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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
725:用済み
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『気分はどぉ~だ?』
にやついた声で問い掛けるクトゥルー。
しかしながら、こちらに近付いてくる様子は無い。
何故ならば、俺とユディンの足元には依然として、時計の歯車のようにゆっくりと回転する紫色の光を放つ魔法陣が存在しているからである。
てっきり、ユディンの封印を解いたら、この魔法陣は消え去ると思っていたのだが……?
「その声は……、クトゥルーか?」
低い声で、ユディンが言葉を発した。
別に、大した事を言ったわけでも無いのに、その声の響きにビビって、ちょっぴり漏らしそうになる俺。
『おう。約束通り、迎えに来たぜ』
…………え? は??
今、なんて言った???
既に、冷や汗で全身が湿っぽい俺だが、更に汗が噴き出てきて、頭の毛がペタペタし始める。
約束通りって……、え????
誰が、誰と、何の約束をしていたのでしょう?????
「約束……。そう、約束だった……」
そう言ったユディンの目は、俺では無く、真っ直ぐにライラック……、いや、クトゥルーを見ている。
俺はというと、なんだかとてつもなくヤバい事が起きているのでは無いかと予想して、冷や汗が止まらない。
『じゃあ、始めようぜ。俺とお前で、このつまんねぇ~世界を、新しく創り直そう!』
ふぁ…………、ファッツッゥ!?!??
クトゥルーは、触手ではなく、その手を前に差し出している。
それはまるで、離れてはいるものの、ユディンの手を取ろうとしているようにも見えて……
まままままままっ!?
待って!!?
世界を創り直すっ!?!?
俺と、お前でって……
クトゥルーとユディンでぇえっ!?!!?
ダラダラと、全身を、滝のように汗が流れていく。
ヤバいヤバいヤバいっ!?
待って、待ってよ、これって……?
えっ!!?
まさか、クトゥルーとユディンは、グルだったとか……??
そういう事っ!?!?
ガタガタと、全身が激しく震え始める俺。
そして自然と、足が後ずさってしまい……
シャリン
「ヒィッ!?」
地面に残る魔法陣から、独特なあのガラスを踏み締めたような音が鳴ってしまい、俺は小さく悲鳴を上げた。
すると、目の前に立っているユディンが、その真っ赤な瞳でジロリと俺を睨み付けたでは無いか。
「この者は、もはや用済み……、だな」
よう、ずみ……、とな?
お、終わった??
俺、終わったかしら???
ユディンの言葉、感情が全く読み取れないその無表情から、俺は死を覚悟した。
これまで幾度となく、死線を乗り越えてきた俺だったが、今回ばかりは無理そうだ。
前には上級悪魔、後ろには旧世界の神、最弱種族を挟み撃ちにするには余りに豪華過ぎるキャスティングだ。
俺は、もはや抵抗する気力すら失って、その場にペタンと座り込んでしまう。
あぁ、母ちゃん……
先立つ不幸をお許しください。
全然親孝行も出来てない、泣いてばかりの駄目な息子だったけど……
でも俺は、母ちゃんの子供に産まれてこられて、本当に幸せでした。
せめて、母ちゃんが元気で、長生きできるよう、空の上から願っています。
大好きだよ、母ちゃん…………
俯き、そっと目を閉じようとした、その時だ。
『あぁ、もうそいつはいらねぇぜ。おいモッモ! ノリリア連れて、とっとと失せやがれっ!!』
魔法陣の外にいるクトゥルーが、思わぬ言葉を掛けてきたのだ。
諦めかけていた俺は、ハッとして顔を上げる。
『んぁ? なんだお前?? また殺されるとか思ってたのか??? ほんっとぉ~に、馬鹿だな! 殺せるわけねぇ~だろうが!? さっきも言ったが、俺はお前を殺さねぇ。理由は簡単だ、お前が時の神の使者だからさ。その時の神っつ~のも、俺には得体が知れねぇ~が……。神を名乗っている上に、神力を他に与える力を持ってんだ、ただもんじゃねぇ。そんな奴が遣わしたお前を易々殺しちゃ、こっちの身が危ねぇ~だろうがっ!!? ちょっと考えりゃ分かるだろ~がっ!!』
ユディンの封印を解いた事で、全てが思い通りになっている為か、かなり上機嫌なクトゥルーは、ケラケラと笑いながらそんな事を口走った。
つまり、俺が生かされていた理由は、ユディンの封印を解けるからだけでは無く、俺自身が時の神の使者であるからだ、と……?
「さぁ、行け」
ユディンの言葉に俺は、フラフラとした足取りで立ち上がって、ゆっくりと歩き始める。
シャリン、シャリンと、足元から音が鳴る。
た……、助かった……?
助かるんだ……、良かった……
少しずつ、少しずつ歩を速めて行き、駆け出す俺。
ちょっぴりビビりながらも、ニヤつくクトゥルーの横を通り過ぎ、離れた場所で倒れているノリリアの元へと急いだ。
「の……、ノリリア? 大丈夫??」
地面に膝をつき、倒れたままのノリリアの体に、そっと触れる俺。
温かいものの、揺すっても地面に突っ伏したままで、ピクリとも動かないノリリアに対し、静かに声を掛ける。
まさか、死んじゃったんじゃ? と不安に思うも、ある異変に気付いた。
ノリリアの手……、そこに握られている杖に、微かだけれど、オレンジ色の光が宿っているのだ。
そしてその光は、糸のように地面を這って、周囲にとても複雑な、カクカクとした幾何学模様の魔法陣らしきものを作り上げているではないか。
これは、いったい……?
『手始めだ! ここの力場を使って、穴を開けようぜぇ!!』
両手と背中から生える触手を大きく広げて、クトゥルーはそう言った。
無論、ユディンに対してだ。
背後にいる俺のことなど、もはや微塵も気にしていないように見える。
「……………………」
クトゥルーの言葉に、ユディンは無言を貫く。
『あぁ? どうしたユディン?? 聞こえなかったのか???』
「……………………」
クトゥルーの問い掛けに、尚もユディンは無言を貫く。
『おい、聞いてんのか!? ユディン!!? ユディン!!??』
苛立ち、叫ぶクトゥルー。
するとユディンは、ようやく口を開いた。
「お前が、その名を口にするな。アーレイクがくれた、最高の名を……、お前が口にするなぁあっ!!!」
うわわわわわっ!?!?
突然に叫んだユディンの声は、閉鎖されたこの地下空間において、まるで超音波の如く辺りに響き渡り、ぐわんぐわんと空気が揺れた。
しかしそれは、ただ単に声が大きいからそうなったわけではなさそうだ。
ユディンの中にある力(何の力なのかは俺には皆目見当も付かないが)……、強大なその力が、クトゥルーの言葉によって、怒りとして溢れ出たように俺には感じられた。
『は? いやいや、待てよ……。なぁおい、まさかお前……?? はははっ、この話を持ち掛けたのは、お前だぜ???』
戸惑ったような声色のクトゥルー。
焦ってはいなさそうだが……、その表情から、混乱しているように見える。
『五百年前、お前言ったよな? アーレイクを見逃せば、お前が封印から解かれた後、俺に協力するって……??』
な……、なるほど、それで……、アーレイク・ピタラスは、生きながらえたんだな?
アーレイクが予知していたという、クトゥルーに殺害される未来を回避出来たのは、ユディンが取引を持ち掛けたから……??
『お前だって、こんな世界、つまんねぇ~んだろ!? だから俺と一緒に、新しく世界を創ろうって……、そう言ったのはお前だぜっ!?? それをお前、まさか……。アーレイクを助ける為の、嘘だったってか?』
笑ってはいるものの、クトゥルーの全身からは、怒りのオーラとも言えよう真っ赤な光と、怨念のようなドス黒い紫色の光が溢れ出している。
すると今度は、ユディンがニヤリと笑ったではないか。
その笑い方は、かな~り悪い顔で……、というか、どっからどう見ても、ラスボスが笑っているようにしか俺には見えない。
そして、低い声で、こう言った。
「ふふふ……、神代の悪霊ってのも、大した事無いんだな。こんな僕に、まんまと騙されるんだからっ!!!」
ガッハッハッハッハッ! と、両手を広げて、全身を使って豪快に笑う様は、もはや魔王である。
たぶん、その言葉からして、クトゥルーはどうやら、ユディンに踊らされていたようだが……
もはや、どっちが悪役なのか、分からなくなるような笑い方である。
えっと……、つまり……、だから……、え?
『ユディン……、てんめぇえぇぇ…………』
そう言ったクトゥルーの体は、ワナワナと小刻みに震えている。
抑えていた静かな怒りが、爆発の時を迎えようとしていた。
にやついた声で問い掛けるクトゥルー。
しかしながら、こちらに近付いてくる様子は無い。
何故ならば、俺とユディンの足元には依然として、時計の歯車のようにゆっくりと回転する紫色の光を放つ魔法陣が存在しているからである。
てっきり、ユディンの封印を解いたら、この魔法陣は消え去ると思っていたのだが……?
「その声は……、クトゥルーか?」
低い声で、ユディンが言葉を発した。
別に、大した事を言ったわけでも無いのに、その声の響きにビビって、ちょっぴり漏らしそうになる俺。
『おう。約束通り、迎えに来たぜ』
…………え? は??
今、なんて言った???
既に、冷や汗で全身が湿っぽい俺だが、更に汗が噴き出てきて、頭の毛がペタペタし始める。
約束通りって……、え????
誰が、誰と、何の約束をしていたのでしょう?????
「約束……。そう、約束だった……」
そう言ったユディンの目は、俺では無く、真っ直ぐにライラック……、いや、クトゥルーを見ている。
俺はというと、なんだかとてつもなくヤバい事が起きているのでは無いかと予想して、冷や汗が止まらない。
『じゃあ、始めようぜ。俺とお前で、このつまんねぇ~世界を、新しく創り直そう!』
ふぁ…………、ファッツッゥ!?!??
クトゥルーは、触手ではなく、その手を前に差し出している。
それはまるで、離れてはいるものの、ユディンの手を取ろうとしているようにも見えて……
まままままままっ!?
待って!!?
世界を創り直すっ!?!?
俺と、お前でって……
クトゥルーとユディンでぇえっ!?!!?
ダラダラと、全身を、滝のように汗が流れていく。
ヤバいヤバいヤバいっ!?
待って、待ってよ、これって……?
えっ!!?
まさか、クトゥルーとユディンは、グルだったとか……??
そういう事っ!?!?
ガタガタと、全身が激しく震え始める俺。
そして自然と、足が後ずさってしまい……
シャリン
「ヒィッ!?」
地面に残る魔法陣から、独特なあのガラスを踏み締めたような音が鳴ってしまい、俺は小さく悲鳴を上げた。
すると、目の前に立っているユディンが、その真っ赤な瞳でジロリと俺を睨み付けたでは無いか。
「この者は、もはや用済み……、だな」
よう、ずみ……、とな?
お、終わった??
俺、終わったかしら???
ユディンの言葉、感情が全く読み取れないその無表情から、俺は死を覚悟した。
これまで幾度となく、死線を乗り越えてきた俺だったが、今回ばかりは無理そうだ。
前には上級悪魔、後ろには旧世界の神、最弱種族を挟み撃ちにするには余りに豪華過ぎるキャスティングだ。
俺は、もはや抵抗する気力すら失って、その場にペタンと座り込んでしまう。
あぁ、母ちゃん……
先立つ不幸をお許しください。
全然親孝行も出来てない、泣いてばかりの駄目な息子だったけど……
でも俺は、母ちゃんの子供に産まれてこられて、本当に幸せでした。
せめて、母ちゃんが元気で、長生きできるよう、空の上から願っています。
大好きだよ、母ちゃん…………
俯き、そっと目を閉じようとした、その時だ。
『あぁ、もうそいつはいらねぇぜ。おいモッモ! ノリリア連れて、とっとと失せやがれっ!!』
魔法陣の外にいるクトゥルーが、思わぬ言葉を掛けてきたのだ。
諦めかけていた俺は、ハッとして顔を上げる。
『んぁ? なんだお前?? また殺されるとか思ってたのか??? ほんっとぉ~に、馬鹿だな! 殺せるわけねぇ~だろうが!? さっきも言ったが、俺はお前を殺さねぇ。理由は簡単だ、お前が時の神の使者だからさ。その時の神っつ~のも、俺には得体が知れねぇ~が……。神を名乗っている上に、神力を他に与える力を持ってんだ、ただもんじゃねぇ。そんな奴が遣わしたお前を易々殺しちゃ、こっちの身が危ねぇ~だろうがっ!!? ちょっと考えりゃ分かるだろ~がっ!!』
ユディンの封印を解いた事で、全てが思い通りになっている為か、かなり上機嫌なクトゥルーは、ケラケラと笑いながらそんな事を口走った。
つまり、俺が生かされていた理由は、ユディンの封印を解けるからだけでは無く、俺自身が時の神の使者であるからだ、と……?
「さぁ、行け」
ユディンの言葉に俺は、フラフラとした足取りで立ち上がって、ゆっくりと歩き始める。
シャリン、シャリンと、足元から音が鳴る。
た……、助かった……?
助かるんだ……、良かった……
少しずつ、少しずつ歩を速めて行き、駆け出す俺。
ちょっぴりビビりながらも、ニヤつくクトゥルーの横を通り過ぎ、離れた場所で倒れているノリリアの元へと急いだ。
「の……、ノリリア? 大丈夫??」
地面に膝をつき、倒れたままのノリリアの体に、そっと触れる俺。
温かいものの、揺すっても地面に突っ伏したままで、ピクリとも動かないノリリアに対し、静かに声を掛ける。
まさか、死んじゃったんじゃ? と不安に思うも、ある異変に気付いた。
ノリリアの手……、そこに握られている杖に、微かだけれど、オレンジ色の光が宿っているのだ。
そしてその光は、糸のように地面を這って、周囲にとても複雑な、カクカクとした幾何学模様の魔法陣らしきものを作り上げているではないか。
これは、いったい……?
『手始めだ! ここの力場を使って、穴を開けようぜぇ!!』
両手と背中から生える触手を大きく広げて、クトゥルーはそう言った。
無論、ユディンに対してだ。
背後にいる俺のことなど、もはや微塵も気にしていないように見える。
「……………………」
クトゥルーの言葉に、ユディンは無言を貫く。
『あぁ? どうしたユディン?? 聞こえなかったのか???』
「……………………」
クトゥルーの問い掛けに、尚もユディンは無言を貫く。
『おい、聞いてんのか!? ユディン!!? ユディン!!??』
苛立ち、叫ぶクトゥルー。
するとユディンは、ようやく口を開いた。
「お前が、その名を口にするな。アーレイクがくれた、最高の名を……、お前が口にするなぁあっ!!!」
うわわわわわっ!?!?
突然に叫んだユディンの声は、閉鎖されたこの地下空間において、まるで超音波の如く辺りに響き渡り、ぐわんぐわんと空気が揺れた。
しかしそれは、ただ単に声が大きいからそうなったわけではなさそうだ。
ユディンの中にある力(何の力なのかは俺には皆目見当も付かないが)……、強大なその力が、クトゥルーの言葉によって、怒りとして溢れ出たように俺には感じられた。
『は? いやいや、待てよ……。なぁおい、まさかお前……?? はははっ、この話を持ち掛けたのは、お前だぜ???』
戸惑ったような声色のクトゥルー。
焦ってはいなさそうだが……、その表情から、混乱しているように見える。
『五百年前、お前言ったよな? アーレイクを見逃せば、お前が封印から解かれた後、俺に協力するって……??』
な……、なるほど、それで……、アーレイク・ピタラスは、生きながらえたんだな?
アーレイクが予知していたという、クトゥルーに殺害される未来を回避出来たのは、ユディンが取引を持ち掛けたから……??
『お前だって、こんな世界、つまんねぇ~んだろ!? だから俺と一緒に、新しく世界を創ろうって……、そう言ったのはお前だぜっ!?? それをお前、まさか……。アーレイクを助ける為の、嘘だったってか?』
笑ってはいるものの、クトゥルーの全身からは、怒りのオーラとも言えよう真っ赤な光と、怨念のようなドス黒い紫色の光が溢れ出している。
すると今度は、ユディンがニヤリと笑ったではないか。
その笑い方は、かな~り悪い顔で……、というか、どっからどう見ても、ラスボスが笑っているようにしか俺には見えない。
そして、低い声で、こう言った。
「ふふふ……、神代の悪霊ってのも、大した事無いんだな。こんな僕に、まんまと騙されるんだからっ!!!」
ガッハッハッハッハッ! と、両手を広げて、全身を使って豪快に笑う様は、もはや魔王である。
たぶん、その言葉からして、クトゥルーはどうやら、ユディンに踊らされていたようだが……
もはや、どっちが悪役なのか、分からなくなるような笑い方である。
えっと……、つまり……、だから……、え?
『ユディン……、てんめぇえぇぇ…………』
そう言ったクトゥルーの体は、ワナワナと小刻みに震えている。
抑えていた静かな怒りが、爆発の時を迎えようとしていた。
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