744 / 804
★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
731:ズゴゴゴゴゴゴゴゴォオォォォ~!!!
しおりを挟む
だ、駄目だ……、絶望的だ。
こいつは……、クトゥルーは、テトーンの樹の村を知っている。
俺の故郷であり、帰るべき場所であり、そして俺が旅に出た目的……、守るべき場所を、こいつは……
頭の中が真っ白で、考えがまとまらない。
全身の血が凍ってしまったかのような寒気に襲われて、体にうまく力が入らない。
まるで、クトゥルーに逆らってはいけないと、俺の全てが叫んでいるようだ。
『ははっはぁ~! ようやく自分の立場ってもんが理解出来たらしいな!! 思ったよりも賢いじゃねぇか、モッモ~』
上機嫌でニヤつくクトゥルー。
心臓の鼓動が速まり、呼吸が荒くなっていく俺。
『もう分かったろ? お前は、俺に従う他ねぇ~んだって。とりあえずよ、それ持ってこっち来いよ。崩壊の陣を完成させるなんざ~、馬鹿げてるぜ?? どうやったらこれを消せるのか……、あそこに倒れているハーフエルフにでも聞いてみるか???』
そう言って、クトゥルーは上半身から生える触手のうち一本を、離れた場所に倒れているアイビーに向かって伸ばしていく。
な……、何を、するつもり……?
触手は、アイビーの体にグルグルと巻きついて、その体を宙に持ち上げた。
なっ!?
アイビーは、その額から血を流しており、岩の地面にポタリポタリと赤い雫が零れ落ちる。
そんな事はお構い無しにクトゥルーは、アイビーを掴んだ触手を自らの目の前へと引き寄せた。
『よぉ、前世がアーレイクのハーフエルフさんよぉ。起きてっか?』
ぐったりとするアイビーの体を、空中でユサユサと揺さぶるクトゥルー。
すると、気を失っていたアイビーが、朦朧とした表情ながらも、薄らと目を開いた。
あ……、アイビー!?
良かった、生きてたっ!!
しかしながら、状況は全く芳しくない。
今にも息絶えてしまいそうな様子に見えるアイビーを、クトゥルーの触手が捕らえているのだ。
アイビーの、苦しそうな息遣いと、滲み出る血の匂いが、俺を更に焦らせる。
『はははっ! お前も残念だったな!! せっかく古代の邪法まで使って、この時代まで生き延びたってのによぉ。あの阿呆なモッモのせいで、お前の友達は木っ端微塵になっちまったなっ!!!』
ケラケラと笑いながら、クトゥルーは話し続ける。
『ま、それはもういい。俺はな、過ぎた事は気にしねぇ~んだ! だからよ、これからの事を考えようぜ!! 俺は、このクソつまらねぇ世界を変えてぇ~んだ。昔みたいによ、ぐっちゃぐちゃのごっちゃごちゃにしてぇ~んだわ。その為にはさ、お偉いアーレイク様が必死こいて閉じてきた魔界への時空穴を、片っ端から開ける必要性があるんだよぉ。なぁ~に、簡単さ。同じ力を持つモッモがいるからなぁ。けどお生憎様、方法が分からねぇ。だからな……、お前に聞くよ、無力で半端者のハーフエルフさんよぉ。崩壊の陣を消滅させるには、いったい何をどうしたらいいんだぁ~?』
クトゥルーは、虹色に光る四つの瞳で、アイビーの顔を覗き込みながら問うた。
だけどもアイビーは、その問いに答える事なく、静かに目を閉じて……
「モッモ、君……、は、早く……。早く、崩壊の……、陣を……、完成させ、る、んだ……」
弱々しく震える声で、途切れ途切れになりながら、アイビーはそう言った。
『あぁ? おいおい、この状況で俺を無視するとは……、なかなかに肝が座ってんじゃねぇかよこら~』
ニヤつきながらそう言ったクトゥルーは、アイビーを縛り上げている触手に力を加える。
「うがっ!? ぐっ……、ぐぅ~っ!??」
アイビーは、苦痛に顔を歪ませて、声にならない悲鳴を上げた。
アイビー!?
どうしよう、このままじゃアイビーは……
な、何か……、助ける方法は無いのか?
何かっ!!? 何かぁっ!!??
俺は咄嗟に、五芒星の盤を小脇に抱え込んで、鞄に手を突っ込んでいた。
この鞄は、神様が俺に与えてくれた、中が異空間と繋がっている不思議な鞄だ。
それ故に、取り出したい物、求める物が中にある場合、俺が手を突っ込めば、それがひとりでに手に握られる事がこれまでに多々あった。
だから今もきっと……、アイビーを救う為の何かが、きっと!
そう思って、俺が手にしたのは、あの黒革の手帖。
アーレイク・ピタラスが俺に残した、旧世界の神々を……、いや、神代の悪霊を滅ぼす為の、邪滅の書だった。
これを……、使えと?
でもこれ、俺には、使い方が分からない……
戸惑う俺。
だけど……
『おぉ~い? くたばる前に吐けよ~??』
そんな事を言いながら、執拗にアイビーを揺さぶるクトゥルー。
アイビーは目を閉じたまま、尚も地面に血を滴らせるのみだ。
その光景を前にして、俺は邪滅の書を握る手に力を込めた。
俺が、やらなくちゃ。
今ここで、アイビーを助けられるのは、俺だけなんだ。
俺が、なんとかして、これで……、アイビーを助けなくちゃ!
俺は、意を決して、邪滅の書を開こうとした。
黒いドラゴンの鱗で覆われた、大層重厚な作りのその書物は、外側の作りに対して中はあまりにも薄っぺらい。
数十ページしか無いように見えるその書物の、ちょうど真ん中辺りを開こうと……、したのだが……
んっ!? んんんっ!!?
ひ、開かないっ!?!?
邪滅の書は、ピタリと閉じたまま、全く開かない。
開かないどころか、紙の隙間に指を入れる事すら出来ないのだ。
そういや、これを俺に渡したプラティックも、中を見る事は出来なかったと言っていた。
それは、プラティックに神の力が無いからだと、本人は言っていたが……
俺にはあるはずなんですけどっ!?
微々たるものではあれ、神力があるはずなんですけどっ!??
なのになんで開かないんですかねっ!?!?
グヌヌヌヌ~と、おおよそ書物を開く事を目的とした力加減では無い精一杯の力で、俺はそれを開こうと試みる。
しかし、微動だにしない邪滅の書。
焦りと戸惑いで、俺の心臓の鼓動はかなり速くなっているし、息遣いもかなり荒くなっていた。
何故だ? 何が原因で??
……ん???
その時だ、俺はある違和感に気付いた。
邪滅の書の、中の紙の部分。
なんとなくだが、普通の紙より硬いと言うか……、いや、これは本当に紙なのか?
そして同時に、妙な物を見つけた。
邪滅の書の背表紙の一部、ドラゴンの鱗と鱗の間に、めちゃくちゃ小さな、変な形の凸凹があるのだ。
これは……、なんだ??
明らかに鱗では無いそれに触れてみると、何やら触り心地に覚えがあるような、そうでも無いような……
試しにそれを、慣れた手つきでスライドさせる俺。
すると……
カチッ!
ん? カチッて……?? え???
パカッ!!
邪滅の書が開いた。
俺は、その中身を見て首を傾げた。
……な? は?? これは……、ス???
その時だった。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴォオォォォ~!!!
『なんだぁ~?』
「うわわっ!?」
物凄い轟音と共に、地面が激しく揺れたのだ。
それはまるで、巨大地震に見舞われた時のような、立っているのがやっとなほどの振動である。
ま、まさか……、俺が邪滅の書を開いたから、何かがどうにかなったのかぁあっ!?!?
そう思った、次の瞬間!
タタタタタッ!!!
何者かの足音が遠くに聞こえたかと思うと、それはすぐさま近距離まで迫ってきて、懐かしい獣臭を俺の鼻が嗅ぎ取った。
そして、ヒンヤリとした空気と、水色の光を帯びた二本の刀身が、俺の真横を駆け抜けて行った。
キンッ! ………ズシュウッ!!
『ぐわぁっ!?』
ほんの一瞬の出来事だった。
アイビーを掴み、持ち上げていたクトゥルーの触手が、何者かによって斬り落とされた。
鈍い悲鳴を上げ、触手の切断部より青い体液を噴き上げるクトゥルー。
切り離されたクトゥルーの触手は、グチョッ! と音を立てて地面に落ち、魚のようにビタビタッと跳ね回っている。
きっ!? きもっ!!?
てか……、え、何が起きたんだ?
誰が……??
いや、それよりも……、アイビー……、アイビーはどこっ!?!?
慌ててアイビーを探す俺。
すると、少し離れた場所で倒れるノリリアの近くに、そいつはいた。
意識を失っているアイビーを背負い、倒れているノリリアを抱えようとしている、大きな犬型の獣人。
狼の如き、三角に尖った耳と長い鼻面。
そして、魔法陣の放つ光を薄らと反射する、美しい青銀の毛並み。
まさか……、あれは……?
すると今度は、後ろから声が聞こえた。
「モッモ! 伏せてっ!!」
ふぁっ!?!?
慌てて身を屈めた俺の頭上ギリギリを、何かが掠めていった。
それは、緑色の魔力のオーラを纏った、黒い荊の矢。
ドスッ!
『ごっ!??』
矢は、クトゥルーの喉元に突き刺さった。
即ち、頭部に鎮座するタコの真下である。
その衝撃に、クトゥルーは後ろへと重心を大きく傾ける。
「くらえっ! 最大級!! 雷!!!」
ピンク色のあいつの声が聞こえた次の瞬間、仰反るクトゥルーの真上に、ピカッ! と稲妻が走った。
ドーーーーーン!!!
『あがぁあぁぁっ!?!?』
雷魔法をもろに受けたクトゥルーは、全身から白い煙を放出する。
そこへ、更に追い打ちをかけるように……
「今だっ! 総攻撃っ!!」
どこぞの兵士長のごとき勇ましい号令に、様々な色の閃光が暗闇を駆け抜ける。
それは、魔導師が己の魔力を凝縮して、相手を攻撃する手段……、その名も魔素弾。
ダーン! ダーン!! ダダーーーン!!!
悲鳴を上げる間もなく、魔素弾をその身に受け続けるクトゥルー。
奴の表皮に着弾すると共に上がる白い煙の中で、触手がのたうち回る様が見てとれた。
そして……
「モッモ! 大丈夫かぁっ!?」
その声に、驚いて振り向く俺。
シャリン、シャリンと、魔法陣を踏み締める足音が聞こえてきて、いつの間にか俺の真後ろには、肩で息をするテカテカ頭の彼が立っていた。
「て……、テッチャ~?」
俺は、半泣きになってその名を呼んだ。
汗だくになりながらも、ニカッと笑って、グッと親指を立てて見せるテッチャ。
正直なところ……、なんでお前やねんっ!? と突っ込みたかったが、その言葉はグッと喉の奥へと飲み込んだ。
そしてその後ろから、徐々に姿を現す面々。
「モッモ!」
グレコ!
「モッモ~!」
カービィ!!
「討ち取るっ!」
ティカ!!! ……は、俺を無視してクトゥルーに一直線。
その後に続いて、クトゥルーに攻撃を仕掛けに行く本物のライラックと、岩人間のブリック。
その他にも、塔の外にいるはずの白薔薇の騎士団のメンバーが全員と、沢山の仲間が勢揃い。
みんな……、みんなが……
みんなが助けに来てくれたっ!!!!
嬉しいやら、安心したやらで、瞬時に視界が滲む俺。
そして……
「遅くなってすまぬっ! 大事無いかモッモ!?」
「うぅっ、ギン……、ギンロぉおぉぉ~!!!!!」
救出したアイビーと、未だ気を失ったままのノリリアを小脇に抱えたギンロが、俺の方へと駆けてくる姿が見え、一気に涙腺が崩壊した俺は、情け無くも、大粒の涙をボロボロと零した。
こいつは……、クトゥルーは、テトーンの樹の村を知っている。
俺の故郷であり、帰るべき場所であり、そして俺が旅に出た目的……、守るべき場所を、こいつは……
頭の中が真っ白で、考えがまとまらない。
全身の血が凍ってしまったかのような寒気に襲われて、体にうまく力が入らない。
まるで、クトゥルーに逆らってはいけないと、俺の全てが叫んでいるようだ。
『ははっはぁ~! ようやく自分の立場ってもんが理解出来たらしいな!! 思ったよりも賢いじゃねぇか、モッモ~』
上機嫌でニヤつくクトゥルー。
心臓の鼓動が速まり、呼吸が荒くなっていく俺。
『もう分かったろ? お前は、俺に従う他ねぇ~んだって。とりあえずよ、それ持ってこっち来いよ。崩壊の陣を完成させるなんざ~、馬鹿げてるぜ?? どうやったらこれを消せるのか……、あそこに倒れているハーフエルフにでも聞いてみるか???』
そう言って、クトゥルーは上半身から生える触手のうち一本を、離れた場所に倒れているアイビーに向かって伸ばしていく。
な……、何を、するつもり……?
触手は、アイビーの体にグルグルと巻きついて、その体を宙に持ち上げた。
なっ!?
アイビーは、その額から血を流しており、岩の地面にポタリポタリと赤い雫が零れ落ちる。
そんな事はお構い無しにクトゥルーは、アイビーを掴んだ触手を自らの目の前へと引き寄せた。
『よぉ、前世がアーレイクのハーフエルフさんよぉ。起きてっか?』
ぐったりとするアイビーの体を、空中でユサユサと揺さぶるクトゥルー。
すると、気を失っていたアイビーが、朦朧とした表情ながらも、薄らと目を開いた。
あ……、アイビー!?
良かった、生きてたっ!!
しかしながら、状況は全く芳しくない。
今にも息絶えてしまいそうな様子に見えるアイビーを、クトゥルーの触手が捕らえているのだ。
アイビーの、苦しそうな息遣いと、滲み出る血の匂いが、俺を更に焦らせる。
『はははっ! お前も残念だったな!! せっかく古代の邪法まで使って、この時代まで生き延びたってのによぉ。あの阿呆なモッモのせいで、お前の友達は木っ端微塵になっちまったなっ!!!』
ケラケラと笑いながら、クトゥルーは話し続ける。
『ま、それはもういい。俺はな、過ぎた事は気にしねぇ~んだ! だからよ、これからの事を考えようぜ!! 俺は、このクソつまらねぇ世界を変えてぇ~んだ。昔みたいによ、ぐっちゃぐちゃのごっちゃごちゃにしてぇ~んだわ。その為にはさ、お偉いアーレイク様が必死こいて閉じてきた魔界への時空穴を、片っ端から開ける必要性があるんだよぉ。なぁ~に、簡単さ。同じ力を持つモッモがいるからなぁ。けどお生憎様、方法が分からねぇ。だからな……、お前に聞くよ、無力で半端者のハーフエルフさんよぉ。崩壊の陣を消滅させるには、いったい何をどうしたらいいんだぁ~?』
クトゥルーは、虹色に光る四つの瞳で、アイビーの顔を覗き込みながら問うた。
だけどもアイビーは、その問いに答える事なく、静かに目を閉じて……
「モッモ、君……、は、早く……。早く、崩壊の……、陣を……、完成させ、る、んだ……」
弱々しく震える声で、途切れ途切れになりながら、アイビーはそう言った。
『あぁ? おいおい、この状況で俺を無視するとは……、なかなかに肝が座ってんじゃねぇかよこら~』
ニヤつきながらそう言ったクトゥルーは、アイビーを縛り上げている触手に力を加える。
「うがっ!? ぐっ……、ぐぅ~っ!??」
アイビーは、苦痛に顔を歪ませて、声にならない悲鳴を上げた。
アイビー!?
どうしよう、このままじゃアイビーは……
な、何か……、助ける方法は無いのか?
何かっ!!? 何かぁっ!!??
俺は咄嗟に、五芒星の盤を小脇に抱え込んで、鞄に手を突っ込んでいた。
この鞄は、神様が俺に与えてくれた、中が異空間と繋がっている不思議な鞄だ。
それ故に、取り出したい物、求める物が中にある場合、俺が手を突っ込めば、それがひとりでに手に握られる事がこれまでに多々あった。
だから今もきっと……、アイビーを救う為の何かが、きっと!
そう思って、俺が手にしたのは、あの黒革の手帖。
アーレイク・ピタラスが俺に残した、旧世界の神々を……、いや、神代の悪霊を滅ぼす為の、邪滅の書だった。
これを……、使えと?
でもこれ、俺には、使い方が分からない……
戸惑う俺。
だけど……
『おぉ~い? くたばる前に吐けよ~??』
そんな事を言いながら、執拗にアイビーを揺さぶるクトゥルー。
アイビーは目を閉じたまま、尚も地面に血を滴らせるのみだ。
その光景を前にして、俺は邪滅の書を握る手に力を込めた。
俺が、やらなくちゃ。
今ここで、アイビーを助けられるのは、俺だけなんだ。
俺が、なんとかして、これで……、アイビーを助けなくちゃ!
俺は、意を決して、邪滅の書を開こうとした。
黒いドラゴンの鱗で覆われた、大層重厚な作りのその書物は、外側の作りに対して中はあまりにも薄っぺらい。
数十ページしか無いように見えるその書物の、ちょうど真ん中辺りを開こうと……、したのだが……
んっ!? んんんっ!!?
ひ、開かないっ!?!?
邪滅の書は、ピタリと閉じたまま、全く開かない。
開かないどころか、紙の隙間に指を入れる事すら出来ないのだ。
そういや、これを俺に渡したプラティックも、中を見る事は出来なかったと言っていた。
それは、プラティックに神の力が無いからだと、本人は言っていたが……
俺にはあるはずなんですけどっ!?
微々たるものではあれ、神力があるはずなんですけどっ!??
なのになんで開かないんですかねっ!?!?
グヌヌヌヌ~と、おおよそ書物を開く事を目的とした力加減では無い精一杯の力で、俺はそれを開こうと試みる。
しかし、微動だにしない邪滅の書。
焦りと戸惑いで、俺の心臓の鼓動はかなり速くなっているし、息遣いもかなり荒くなっていた。
何故だ? 何が原因で??
……ん???
その時だ、俺はある違和感に気付いた。
邪滅の書の、中の紙の部分。
なんとなくだが、普通の紙より硬いと言うか……、いや、これは本当に紙なのか?
そして同時に、妙な物を見つけた。
邪滅の書の背表紙の一部、ドラゴンの鱗と鱗の間に、めちゃくちゃ小さな、変な形の凸凹があるのだ。
これは……、なんだ??
明らかに鱗では無いそれに触れてみると、何やら触り心地に覚えがあるような、そうでも無いような……
試しにそれを、慣れた手つきでスライドさせる俺。
すると……
カチッ!
ん? カチッて……?? え???
パカッ!!
邪滅の書が開いた。
俺は、その中身を見て首を傾げた。
……な? は?? これは……、ス???
その時だった。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴォオォォォ~!!!
『なんだぁ~?』
「うわわっ!?」
物凄い轟音と共に、地面が激しく揺れたのだ。
それはまるで、巨大地震に見舞われた時のような、立っているのがやっとなほどの振動である。
ま、まさか……、俺が邪滅の書を開いたから、何かがどうにかなったのかぁあっ!?!?
そう思った、次の瞬間!
タタタタタッ!!!
何者かの足音が遠くに聞こえたかと思うと、それはすぐさま近距離まで迫ってきて、懐かしい獣臭を俺の鼻が嗅ぎ取った。
そして、ヒンヤリとした空気と、水色の光を帯びた二本の刀身が、俺の真横を駆け抜けて行った。
キンッ! ………ズシュウッ!!
『ぐわぁっ!?』
ほんの一瞬の出来事だった。
アイビーを掴み、持ち上げていたクトゥルーの触手が、何者かによって斬り落とされた。
鈍い悲鳴を上げ、触手の切断部より青い体液を噴き上げるクトゥルー。
切り離されたクトゥルーの触手は、グチョッ! と音を立てて地面に落ち、魚のようにビタビタッと跳ね回っている。
きっ!? きもっ!!?
てか……、え、何が起きたんだ?
誰が……??
いや、それよりも……、アイビー……、アイビーはどこっ!?!?
慌ててアイビーを探す俺。
すると、少し離れた場所で倒れるノリリアの近くに、そいつはいた。
意識を失っているアイビーを背負い、倒れているノリリアを抱えようとしている、大きな犬型の獣人。
狼の如き、三角に尖った耳と長い鼻面。
そして、魔法陣の放つ光を薄らと反射する、美しい青銀の毛並み。
まさか……、あれは……?
すると今度は、後ろから声が聞こえた。
「モッモ! 伏せてっ!!」
ふぁっ!?!?
慌てて身を屈めた俺の頭上ギリギリを、何かが掠めていった。
それは、緑色の魔力のオーラを纏った、黒い荊の矢。
ドスッ!
『ごっ!??』
矢は、クトゥルーの喉元に突き刺さった。
即ち、頭部に鎮座するタコの真下である。
その衝撃に、クトゥルーは後ろへと重心を大きく傾ける。
「くらえっ! 最大級!! 雷!!!」
ピンク色のあいつの声が聞こえた次の瞬間、仰反るクトゥルーの真上に、ピカッ! と稲妻が走った。
ドーーーーーン!!!
『あがぁあぁぁっ!?!?』
雷魔法をもろに受けたクトゥルーは、全身から白い煙を放出する。
そこへ、更に追い打ちをかけるように……
「今だっ! 総攻撃っ!!」
どこぞの兵士長のごとき勇ましい号令に、様々な色の閃光が暗闇を駆け抜ける。
それは、魔導師が己の魔力を凝縮して、相手を攻撃する手段……、その名も魔素弾。
ダーン! ダーン!! ダダーーーン!!!
悲鳴を上げる間もなく、魔素弾をその身に受け続けるクトゥルー。
奴の表皮に着弾すると共に上がる白い煙の中で、触手がのたうち回る様が見てとれた。
そして……
「モッモ! 大丈夫かぁっ!?」
その声に、驚いて振り向く俺。
シャリン、シャリンと、魔法陣を踏み締める足音が聞こえてきて、いつの間にか俺の真後ろには、肩で息をするテカテカ頭の彼が立っていた。
「て……、テッチャ~?」
俺は、半泣きになってその名を呼んだ。
汗だくになりながらも、ニカッと笑って、グッと親指を立てて見せるテッチャ。
正直なところ……、なんでお前やねんっ!? と突っ込みたかったが、その言葉はグッと喉の奥へと飲み込んだ。
そしてその後ろから、徐々に姿を現す面々。
「モッモ!」
グレコ!
「モッモ~!」
カービィ!!
「討ち取るっ!」
ティカ!!! ……は、俺を無視してクトゥルーに一直線。
その後に続いて、クトゥルーに攻撃を仕掛けに行く本物のライラックと、岩人間のブリック。
その他にも、塔の外にいるはずの白薔薇の騎士団のメンバーが全員と、沢山の仲間が勢揃い。
みんな……、みんなが……
みんなが助けに来てくれたっ!!!!
嬉しいやら、安心したやらで、瞬時に視界が滲む俺。
そして……
「遅くなってすまぬっ! 大事無いかモッモ!?」
「うぅっ、ギン……、ギンロぉおぉぉ~!!!!!」
救出したアイビーと、未だ気を失ったままのノリリアを小脇に抱えたギンロが、俺の方へと駆けてくる姿が見え、一気に涙腺が崩壊した俺は、情け無くも、大粒の涙をボロボロと零した。
0
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる