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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
650:『賢者ワー・イーズの献身』
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『これより語るは第二の物語! 英雄を育てし魔導師!! 賢者ワー・イーズの献身!!!』
フワフワと宙に浮かび、パラパラと自らのページをめくりながら、リブロ・プラタが叫ぶ。
その背後には、複雑な模様の刺繍が施されたローブを身に纏い、身長と同じ高さのロッドを手にした老父を模した、煌めく銀色の宝石の像が立っていた。
-----+-----+-----
英雄誕生より五年の月日が流れた。
王は、亡き王女が残しし男の子を、我が子同然に慈しみ、大切に育てていた。
予言者は言った。
『迫り来る邪悪を倒さんが為、この男の子は英雄の力を得ねばならぬ。かの高名な魔導師ワー・イーズを師に迎え、男の子に仕えさせよ』
王は、予言者の言葉に従い、魔導師ワー・イーズを城へと呼び寄せた。
魔導師ワー・イーズは、全ての魔法に長け、人々を平和に導く為にその半生を捧げてきた。
その類稀なる才能で、様々な厄災から、百の村、百の街を救い、国内にその名を知らぬ者は居なかったほど。
しかしそれ故に、魔導師ワー・イーズは既に年老いており、残された時間は僅かであった。
魔導師ワー・イーズは言った。
「私はこれまで、数多なる災厄を目にしてきた。その災厄を前に、成す術なく絶望する人々の姿も、幾度となく目にしてきた……。世界を滅ぼさんとする邪悪が生まれ、世に解き放たれし今、私に出来る事はただ一つ。この命尽き果てる前に、邪悪を倒す事のできる英雄を、この手で育て上げる事のみ」
こうして魔導師ワー・イーズは、英雄の師となった。
老いた体に鞭を打つかの如く、魔導師ワー・イーズは、英雄の育成に精力的に励んだのだ。
この時、まだ幼い男の子であった英雄も、魔導師ワー・イーズの期待に応えられるよう、懸命に師に習い、その力を伸ばしていった。
一年が過ぎ、五年が過ぎ、十年が過ぎ……
魔導師ワー・イーズのもと、厳しい修行に耐えた幼い男の子は、いつしか国一番の力を持つ、英雄と呼ばれるに相応しい立派な青年へと成長していった。
そうして二十年が過ぎようとした頃、魔導師ワー・イーズは、己の死期を悟った。
魔導師ワー・イーズは死の間際、青年となりし英雄を枕元へと呼び寄せ、こう告げた。
「最愛の弟子よ……。私が教えられる事はもう何も無い。私が与えし全てでもって、世界を滅ぼさんとする邪悪を倒すのだ。人々が苦しまぬよう、悲しまぬよう……、平和な世の中を取り戻す為に……」
最期に、魔導師ワー・イーズは、勇気の魔石を英雄に手渡した。
邪悪を倒さんとする英雄が、何者をも恐れぬ勇気を、その心に持てるように……
かくして、英雄は英雄となった。
幼き男の子は力を蓄え、立派な青年となり、数多の兵を引き連れて、邪悪を討伐せんと旅立ったのである。
魔導師ワー・イーズは、その生涯を英雄に捧げし師として、『賢者ワー・イーズ』という名で、後世に語り継がれる事となる。
-----+-----+-----
……ふむ、聖母の次は賢者ねぇ。
語りを終えたリブロ・プラタは、パタンとその身を閉じた。
『貴様達の前に建つこの像こそ、英雄の育成にその生涯を捧げし魔導師、賢者ワー・イーズである! この物語をよぉ~~~くっ!! 覚えておくのだ!!!』
さっきと似たような事を口走るリブロ・プラタ。
『では! 次の間へ!!』
ふむ、やはりまだ続きがあるのだね。
ふむふむふむ……
フワフワと空中を移動し、入って来たのとはまた別の扉へと向かうリブロ・プラタ。
その後ろを、無言でついて行く俺たち。
この時俺は考えていた。
なんとな~くだけど、この第一の試練とやらの真の目的に、気付いちゃったかも知れない、と……
これはたぶん、記憶力を試されているんだ。
リブロ・プラタの話を聞いて、ちゃんとその内容を覚えているかどうかのテストが、きっと後で実施されるんだろう。
だから奴は、よ~く覚えておくように! なんて、学期末テスト前の教師みたいな事を口走るのである。
まぁでも、この程度の試練なら心配はいらない。
いくら脳味噌が小さいとはいえ(体格的にね)、この程度の簡単な物語を、覚えていられない俺では無いのである。
聖母アリマと、賢者ワー・イーズ。
うん、ちゃんと名前も覚えているぞ!
それに、二人が何をしたのかも、ちゃんと理解出来てるぞ!!
ついでに言うと、英雄が邪悪な討伐とやらに向かったのは、たぶん25歳の時だ!!!
うんうんうん。
問題は……、この先に、あと何話あるのか、だな。
さすがに、十話とか二十話とかなると、キツそう……
そんな事にはなりませんように! と祈りながら、ここで俺は、部屋の造りと、塔内部におけるその位置を考えてみた。
前回の部屋と今回の部屋は、中央に置かれている像こそ形が違うけれど、部屋の造りはほとんど同じだ。
赤銅色の床、壁、天井、そして扉。
恐らく、この先に続く部屋も同じような造りだろうと予想できる。
そして扉の位置からして、昇降機があった部屋と、前回の部屋と今回の部屋は、円形の塔の外周に沿って、グルリと湾曲に並んでいる気がするのだが……
そうなると、中央には何があるんだろうな?
空洞……、なわけないしな、さすがに。
いろいろと思考を巡らせていると、リブロ・プラタが次の部屋への扉を開いていた。
ひとまず考えるのをやめて、俺は足早にみんなを追いかけて行く。
背後では賢者ワー・イーズの像が、輝きを放ちながら、静かに佇んでいた。
フワフワと宙に浮かび、パラパラと自らのページをめくりながら、リブロ・プラタが叫ぶ。
その背後には、複雑な模様の刺繍が施されたローブを身に纏い、身長と同じ高さのロッドを手にした老父を模した、煌めく銀色の宝石の像が立っていた。
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英雄誕生より五年の月日が流れた。
王は、亡き王女が残しし男の子を、我が子同然に慈しみ、大切に育てていた。
予言者は言った。
『迫り来る邪悪を倒さんが為、この男の子は英雄の力を得ねばならぬ。かの高名な魔導師ワー・イーズを師に迎え、男の子に仕えさせよ』
王は、予言者の言葉に従い、魔導師ワー・イーズを城へと呼び寄せた。
魔導師ワー・イーズは、全ての魔法に長け、人々を平和に導く為にその半生を捧げてきた。
その類稀なる才能で、様々な厄災から、百の村、百の街を救い、国内にその名を知らぬ者は居なかったほど。
しかしそれ故に、魔導師ワー・イーズは既に年老いており、残された時間は僅かであった。
魔導師ワー・イーズは言った。
「私はこれまで、数多なる災厄を目にしてきた。その災厄を前に、成す術なく絶望する人々の姿も、幾度となく目にしてきた……。世界を滅ぼさんとする邪悪が生まれ、世に解き放たれし今、私に出来る事はただ一つ。この命尽き果てる前に、邪悪を倒す事のできる英雄を、この手で育て上げる事のみ」
こうして魔導師ワー・イーズは、英雄の師となった。
老いた体に鞭を打つかの如く、魔導師ワー・イーズは、英雄の育成に精力的に励んだのだ。
この時、まだ幼い男の子であった英雄も、魔導師ワー・イーズの期待に応えられるよう、懸命に師に習い、その力を伸ばしていった。
一年が過ぎ、五年が過ぎ、十年が過ぎ……
魔導師ワー・イーズのもと、厳しい修行に耐えた幼い男の子は、いつしか国一番の力を持つ、英雄と呼ばれるに相応しい立派な青年へと成長していった。
そうして二十年が過ぎようとした頃、魔導師ワー・イーズは、己の死期を悟った。
魔導師ワー・イーズは死の間際、青年となりし英雄を枕元へと呼び寄せ、こう告げた。
「最愛の弟子よ……。私が教えられる事はもう何も無い。私が与えし全てでもって、世界を滅ぼさんとする邪悪を倒すのだ。人々が苦しまぬよう、悲しまぬよう……、平和な世の中を取り戻す為に……」
最期に、魔導師ワー・イーズは、勇気の魔石を英雄に手渡した。
邪悪を倒さんとする英雄が、何者をも恐れぬ勇気を、その心に持てるように……
かくして、英雄は英雄となった。
幼き男の子は力を蓄え、立派な青年となり、数多の兵を引き連れて、邪悪を討伐せんと旅立ったのである。
魔導師ワー・イーズは、その生涯を英雄に捧げし師として、『賢者ワー・イーズ』という名で、後世に語り継がれる事となる。
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……ふむ、聖母の次は賢者ねぇ。
語りを終えたリブロ・プラタは、パタンとその身を閉じた。
『貴様達の前に建つこの像こそ、英雄の育成にその生涯を捧げし魔導師、賢者ワー・イーズである! この物語をよぉ~~~くっ!! 覚えておくのだ!!!』
さっきと似たような事を口走るリブロ・プラタ。
『では! 次の間へ!!』
ふむ、やはりまだ続きがあるのだね。
ふむふむふむ……
フワフワと空中を移動し、入って来たのとはまた別の扉へと向かうリブロ・プラタ。
その後ろを、無言でついて行く俺たち。
この時俺は考えていた。
なんとな~くだけど、この第一の試練とやらの真の目的に、気付いちゃったかも知れない、と……
これはたぶん、記憶力を試されているんだ。
リブロ・プラタの話を聞いて、ちゃんとその内容を覚えているかどうかのテストが、きっと後で実施されるんだろう。
だから奴は、よ~く覚えておくように! なんて、学期末テスト前の教師みたいな事を口走るのである。
まぁでも、この程度の試練なら心配はいらない。
いくら脳味噌が小さいとはいえ(体格的にね)、この程度の簡単な物語を、覚えていられない俺では無いのである。
聖母アリマと、賢者ワー・イーズ。
うん、ちゃんと名前も覚えているぞ!
それに、二人が何をしたのかも、ちゃんと理解出来てるぞ!!
ついでに言うと、英雄が邪悪な討伐とやらに向かったのは、たぶん25歳の時だ!!!
うんうんうん。
問題は……、この先に、あと何話あるのか、だな。
さすがに、十話とか二十話とかなると、キツそう……
そんな事にはなりませんように! と祈りながら、ここで俺は、部屋の造りと、塔内部におけるその位置を考えてみた。
前回の部屋と今回の部屋は、中央に置かれている像こそ形が違うけれど、部屋の造りはほとんど同じだ。
赤銅色の床、壁、天井、そして扉。
恐らく、この先に続く部屋も同じような造りだろうと予想できる。
そして扉の位置からして、昇降機があった部屋と、前回の部屋と今回の部屋は、円形の塔の外周に沿って、グルリと湾曲に並んでいる気がするのだが……
そうなると、中央には何があるんだろうな?
空洞……、なわけないしな、さすがに。
いろいろと思考を巡らせていると、リブロ・プラタが次の部屋への扉を開いていた。
ひとまず考えるのをやめて、俺は足早にみんなを追いかけて行く。
背後では賢者ワー・イーズの像が、輝きを放ちながら、静かに佇んでいた。
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