入る際に通った扉に散りばめられていた銀色の宝石と同じもの……、その巨大な塊で、目の前の像は造られている。
一人の女性を象ったその像は、憂いに満ちた表情で、天に祈りを捧げるようなポーズを取っていた。
「おったまげた……。こいつぁ~まさか、銀煌玉か?」
少し離れた場所に立つテッチャが、両目を擦りながらそう言って、何度も確かめるように瞬きをした。
しげしげと女性の像を観察し、ふ~っと大きな溜息を漏らすテッチャ。
「うむ、間違いねぇの。千年ほど前までは、デタラッタ近郊の鉱山でわんさか採れたと聞くが……、今となっては伝説級の鉱石じゃて、わしも初めて見るのぉ。いやぁ~、それにしても……、なんちゅう大きさじゃ」
誰に言うでもなく、テッチャは一人呟いていた。
すると、像の前でフワフワと浮いているリブロ・プラタの水色の一つ目が、テッチャをキッ!と睨み付けた。
『言葉を発するでない愚民め! ここは既に試練の間ぞ!? その身を抹消されたくなくば、下品な口を閉じるのだな!!!』
リブロ・プラタの言葉、その鋭い眼力に、テッチャは慌てて口に両手を当てた。
その身を抹消って……、やべぇなおい。
ここから先、会話のみならず、独り言だとしても、余計なこと喋ったら消されちゃうって事?
おぉお~、怖や怖や……
しかし、こんな部屋で何をしろと言うんだろう?
部屋には、この女性の像以外何も無いのだ。
果たしてここで行われる試練とは、いったい……??
俺がキョロキョロと周りを見渡していると、またしてもリブロ・プラタは自らの中身をパラパラとめくり始めた。
そして、突然に語り出した。
『これより語るは第一の物語! 全ての始まり!! 聖母アリマの奇跡!!!』
-----+-----+-----
遥か古の物語……
凍てつく北の大地にて、一つの邪悪が目醒めた。
その名はジャーマ、青き炎を司る竜である。
ジャーマは世界を滅ぼす為、その背にある翼で大空へと飛び立った。
同じ頃、南の国で、予言者が王に告げた。
「邪悪が世に解き放たれた。英雄を産む乙女が必要だ。英雄が産まれなければ、この世は滅びる」
王は予言者に問うた、英雄を産む女は何処にいるのかと。
予言者は答えた。
「英雄を産む乙女は、自ら名乗り出なければならぬ。そして、英雄を産む乙女は、その命と引き換えに、英雄をこの世に生み落とす。それ即ち……、己が命を捧ぐ覚悟のある乙女のみが、世界を救う英雄を産む事が出来る」
予言者の言葉を信じ、王は国中に宣告した。
「己が身を犠牲とし、国を、世界を救う英雄を産む覚悟のある女は、直ちに名乗り出よ!」
しかし、王が求める者は現れなかった。
数日が過ぎ、数週間が過ぎ、数カ月が過ぎ……
そして一年が経とうとした頃、その女は現れたのである。
「父上、私が英雄を産む乙女となりましょう」
それは王の一人娘、王女アリマであった。
王は反対した、王妃も反対した、しかしアリマの決意は固かった。
「王女アリマよ……。そなたに英雄を生む力を授けよう」
予言者の言葉に導かれ、王女アリマは、純潔のまま、その身に子を宿した。
そして月日が過ぎ、王女アリマは一人の男の子を産み落とした。
予言者の言葉通り、己が命と引き換えに……
かくして邪悪を倒す英雄は、この世に生まれ落ちた。
王女アリマは、国の為、世界の為にその命を捧げた清き乙女として、『聖母アリマ』の名で、後世に語り継がれる事となる。
-----+-----+-----
……ほう? いったい何の話だね??
リブロ・プラタは、物語を話し終えると、パタンとその身を閉じた。
『貴様達の前に建つこの像こそ、己が身を犠牲とし、この世に英雄をもたらした清き乙女、聖母アリマである! この物語をよぉ~~~くっ!! 覚えておくのだ!!!』
……ほう? 後でテストでもするんですか??
『では! 次の間へ!!』
へあ? もう移動するの??
フワフワと空中を移動し始めるリブロ・プラタ。
その先にはいつの間にか、入って来たのとは別の扉が存在している。
その形状は先程の扉と同じで、赤銅色の、五芒星のレリーフが刻まれた、銀の宝石が散りばめられている、観音開きの扉だ。
困惑する俺と、周りのみんな。
きっとみんなも、俺と同じ事を思っているはずだ。
何のこっちゃら意味分からん、と……
これの、どこが試練なんだ?
どっかの国の昔話を聞いただけじゃないか。
いったい、何を試されてるんだ??
とにかく、声を出す事を禁じられているので、俺たちはお互いにアイコンタクトを取りながら、ノリリアを先頭に、リブロ・プラタの後に続いた。
リブロ・プラタは、既に新しい扉を開いており、次の部屋へと向かおうとしている。
俺も扉に向かって歩き出したのだが……、ふと気になって足を止め、後ろを振り返った。
そこにあるのは、聖母アリマという名の、宝石のように美しい銀色の鉱石で出来た女性の像ただ一つ。
彼女は先程と変わらず、憂いに満ちた表情で、天に祈りを捧げていた。
その赤銅色の観音開きの扉の中心には、秘密結社サルヴァトルの象徴である五芒星のレリーフが刻まれており、その周りには煌めく銀色の宝石が散りばめられていた。
『これより先は第一試練の間! 挑戦者共に告ぐ!! 第一の試練は、己との戦い!!! 故にこれより先は、他者との無駄な会話は慎み、己の心一つで試練に挑め!!!! 万が一にも守れぬ者には、それ相応の裁きが下るぞ!!!!!』
リブロ・プラタはそう言って、再度水色の瞳をカッと見開いた。
ふむ、つまり……、試練の最中は喋っちゃ駄目、みんなと相談しちゃ駄目って事か。
となると、各々が各々でしっかり考えなきゃいけないって事になるが……、なんだろう、不安過ぎるな。
ドキドキドキドキ
ゴクリと生唾を飲む俺。
すると、リブロ・プラタの言葉に呼応するように、扉の銀色の宝石が光を放ち始め、扉がひとりでにゆっくりと開いていき……、奥に別の部屋が現れた。
既に明かりが灯されているらしいその部屋は、部屋の中央に何やら像が存在している。
「さぁ……、みんな、行くポよ」
ノリリアの言葉に、全員が無言のまま頷いた。
これまでにない緊張感の中、リブロ・プラタを先頭に、俺たちは部屋の中へと足を踏み入れた。
部屋は円形で、先程と違って比較的低い位置に天井がある。
これまでと同じく、床も壁も天井も赤銅色一色なのだが、部屋の中央にある何かの像だけは、キラキラと輝く銀色をしていた。
その像は、一見するとガラス細工、或いは何かの金属であるかのように見えるが、その透明度が高く、全体が美しく輝いている事から、何かの宝石だろうと俺は推測した。
恐らく、ここへ入る際に通った扉に散りばめられていた銀色の宝石と同じもの……、その巨大な塊で、目の前の像は造られている。
一人の女性を象ったその像は、憂いに満ちた表情で、天に祈りを捧げるようなポーズを取っていた。
「おったまげた……。こいつぁ~まさか、銀煌玉か?」
少し離れた場所に立つテッチャが、両目を擦りながらそう言って、何度も確かめるように瞬きをした。
しげしげと女性の像を観察し、ふ~っと大きな溜息を漏らすテッチャ。
「うむ、間違いねぇの。千年ほど前までは、デタラッタ近郊の鉱山でわんさか採れたと聞くが……、今となっては伝説級の鉱石じゃて、わしも初めて見るのぉ。いやぁ~、それにしても……、なんちゅう大きさじゃ」
誰に言うでもなく、テッチャは一人呟いていた。
すると、像の前でフワフワと浮いているリブロ・プラタの水色の一つ目が、テッチャをキッ!と睨み付けた。
『言葉を発するでない愚民め! ここは既に試練の間ぞ!? その身を抹消されたくなくば、下品な口を閉じるのだな!!!』
リブロ・プラタの言葉、その鋭い眼力に、テッチャは慌てて口に両手を当てた。
その身を抹消って……、やべぇなおい。
ここから先、会話のみならず、独り言だとしても、余計なこと喋ったら消されちゃうって事?
おぉお~、怖や怖や……
しかし、こんな部屋で何をしろと言うんだろう?
部屋には、この女性の像以外何も無いのだ。
果たしてここで行われる試練とは、いったい……??
俺がキョロキョロと周りを見渡していると、またしてもリブロ・プラタは自らの中身をパラパラとめくり始めた。
そして、突然に語り出した。
『これより語るは第一の物語! 全ての始まり!! 聖母アリマの奇跡!!!』
-----+-----+-----
遥か古の物語……
凍てつく北の大地にて、一つの邪悪が目醒めた。
その名はジャーマ、青き炎を司る竜である。
ジャーマは世界を滅ぼす為、その背にある翼で大空へと飛び立った。
同じ頃、南の国で、予言者が王に告げた。
「邪悪が世に解き放たれた。英雄を産む乙女が必要だ。英雄が産まれなければ、この世は滅びる」
王は予言者に問うた、英雄を産む女は何処にいるのかと。
予言者は答えた。
「英雄を産む乙女は、自ら名乗り出なければならぬ。そして、英雄を産む乙女は、その命と引き換えに、英雄をこの世に生み落とす。それ即ち……、己が命を捧ぐ覚悟のある乙女のみが、世界を救う英雄を産む事が出来る」
予言者の言葉を信じ、王は国中に宣告した。
「己が身を犠牲とし、国を、世界を救う英雄を産む覚悟のある女は、直ちに名乗り出よ!」
しかし、王が求める者は現れなかった。
数日が過ぎ、数週間が過ぎ、数カ月が過ぎ……
そして一年が経とうとした頃、その女は現れたのである。
「父上、私が英雄を産む乙女となりましょう」
それは王の一人娘、王女アリマであった。
王は反対した、王妃も反対した、しかしアリマの決意は固かった。
「王女アリマよ……。そなたに英雄を生む力を授けよう」
予言者の言葉に導かれ、王女アリマは、純潔のまま、その身に子を宿した。
そして月日が過ぎ、王女アリマは一人の男の子を産み落とした。
予言者の言葉通り、己が命と引き換えに……
かくして邪悪を倒す英雄は、この世に生まれ落ちた。
王女アリマは、国の為、世界の為にその命を捧げた清き乙女として、『聖母アリマ』の名で、後世に語り継がれる事となる。
-----+-----+-----
……ほう? いったい何の話だね??
リブロ・プラタは、物語を話し終えると、パタンとその身を閉じた。
『貴様達の前に建つこの像こそ、己が身を犠牲とし、この世に英雄をもたらした清き乙女、聖母アリマである! この物語をよぉ~~~くっ!! 覚えておくのだ!!!』
……ほう? 後でテストでもするんですか??
『では! 次の間へ!!』
へあ? もう移動するの??
フワフワと空中を移動し始めるリブロ・プラタ。
その先にはいつの間にか、入って来たのとは別の扉が存在している。
その形状は先程の扉と同じで、赤銅色の、五芒星のレリーフが刻まれた、銀の宝石が散りばめられている、観音開きの扉だ。
困惑する俺と、周りのみんな。
きっとみんなも、俺と同じ事を思っているはずだ。
何のこっちゃら意味分からん、と……
これの、どこが試練なんだ?
どっかの国の昔話を聞いただけじゃないか。
いったい、何を試されてるんだ??
とにかく、声を出す事を禁じられているので、俺たちはお互いにアイコンタクトを取りながら、ノリリアを先頭に、リブロ・プラタの後に続いた。
リブロ・プラタは、既に新しい扉を開いており、次の部屋へと向かおうとしている。
俺も扉に向かって歩き出したのだが……、ふと気になって足を止め、後ろを振り返った。
そこにあるのは、聖母アリマという名の、宝石のように美しい銀色の鉱石で出来た女性の像ただ一つ。
彼女は先程と変わらず、憂いに満ちた表情で、天に祈りを捧げていた。
応援ありがとうございます!
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