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★セシリアの森、エルフの隠れ里編★
46:安寧の果実
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「安寧の果実は、別名【ユーザネイジア】と呼ばれる、猛毒の果物です」
えっ!? 猛毒っ!??
「私も本でしか見た事がないし、何処にあるのか聞いた事もないものだから、本当に実在するのかは分からないのだけど……。でももし、あなたが世界を旅する中で、手に入れられる事があれば……。どうかお願いです。私の為に一つ、採ってきてください」
ぺこりと頭を下げる巫女様。
えっ、でも……
「猛毒って……、どうしてそんなものが、必要なんですか?」
ドキドキと、心臓の鼓動が速くなる俺。
猛毒の果物なんて、いったい何に使うつもりなんだ?
はっ!? もしかして……、さっきの偉そうなエルフ達、たぶん彼等が巫女様の言う議会の奴らなんじゃ??
だとしたら、確かに堅苦し過ぎるだろうし、あんなのに四六時中囲まれてちゃ息が詰まるだろう。
まさかとは思うけど……、全員暗殺してやろう! とか……???
「そうね、訳も言わずに頼むのも失礼よね」
あ、いや、失礼とかではないのですけど、何というか……、はい。
「私ね、もう五百年ほど生きているのよ」
ごひゃっ!? 五百年っ!??
突然のカミングアウトに、目をパチクリする俺。
見た目がグレコと同じだから、まさかそんなに歳をとっているとは思わなんだ。
「この隠れ里に移り住んだのがおよそ百年前。グレコが産まれたのが四十年前。その四十年前に、大切な人を失くしてしまって……」
あ……、あぁ、そういことか……
じゃあ、つまり……、猛毒の果実の使い道は……
続く巫女様の言葉を推測して、複雑な気持ちになる俺。
「ずっと前から考えていたのよ。グレコが一人前になったら、この世を去ろうと……。私は、もう充分生きたし、後継ぎがいれば、この里も問題ない。安寧の果実の毒は、食べた者を深い眠りに誘い、その命を奪う。苦しまずに逝けるのならば、その方がいいでしょう?」
優しく微笑みながら、話す巫女様。
そんな巫女様を、俺は情けない顔で見つめる事しか出来ない。
こんなにも穏やかに、自らの死を願うなんて……、俺には想像もつかない事だ。
五百年、あまりにも長く……、長過ぎるその年月を生きてきた彼女の心を理解する事など、俺には到底不可能だろう。
だけど……
「でも……、巫女様が死んだら、みんな悲しみますよ? グレコだって、きっと……」
俺の言葉に、巫女様は笑顔を失い、俯いて黙ってしまった。
きっと、俺なんかにそんな事言われなくても、巫女様は分かっているはずだ。
分かった上で、俺にこんなお願い事をしているのだ。
つまり、巫女様の意志は固いはず。
しかし、それでも……
東の海岸で、禊の儀をしていた巫女様は、俺を見つけた時に何か言っていた。
お前も私を残して逝くのか? とか、言っていた気がする。
思うに、四十年前に、その大切な人を失くして、後を追いたいってことなんだろうけど……
果たして、そんな事に意味はあるのだろうか?
死んじゃったら、何もかもが終わりなのに……??
「あなたには、私の苦しみ、悲しみは絶対に分からないわ……、分かって欲しいとも思わない。こんな苦しみは、私一人で充分よ」
俯いたままの巫女様の、声が震えている。
そんなに、生きている事が辛いのか? そう思うと、巫女様のお願いを断る事が、俺には出来そうも無くて……
「わ、分かりました。もし、世界を旅していく中で、その果物を見つけたら、必ず巫女様の元に届けます。だけど……、一つだけ約束してください」
俺は、ギュッと拳を握り締める。
「いつか、この世を旅立つ前には、必ず……、グレコにそのことを教えてあげてください! 何も言わずに逝ってしまうことだけは、絶対にしてほしくないんです!!」
涙目になりながら、訴える俺。
どうして、こんな事を言ってしまったのか……、どうしてこんなにも、涙が溢れ落ちそうなほど、心の内に込み上げるものがあるのか……、俺自身も分からない。
今まで、誰かの悲しい死を経験したわけでもないし、家族も村のみんなも元気だし、「死」というものに対して真剣に考えた事など無かった。
なのにどうして、こんなに胸が苦しいんだろう?
すると、プルプルと小刻みに震えながら泣くのを必死に我慢している俺に向かって、巫女様はニッコリと微笑んだ。
「分かりました。約束します。その時がきたら、ちゃんと、グレコに全てを打ち明けます」
巫女様の言葉、その笑顔に、俺はひとまず安心し、安寧の果実を探す事を約束した。
「巫女様、何の話だったの?」
謁見を終えて、部屋の外に出るなり、待っていたグレコに尋ねられた。
「えっ!? あっ!!? えと……、あ……、娘をよろしくお願いしますって、言われたよ」
ドギマギしつつ、嘘をつく俺。
くぅ~っ!?
また嘘をついてしまった!!?
嘘をつくのは駄目な事なのにぃ~!!??
だけども、言えるはずが無かろう。
母親が、自殺の為に必要な物を俺に頼んだなんて……
言えるはずが無かろうてっ!!!!!
「なっ!? も~母様ってば……。あ~あ~! いつかはばれると思っていたけど、まさか本人がばらすなんて……。もぉ~っ!!」
グレコは大きく溜め息をつく。
どうやら、巫女様が自分の母親である事を隠そうとしていたらしい。
まぁ……、巫女様の見た目が若いから、最初は親子だとは思わなかったけど、顔がそっくり過ぎるから、言われなくてもそのうち気付いていたよね、うん……、たぶん。
「どうしてばらされたくなかったの?」
なんとなしに尋ねる俺。
「だって! 巫女の娘とか、次の巫女だとか、そういうの嫌なのよっ!! 小さい頃から散々そういう扱いを受けてきて、本当に不自由だったわ。里中みんな、私の事知ってるし、グレコ様グレコ様って……。そのせいで、友達も出来なかったのよ。どこに居ても周りから浮くし、こっちから話し掛けても、返ってくるのは遠慮ばかりの会話で……」
あ~、なるほど、そういうことね。
つまりグレコは、身分が高いが故に友達が出来ず、ぼっちだったのね……
「でも、さっきのほら、ハネスとユティナ……、さんたちは、友達なんでしょ?」
嫌な顔を二つ思い出して、俺は眉間に皺を寄せてしまう。
「ん~そうだけどぉ~……。モッモも見たでしょ? あの二人、性格がややこしいの。遠慮なく話をしてくれる事には助かっているけど……、あまり深く関わるのはね~。面倒なのよ、ほんと」
うん、それはよく分かる。
あんなのしか友達がいないなんて、グレコが可哀想だ。
だから……
「大丈夫! 安心して!! 僕がグレコの友達になるよ!!! 僕は、グレコが巫女様の娘だからって、遠慮なんかしないからねっ!!!!」
にししと笑って、ドーンと胸を張る俺の言葉に、グレコはふふっと笑う。
「当たり前じゃない! 小動物にまで気を使われちゃ、やってらんないわよ!!」
え……?
ねぇ、それさ、悪口だよね??
小動物って言うの、悪口だよね???
「さ~そうと決まれば、旅の計画よ! あ、その前に、モッモの村に届ける食糧を貰わないとねっ!! 準備できているのか確認してくる!!!」
「あ、ちょっと待ってグレコ!」
「何?」
走り去ろうとするグレコを引き止め、聞こうかどうかと悩む俺。
でも、知っておいた方が後々気が楽かも知れない……
「グレコの父ちゃんてさ、誰?」
巫女様が言っていた、大切な人。
四十年前に失くしてしまった、大切な人。
それってもしかして、グレコの……?
「あぁ……。私の父様は、さっき真ん中で話していたエルフよ。ほら、髭の生えた……、一番偉そうにしていたエルフ。堅苦しかったでしょ? いつもあんなんなの。でも、本当のお父さんじゃないけどね。それがどうかした??」
おぉおん???
待って待って、なんか複雑そう!?
「いやっ!? ううん、なんでもないっ!」
手をバタバタとして、慌てて取り繕う俺。
「そう? じゃあ、食糧を確認してくるから、モッモは先に戻ってて。泊っていた場所、分かるわよね??」
「うん、分かる!」
「じゃっ! また後で!!」
そう言って、グレコは走り去って行った。
ふぅ~……
聞くべきだったのか、聞かずにいるべきだったのか、微妙な心境だ。
え? あの髭エルフがグレコの父ちゃんで、でも本当の父ちゃんじゃない??
それは……、何が、どう……???
グレコの返事が思っていたものとは違った為に、頭の中がこんがらがる俺。
だけども、俺が一人ここで考えたとて、答えが分かるはずも無く……
あ~も~、やめやめっ!
訳が分からんから、考えるのはやめぇえっ!!
この先に待っている、楽しい旅の事だけ考えようっ!!!
フンッと鼻から息を吐き、気持ちを切り替えて、俺は石造りの塔を後にした。
えっ!? 猛毒っ!??
「私も本でしか見た事がないし、何処にあるのか聞いた事もないものだから、本当に実在するのかは分からないのだけど……。でももし、あなたが世界を旅する中で、手に入れられる事があれば……。どうかお願いです。私の為に一つ、採ってきてください」
ぺこりと頭を下げる巫女様。
えっ、でも……
「猛毒って……、どうしてそんなものが、必要なんですか?」
ドキドキと、心臓の鼓動が速くなる俺。
猛毒の果物なんて、いったい何に使うつもりなんだ?
はっ!? もしかして……、さっきの偉そうなエルフ達、たぶん彼等が巫女様の言う議会の奴らなんじゃ??
だとしたら、確かに堅苦し過ぎるだろうし、あんなのに四六時中囲まれてちゃ息が詰まるだろう。
まさかとは思うけど……、全員暗殺してやろう! とか……???
「そうね、訳も言わずに頼むのも失礼よね」
あ、いや、失礼とかではないのですけど、何というか……、はい。
「私ね、もう五百年ほど生きているのよ」
ごひゃっ!? 五百年っ!??
突然のカミングアウトに、目をパチクリする俺。
見た目がグレコと同じだから、まさかそんなに歳をとっているとは思わなんだ。
「この隠れ里に移り住んだのがおよそ百年前。グレコが産まれたのが四十年前。その四十年前に、大切な人を失くしてしまって……」
あ……、あぁ、そういことか……
じゃあ、つまり……、猛毒の果実の使い道は……
続く巫女様の言葉を推測して、複雑な気持ちになる俺。
「ずっと前から考えていたのよ。グレコが一人前になったら、この世を去ろうと……。私は、もう充分生きたし、後継ぎがいれば、この里も問題ない。安寧の果実の毒は、食べた者を深い眠りに誘い、その命を奪う。苦しまずに逝けるのならば、その方がいいでしょう?」
優しく微笑みながら、話す巫女様。
そんな巫女様を、俺は情けない顔で見つめる事しか出来ない。
こんなにも穏やかに、自らの死を願うなんて……、俺には想像もつかない事だ。
五百年、あまりにも長く……、長過ぎるその年月を生きてきた彼女の心を理解する事など、俺には到底不可能だろう。
だけど……
「でも……、巫女様が死んだら、みんな悲しみますよ? グレコだって、きっと……」
俺の言葉に、巫女様は笑顔を失い、俯いて黙ってしまった。
きっと、俺なんかにそんな事言われなくても、巫女様は分かっているはずだ。
分かった上で、俺にこんなお願い事をしているのだ。
つまり、巫女様の意志は固いはず。
しかし、それでも……
東の海岸で、禊の儀をしていた巫女様は、俺を見つけた時に何か言っていた。
お前も私を残して逝くのか? とか、言っていた気がする。
思うに、四十年前に、その大切な人を失くして、後を追いたいってことなんだろうけど……
果たして、そんな事に意味はあるのだろうか?
死んじゃったら、何もかもが終わりなのに……??
「あなたには、私の苦しみ、悲しみは絶対に分からないわ……、分かって欲しいとも思わない。こんな苦しみは、私一人で充分よ」
俯いたままの巫女様の、声が震えている。
そんなに、生きている事が辛いのか? そう思うと、巫女様のお願いを断る事が、俺には出来そうも無くて……
「わ、分かりました。もし、世界を旅していく中で、その果物を見つけたら、必ず巫女様の元に届けます。だけど……、一つだけ約束してください」
俺は、ギュッと拳を握り締める。
「いつか、この世を旅立つ前には、必ず……、グレコにそのことを教えてあげてください! 何も言わずに逝ってしまうことだけは、絶対にしてほしくないんです!!」
涙目になりながら、訴える俺。
どうして、こんな事を言ってしまったのか……、どうしてこんなにも、涙が溢れ落ちそうなほど、心の内に込み上げるものがあるのか……、俺自身も分からない。
今まで、誰かの悲しい死を経験したわけでもないし、家族も村のみんなも元気だし、「死」というものに対して真剣に考えた事など無かった。
なのにどうして、こんなに胸が苦しいんだろう?
すると、プルプルと小刻みに震えながら泣くのを必死に我慢している俺に向かって、巫女様はニッコリと微笑んだ。
「分かりました。約束します。その時がきたら、ちゃんと、グレコに全てを打ち明けます」
巫女様の言葉、その笑顔に、俺はひとまず安心し、安寧の果実を探す事を約束した。
「巫女様、何の話だったの?」
謁見を終えて、部屋の外に出るなり、待っていたグレコに尋ねられた。
「えっ!? あっ!!? えと……、あ……、娘をよろしくお願いしますって、言われたよ」
ドギマギしつつ、嘘をつく俺。
くぅ~っ!?
また嘘をついてしまった!!?
嘘をつくのは駄目な事なのにぃ~!!??
だけども、言えるはずが無かろう。
母親が、自殺の為に必要な物を俺に頼んだなんて……
言えるはずが無かろうてっ!!!!!
「なっ!? も~母様ってば……。あ~あ~! いつかはばれると思っていたけど、まさか本人がばらすなんて……。もぉ~っ!!」
グレコは大きく溜め息をつく。
どうやら、巫女様が自分の母親である事を隠そうとしていたらしい。
まぁ……、巫女様の見た目が若いから、最初は親子だとは思わなかったけど、顔がそっくり過ぎるから、言われなくてもそのうち気付いていたよね、うん……、たぶん。
「どうしてばらされたくなかったの?」
なんとなしに尋ねる俺。
「だって! 巫女の娘とか、次の巫女だとか、そういうの嫌なのよっ!! 小さい頃から散々そういう扱いを受けてきて、本当に不自由だったわ。里中みんな、私の事知ってるし、グレコ様グレコ様って……。そのせいで、友達も出来なかったのよ。どこに居ても周りから浮くし、こっちから話し掛けても、返ってくるのは遠慮ばかりの会話で……」
あ~、なるほど、そういうことね。
つまりグレコは、身分が高いが故に友達が出来ず、ぼっちだったのね……
「でも、さっきのほら、ハネスとユティナ……、さんたちは、友達なんでしょ?」
嫌な顔を二つ思い出して、俺は眉間に皺を寄せてしまう。
「ん~そうだけどぉ~……。モッモも見たでしょ? あの二人、性格がややこしいの。遠慮なく話をしてくれる事には助かっているけど……、あまり深く関わるのはね~。面倒なのよ、ほんと」
うん、それはよく分かる。
あんなのしか友達がいないなんて、グレコが可哀想だ。
だから……
「大丈夫! 安心して!! 僕がグレコの友達になるよ!!! 僕は、グレコが巫女様の娘だからって、遠慮なんかしないからねっ!!!!」
にししと笑って、ドーンと胸を張る俺の言葉に、グレコはふふっと笑う。
「当たり前じゃない! 小動物にまで気を使われちゃ、やってらんないわよ!!」
え……?
ねぇ、それさ、悪口だよね??
小動物って言うの、悪口だよね???
「さ~そうと決まれば、旅の計画よ! あ、その前に、モッモの村に届ける食糧を貰わないとねっ!! 準備できているのか確認してくる!!!」
「あ、ちょっと待ってグレコ!」
「何?」
走り去ろうとするグレコを引き止め、聞こうかどうかと悩む俺。
でも、知っておいた方が後々気が楽かも知れない……
「グレコの父ちゃんてさ、誰?」
巫女様が言っていた、大切な人。
四十年前に失くしてしまった、大切な人。
それってもしかして、グレコの……?
「あぁ……。私の父様は、さっき真ん中で話していたエルフよ。ほら、髭の生えた……、一番偉そうにしていたエルフ。堅苦しかったでしょ? いつもあんなんなの。でも、本当のお父さんじゃないけどね。それがどうかした??」
おぉおん???
待って待って、なんか複雑そう!?
「いやっ!? ううん、なんでもないっ!」
手をバタバタとして、慌てて取り繕う俺。
「そう? じゃあ、食糧を確認してくるから、モッモは先に戻ってて。泊っていた場所、分かるわよね??」
「うん、分かる!」
「じゃっ! また後で!!」
そう言って、グレコは走り去って行った。
ふぅ~……
聞くべきだったのか、聞かずにいるべきだったのか、微妙な心境だ。
え? あの髭エルフがグレコの父ちゃんで、でも本当の父ちゃんじゃない??
それは……、何が、どう……???
グレコの返事が思っていたものとは違った為に、頭の中がこんがらがる俺。
だけども、俺が一人ここで考えたとて、答えが分かるはずも無く……
あ~も~、やめやめっ!
訳が分からんから、考えるのはやめぇえっ!!
この先に待っている、楽しい旅の事だけ考えようっ!!!
フンッと鼻から息を吐き、気持ちを切り替えて、俺は石造りの塔を後にした。
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